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異世界には村もなかった  作者: 西玉
第3章 1000年後

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121 与えられた武器

 この世界は、俺のような人間によって一度滅んでいるらしい。

 その後に、荒廃した環境でも生き続けられる者たちである魔物が出現した。

 魔物の存在が、荒廃した環境にどう影響したのかはわからない。

 魔物に対抗するように、人間が世界に現れた。


 人間は生物の霊長として君臨したが、かつての姿はしていなかった。

 かつて、ゴリラ、チンパンジー、ヒヒなどと呼ばれた近い知能を持つ猿たちが、新たな世界で人間となった。


「ここが武器庫だ。人間どもに対抗するために開発されたものだ。勇者を殺すなら……ここにある全てを使ったところで、足りないかもしれないが」


 魔王ランドゥ本人が、俺を武器庫に連れてきた。

 俺にそれだけ期待しているのか、あるいは俺が魔物たちに嫌われているため、魔王しか相手をしてくれないのかもしれない。


「それを使っても、勇者ってのは殺せないのか?」


 魔王が掴み上げたのは、俺の身長の3倍はある長い砲身を持った、銃型の装置だ。

 俺の知る限り、レールガンと呼ばれるものに似ている。似ているが、弾を打ち出すようには見えない。ひょっとして、ビーム砲だろうか。

 俺の知る世界でも、レールガンは実用化されていなかった。


 ドラゴンの世界にいた未来の地球の人間たちも、不可思議な進化をしたものの、レールガンのような武器は持っていなかった。

 それがビーム砲だとすれば、なおさら実現が難しい兵器だ。

 どんなものか解らないが、長大な姿から、威力のほどは想像できる。


「使ったところで、当たるとは限らんしな」


 魔王は言いながら、俺に砲塔を差し出した。


「……うん。持てないな」


 魔王ランドゥは、俺とそれほど変わらない体格で軽々と砲塔を持ち上げたが、残念ながら俺に持ち上げることはできなかった。


「自分で持つ必要があるのか?」


 ランドゥは、俺を見つめた。


「……これ、くれるのか?」

「エネルギー源は魔力だ。ここの武器の大半が、魔力が強いほど破壊力を増す。兵器の性能とは、魔力の変換効率と言い換えても同じことだ。持てるなら、持っていけ。運ぶ方法は任せる。勇者を殺せるなら安いものだ」

「わかった」


 俺は、魔法の石板を長い砲塔に近づけた。

 触れた瞬間に消える。

 アイテムのアイコンに出現していた。魔王は驚きもしない。魔法の石版について、俺が寝ている間にかなり調べたのだろう。


「……これは?」


 俺は、金属の円筒を掴み上げた。


「それは、魔力の多寡によって威力を変えない。その意味では、魔力が貧弱な者には使いやすいかもしれん。魔力を込めてみよ。できんとは言わさんぞ」

「ああ。大丈夫だ」


 言ったものの、俺は意識して魔力を操るということはあまりしたことがない。

 魔法の石板をタップすることで、俺は魔法を使ってきた。

 魔力のことを意識したことはない。

 だが、要領は一緒だと信じたい。


 そもそも、魔力を操ることができなければ、この世界の武器どころか道具すら、俺には扱えないだろう。

 俺は円柱を握り、力を注ぐようイメージする。


 円筒から、光が飛び出した。

 どうやら、成功したようだ。

 光は、1メートルほどの長さで止まる。


「ビームサーベルってところか?」

「うむ。知っていたか。そう呼ばれている。いくら魔力を込めても、これ以上の長さにはならん。余としてはつまらん武器だが、魔力が少ない者にも同じように使える。まあ、勇者相手には役に立たないだろうが」

「ありがとう。もらっていく」


 俺としては、憧れの武器の一つだ。


「少ない魔力で使用できる武器なら、いくらでも持っていくがいい。もっとも、エネルギー源が魔力である以上、使えなくなることはほぼない。一つずつ持っていけば十分だろうがな」

「ああ。助かる」


 俺はランドゥに答えながら、拳銃のような形で、よりすっきりとした形の光線銃、魔力を込めると数秒で爆発する手榴弾をもらうことにした。


「それと、これも持っていけ。お前の服は弱すぎるし、肌も薄すぎる」


 魔王ランドゥは、俺に向かって肩当てのような防具を投げた。

 俺はそれを受け取り、体に装着してみる。


「これは、魔力を使うのか?」

「そうだな。魔力を込めれば、全身を覆う肉体へと変わる。だが、お前の魔力では、その前に尽きる。魔力を込めなくても、今よりはましだろう」

「うん。ありがとう」


 俺は素直に感謝を伝え、肩と肘、膝、腰、足についた装備を確認した。

 保存食と水筒ももらった。

 俺はありがたく頂戴したが、魔王の目は俺の持つ魔法の石板に吸い付いていた。

 アイテムが吸い込まれる魔法の石板が、魔王にとっては最も興味深いのだろう。


 俺は、魔王に感謝を告げて、武器庫から出ようとした。

 踏み出す前に、足を止めた。

 武器庫の外で待っている人間の姿に、見覚えがあるような気がしたからだ。

 その人物は、オートバイに跨っていた。


 俺のいた元々の世界であれば、ネイキッドと呼ばれる機械が剥き出しタイプで、ハーレー型ではないヨーロッパ型だ。

 フルフェイスのヘルメットに、全身を鎧帷子で覆っている。

 極端に丸まった背中と、前に突き出た頭部に、見覚えがあった。


「乗って。送るわ」


 ヘルメットの前面を押し上げ、晒した顔はチンパンジーそのものだった。

 俺は知っている。

 この世界に来て、チンパンジーの知り合いは1人しかいない。

 俺が戦ったチャンプ、マウンテンゴリラのギャスティの妹、ファルキだ。


「凄いな。バイクまであるのか」

「ああ。いかに新世界の人間でも、疲れずに時速50キロ以上を走り続けることは不可能だろうからな」


 驚いて、開いた口が塞がらなかった俺の背後に、魔王ランドゥが立った。


「この世界、魔物と人間のどちらが強い?」


 俺が興味本位に聞いたことに、魔王は怒るでもなく笑って答えた。


「新世界の人間は、ある程度の魔物なら素手で殺す。だが、大型や特殊能力を持った魔物には敵わない。人間が作り上げた機械を仕えば、いい勝負だろう」

「魔王様も、苦労するな」

「ああ。だからこそ、勇者の討伐をお前のような悪魔に託すのだ」


 俺は、魔王の祝福を受けた。

 驚いて振り返る。

 魔王の唇が、俺の頬に触れていた。


「痛っ!」

「魔王の印を与えた。魔王軍に組みする者からは、便宜が図られよう」

「ああ。ありがとう」


 魔王は、鋭い牙で俺の頬に穴を開けたのだ。

 血が流れ出る。

 俺は生命魔法を発動させ、傷を癒した。


 だが、魔王に噛み付かれた傷跡は、まるで呪いでもかけられたように残った。

 俺は、チンパンジーのまたがるバイクの後部座席に跨った。

 動物サーカスに入団したような錯覚を覚えるのは仕方がない。


「魔王様、行って参ります」

「うむ。頼んだ」


 ファルキが声をあげ、魔王が答える。

 俺を送ると言ったことも、魔王の指示なのかもしれない。

 ファルキが右手を捻ると、バイクが唸りを上げた。

 どうやら、操縦方法は俺の知るバイクにかなり近いらしい。

 バイクが走り出す。


 俺は、不本意ながらチンパンジーの胴体にしがみついた。

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