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異世界には村もなかった  作者: 西玉
第3章 1000年後

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160 懐かしいドラゴン

 ドラゴンロードの咆哮は、俺の頭を酷く揺さぶった。

 俺は立っていられず、巨大な建造物の階段上の壁に膝をついた。


「なっ……一体……」


 俺は、耳を塞いでいた手を離す。

 顔をあげた時には、空は巨大な影で覆われていた。

 空がなくなった。そう思えるほど、数多くの翼を広げた生命体に覆われていた。

 さらにドラゴンロードが声を上げると、地響きと暴風に耐えなればならなかった。


「参上いたしました」


 誰かが言った。

 俺がもう一度顔をあげる。

 見渡すかぎり、ドラゴンに覆い尽くされている。


「……ひぃっ……」


 俺は尻餅をついた。

 ドラゴンロードは穏やかに言った。


「魔法士が戻り、五つ目のオーブが破壊された」


 ドラゴンたちがどよめく。静まるのを待ち、ドラゴンロードが続ける。


「だが……次のダンジョンに向かうために、魔法士から条件が出た。時間を移動する技術があるダンジョンを望むという。心当たりはあるか?」


 ドラゴンロードは、俺の望みを果たすために、全ドラゴンを集結させたのだ。

 ドラゴンは、この世界の支配者だとウーは言っていた。

 ドラゴンキングの死に立ち合い、オーブの生成を見た俺は、もはや疑っていなかった。


 その、世界の支配者たちが俺のために相談している。

 俺の功績がそれだけ優れていたのだとしても、俺は恐縮して小さくなった。

 一体のドラゴンが首を伸ばす。

 手を挙げるより、長い首を上に立たせることで、意見を述べる意思を伝える、ドラゴンらしい所作だと俺は思った。


「すでに、多くのダンジョンから、何も匂わなくなっています。そのダンジョンは、滅びを迎えているのでしょう。時間がかかりすぎました。ですが……残ったダンジョンであれば、いずれでも同じでしょう」

「それは……残ったダンジョンであれば、同じ匂いがしているということか?」


 ドラゴンロードの問いに、意見を言った小柄なドラゴンは否定の動きをした。

 ドラゴンは、位が上がるほど体が小さくなる。

 ドラゴンキングだけは別らしいが。


「時間を遡り、世界が滅びる原因を修正することのできないダンジョンが、この時までに存在を維持できることはないでしょう。まだ、滅んでいないダンジョンならば、いずれも時間を遡る方法を発見しているはずです」


「……なるほど」

「しかし、滅んだダンジョンの方が、オーブを簡単に破壊できるのではないか? 邪魔だてする者がいないのだろう?」


 別のドラゴンが言った。俺も、そうかもしれないと思った。

 だが、否定したのはドラゴンロードだ。


「魔法士に敬意を持てなければ、わしらはただのトカゲであろう。この魔法士、ソウジは、わしらに十分な成果をもたらした。まだ103のオーブが、ダンジョンから回収できないからといって、魔法士を奴隷のように扱うのは許されん。なにしろ、ダンジョンから戻らないからといって、わしらにできることはないのだから」

「御意」


 ドラゴンロードの言葉に、大勢のドラゴンがひれ伏す。

 俺は、震えながら尋ねた。


「俺は……正確には何年、遡ればいいのですか?」

「……ソウジを知る者はいるか?」

「私が知っております」


 一頭のドラゴンが首を持ち上げた。


「キリシアンか」


 ドラゴンロードのあげた名前に、俺は顔を向けた。

 知っている名前だ。

 ヒナを運搬し、巨大な竜兵から、竜騎士になっていたことは知っていた。

 俺が見ると、俺の知っている頃より、さらに小さくなっていた。


「はい。我は、ソウジが探している女にも会ったことがあります」

「……ほう。何年前のことだ?」

「正確には、20503年前です」


 キリシアンは言った。俺は、それが本当か嘘か、わからない。

 だが、知っているとすれば、キリシアンと呼ばれるドラゴンしかいないのも間違いない。


「わかりました。ありがとうございます」

「では、ソウジのことは、キリシアンに任せる。皆、ご苦労だった」


 ドラゴンロードが再び咆哮すると、ドラゴンたちが一斉に飛び立った。

 俺は、再び巻き上がる暴風に体を丸め、顔をあげた時には、ドラゴンロードと、随分と小さくなったドラゴン卿、キリシアンだけが残っていた。


「キシリアンなのか?」


 ドラゴンロードより遥かに大きいが、俺が一般的にドラゴンと言われて想像するぐらいのサイズにとどまっている。


「ああ……ソウジだな。随分時間がかかっているようだが、五つ目のダンジョン制覇か。よくやった」

「時間は関係ない。そうなんだろう?」

「ああ。その通りだ。ソウジが成功すれば、私はこの場所にずっといたことにはなるまい」


 言ったのはドラゴンロードだ。俺は、キリシアンからドラゴンロードに視線を移した。


「俺のいた……地球では、過去に戻って歴史を変えると、変化した世界に行ってしまう……並行世界が新たにできると言われていましたが、この世界では違うのですか?」


 俺は、映画やテレビで見た知識というより、空想をドラゴンロードにぶつけてみた。


「地球というのは、変わった世界らしいな。地球というのは一つだろう。この世界も一緒だ。ソウジが過去に戻り、わしがソウジを待つ必要がないと判断すれば、わしの過去が変わる。わしの記憶が変わり、わしの成し遂げたことが変わる。この場所に居続ける必要がなければ、この場所が都となることはなく、わしは別の場所にいるだろう」


「……地球では……何万年と生き続ける、知恵を持った存在はいませんでした」

「ならば……全てはただの推測ということか? この世界は一つだ。ただし、覚えておくがいい。ソウジがより過去に戻って歴史を変えれば、ソウジが戻りたい時代は大きく変質してしまい、それを正すのは容易ではないということだ」

「……わかりました」


 簡単に時間を移動することができないことは、嫌というほどわかっている。

 俺が頷くと、キリシアンが言った。


「そろそろ出かけるか? 用意をする必要もないのだろう?」


 俺が荷物を抱えていたことはない。用意するにも何もすることがないことを、キリシアンは知っている。


「ああ……頼む。キリシアンは今……ドラゴンナイトではないよな?」


 俺がドラゴンナイトのキリシアンと出会ったのは、俺が元々いた世界から、千年後である。

 現在から、19000年程度昔ということになる。


「ああ。竜爵と呼ばれている。最下層だがな」

「……すごいな。おめでとう」

「まあ……ソウジの活躍が、関係ないわけではない」


 キリシアンは、長い鉤爪で鼻をかきながら言った。


「どういうことだ?」

「力を与えた魔法士が活躍することは、力を与えたものの評価をあげるということだ」


 ドラゴンロードが説明する。


「なら、俺のおかげか?」

「調子に乗るな。一つの異世界を攻略するのに、3万年もかけよって」


 キリシアンは大きな前足で俺を掴み上げた。

 それは、間違いなくとてつもなく恐ろしい経験だった。キリシアンの前足に掴まれ、持ち上げられ、キリシアンの頭部の上に乗った。

 恐ろしかった。ただ、キリシアンが俺を丁重にあつかっていることはわかった。


「では、キリシアン、任せる」

「心得ました」


 ドラゴンロードの見送りに応え、キリシアンは地面を蹴った。

 高く舞い上がる。

 俺は、キリシアンの頭部にしがみついた。


 ドラゴン爵となったことで、いままでよりずっと体が小さくなっているはずなのに、今までよりもずっと怖かった。

 しがみつき、下を眺める余裕もなく、地響きに揺られた。


 あっという間だった。

 キリシアンが首を下げる。

 その意図を察し、俺は地面に降りた。

 広々とした荒野で、小さな祠が目の前にある。


「……あそこか?」


 俺は、祠のように見える石の塊を指差した。

 俺は祠だと思ったが、人工物ではなく、石が自然に積み上がったように見える。

 それにしては不自然だった。やはり祠だろうか。


「その地下だ。二万年の間に、大きな戦いが何度もあり、地形も変わった。ダンジョンの入り口は不可侵だ。だが、周囲の地形が変わり、ほとんどの入り口が沈没した。悪いが、中には入れない」

「……体のサイズ的にかい?」

「そうだ」


 俺は冗談のつもりで言ったが、その通りだったようだ。

 確かに、地下洞窟があるとして、キリシアンのサイズで入るのは無理だろう。


「わかった。ここまででいい。ありがとう」

「ああ。気をつけて行け」


 やはり、俺に感謝してくれているのだろう。


 キリシアンは言うと、高く飛び上がった。

ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました。

きりが良いので、少しの間休憩します。

その間、一度完結させた『異世界転聖』の続きを更新します。



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