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異世界には村もなかった  作者: 西玉
第2章 ダンジョン攻略編

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56話 モンスターとオーブ ☆

 扉の向こうから大量のゾンビが襲ってくるのではないか。

 そう考えた俺は、散弾銃の薬莢を2発分とも新しく入れ替えた。


 俺が見つけて手に入れた銃は、散弾銃の他は拳銃とライフル銃があるだけだ。拳銃では、ゾンビはちょっとだけ動きが遅くなる程度の威力しかないし、ライフル銃は遠くの標的専用だ。しかも、ライフル銃は装弾されている1発しか弾丸がない。俺の選択は、事実上散弾銃一択だった。


 それも、現在詰めたのが最後の薬莢だ。地上のコンテナで放置されていた武器を持ってきた俺が、捨てて行った兵士たちより装備が充実しているということはやはりないのだ。

 俺の心配を他所に、扉の向こうはほんのりと薄暗く、広い空間だった。


「……いないな」

「ああ。この部屋は、ごく一部の責任者しか入れないはずだ。この部屋がロックされていた段階で、事件が置きた当時に誰もいなかったか、外に出られずに飢え死にしたと想定していた」


 スケッチが言うと、ライトを灯した。スケッチの指示で扉が閉ざされる。

 せっかく荒らされずに保存されているのに、ゾンビを招くことはない。

 俺は、散弾銃を手にしたまま、魔法の石版を取り出した。


 元の世界のスマホのようにライト機能があるというわけではない。生命魔法をタップして、目に意識を集中させる。

 眼球の機能が上昇し、わずかの光で見ることができる。


「事件が起きた当初って……ここで何か起きたのか?」


「ああ……ソウジは知らなかったか。この地下組織が全ての始まりさ。この施設はウイルス兵器の開発機関だった。人間をゾンビ化するウイルスを発明したが……ウイルスの生存期間が長すぎるのと、感染した人間の姿の印象が悪すぎるために封印された。そのウイルスが、誰かの手によって持ち出され、拡散した。この施設内から始まった。今じゃ……世界がゾンビで溢れているよ」


「スケッチ、ソウジは余所者だぜ。言い過ぎじゃないか?」


 ブルファが口を挟む。その口にライトを加え、壁を調べている。光が当たったところを見ると、壁に無数のケージがあることがわかる。記載された文字を読んでいるのだろう。


「構わないだろう。使える奴なら連れて帰る。駄目なら……多分地上まで生きていられない」


 スケッチも笑いながら壁を眺めている。

 冗談ごとでは済まないが、冗談で言ったのではないだろう。


「……あった」


 見つけたのは、黙ったまま探してたムスカだった。

 俺は魔法の石版を見た。地図にページを変える。

 俺のいる位置に隣接するように、オーブがある。


 スケッチたちが探していたアンプルではなさそうだ。

 俺が一人で安心していると、俺はオーブが動いていることに気づいた。

 遠くから確認している時には気づかなかった。近くに来て、表示を拡大してはじめてわかったのだ。

 俺と重なるようにしていたオーブが、ブルフィのいる場所に移動する。


「よかった。これだけあれば、研究も進むだろう。まず、俺たちが使っていいんだよな」


 ムスカがケージの中から、スーツケースのような銀の箱を取り出した。


「ああ。持ち帰る途中でゾンビになったらシャレにならない。まずは私たちが使う。その許可は得ている」

「スケッチ」


 俺は呼びかけた。ブルフィより、リーダーの方がいいと思ったのだ。


「心配するなソウジ、お前にも打ってやる。ここまで来たんだ。そのぐらいの恩恵はなきゃな」


 スケッチはにかりと笑った。快心の笑みだと思う。荒々しい印象があるが、笑うと可愛いと思えた。

 だが、俺の言いたいこと違う。


「何かいる。生きて、動いている」

「何がだ?」

「わからない」

「おい、ずっと密閉されていたんだ。いい加減なことを……」


 俺を糾弾しようとしていたのだろう。ブルフィがあげた腕が、ぽとりと落ちた。

血が吹き出す。俺とブルフィの間に、ゾンビとは似ても似つかない、全く違う、皮膚を持たない化け物がいた。


「撃て!」

「キシャアァァァ!」


 スケッチの命令と化け物の咆哮が同時に響いた。


 ※


 スケッチのマシンガンが化け物の体を蜂の巣に変え、ムスカの火炎放射器が炎で包む。

 炎に巻かれた化け物が、踊るように俺の前に飛び出した。

 俺は、最後の散弾を撃ち放した。

 化け物が倒れる。


「やったかい?」

「まだだ」


 スケッチの問いに、俺が答えた。化け物は立ち上がろうとしている。


「アンプルは!」

「確保した!」


 スケッチの叫び声に、ムスカがバッグを持ち上げた。


「出るよ。ソウジ、こいつをこの部屋に閉じ込める。私らが出たら、扉を閉めてくれ」

「わかった」


 俺は、魔法の石版を取り出していた。間違いない。俺が壊すべきオーブは、この化け物だ。

 丸い玉ではなかったのだろうか。ダンジョンによって形が違うのだろうか。あるいは、この化け物のどこかにあるのだろうか。


 職業兵士であるスケッチが俺に頼んだのは、部隊の殿を勤めることであり、もっとも危険といわれる行為だ。

 3人のいる場所と出入り口の位置をかんがえれば、俺がやるしかないとわかっている。ちなみに、ブルフィは化け物に腕を切断された直後に殺されている。


 俺はスケッチとムスカの後を追った。

 弾切れになった散弾銃を捨て、石版からアイテムを取り出す。

 スケッチとムスカは部屋を出た。背後で、化け物が立ち上がったのがわかる。

 俺は部屋の出口で立ち止まった。


「おい、ソウジ、早く部屋から出ろ! 扉を閉めれば、奴は追って来られない!」

「先に行ってください」

「なにを言っている!」

「隊長……」


 スケッチを、ムスカが止めた。


「俺は……こいつを殺しに来たんです」

「手はあるのか?」

「はい」


 ムスカの問いに、俺はダイナマイトをもちあげた。


「コンテナにあったやつか……抜け目がないな。地上で待っている。一緒に戻るぞ。指揮官に紹介して、ソウジを私の部隊に編成する」

「ありがとうございます」


 スケッチの言葉は、純粋に嬉しかった。人に認められた。そう感じた。

 俺は、ダイナマイトに火を灯した。

 背後で、化け物がジャンプしたのがわかった。


 スケッチとムスカが走り去る。

 俺は、背後にダイナマイトを投げながら部屋から飛び出し、全開になっていた扉を急いで閉めようとした。


 半分まで閉めたところで、化け物が扉に飛びかかった。

 石版を手に持ち、生命魔法をタップし続け、腕に意識を集中させる。

 化け物の鉤爪が俺を引っ掻いた。


 手足にいく筋もの爪痕が残る。

 この化け物がゾンビではないことは確実だ。この部屋でなにをし、なんのために生み出されたのかはわからない。


 永久にわからないだろう。

 この部屋の資料は、俺が破壊する。

 ダイナマイトが爆発した。


 俺の目の前で、化け物が肉片に変わった。

 俺も爆風で吹き飛ばされる。

 俺が倒れた横に、元の世界で見た野球のボールぐらいの大きさの、白い玉が転がった。


 俺は、寝たまま玉を掴んだ。

 石版で確認する。

 俺の位置と、オーブの位置が完全に重なっている。


 これが、俺が壊すべきオーブなのだ。

 化け物は死んだ。ゾンビもいない。

 俺は、シルフとアリスを呼び出した。


「ここはどこだ?」

「地獄ですか? どこにも草の匂いがしません」


 シルフは首を巡らせた。アリスにとって、草がない場所は地獄であるらしい。


「俺が壊さなければならないオーブってのは、これのことかい?」


 俺は、シルフに尋ねた。


「ああ……すごいな、ソウジ。ダンジョンでオーブを手に入れるなんて……これで、このダンジョンからいつでも脱出できるぞ」

「ソウジは、やればできると思っていましたよ」


 なぜかアリスが自慢げだ。


「すぐに壊せってことじゃないんだな……」


「ドラゴンたちの目的は、ダンジョンに魔法士を送り込んで、オーブを壊すことだよ。でも、魔法士の目的はそれぞれだ。すぐに壊して元の世界に戻ってもいい。オーブを手に入れた時に、その世界で得られるものは全部手に入れていたっていうのならね。でも……たまたまダンジョンに入ってすぐにオーブを手に入れて……いつでも帰れるなら、その世界でもっとできることをやってからでもいいんだろう」


「そうか。じゃあ……次のダンジョンじゃそうするか。この世界じゃ、ヒナを買い戻す金貨は稼げそうもない」

「まだ、ソウジはこの世界に来たばかりじゃないですか?」


 アリスには、ダンジョンに入ってからの時間がわかるのだろうか。シルフにはわかっていないらしい。石版の中では、時間が止まっているはずだ。

 アリスの能力なのだろうか。


「まあ、来たばかりといえば、来たばかりだな」


 体感は長いが、実際には1日も経過していない。


「なら……もっと探検してもいいかもな」


 シルフもにやりと笑う。


「いや……俺が2人を呼び出したのは、ダンジョンを攻略する喜びを分かち合いたかっただけだよ。この世界は、長居しないほうがいい」

「なんでですか?」


 アリスに尋ねられ、ゾンビのいる部屋と分け隔てていた扉の鍵を、拳銃で破壊した。内側からの破壊には弱いのだろう。扉はすぐに開いた。

 ゾンビが雪崩れ込んできた。


「えっ?」

「そ、ソウジ……オーブを壊せ。早く!」

「だろ?」


 俺は、最初に潜り込んだ民家で頂戴した拳銃をオーブに向けた。

 多数のゾンビが俺たちに襲いかかる。

 残された俺の装備で、このゾンビをかいくぐって地上に戻ることは不可能だ。


 スケッチとムスカはアンプルを注射していた。

 2人はゾンビにはならないはずだ。だが、アンプルは外れだったらしい。


 俺たちに襲いかかろうとしていたゾンビたちの先頭に、スケッチとムスカがいたのだ。

 俺は、拳銃の引き金を引き、オーブを破壊した。

挿絵(By みてみん)

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