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異世界には村もなかった  作者: 西玉
第1章 異世界放浪編

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41話 人間の世界

 身だしなみに気をつけるように言われても、俺は着替える服もなく、金も持っていない。それを正直に言うと、女は俺をとてもかわいそうな人を見る目で見つめ、銀貨を五枚ほど渡してくれた。

 女にとってははした金らしいが、この世界の金を始めて見た俺は、どきどきしながら受け取った。『孤児の集落』には金もないのかと女が尋ねたので、俺はその通りだと答えた。

 女はミリアと名乗り、里に用があったのか、敷地から出ていった。

 俺は胸をなで下ろし、貴族様が解放しているという宿泊施設に足を踏み入れた。






 中は広い空間になっていて、誰も泊まってはいなかった。宿屋というより、体育館のような作りだ。

 ただ壁と柱があり、床に板がはられている。明り取りの窓もあり、昼間は明るい。

 作りは簡素だが、木を薄くした板を建築素材として利用しているだけでも、俺は人間の技術の進化を実感した。

 孤児の集落とは大違いだ。


 幸いにも誰もいなかった。管理人らしい人物もいない。そういうものなのだろうか。あるいは『孤児の集落』とはだいぶ違うとはいえ、ここも『限界の里』と呼ばれる僻地である。旅人など、基本的にいないのだろう。


「ようやく安心して寝られるな。少し休むか」


 俺は頭に乗せたままのアリスを降ろし、土間で靴を脱いだ。

 土間があり、板敷の床があるのだから、土足で上がるスタイルの建物ではないはずだ。中にベッドもないのだから、土足で上がったら泥だらけになってしまう。

 シルフも俺に倣って、朝顔の蔓で作った靴を脱いだ。まだ時間が早いので、花が咲いている。シルフについては、もともと靴を履かなくても大丈夫なのかもしれないが、裸足で歩かせていては、逆に俺が酷い人間だと思われてしまう。


「どうして、安心して寝られるんですか?」


 板の間をぴょこぴょこと飛びながらもアリスが尋ねた。聞かないとわからないことだろうかと俺は思ったが、シルフも不思議に感じたようだ。


「こんな、逃げ場のないところより、外の方が安心だろう? 何が近づいてきても、この中だと気づくのも遅れそうだ」


 シルフの言葉にアリスも頷いていた。なるほど、産れてからずっと外で生活してきたアリスとシルフには、そう感じるのか。

 だが、俺はそこまで野生児にはなれない。


「ここは里の真ん中にあるんだし、この壁が俺たちを守ってくれる。そんな心配をする必要がないから、人間はここまで増えたんだ」


 俺は壁際に適当に寝転がった。本当に、久しぶりに安心して寝られると思ったのだ。


「人間って、そんなに数が多いのか?」

「さぁ? 数えたことありませんし」


 シルフが尋ね、アリスが答える。

 しまった。この世界では、それほど人間の数が多いという認識はないのかもしれない。だが、訂正することもないだろう。とにかく、俺は眠かった。

 横になった途端、睡魔が襲ってきた。『孤児の集落』を出てからは、シルフの家では半分は外のようなものだったし、移動を始めてからはすべて野宿だ。シルフとアリスがいれば、俺が警戒する意味はないとわかってはいても、建物の中のように熟睡できるというものではなかった。

 落ちていく意識の中で、腹の上と俺の足に、温かいものがのっかったのは解った。どちらがシルフでどらちがアリスだろうかと考えているうちに、俺は眠ってしまった。






 軽く昼寝をしてから、身支度を整えるために集落に出るつもりだった。限界の里などと呼ばれているが、その貴族様に仕える魔法士から金を渡された以上、それなりの店でもあるのだろうと思っていた。

 だが、そもそも、俺は寝過ごした。

 起きた時には、周囲は真っ暗になっていた。

 俺が起きると、アリスはようやく目が覚めたのかと寄ってきた。シルフは俺を抱き枕と勘違いしているかのように抱きついている。帽子がずり落ちていたので慌てて頭に乗せるが、宿泊所の客は相変わらず俺たちだけだった。

 俺に抱き付いたまま眠っているシルフは、やはり可愛いと思えた。起こさないように慎重に体を持ちあげる。


「アリス、起きたのなら、俺も起こしてくれたらよかったんだ。夜になってしまったじゃないか」

「疲れているようでしたから。それに、シルフも寝かせていたほうがいいと言いましたので」

「……シルフが?」

「はい」


 そのシルフは、俺に抱き付いて眠っている。


「……途中で起きたのか?」

「わたしとシルフは、退屈だったので、この辺りを散歩しました。やっぱり、ソウジの言う通りでしたよ。シルフがよそ者だって、すぐにばれました」

「そうか……それだけで済んだのなら良かったが。危険な目には合わなかったか?」


 白ウサギのアリスはこっくりとうなずいた。俺の言いつけ通り、ただのウサギのふりをしていたのだろう。どうも、疲労していたのは俺だけだったようだ。


「このまま朝までのんびりしていたら、昼間に会った魔法士にどやされそうだ。ちょっと外に出てみよう」

「人間の群れの中ですね。ソウジがいるなら安心です」


 アリスは小躍りするかのように喜んだ。そんなに人間に興味があるのだろうか。


「シルフは、寝かせておいた方がいいかな?」

「置いていくと、たぶんすごく怒りますよ」


 シルフは、ずっと人間の生活に憧れていた。正確には、生活に憧れているというより、集団での暮らしに興味を持っていただけのようだが、人間の文化に触れる機会を逃したくはないだろう。

 道々、俺は人間の恐ろしさ、醜さを二人に語って聞かせ続けた。それは、二人に自分の身を守らせるためだが、俺が寝ている間に二人だけで外に出たのであれば、緊張して見学するどころではなかっただろう。


 さすがに、置いていくのはまずいし、心配だった。

 結局、俺は寝ているシルフを抱き上げた。

 やはり、とても軽い。

 シルフが目をこする。

 起きてしまったようだ。


「外に出よう。飯を食わしてくれる場所があるといいが」

「うわぁい、ご飯ですね」


 アリスは小躍りする。


「もう、暗いぞ。こんな時間に、人間は起きているものなのか?」

「さぁな。どちらにしろ、少し様子を見に出よう。それとも、ここで待っているか?」

「……いやだ」


 シルフはまた俺につかまり、うたたねを始めた。仕方なく、俺はシルフをだっこして外に出ることになった。

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