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異世界には村もなかった  作者: 西玉
第2章 ダンジョン攻略編

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49話 ダンジョン突入

※ヒナ視点※


 私を助けに来たはずのソウジは行ってしまった。私を残して、一人去ってしまった。

 仕方がないのだ。私を捉えている竜兵に勝てる魔物はいない。人間なら、なおさら勝てるはずもない。

 だからこそ、竜兵は集落の間を移動し、人間の集落が滅びないよう、取り引きをしているのだ。


 実際、ソウジが助けに来るとは思わなかった。孤児の集落では女たちに気に入られていると聞いていたし、男は大勢の女に囲まれるのを好むものだと聞いていた。

 助けに来て欲しくなかった。竜兵を見れば、魔法士なら戦いを挑むものだと聞いていた。


 ソウジは恩人だ。私のために死んで欲しくなかった。

 ずっとそう思っていたのに、竜兵の腹のなかで過ごしたあまりの恐怖で、ソウジに助けを求めてしまった。

 ソウジの姿に安心したのかどうか、もう覚えていない。ただ叫んでいた。


「貴様も行け」


 ソウジを見送っていたら、背後からとんでもない音が背中を叩いた。


「ひっ……すいません」


 私はまだ檻の中だ。怒られる筋合いはなかったが、思わず謝っていた。

 竜兵の手が振り下ろされた。潰される。私は頭を両手で隠してうずくまった。

 檻で守られているはずだ。私はうっすらと両目を開けていた。

 竜兵の手が振り下ろされた後、私の頭上の檻が、めきめきと音を立てて破壊された。


 信じられなかった。どんなにぶつかっても、びくともしなかった檻が、竜兵の一撃でやすやすと壊された。

 私も潰される。逃げ場はない。

 そう思ったのに、檻を壊した竜兵の手が再び上がっていく。


「どうした? 行かないのか?」

「……えっ?」


 何が起きたかわからない。私は呆然と座っていた。

 竜兵は、自分の体の中から引きずり出した繋がる檻を持ち上げ、口の中に入れた。

 ここにいたり、私は檻から出されたことを初めて理解した。 


「いいの? 私は……売られたのよ!」


 私は叫んだ。その必要はなかったはずだ。竜兵は、体の大きさからは考えられないほど感覚が鋭い。ただ呟いただけでも、私の声は聞き取るはずだ。

 だけど、この時はそう思えなかった。あまりにも大きな竜兵を目の前にしていたからだと思う。

 竜兵に向かっては、大声を出さなければいけないような気がしていた。


「魔法士が命をかけた。報酬はそれで十分だ。魔法士が裏切ったら、我輩が殺しに行く。お前を連れ歩いて、別の人間が買うと言い出したら面倒だからな。なにしろ……一度腹に入れてしまえば、人間の見分けなどできないのでな」

「……わ、私は……ソウジ……さっきの魔法士を追って……ダンジョンに行けばいいの?」


「魔法士との会話を聞いていたか。残念だが、ダンジョンに入るためには、魔法士が持つ『魂の結晶』が必要だ。今から追いかけても、ダンジョンには入れまい。それに、さすがに目的を果たしてしまえば、ダンジョンの攻略をやめるかもしれない。我輩がまっすぐ歩いて来た先に、集落があった。そこへ行け」


「魔法士にダンジョンに攻略させて……貴方たちはどうしたいの?」

「あるお方の復活のためには、できるだけ多くのダンジョンを攻略する必要がある。わしらはダンジョンには入れない。ようやくだ。ようやく……わしらに協力する魔法士が現れた」


 竜兵はわからないことを言いながら、背中の翼を広げた。

 竜兵の翼が開くのを初めて見た。空を覆うような大きさだ。

 地面が揺れた。竜兵が地面を蹴ったのだ。


 あまりの巨体が、空に浮き上がるのを見た。

 竜兵の起こす突風で、私の体が転がった。

 泥だらけになりながら、飛び立つ竜兵を見送った。


「竜兵って……飛べたの?」

「早く報告すべきことなのでな」


 さらにわからないことを言って、竜兵は飛び立った。

 私は、しばらくその場から動けなかった。


※ソウジ視点※


 俺は体の震えが止まると、シルフとアリスを解放した。


「竜兵に戦いを挑まなかったんだな。ソウジ、偉いぞ」


 シルフが背伸びして俺の頭を撫でた。


「魔法士は、最初に竜兵に会ったところで、大抵死にますからね」

「竜兵っていうから……トカゲみたいな人間かと思っていた。完全にドラゴンじゃないか……」


 俺の文句に対して、シルフは当然のことのように言い返した。


「そう言わなかったか?」

「いいましたよ」


 アリスの言葉はあてにならないが、シルフと意見があった。どうやら、俺が間違って聞いていたようだ。


「……どうして、ドラゴンを竜兵って呼ぶんだ?」

「ドラゴン族で1番下っ端の弱いのを、竜兵って呼ぶんだ」

「ドラゴン族で……1番下っ端で弱い……」


 俺は言葉を失った。どうやっても勝てそうにない。俺と同じような魔法士が大量に返り討ちにあっている相手だ。


「ドラゴンは……どこまででかくなるんだ?」

「いや……竜兵が1番でかい。上位になるほどドラゴンは脱皮して小さくなる」

「頭もよくなるし、魔法も使えるようになります」


 シルフとアリスの表情は変わらない。当たり前の話をしているのだ。

 ただ俺が知らないだけだ。むしろ、俺が知らないほうが、二人には奇異なことなのだ。


「そうか……ドラゴンのことはまた教えてくれ。あのドラゴンはキシリアンと名乗ったが、ヒナを取り戻したければ金貨500枚用意しろと言った」

「ふうん」

「金貨って……食べられるんですか?」


 草を食べ始めたアリスは置いて起き、俺はシルフに尋ねた。


「たいした金額じゃないのか?」

「どうして、あたしが金貨を見たことがあると思うんだ?」

「……ああ……それもそうか……」


 シルフには、金貨の価値はわからない。だから反応が薄かったのだ。要はアリスと一緒だとは、俺は言わなかった。


「金貨がある場所を教えてくれた。ダンジョンに潜れと言っていた。知っているか?」

「ソウジ……ダンジョンに入れるのですか?」


 草の入った口をもぐもぐと動かしながら、アリスが訊ね返した。


「入れるかどうかわからないが、場所はわかる。多分入れるだろう。そうでなければ、キリシアンがあんな言い方はしないはずだ」


 俺は、魔法の石版を取り出した。ドラゴンが『魂の結晶』と呼んでいた魔法の石版だ。


「……あっ……アップデートされている」


 横から覗き込んだシルフが、驚いた声を出す。


「アップデート……この世界でも、そういう言い方をするのか。でも、魔法は結局、精神魔法と生命魔法だけでレベルも1だぞ」

「それを操作するのは貴族でもできますが、アップデートできるのはドラゴンだけです。ソウジ……ドラゴンに魂を売りましたね」


 嫌な言い方だ。


「魂を売ってなんていない」

「同じことだよ。もう、ソウジは逃げられない。ドラゴンがダンジョンに行けって言うなら、ダンジョンに行くしかない」


 シルフが暗い声を出した。


「そんなに、悪いことなのか?」

「ダンジョンには全てがある」

「凄いじゃないか」

「そう言って、魔法士がダンジョンに行くように仕向けろって……」

「誰かに言われたのか?」

「……竜聖に」


 竜聖がどんな存在なのかわからないが、竜兵よりもはるかに強力なのだろう。たぶん、大きくはないのだろうが。


「ドラゴンたちは、魔法士を殺すためにダンジョンに行かせるわけじゃないんだろう? 本当の目的はなんだ?」

「知らない」

「なんだか……その話をしている時は、楽しそうでしたよ」


 アリスは適当に言っているように聞こえるが、俺もドラゴンから同じような印象を受けた。

 まるで、俺がダンジョンに挑むのを楽しんでいるかのようだった。

 ダンジョンの様子をどこからか観ているのだろうか。


「なら……少なくとも、ダンジョンに行ったからって、簡単に死んだりはしないだろう。貴族のマーレシアに従って何か能力を手に入れるには、別の魔法士を騙して連れて行かなくてはならないらしい。そんなのは嫌だし、ヒナを買い戻すんだ。俺はダンジョンに入る」


 俺は、『魂の結晶』を操作した。

 ダンジョンの配置を示す画面に切り替える。

 ダンジョンはやはり、俺たちが待ち合わせ場所にしていたコナラの木の根元だ。

 どうやって入るのだろう。


 俺は、すでにダンジョンの入り口に立っているのだ。

 画面の入り口をタップするのだろうか。

 それが正しいような気がした。指を浮かせる。


「ソウジ……」

「どうした?」


 タップする直前でシルフが呼んだ。


「あたしも行く」

「……えっ?」

「ソウジは竜兵に会って、ダンジョンに行けるようになった。あたしは、魔法士をダンジョンに導けって言われている。だから……一緒に行く」

「理由になっていないぞ」

「……ダメか?」


 シルフの顔色が悪い。本気ではダンジョンに行きたくはないのだ。ダンジョンが、実際には恐ろしい場所だと考えているのがわかる。


「ついてきてくれるのか?」

「ああ」


 俺が言うと、シルフはにっこりと笑ってみせた。


「じゃあ、行きますよ」


 アリスが口を挟んだ。


「アリスも行くのか?」

「あなたたちを、見捨てるはずがないじゃないですか」


 アリスの言葉を聞きながら、俺は二人を抱えて『魂の結晶』をタップした。

 俺とシルフ、アリスの体が、柔らかい光に包まれた。

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