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異世界には村もなかった  作者: 西玉
第1章 異世界放浪編

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46話 竜兵の背中 ☆

 旅装を整え、集落を出る。

 俺には、どちらに行っていいのかわからなかった。

 深い森の中に二筋の道ができている。俺たちが通ってきたのは、どちらの道でもない。


 獣道ですらない森をかき分けて、孤児の集落から限界の集落までたどりついたのだ。

 だが、足を止めたのは俺だけだった。

 シルフとアリスは、一方の道を迷わず進む。

 少し距離ができたとき、シルフは振り向いた。


「どうした? 行かないのか?」

「ソウジが行かないなら、私たちは森に戻りますよ。人間に見つかったら、殺されますからね。魔法士が一緒じゃなきゃだめなんですから」


 アリスが、ふかふかとした後ろ足で地面をたしたしと叩いた。


「シルフとアリスは、どっちに行けばいいのか知っているのか?」

「竜兵を追うんだろう?」

「そうですよ。竜兵を……どうしてそんなもの、追うんですか?」


 アリスが驚いて転倒した。

 ごろごろ転がるアリスを拾い上げて、シルフに尋ねた。


「竜兵がどこにいるのか分かるのか?」

「あんなもの、分からない方がどうかしている」

「……そうか?」

「まあ……見ればわかる」


 シルフの言い方は冷たいが、俺を置いていこうとしたことを後ろめたく思っているのは明らかだ。

 俺は拾ったアリスを頭に乗せて、シルフに並んだ。


「どのぐらいで追いつける?」

「竜兵がどのぐらい道草を食っているかによるね。でも……この感じだと、1日あれば追いつけると思う」

「早いな」

「早く追いつきたいんだろ?」


「ああ。後言っておくが、俺が追っているのはヒナという人間の女だ。人間でも、貴族じゃないから魔物を殺す必要はない。心配しなくていい」


 俺が言うと、シルフはじっと俺の顔を見上げてきた。


「心配になってきた」

「心配の必要はないって言っただろ」

「そうじゃない。ソウジ……竜兵と戦おうなんて思うなよ」


「貴族のマーレシアもそう言っていたな。竜兵は魔物だろう? 貴族は戦わなくちゃならないんじゃないのか?」

「魔物……じゃないかもしれない。竜兵のことは、よくわからないんだ。直接聞けば教えてくれるかもしれけないけど……竜兵って話せるのか?」


「話せるだろう。人間と取引をするというくらいなんだから」

「竜兵と話したがる魔物なんていませんからね。人間って変わっていますね」


 またアリスが妙なことを言い出したかと思っていたが、シルフはアリスに反論することなく、神妙に頷いた。

 ヒナを買い取り、魔物が住む森の中を平気で移動するという竜兵とはどんな存在なのか、俺はますます不思議に思いながら、森の中につくられたにしては妙に広い道を進んだ。


 ※


 食べる物には苦労しなかった。シルフが森に入ると、食べても毒にならないキノコや果実を抱えて戻ってきた。

 火炎魔法を失ったため、キノコも生で食べた。

 シルフが食べているので、抵抗はなかった。


 シルフは毒ではないと断言したが、結局腹は痛くなった。

 魔法士としての力を持っていて、有難いのはこういう時だ。

 一晩野宿してから再び歩き出す。


「ああ……いましたね」


 俺の頭の上でくつろいでいたアリスが、耳をぱたぱたと動かした。


「……どこだ?」

「ソウジは小さいから見えないんですよ」


 俺の頭の上で、アリスはふふんと胸をそらした。


「シルフ、見えるか?」

「いや。だけど、近くにいるのは間違いないな。さっき、竜兵の屁の音が聞こえた」

「嫌なものを聞いたな」


 聞こえたのが屁だと聞いてソウジは顔をしかめた。シルフは真面目だった。


「竜兵の屁は遠くまで響く。覚えておくといい」

「……俺の耳では聞こえない……ああ、生命魔法を使うのか」

「今使っても聞こえないぞ。竜兵の奴、キノコでも食べたんじゃないか?」


「……俺が昨日食べたキノコか?」

「魔法士の腹を下すぐらいだ。竜兵だって下るだろう」

「竜兵の腹が下るなんてこと……あるんですか?」


 アリスが俺の肩をたしたしと叩いた。意味がある行動ではないことはわかっている。小動物のストレス反応だ。

 アリスが強いストレスを感じている。竜兵の姿を見たからだろうか。


 シルフの口数も少なくなった。

 俺は嫌な緊張を覚えながら足を動かす。

 長くほぼまっすぐな道の先で、奇妙なものを見つけた。


「道が塞がれているな……小山がある」

「それ、竜兵です」

「なに?」


 俺が見ているのは、広い道をぴったりと塞ぐように存在している、半円型のドームのようなものだった。


「ああ。この道は、竜兵が歩いた跡だ」


 シルフにも見えているらしい。


「……あれが竜兵なら、ヒナはどこだ?」

「引きずっているか、背中の上じゃないか? あたしも、竜兵とはあまり話したくない。近くじゃ見たことはない」

「……だろうな」


 話をしている間も、足は動いている。少しずつ近づいている。

 ドーム上の物体から、柱が築き上げられた。

 生き物のクビに見える。首長竜を思い出した。

 色は赤い。翼があるようだ。


「……ドラゴンか?」

「だから、そう言っているだろう」


 俺がどうしてこの世界の言葉を使えるのか、考えたことはなかった。

 俺の耳にずっと竜兵という単語で聞こえていたのは、シルフやアリスにはドラゴンと聞こえていたのだろうか。


「正確には、ドラゴン・ソルジャーって呼び方らしい」

「なるほど。それで、竜兵か……」

「魔法士は竜兵と戦いたがるって噂だけど……ソウジは戦わないよな? 集落でも言われたし」


「……話ができるんだろう?」

「できるはずだと言ったのはソウジだよ。あたしたちは、話したことはない」

「そうだったな」


 魔物であるシルフやアリスが恐れるのは当然だ。俺はまだこの世界の魔物をほとんど見たことはないが、ドラゴンが最強クラスなのは変わらないだろう。

 この世界を平然と移動できるのは竜兵だけだと、集落でも聞いていた。


「とにかく、あそこにヒナがいる。竜兵と一緒にいるはずだ。俺は行く。戦うつもりはないが……シルフとアリスはどうする?」

「応援しています。遠くから」


 アリスは言うと、俺の頭を蹴ってシルフに頭に飛びつこうとした。

 シルフは身軽に体を翻し、アリスが地面に墜落する。


「すまん、ソウジ。あたしも……これ以上は恐ろしくて近づけない。ソウジは怖くないのか?」


 シルフは自分の体を抱きしめるように立ちすくんでいた。


「いや……今のところは大丈夫だ。それに、俺にはこれがある」


 俺は石版を持ち上げた。精神魔法は、自己暗示にも使用できる。恐怖を抑え込むこともできるだろう。


「……そうだな。あたしは、あそこのコナラの木で待っている。わかりやすいだろう?」


 シルフは森の中を指差した。コナラの木なら、俺の世界にもあった。だが、俺は森に生えている樹木の種類を見分けられるほど詳しくない。


「いや……あの辺りで呼ぶ。出てきてくれるか?」

「ソウジだと確信が持てたら出てきます」

「……下手をすると今生の別れか。もし出てこなかったら、二人の恥ずかしい秘密を大声で叫んでやる」

「……ソウジの変態」


 シルフの悪態を聴きながら、俺は竜兵にむかって走り出した。

挿絵(By みてみん)

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