121 与えられた武器
この世界は、俺のような人間によって一度滅んでいるらしい。
その後に、荒廃した環境でも生き続けられる者たちである魔物が出現した。
魔物の存在が、荒廃した環境にどう影響したのかはわからない。
魔物に対抗するように、人間が世界に現れた。
人間は生物の霊長として君臨したが、かつての姿はしていなかった。
かつて、ゴリラ、チンパンジー、ヒヒなどと呼ばれた近い知能を持つ猿たちが、新たな世界で人間となった。
「ここが武器庫だ。人間どもに対抗するために開発されたものだ。勇者を殺すなら……ここにある全てを使ったところで、足りないかもしれないが」
魔王ランドゥ本人が、俺を武器庫に連れてきた。
俺にそれだけ期待しているのか、あるいは俺が魔物たちに嫌われているため、魔王しか相手をしてくれないのかもしれない。
「それを使っても、勇者ってのは殺せないのか?」
魔王が掴み上げたのは、俺の身長の3倍はある長い砲身を持った、銃型の装置だ。
俺の知る限り、レールガンと呼ばれるものに似ている。似ているが、弾を打ち出すようには見えない。ひょっとして、ビーム砲だろうか。
俺の知る世界でも、レールガンは実用化されていなかった。
ドラゴンの世界にいた未来の地球の人間たちも、不可思議な進化をしたものの、レールガンのような武器は持っていなかった。
それがビーム砲だとすれば、なおさら実現が難しい兵器だ。
どんなものか解らないが、長大な姿から、威力のほどは想像できる。
「使ったところで、当たるとは限らんしな」
魔王は言いながら、俺に砲塔を差し出した。
「……うん。持てないな」
魔王ランドゥは、俺とそれほど変わらない体格で軽々と砲塔を持ち上げたが、残念ながら俺に持ち上げることはできなかった。
「自分で持つ必要があるのか?」
ランドゥは、俺を見つめた。
「……これ、くれるのか?」
「エネルギー源は魔力だ。ここの武器の大半が、魔力が強いほど破壊力を増す。兵器の性能とは、魔力の変換効率と言い換えても同じことだ。持てるなら、持っていけ。運ぶ方法は任せる。勇者を殺せるなら安いものだ」
「わかった」
俺は、魔法の石板を長い砲塔に近づけた。
触れた瞬間に消える。
アイテムのアイコンに出現していた。魔王は驚きもしない。魔法の石版について、俺が寝ている間にかなり調べたのだろう。
「……これは?」
俺は、金属の円筒を掴み上げた。
「それは、魔力の多寡によって威力を変えない。その意味では、魔力が貧弱な者には使いやすいかもしれん。魔力を込めてみよ。できんとは言わさんぞ」
「ああ。大丈夫だ」
言ったものの、俺は意識して魔力を操るということはあまりしたことがない。
魔法の石板をタップすることで、俺は魔法を使ってきた。
魔力のことを意識したことはない。
だが、要領は一緒だと信じたい。
そもそも、魔力を操ることができなければ、この世界の武器どころか道具すら、俺には扱えないだろう。
俺は円柱を握り、力を注ぐようイメージする。
円筒から、光が飛び出した。
どうやら、成功したようだ。
光は、1メートルほどの長さで止まる。
「ビームサーベルってところか?」
「うむ。知っていたか。そう呼ばれている。いくら魔力を込めても、これ以上の長さにはならん。余としてはつまらん武器だが、魔力が少ない者にも同じように使える。まあ、勇者相手には役に立たないだろうが」
「ありがとう。もらっていく」
俺としては、憧れの武器の一つだ。
「少ない魔力で使用できる武器なら、いくらでも持っていくがいい。もっとも、エネルギー源が魔力である以上、使えなくなることはほぼない。一つずつ持っていけば十分だろうがな」
「ああ。助かる」
俺はランドゥに答えながら、拳銃のような形で、よりすっきりとした形の光線銃、魔力を込めると数秒で爆発する手榴弾をもらうことにした。
「それと、これも持っていけ。お前の服は弱すぎるし、肌も薄すぎる」
魔王ランドゥは、俺に向かって肩当てのような防具を投げた。
俺はそれを受け取り、体に装着してみる。
「これは、魔力を使うのか?」
「そうだな。魔力を込めれば、全身を覆う肉体へと変わる。だが、お前の魔力では、その前に尽きる。魔力を込めなくても、今よりはましだろう」
「うん。ありがとう」
俺は素直に感謝を伝え、肩と肘、膝、腰、足についた装備を確認した。
保存食と水筒ももらった。
俺はありがたく頂戴したが、魔王の目は俺の持つ魔法の石板に吸い付いていた。
アイテムが吸い込まれる魔法の石板が、魔王にとっては最も興味深いのだろう。
俺は、魔王に感謝を告げて、武器庫から出ようとした。
踏み出す前に、足を止めた。
武器庫の外で待っている人間の姿に、見覚えがあるような気がしたからだ。
その人物は、オートバイに跨っていた。
俺のいた元々の世界であれば、ネイキッドと呼ばれる機械が剥き出しタイプで、ハーレー型ではないヨーロッパ型だ。
フルフェイスのヘルメットに、全身を鎧帷子で覆っている。
極端に丸まった背中と、前に突き出た頭部に、見覚えがあった。
「乗って。送るわ」
ヘルメットの前面を押し上げ、晒した顔はチンパンジーそのものだった。
俺は知っている。
この世界に来て、チンパンジーの知り合いは1人しかいない。
俺が戦ったチャンプ、マウンテンゴリラのギャスティの妹、ファルキだ。
「凄いな。バイクまであるのか」
「ああ。いかに新世界の人間でも、疲れずに時速50キロ以上を走り続けることは不可能だろうからな」
驚いて、開いた口が塞がらなかった俺の背後に、魔王ランドゥが立った。
「この世界、魔物と人間のどちらが強い?」
俺が興味本位に聞いたことに、魔王は怒るでもなく笑って答えた。
「新世界の人間は、ある程度の魔物なら素手で殺す。だが、大型や特殊能力を持った魔物には敵わない。人間が作り上げた機械を仕えば、いい勝負だろう」
「魔王様も、苦労するな」
「ああ。だからこそ、勇者の討伐をお前のような悪魔に託すのだ」
俺は、魔王の祝福を受けた。
驚いて振り返る。
魔王の唇が、俺の頬に触れていた。
「痛っ!」
「魔王の印を与えた。魔王軍に組みする者からは、便宜が図られよう」
「ああ。ありがとう」
魔王は、鋭い牙で俺の頬に穴を開けたのだ。
血が流れ出る。
俺は生命魔法を発動させ、傷を癒した。
だが、魔王に噛み付かれた傷跡は、まるで呪いでもかけられたように残った。
俺は、チンパンジーのまたがるバイクの後部座席に跨った。
動物サーカスに入団したような錯覚を覚えるのは仕方がない。
「魔王様、行って参ります」
「うむ。頼んだ」
ファルキが声をあげ、魔王が答える。
俺を送ると言ったことも、魔王の指示なのかもしれない。
ファルキが右手を捻ると、バイクが唸りを上げた。
どうやら、操縦方法は俺の知るバイクにかなり近いらしい。
バイクが走り出す。
俺は、不本意ながらチンパンジーの胴体にしがみついた。




