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異世界には村もなかった  作者: 西玉
第2章 ダンジョン攻略編

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57話 ダンジョンを攻略して

 オーブが真ん中から砕け散った。

 オーブの中から白い霞が広がり出て、俺の全身を包んだ。

 目の前のゾンビが消え、俺は森の中にいた。


 振り返る。

 木の洞がある。シルフとアリスがコナラと呼んだ木の根元だ。

 2人がいたときはただの穴だったのに、俺が近づくとダンジョンの入り口に変わったのだ。


 元の世界に帰ってきた。

 ダンジョンはどうなったのだろう。

 俺は魔法の石版を取り出した。


 地図を表示させる。

 自分の位置がマップの中央で明滅している。

 近くに、ダンジョンの反応はない。


 オーブを壊され、ダンジョンが閉鎖したのだ。

 俺はページをめくった。

 持ち物に拳銃と、拳銃の弾倉が5本、ライフル銃が一丁と、ダイナマイトが40本残っている。保存食がダンボール一箱残ったのは有難い。


 所持金はゼロのままだ。

 結局、金貨は得られなかった。

 シルフとアリスは、元に世界に戻ってから、ずっとぼんやりと座っていた。俺が石版を確認している間に、正気に戻ったように動き出した。


「……ここはどこだ?」

「わあ……美味しそうな草の匂い」


 エルフ族だと俺が思っているシルフが当たりを見回し、ウサギのアリスが鼻をひくつかせた。


「シルフ、アリス、戻ってきたぞ」


 俺が言うと、シルフは飛び上がった。


「ソウジ! まだ死んでいなかったのか?」

「当然だ。どうして、俺が死んだと思った?」


「あたしたち魔物は、魂の結晶に入ったまま魔法士が死ぬことも多い。その場合、決められた場所に戻るんだ。今までにも、ダンジョンに行った魔法士はいた。でも、生きて戻った魔法士はいなかった」


「……そういうことは、もっと前に言えないのか?」

「忘れていたんだ。ダンジョンの中で、突然思い出した」

「私もです」


 アリスが、揺れる草の先端を口で追いかけながら言った。


「アリスは、何を思い出した?」

「私は、魔法士の餌に何度もなっています」

「……そうか」


 思いのほか、苦しい思い出だった。


「とにかく、戻った。でも、ヒナを取り戻すための金貨500枚は得られなかった……竜兵を追って、責任を取らせようか?」

「うーん……金貨の稼ぎ方はわかったんだろう? 竜兵に会っても、何をするんだい?」


 シルフは嫌そうだ。竜兵に会うのが怖いのはわかる。俺もできれば会いたくはない。


「竜兵の言った通りにしたのに、金貨はなかった。約束が違う。ヒナを返してくれって……駄目かな?」

「ダンジョンの内容は、我らでもわからん」


 近くで声がした。

 大きな声だ。鼓膜が破れそうだ。

 俺は耳を塞いだ。


「誰だ?」

「キリシアンの言うことはあてにならないと思っていたが、本当に攻略するとはな……魔法士よ。よくやった」


 がらがらとした声が降って来る。

 俺が上を向くと、樹木よりも高い場所から、ドラゴンが覗き込んでいた。

 大きい。だが、俺が以前会った竜兵よりは小さい。


「あんたは……竜兵か?」

「我は竜騎士、ドラゴンナイトと呼ぶ者もいる。ドラゴンソルジャーより上位の存在だ」

「ひっ……竜騎士……ソウジ、隠せ」

「そうですよ。怖いです」


 シルフとアリスは、慌てて俺の魔法の石版に触れようとした。だが、俺は石版に触れられないように高く持ち上げた。ドラゴンは恐ろしいが、俺に危害を加えるとは思えなかった。

 ただ怖いだけなら、経験を共有させてやろうと思った。単に、意地悪したくなったので、と言っても同じことだ。


「竜騎士? ドラゴンは……上位になるほど体が小さくなると聞いたが……」

「ああ。その通りだ」


「竜兵のキリシアンと取引をした。俺の大事な人を預けてある。金貨500枚を用意すれば、返してくれることになっている。金貨が欲しいなら、ダンジョンを攻略しろと言われたから、ダンジョンに行って……ゾンビに襲われながらオーブを破壊して戻ってきたんだ。でも、金貨はなかった。約束が違う。キリシアンの上司なら、なんとかしてくれ」


 俺の足をシルフが掴んだ。


「り、竜騎士相手に、そんなことを言って……こ、殺される……」


 シルフは怯えたが、俺には殺されるとは思えなかった。ドラゴンたちは、魔法士を利用して、ダンジョンを攻略したいのだ。その目的はわからない。だが、取引ができる相手だと俺は思っていた。


「言った通りだ。我らは、ダンジョンの中身までは把握していない。だが、ダンジョンでは全てが得られるというのは本当だ。オーブを破壊する前にダンジョンで得たものは、そのまま持ち帰れる。それに……新しい魔法を習得できるのも、レベルを3以上にあげるのも、ダンジョンの中でなければできない。人間の貴族と名乗る奴らがやっているのは、むしろ違法行為だ。魂の結晶を見てみるのだな」


 言われて、俺は魔法のページを見てみた。

 生命魔法のレベルが2に上がり、ダンジョンに入る前には持っていなかった、死霊魔法レベル1と爆発魔法レベル1を習得していた。生命魔法のレベルが3にならなかったのは、単に経験の不足だということだろう。ゾンビばかりで使用する機会がなかったため、精神魔法はレベル1のままだった。


「強くなったのはわかったよ。でも……俺は強くしてくれなんて頼んでいない。俺は、ヒナに会いたいんだ」


「魔法士以外の人間は知らん。どこかにいるだろう。キリシアンが持っているのなら、キリシアンに聞くしかない。だが……すでに知っているだろうが、ダンジョンは全て違う。金貨が必要なら、別のダンジョンに潜るしかないだろう」


 ドラゴンは、魔法士をダンジョンに送り込みたがっている。

 魔法士に与えられる魔法の石版すら、ダンジョンに送り込むための道具なのではないかと思えてくる。

 俺は言った。


「ダンジョンを攻略するのは構わない。強くなれるし、この世界では食べられない食料も手に入る」

「うむ……良い心がけだ」

「オーブとはなんだい? ダンジョンに行かせたいのは、オーブを壊させたいからなんだろう?」


 竜騎士は、俺をじっと睨んだ。全身が泡立つ。魔法の石版に指を置くが、ドラゴンが俺を殺そうとしたなら、魔法で対処できるとは思えなかった。


「次のダンジョンを攻略したなら、より上位の者が現れよう。わしからは言えん」

「……オーブを壊されたダンジョンはどうなるんだ?」

「どうにもならない。この世界との入り口が閉じ、その世界の者ではない魔法士は押し出される」


 つまり、ダンジョンはこの世界にとっての異世界で、オーブが壊れることにより、この世界とのつながりが断たれるのだろう。

 この世界と行き来できなくなるだけで、ダンジョンの世界はずっと続いていく。


「さっき俺が攻略した世界は、ゾンビだらけだった」

「……そのような異世界もあるだろう」

「放っておけば滅びる。この力があれば、別の異世界を救えるかもしれない」


 俺は、魔法の石版を持ち上げた。実際には、そんなことは思っていなかった。石版が与えてくれる力は、便利で超人になれるが、それだけだ。世界を救えるほどの力ではない。


「オーブが壊れ、閉ざされた異世界にはもはや行くことはできない。もし、その世界に残りたければ……オーブを壊さないことだ。ゾンビがいるその異世界で、お前はオーブを壊さずに、世界を救えたのか?」

「いや。オーブを壊したのは、そうしなければゾンビたちに食われると思ったからだ。俺の力で、あの世界を救えたとは思えない」


「そうか……ただ、同じ世界にオーブが二つ以上ないとは言えない。ダンジョンをいくつも攻略していけば、そのうち同じ異世界にいくこともあるだろう」

「……わかった。この世界にどのぐらいのダンジョンがあるんだ?」


「我らが確認しているだけで108だな。心配するな。ダンジョンが増えることはない。ただ……見落としていたダンジョンが見つかることはあるだろう」

「全てのダンジョンを攻略しろって言うつもりか? ダンジョンに行く魔法士が、俺しかいないってわけでもないだろうし」


 竜騎士は、言いにくそうに頬をかいた。その爪の先に俺がいたら、一撃で死んでいると想像できた。


「全てのダンジョンを攻略できる魔法士を求めている。現在のところ、ダンジョン攻略に挑んでいる魔法士は一人だ」

「俺だけ?」


「オーブを破壊しないと脱出できないのが問題らしいな。人間どもめ……ダンジョンを攻略するより、殺しあう方がお気に入りらしい」

「……俺だって……ほかに金貨を稼ぐ方法があれば、あえて戻れるかどうかわからないダンジョンに挑んだりしない」


 この世界に冒険者はいないのだろう。冒険者なら、ダンジョンに挑むだろう。ただし、どのダンジョンも攻略しない限り帰ることはできず、入ってみないと情報が一切ないのであれば、俺のような立場でないかぎり、ダンジョンに入りたいとは思わなくても当然だ。


「次のダンジョンが待っているぞ。連れて行ってやろう。どこがいい?」

「……それが、あんたがここにいた目的か?」


 効率的にダンジョンを攻略するため、魔法士を移動させようというのだ。


「いや……ダンジョンに本当に潜る魔法士がいるとは思わなかった。攻略するとも思わなかった。噂をキリシアンから聞いて、たまたま興味を持った。このタイミングでここにいたのも、たまたまだ」

「……ヒナの近くのダンジョンがいい」


「知らん」

「どうせ、入ってみないとわからないんだろう。好きなところに運んでくれ」

「聞き分けがいいな」


「あんた……俺のスマホに入ってみないか?」

「ドラゴンを飲み込むか? 魂が弾けるぞ」


 竜騎士が笑った。地響きのようだ。魔法の石版のことを、ドラゴンたちは魂の結晶と呼ぶ。魔物を石版に入れるというのは、魂に入れるということなのだろうか。もしそうなら、本当に魂が弾けそうだ。

 オーブとは、誰かの魂が弾けた結果ではないだろうか。


 俺が考えていると、体が浮かんだ。飛び上がった竜騎士に、つままれているのだと理解した。

 足が暖かい。シルフとアリスがしがみついているのがわかった。

 俺は、次のダンジョンがある場所に運ばれた。

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