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異世界には村もなかった  作者: 西玉
第3章 1000年後

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158 魔術師ウー

 ウーの魔法は、全て魔法の杖を使う。

 それだけでなく、杖の先端についた水晶をぴったり押し付けないと使うことができない魔法が多い。

 その代わり、どれほどの魔法が使えるのか、俺には把握できない。それほど、様々なことができる。


「どうやるんだ?」

「どうやるって……これですよ、もちろん」


 ウーは、前足の蹄で挟んだ杖を持ち上げた。


「本当にできるのか?」


 ベティアが疑わしげに尋ねた。

 ウーは、ベティアが怖いのか、俺の背後に隠れた。


「ああ……ウーが言うのなら、できるのだろう」

「そ、そうですとも」


 俺が言うと、ウーは腹を突き出した。胸を逸らしたつもりなのだ。


「でも、いいのかい? オーブを壊したら、死ぬんじゃないか?」


 俺は、頭の上に手を伸ばした。

 俺が差し出した手の上に、小ドラゴンが乗る。


「おいらはおいらだ。オーブを壊すって意味がわからないけど……大丈夫じゃないか?」

「……大丈夫なのか?」


 本人にはわからないようなので、俺はウーに尋ねた。

 そもそも、ウーは魔法でオーブを壊すとしか言っていない。どうやって壊すのか、想像するしかない。


「わかりませんけど……オーブとそちらのドラゴン様を分離しないと壊せませんよ。分離するときに、大丈夫かどうかわかるんじゃないでしょうか」

「……わかった。とりあえず、やってみる。それでいいかい?」


 俺の手の中で、小ドラゴンは首を揺蕩わせた。

 小さくても、動きは巨大なドラゴンと同じだ。


「そうだな。その代わり、別の世界に行くときは、おいらも必ず連れて行っておくれよ」

「わかった」


 俺は、小ドラゴンを乗せた手を、ウーに近づけた。

 ウーは畏まり、杖を掲げた。畏まったのは、相手がドラゴンだからだ。

 ウーの持つ魔法の杖の先端が、ドラゴンに触れる。


「行きます」

「頼む」


 俺が言った。それは、ウーに対する言葉か、ドラゴンからオーブが分離するという奇跡を祈ったのか、自分でもわからなかった。

 だが、結果は早かった。


 鈴を鳴らすような、澄んだ高い音が聞こえたかと思うと、小ドラゴンの体と同じぐらいの大きさの水晶玉のようなものが、下に落ちた。

 白い地面に触れる前に、ベティアが掴み取る。


「……ふむ。確かにオーブじゃな。妾が、自分の世界でずっと持っていたものと同じじゃ」

「待て。ベティア!」

「んっ?」


 俺は止めた。あまりにも、突然だった。

 俺の手の上に、ドラゴンが乗ったままだった。

 ウーは、自分でオーブを壊すことを切望していた。

 全ての想いや可能性を考慮することなく、吸血鬼王ベティアは、掴み取ったオーブを、無造作に握りつぶした。


「ウー、ベティア、捕まれ」


 俺は慌てて言いながら、小ドラゴンをしっかりと掴んだ。

 次の瞬間には、俺は見知らぬ洞窟にいた。

 元の世界に戻った。俺は、すでに慣れつつあった感覚で確信した。


 ※


 暗い。

 ダンジョン内でオーブを破壊すると、元の世界に戻る。

 ほとんどが、入ったダンジョンの入り口と同じ場所に戻される。


 例外は、前回入ったダンジョンで、オーブが生まれた瞬間まで時間を逆行したため、オーブの存在を超えて、生み出された場所に移動してしまったのだろう。

 今回は、さすがにそれほどの異常な事態ではない。


 異世界であるダンジョンに入った場所は、池のほとりの洞窟の中だった。

 珍しく綺麗な場所で、洞窟の外には花畑があった。

 暗い。

 何も見えない。


「ウー、ベティア、いるかい?」


 思い出せば、仲間たちを外に出したまま異世界に戻ったのは初めてだった。

 いつも、元の世界に戻る寸前で、魔法の石板に戻しているのだ。

 今回は、ベティアが無造作に握りつぶしたために、そのことに意識が回らなかった。


 もし、外に出ていたウーとベティアがあの世界に残っていたら、ウーはベティアに捕まり、血を飲み干されるだろう。

 何も見えないが、俺は魔法の石板を意識した。


 左手に出現する。

 画面を見ることができた。

 画面がぼんやりと光っているのだ。


 その光をかざしても、灯りの代わりにはならないのが不思議だが、石板に何が表示されているのかは見ることができた。

 ページを捲る。

 魔物を格納している画面に行き着く。


 ウーとベティアがいた。魔法の石版に戻っている。さらに二人に加え、小さなドラゴンのアイコンが増えていた。

 俺は胸を撫で下ろした。


 少なくとも、ウーとベティアを置き去りにはしてこなかったのだ。

 小ドラゴンも、一緒に連れて行くと約束したが、もともとあの世界にいたのだ。置き去りにしても気にならなかった。

 俺は気持ちを落ち着かせ、場所があることを確認してから、ウーを呼び出した。


「……あっ……ここは……どこですか?」


 真っ暗な中に出現したウーは、流石に戸惑っていた。


「元の世界に戻ってきた。オーブを壊したのは、覚えているか?」

「……壊れたのは覚えています」


 ウーは、自分でオーブを壊すことを夢見ていた。

 それが、目の前で、ベティアに握りつぶされたのだ。

 少なからず、腹は立てているのだろう。


「また機会はあるだろう。元の世界の、洞窟だと思うけど……光を灯してくれ」

「はい」


 ウーは言うと、魔法の杖の先端から光を放った。

 周囲が照らされる。

 どうやら、洞窟が崩れたらしい。


 俺は、生き埋めになっているのだ。

 たまたま、人間一人と豚一頭が入る程度の空間があったのだ。

 俺とウーがいて、苦しくはないが、身動きはほとんどできない。


「どうして、こんなことになったんですか?」


 ウーが大きな頭をぶるぶると震わせる。

 首を巡らせたいようだが、ウーの頭部は回すのに向いていない。


「時間の経過だろうな。あの世界に……数万年ぐらいいたらしいぞ」

「どうして、正確に把握していないんですか? そんなことになったのに」

「いや……俺はずっと、氷漬けだったからな。一緒にいた、小さなドラゴンがいただろう。あれから聞いたんだ。あいつは、何万年もじっとしていられるらしい」


「そりゃ、ドラゴン様ですから……そんなこともあるでしょうけど……」

「そうなのか?」

「知りません」


 ウーの想像なのだろう。ドラゴンなら何ができたとしても、受け入れられるのだ。

 俺は、ウーと二人でいても、状況を変えられないと感じた。

 ウーが普段通りだということは、ベティアも同様だろう。心配する必要はない。

 ウーを戻すことにした。


「ウー、どこに向かえば外が近いかわかるか?」

「ええと……あっちですね」


 ウーは光を収め、魔法の杖を目に押し付けて覗き込んでから言った。

 ウーの魔法は、使用距離の制限はあるが、万能に近い。

 覗き込んみながら、一方向を蹄で指した。


「わかった。なんとか、出てみる」


 俺が魔法の石板を見せると、ウーは頷いた。


「はい。今度は、もっと広いところで呼んでください」

「ああ。そうする」


 ウーが魔法の石板に触れて消える。


 俺は、魔法の石板から、以前にもらったビームサーベルを取り出した。

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