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異世界には村もなかった  作者: 西玉
第1章 異世界放浪編

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47話 ヒナの現在

 俺は走り出してから、標的の大きさを思い知ることになった。

 なかなかたどり着かない。だが、確実に大きくなってくる。

 見れば見るほど、竜兵と呼ばれているのが純粋にドラゴンなのではないかと思えてくる。

 背中には翼がある。

 長い尾が振り回されるだけで、数十年の年月をかけて育った巨木をなぎ倒す。


 頭部だけで、俺の身長の二倍以上ある。

 巨大な頭部を支える太く長い首が、森の中に振り下ろされる。

 持ち上げられる頭部では、太い幹を数本くわえている。

 ずらりと並んだ牙が巨木を噛み砕く。

 俺は少しだけ安心した。どうやら草食らしい。草食動物なら、気性も大人しいのではないだろうか。


 ドラゴンの巨体を考えると、もし肉食だったら、ドラゴンに食い尽くされて、この世界の動物は絶滅しているに違いない。そう思われるほどの巨体だ。

ドラゴンが草食だとは聞いたことがないが、そもそも俺の世界にドラゴンなど実在しなかった。

 至近にまで迫った。

 俺の右隣に、太い尾が振り下ろされた。

 地響きがするほどの衝撃だ。


 尾の動きは不規則だ。意図した動きではない。ただの戯れだ。

 俺は、魔法の石版を取り出した。

 生命魔法をタップする。

 足に意識を集中させた。

 地面を蹴り、目の前に迫っていた尾を飛び越えて着地する。

 さらに走った。


「竜兵!」


 声を限りに叫んだ。人間と取引をするという存在だ。言葉がわからないはずがない。

 もっとも、目の前のドラゴンが竜兵であるという判断がシルフの勘違いであれば、俺は無用な危険を侵していることになる。

 ドラゴンの動きが止まった。首を持ち上げ、高い位置から四方を見渡している。


 俺の声が届いたのだ。だが、まだ足りない。

 俺は再度生命魔法を使用した。

 意識を喉に集中させる。


「竜兵! こっちだ!」


 自分の耳が痛くなるほどの声が出た。これでダメなら、精神魔法でドラゴンの意識を俺に向けさせることを考えたが、ドラゴンは足元にいる俺に気づいた。

 ドラゴンの足は4本あり、尾に近い2本は象に似ていた。頭部に近い2本の足はワシに似ている。


「何用だ、人間よ」


 雷鳴が轟くような声だった。全身が震え、肌が泡立った。

 言葉が通じる。目の前のドラゴンが、竜兵であることに間違いない。


「取引がしたい!」

「いいだろう。何を差し出し、何を求める?」

「孤児の集落で、ヒナという女を買ったはずだ。俺が引き取る!」


 俺はただ、思いを吠えた。なんの策もない。


「呼び名など知らんが、人間は連れている。どれだ?」

「どこにいる?」


 俺は、竜兵と呼ばれる屈強な兵士が、人間の入った檻を護送しているのではないかと想像していた。

 まず、竜兵の姿が想像とは全く違った。その上、人間の入った檻などどこにもない。

 竜兵の行動は、さらに俺の想像を裏切った。


「ここだ」


 竜兵が大きく口を開ける。


「食ったのか?」

「いいや」


 竜兵ことドラゴンは、前足の1本を開けた口に運んだ。巨大な前足は5つに別れ、1本1本に人間の数倍はある長い鉤爪がついている。

 鉤爪は長く太いが、その先端は錐のように細い。巨大な爪が長く、鋭い。つまり、それだけドラゴンは爪も硬い。

 曲がった爪の先端を口の中に入れると、ずらりと並んだ牙に結わえられた鎖があるのに俺は気づいた。

 爪に鎖をひっかけ、引き摺り出したのだ。


 ドラゴンの喉から、肺か食道かわからないが、ドラゴンの体内に続いていた鎖が引きずり出される。

 一度ドラゴンがえづき、地面が揺れるような大音声を出したものの、鎖に結ばれていたものが俺の眼に映る。

 恐らくは鉄でできている鎖に、檻が結び付けられている。

 一つではない。鎖が引きずり出されるにつれて、次々と檻が現れる。


 ドラゴンの首は長い。10以上の檻が収まっていた。

 最初の檻には、なにやらさまざまな袋が入っていたが、2番目の檻にはヤギが5頭、3番目の檻には牛が2頭、4番目の檻には馬が1頭入っていた。

 いずれもじっとりと濡れているが、たくましく餌を食べていた。その餌は、ドラゴンが噛み砕いて飲み込んだ、大木の残骸だ。


 ドラゴン自身も実際に草食かもしれないが、道道植物を食べているのは、檻に入れた動物たちに食料を供給する意味もあるのだろう。

 6番目の檻に、ついに人間が入っていた。

 5人ほどがひとまとめに入れられている。

 まるで荷物のように重なっており、ドラゴンの体液でべたべたに汚れている。


「ヒナ!」


 俺は、ドラゴンの体内から引きずり出された6番目の檻が地面に落ちた瞬間に飛びついた。

 人間たちはぴくりとも動かない。ただし、生きている。呼吸をしているし、身動きはしている。


「それか?」

「……いや……いない」

「そうか」


 ドラゴンはさらに体内から檻を引き摺り出す。

 7番目、8番目、9番目、10番目、11番目に、ついに見つけた。

 ほかの檻には数人ずつ入れられていたが、ヒナは一人で檻に入っていた。

 だから、すぐに見つけられた。

 ヒナが特別だからではないだろう。たまたま、1番新しく手に入れた人間だから、1番最後に入っていたのだ。


「……おっと、溶けたか」


 引きずり出された12番目の檻には、何かわからないが動物の骨らしいものが入っていた。


「ヒナ!」

「それか?」

「そうだ。ヒナ、ヒナ! 俺だ! ソウジだ! 魔法士だ!」


 俺の名前と魔法士だという言葉に、ぐったりと倒れていたヒナが顔を上げる。


「……嘘……ソウジなの?」


 俺は檻に飛びついた。


「ああ。迎えに来た。ヒナは俺が買い取る。だから……一緒に行こう」

「ソウジ」


 俺はヒナの言葉を待った。ヒナは、ゴブリンに食われた山羊の弁償をするために、自ら体をドラゴンに売った。

 よそ者の俺が無理やりハーレムを作らされたからでもある。

 俺のために自分を売ったともいえる。だから、拒否されるのではないかと思った。自分に構わず、逃げろと言われるのかと思った。


「……助けて……」


 だが、俺の心配は杞憂だった。


「わかっている」

「別の場所で、買われた子がいたわ……私と同じ檻にいたの……溶けたの。竜兵の体の中で……溶けたの……」

「一緒に、何人いた?」

「3人いたの。みんな……溶けたの……」


 ドラゴンの胃液で溶かされたのだと、俺は理解した。俺はドラゴンを見上げた。


「おぅい! 竜兵……あんたのことは、竜兵と呼べばいいのか?」


 俺を高い場所から見下ろしていたドラゴンは、やや首を曲げた。


「キシリアン」

「……なに?」

「キシリアンと言った。我の名だ」

「そうか……」


 話す知恵があるのだから、名前を持ち、自我があっても不思議ではない。だが、ドラゴンが名乗ることに違和感を覚えてしまった。


「キシリアン、この人間を買い取りたい」

「その人間は、山羊3頭、金貨500枚で交換した。お前はなにを支払う?」

「はっ? 金貨……500?」

「嘘だ! 山羊1頭、金貨50だったはずよ!」


 ヒナが叫んだ。


「いいや、我が支払ったのは、山羊3頭、金貨500だ。支払うのだな?」


 ドラゴン、キシリアンが尋ねた。金貨など見たこともない。


「いや……その……そのうち払うから……」


 つい、言葉に詰まった。


「人間の口約束など信じられん。だが……さっき貴様、自分を魔法士だと言ったな」


 ヒナに呼びかけたのを聞かれていたのだ。

 ドラゴンの凶悪な顔が、笑ったような気がした。

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