表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界には村もなかった  作者: 西玉
第3章 1000年後

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

162/163

159 ドラゴンが支配する世界の終焉

 俺は、岩をくり抜き、穴をあけ、這い出した。

 俺が異世界に旅立った時には、綺麗な泉のほとりの洞窟だったが、泉は存在せず、植物も育たない荒れ果てた土地となっていた。

 石積みの階段があった。


 俺は、階段の中央をくり抜き、這い出した形になったようだ。

 眼下に、赤黒い大地が広がる。

 とても、荒涼とした土地だった。そう変わってしまったのだ。

 穴から這い出た俺の前に、人間と同じぐらいのサイズのドラゴンがいた。


 ドラゴンと呼んでいいのだろうか。直立し、服を着ている。

 ただ、顔立ちや姿勢に四つ足の名残があり、背中には翼が生えている。

 異形の存在だが、俺は見覚えがあった。


「……ドラゴンロードか?」

「おお。ソウジよ、戻ったか。戻るとは思わなかった」

「……どうして、俺が戻るとは思わなかったんだ?」


 ドラゴンロードは、竜王に継ぐ力を持ち、地位にある。

 俺が異世界に旅立つ時に、その地位にいるのは、世界に一人しかいなかったはずだ。


「それはそうだろう。ダンジョンの内部とこの世界では、時間の流れ方は変わらない。ソウジは、そう言ったはずだ」

「……ああ」


 俺は、言った記憶がなかった。忘れているだけだろう。似たようなことは言った。ダンジョンの中に千年いる間、こちらの世界で千年が経過していたといえば、誰でもそう考える。


「人間のその体で生きられるのは、精々千年程度だろう」

「……いや。百年とは体がもたない」


 随分、人間の体を過大評価しているようだ。ドラゴンロードの口ぶりからは、千年しか生きられないというのは、あまりにも短い寿命なのだろう。


「ならば、なおさらだ。ソウジ出て行ってから、3万年が経過している。ソウジが3万年を生き続けることができない以上、死んでいるとみなすのは当然だ」

「3万? まさか……そんな……」


 俺は絶句した。

 以前攻略したダンジョンで、一万年もの時間を遡ってしまった。

 それは、俺の判断ミスだ。

 正確には、何年遡ったのかわからない。


 一万年ほどといっても、実際には十万年単位で遡っている可能性はある。

 今回、俺は三万年後の世界に戻ってきた。

 それは、ほぼ正確に三万年なのだろう。老いることのないドラゴンロードが待っていたのなら、それほどずれているとも思えない。


 仮にずれていたとして、三千年ぐらいだろう。

 俺が遡るのに、ものすごく苦労したのが千年だ。

 俺は、絶望しながら尋ねた。


「……よく、俺がこのタイミングで戻るとわかりましたね。ああ……異世界を覗けるんでしたか?」

「……確かに、わしはダンジョンの中を覗くことはできるが、正確に見たい場所を見られるわけではない。ソウジがいつ戻るのか、予見することは難しい。だから……わしは、ずっと待っていたのさ」


 ドラゴンロードは言った。

 それが、当然のことであるかのように言った。


「……3万年間、ずっとここで?」

「ああ」

「ずっと、動かずに?」

「そうだな」

「なんで、そんな……」


 3万年を動かずにいる。そんな話を、どこかで聞いたような気がした。

 俺は思い出した。

 攻略したばかりのダンジョンで、金色の小ドラゴンと同じ話をしたのだ。


「ソウジは、すでに四つ、竜王の魂の破片を回収した。その魔法士が、戻ると言ったのだ。それを信用できなくてどうする」

「……でも……ドラゴンロード、ずっと移動できないのでは、色々なことで困っているのでは……」

「3万年、ずっと困り続けていると思うか?」


 ドラゴンロードは、鼻の穴から炎を覗かせた。

 笑っているような気がする。ただ、恐ろしい顔つきが変わらない。


「では……どうやって、移動を?」

「移動はしていない。わしはな。ただこの場所は、この世界のあらゆる機関の中心となっている。すでに五つ目のオーブは壊れた。全ての力がこの地に集うように、わしが細工をした」


「……なるほど。では……綺麗な泉があった場所が、荒野に変わったのは……」

「変わったのではない。変えたのだ。木々は薙ぎ払った。三万年という年月は、植物が自我を持ち、われらドラゴン種に反旗を翻すのに、十分な時間だったのだろう」


 ドラゴンロードは静かに言うと、再び鼻から炎を覗かせていた。


「では……この世界には、植物はいないのか?」

「そうではない。我らに反旗を翻したのは、大木たちにすぎない。大部分の草や苔、藻や黴は、変わらず仕えている。もちろん……全てを焼き尽くしたのではない。大木たちの天敵、キノコの群れをけしかけたのだ」


 ドラゴンロードは、くっくと笑う。

 大木たちに襲いかかるキノコの群れを想像し、静かな戦争だったに違いないと俺は不思議な気持ちになった。


 ドラゴンロードは荒っぽく、植物を薙ぎ払ったと言うが、実際には一万年ぐらいをかけた、静かな戦いだったのではないだろうか。

 俺は、本題に入った。


「俺は……元々いた時代に戻りたいんだ。最初、千年後の時代に出た。ダンジョンを攻略し、一万年前に戻ってしまった。それから、三万年が経過しているのなら、二万年遡りたい」


 ドラゴンロードは、俺をじっと見つめた。

 大きく澄んだ瞳だが、3万年間ほぼ動かなかったということは、他者を使役してきたということだ。

 純粋な心の持ち主のはずがない。

 ドラゴンロードは言った。


「どうして、元の時代に固執する? 以前にも言ったが、ダンジョンには全てがある。また、二万年を遡る方法があるダンジョンを探せばよい。だが……人間にとっては、数百年といえどずれてしまえば、元の時代ではないのだろう?」


「当然だ。一年も、ずれてほしくない」

「ならば……それは無理だな。一万年単位で移動しているのに、一年もずれずに元の時代に戻ることは不可能だろう。よほど、自在に時間を行き来する異世界があるば別だが」


「……二万年が経過しているんだ。それぐらいの時間移動の方法は、いろんな世界で発明されているんじゃないのか?」

「……逆だな。多くの世界で、文明が滅んでいる。文明が滅んでも、竜王の魂のかけらがある限り、その世界は滅びることができない。それこそが、竜王を殺そうとした混沌への報復なのだから」


 俺は憤った。飛び上がって抗議した。


「俺は、3万年かけて、オーブを壊した。その間に、たくさんのオーブが壊されて、ダンジョンはもうなくなっているんじゃないのか?」


 ドラゴンロードは表情を動かさず、声音も変えずに答える。


「それは……ソウジ以外の魔法士が、オーブを壊しているはずだということだな?」

「ああ。そうだ。ダンジョンの数は、全部で108なんだろう? 俺1人だけのはずがない。他の魔法士が、オーブを壊しているはずだ」


「わしは……五つ目のオーブが壊れたのを確認したと言ったはずだ。ソウジ以外に、オーブを壊せる者がいれば、わしが3万年もこの場に止まることはあり得ん」


 それは、その通りだろう。

 俺は、ドラゴンロードの言葉の正しさに頷かざるを得なかった。


「じゃあ……他の誰も……オーブを壊していないし……俺が、壊すべき異世界はまだ、たくさんあるんだな?」


「そうだ。先ほどの、わしの質問に答えていないぞ。どうしてソウジは、元々いたという時代に戻りたいのだ? 元の時代に戻って……元の世界に戻るつもりか? 地球と……その世界のことを呼んでいるのだったな……」

「ああ……そうじゃない」


 俺は、どうしてドラゴンたちが、これまでに俺の望みを聞いてくれたし、俺だけが竜王の魂を取り戻すことに役立っているのにも関わらず、目的にあった異世界に行かせさもらえないのか、理解した。

 ドラゴンたちは、唯一、オーブを壊してこの世界に戻ってくる俺が、地球に戻りたがっていると勘違いをしているのだ。


 地球上で、百年違えば全く違う世界だ。

 ドラゴンたちは、役に立つ俺を手放したくないのだ。


「……この世界で、好きになった娘ができた。その娘に会いたい。それだけだ」

「なるほど。承知した」


 ドラゴンロードは応諾した。

 だが、俺はより不安になった。

 俺の目的を、笑いも疑いもせず肯定した。ドラゴンたちにとって、俺の願いは異常ではないのだろうか。


 俺が不安に思っていると、ドラゴンロードは高く咆哮した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ