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異世界には村もなかった  作者: 西玉
第3章 1000年後

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151 新しい仲間

 俺が金色の小ドラゴンと話し始めても、七色サンゴは何も言ってこなかった。

 現在どこにいるのか、壁の色と一体化しているために判りにくいが、シルフはサンゴの移動音すら聞き取れるはずだ。


 元々は、俺をドラゴンの餌にしようとしていたらしいが、俺がドラゴンの食事を供給できれば、俺自身が食われなくとも問題ないのだろう。

 あるいは、最初は俺を急かしたが、激しい感情を持てない種族なのかもしれない。


 俺が固形食糧を包む包装紙ごと渡すと、小ドラゴンは器用に爪の先で包装紙を破り取り、中身に食らいついた。

 俺は、その所作に驚いた。


 初見で、包んでいる素材が食べ物でないと判断し、出した俺がその中身が食べ物だと言う前から、察したのだ。

 だが、小ドラゴンの驚きは別のことだった。


「美味い。カロリーも高い。バランスが良い。ふむふむ……この食事を作ったのは……食事バランスと味の重要性を理解した、奇妙な種族のようだ」


 小ドラゴンから見れば、固形食糧は一抱えある大きさだ。

 牙を立て、がりがりと齧っている。


「美味いものを作るのが、奇妙か?」

「奇妙だな。この世界のほとんどの種族は、生きることのみに頭を使う。宇宙船を作るのは、自分の星の環境が過酷なので、奪い合っているからだ。お前が行こうとしている星域の種族も変わっていて、元来長命で死ににくい種族が多いから、暇つぶしに外宇宙に出る」

「あんたも、その星域の出身なのか?」


 金色の小ドラゴンは、数万年の移動に耐えると言っていた。つまり、その間ずっと生き続けているのだ。


「わからない。なにしろ、あまりにも前のことだ。それに、わしは宇宙船など作らない。自分で宇宙を飛べる」

「それはすごいな。なら、どうして捕まったんだ?」


「捕まったわけではない。特にすることがないから、ここでじっとしているのだ。時々飯が来るし、ちょっと力を吸われるぐらい我慢できる」


 寿命が極端に長いか、そもそも寿命という考え方がないのだろう。

 俺が渡した固形食糧を完食したドラゴンに、俺は尋ねた。


「まだ足りないか?」


 体のサイズ的には、十分に思える。

 だが、体の大きさとは関係ないのだろう。


「いくらでも食えるが、まだあるのか?」

「さっきのもあるが、肉はどうだ?」


 俺は、魔法の石板をスライドさせ、アイテム画面を表示した。

 収納されている多くのアイテムの中に、肉の塊がある。


「良いな。以前食べたヘビは美味かった」

「ヘビじゃないが」


 俺は、この世界の生物たちを思い出す。

 アメーバ型に、イグアナ、ヘビ、サソリと出会った。

 ドラゴンが好みそうな肉をした生物には、ほとんど会っていない。

 俺は、ドラゴンたちが支配する元の異世界に埋葬するつもりだった肉の塊をタップした。

 俺のために戦い、死んだ恐竜種ハンヘドの亡骸が目の前に飛び出した。


「凄いな」

「ああ。全部とは行かないが」


 俺はビームサーベルを取り出して、ハンヘドの前足を切断し、残りを再び収納した。

 ハンヘドの大きな前足を抱え、俺は尋ねた。


「欲しいか?」

「美味そうだ。こんなに美味そうな食事は、初めてだ」

「これは、俺の仲間だった奴の体の一部だ」


「……そうか」

「やってもいい」

「いい心がけだ」

「その代わり、オーブを壊したら、あんたも一緒にこないか? この世界は退屈だと思うぞ」


 俺にとっては刺激的な世界だが、それは、これまでほとんど文明が存在していないか、滅びた後の異世界ばかり巡ってきたからだ。

 ずっとこの世界にいたドラゴンにとっては、この世界は面白いものではないはずだ。


「お前と一緒だと、面白いのか?」

「ああ。あんたと同じ長く生きている、その吸血鬼も満足している」

「満足はしておらん。妾が望む世界に、ちっとも連れて行かんではないか。貴様の血がもっと不味かったら、殺しておるところじゃ」


 台座の下で、ベティアが拳を振り上げている。

 ドラゴンは体の割に長い首を伸ばし、ベティアを見た。


「ああ。確かに、面白そうだ。異世界に行くということだな?」

「そうなる」

「いいだろう。それと、集めたものがあるだろう。それもよこせ」

「何にする?」


 俺は、七色サンゴに騙されたと思っていたので出していなかった、死霊を封印したベティアの指輪とウーから戻された拳銃、拾った鉄の棒を、魔法の石版のアイテム画面から取り出した。


「死霊をわしが食うのは本当だ。ただし、エネルギーにするわけではない。死霊を食うことで、死霊の経験をわしの物とすることができる。長く生きていると、それが癒しになるだ。わしが喜んでいたから、サンゴどもがわしのエネルギー源だと勘違いしたようだな」


 小ドラゴンは、ベティアの指輪に口の先端を押し付け、啜った。

 俺は、死霊魔法をタップした。

 確かに、封印された死霊が小ドラゴンに吸い込まれていくのが見えた。


「……大量の霊魂だな。わかった。ただし、七色サンゴたちは、賛成しないだろう。心得ておけ」


 つまり、金色の小ドラゴンは、俺と行くことを承知したということだ。

 俺が頷くと、金色の小ドラゴンは翼を広げた。


「出立だ」

「わかりました」


 小ドラゴンの命令に七色サンゴが答える。

 まるで、七色サンゴがドラゴンに従っているようだが、この宇宙船の主人はサンゴたちだ。

 俺は、台座から降りた。

 俺が床に戻ると、ウーとシルフ、ベティアが待っていた。


「仲間の肉を食わせたのか?」

「人間って怖いです」

「最低」


 3人の視線が痛い。確かに、小ドラゴンの餌として、仲間だった恐竜種ハンヘドの肉を与えた。

 俺は、近くにサンゴがいないことを確認しながら、囁いた。


「金色のドラゴンが、一緒に来ることを承知した。それに、食わせたのはごく一部だ」

「……ほう」

「なら、仕方ありません」

「さすがだな」


 シルフが、小さな手で俺の肩を叩く。

 急に態度が変わる。それほど、ドラゴンというのはウーやシルフには大きな存在なのだ。


 ただ、ベティアはもともと、俺を責めているわけではない。吸血鬼の王である。仲間の死体をどう扱おうが、気にすることはないだろう。

 七色サンゴ型の宇宙船が動き出す。俺が重力の変化を感じた時、俺の肩に金色の小ドラゴンが舞い降りた。


「なるほど。これがお前の仲間達か。1人別格がいるな」

「見る目がある奴じゃな」


 ベティアがふふんと腕組みをした。

 ある世界の支配者であり、吸血鬼の王である。別格なのは間違いない。


「別格に美味そうだ」


 金色の小ドラゴンが舌なめずりしたのは、ウーを見ながらだった。


「キャーッ! 私は、美味しくないですよ。ソウジ、私は不味いって言ってください!」


 ウーは、体を隠すように杖を振りながら、俺に訴える。


「貴様の目は節穴か」


 ベティアが吐き捨てた。俺は、俺の肩に乗った金色のドラゴンの首に指を伸ばした。


「大切な仲間だ。餌扱いはやめてくれ」

「貴様こそ、わしを愛玩動物扱いするな」


 俺は、ドラゴンに触れようとしていた手を引っ込めた。


「俺に従ってくれるなら、多分魔法の石板……これを作った者たちは、『魂の結晶』と呼んでいるが、これに触れれば収納されるが、試さない方がいいだろうな」

「ああ。少なくとも、この宇宙船が奴らの星に着くまではな。動力源がいなくなれば、サンゴ共も気付くだろう」


 金色のドラゴンは、小さな翼をばたばたと動かしながら言った。


「サンゴたちは、どこにいる?」

「そこら中にいるだろう」


 ドラゴンは、体の大きさの割に長い首で周囲を回し見た。


「つまり……この壁が全てそうなのか?」


 俺が宇宙船に入ってから、壁はずっとぼくぼくとした凹凸に覆われていた。

 壁に埋もれるように、干からびた動物の死骸を見た。

 触れても、何事もなかった。


「そうだ。一部だけで動くことも出来る。意思は独立しているか、全て共有して一つの意識しかないか、本人たちもわかっていまい。この世界の共通項のようなものだ。知恵を発達させるには、意志が個にあるうちは無理だと判断したらしい。実際に、高度な知恵を持つ者たちほど、全体で意識を共有する傾向にある」

「たとえば、水のような粘体か?」


 俺は、最初に飛び込んだ宇宙船で遭遇した存在を思い出した。

 実態があるタコ型宇宙人だと思っていたが、高い知能を持ったアメーバが必要に応じて生み出していたのだと、途中で気づいた。


「会っていたか」

「ああ。そいつは死霊を恐れ、恨みを買って死に絶えたが」

「高度に知能だけを発達させた者たちは、理解できない者を極度に恐れる傾向がある」

「……あんたは、違うのか?」


 金色の小ドラゴンは、拘束されていない。ただ、宇宙船からは出られないようだ。

 俺の肩に降りたのは、単に俺と話をしたかったからのようだ。


「こいつらと同じだと思うか?」

「思わない。背骨がある。こういうのは、優れた生物なのだろう?」


 かつて、吸血鬼の王ベティアが言ったことだ。

 俺が話を振ると、壁を掴んで握りつぶしていたベティアが振り向いた。


「まあな。妾たちのような、恒温動物には及ばんがな」


 恒温動物とは、周囲の温度によって体温が変動しにくい動物で、哺乳名は全てそうだというのが、専門家ではない俺の認識だ。

 体温が変わるのは変温動物で、爬虫類は低音では活動を停止し、太陽の光で体を温める性質がある。


「貴様に、体温があるのか?」


 ドラゴンが笑う。ベティアが睨んだ。


「はるか昔に、そのような些事は捨てた。低音でも変わらずに動けるのであれば、妾はさらに進化したということだ」

「我は、宇宙空間でも移動できる。マグマの中を泳ぐことも造作もない」

「ふん……少しはやるようじゃな」

「喧嘩するな」


 俺は、ドラゴンとベティアは諌めた。


「ウー、シルク、この宇宙船の中は危険だ。サンゴたちに食われるかもしれない。戻っていろ」


 俺が魔法の石板を近づけると、ウーとシルフは素直に画面に触れた。

 ベティアは、サンゴたちに生物として認識されていない。おそらく、サンゴたちに視力はない。体温が死体以下のベティアを、生物として認識できないだろう。


「長い旅だ。少し、案内してやろう」


 唐突にドラゴンが言い出した。俺は、その言葉に甘えることにした。



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