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異世界には村もなかった  作者: 西玉
第3章 1000年後

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116 異世界の人間

半年ぶりとなってしまいましたが、再開します。

お休み中に、こっそりイラストを入れてみました。

お楽しみいただければ幸いです。

 俺は、丸いふっくらとした柱が立ち並び、強烈な太陽の光が、遮る物無く刺し込まれる建物にいた。

 均等に立ち並ぶ丸い柱は、俺の昔いた世界で、パンテオンと呼ばれる神殿を思い起こさせた。

 建物から外を見ると、果てしなく広がる大地の先に、太陽が見えた。


 太陽が登ろうとしているのか、沈もうとしているのかわからない。

 俺は、魔法の石板のマップを確認した。

 オーブは遠く離れた場所にある。

 この異世界では、かなり遠くまで移動できるようだ。


「余の神殿に侵入するとは、命が要らぬようだな。捉えよ」


 甲高い声に振り返ると、褐色の肌をした額に角のある女性が、マントを翻して叫んでいた。

 白い髪で片目が隠れている。口元から牙が飛び出ている。

 言い方からすると、神殿に祀られている神だろうか。

 女の命令に動いたのは、緑色の小柄な人型の何かだった。

 頭部にツノがあり、簡素な棍棒を持っていることから、ゴブリンだと思われる。


「待て。俺は、突然ここに出たんだ。ここは何の場所なんだ? 勝手に入ったことは謝る」

「人間風情が、頭が高いわ。殺しておけ」


 俺は耳を疑った。俺のことを、奇妙な呼び方をした。


「はっ」


 俺が問いただす前に、ゴブリンたちの親分だろうか、牛の頭に逞しい体をした魔物が最後に現れ、返事をした。

 話を聞いてくれない。


 この場所は神殿に見えたが、どうやら神を祀っているわけではない。魔物をしたがえているのだから、魔王といったところなのだろうか。

 ゴブリンたちは十匹以上もいるだろう。

 俺は、元の世界で最初に遭遇したゴブリンを思い出した。


 身長は低いが、逞しく、強い魔物だった。

 それに比べれば、きわめて非力に見える。だが、多勢に無勢である。

 俺は魔法の石板を握りしめながら、神殿風の建物から飛び出した。

 高台に作られていたらしく、神殿から出ると、なだらかに降った荒野が広がっていた。


 隠れる場所もない。

 俺はゴブリンに追われながら、足元をもつれさせて倒れ込んだ。

 地面に張り付きながら、魔法画面をタップする。

 同化魔法に指が触れていた。


 俺は、たまたま地面に張り付いていた。

 地面に同化することを意識した。

 ゴブリンたちが俺を踏みつけて駆け抜ける。

 途中で止まった。俺を見失ったのだ。


「どうした? 殺したか?」


 牛の頭部をした魔物が、俺の背中を踏みつけた。

 俺は呻いた後、自分で口を塞ぐ。

 牛頭の巨漢は足元を見下ろしたが、何も言わずにゴブリンたちの報告を受けた。


「逃げた」

「無くした」

「居ない」


 ゴブリンたちが短い言葉を次々に発する。あまり知能は高くないらしい。


「探せ」

「はい」


 牛の頭なので、俺の知る知識と合わせて牛頭と呼ぶことにする。

 牛頭は短く命令すると、ゴブリンたちは散っていった。

 全ての魔物が俺の上を通り過ぎ、背中を向けたタイミングで、俺は地面から体を起こした。

 この世界には、神殿に住む魔王がいる。


 魔王は、俺を人間と呼んだ。

 魔物と人間がいて、おそらくは争っている。

 俺は、望んだ世界に来たのだと理解した。

 問題は、時間を遡れるほど、魔法が発達しているかどうかだ。


 さっきは、突然見つかって、攻撃をしかけられた。そのために、何もできなかった。

 俺は、丘の上に立つパンテオン風の神殿を見上げた。

 この世界の知識はない。ならば、これまで培った知識と魔法で、手っ取り早く情報を収集した方がいいだろう。

 俺は決断すると、神殿に向かった。


 ※


 この世界に来た直後は油断していたが、同化魔法を使用すれば簡単には見つからない。

 俺は同化魔法をタップして、床に這いつくばるように神殿に戻った。

 柱が均等に並んだ神殿のような構造の奥に、祭壇と拓けた場所があった。


 祭壇の上に椅子がある。

 魔王の玉座なのだろう。

 だが、現在は誰もいない。

 神殿の中には多くの魔物がいた。


 牛の頭部をした魔物もいたし、ゴブリンと呼ばれていた緑色の小鬼が掃除をしていた。

 魔物たちは俺に気づかない。

 俺を殺せと命じた、褐色の肌をした角のある女の魔王はいなかった。

 俺は見つからなかったが、ゴブリンたちの世間話は聞こえたし、言語として理解できた。


 どうやら、褐色の肌の美女は魔王で間違いないらしい。ゴブリンたちが『魔王』と呼んでいたのだ。

 俺は、再び同化魔法をタップして祭壇に近づいた。

 突然呼び止められるのではないかと不安になり、緊張しながら、周囲を警戒しながらのことだった。

 結局、誰にも呼び止められなかった。


 祭壇を上がる。

 魔王の玉座に腰掛けてみた。

 誰にも気づかれず、呼び止められもしない。


 同化魔法を解除するわけにはいかない。

 俺は、玉座に腰掛けたまま、祭壇から見下ろす光景に思いを馳せた。

 突然、右手側にモニターらしい画面が出現した。


 空間に直接表示させたような画面は、千年後の地球人が使用していたリティカーと呼ばれる画面を想像させた。

 通信用の装置のようだ。

 画面の中に、俺がこの世界に来た直後に遭遇した、魔王と呼ばれる女が映っていた。


『……貴様、さっきの人間だな? 余の玉座で何をしておる?』


 モニター画面の中から問いかけられた。話せばいいのだろうか。


「俺のことが、見えるのか?」

『わかって起動させたのではないのか?』

「……『起動』?」


 俺は不思議に思って尋ねた。たまたま、俺が右手を置いた椅子の肘置きに、魔法陣らしいものが刻まれているのに気づいた。

 ボタンのようなものはない。魔法陣に触れることで、何かを起動させたのだろう。


『とりあえず、退け。貴様がそこに座っていると、余が転移できん』

「……俺を殺さないなら、退きます」

『ならん。人間風情が、余と取引か? 貴様を殺す手段ぐらい、いくらでもあるのだぞ』


 魔王の言葉と同時に、俺の前にふわりと浮かび上がったものがある。大きな筒のような物体だった。

 魔物には見えない。

 俺の世界の基準では、大砲に酷似している。


「あんた、魔王か?」


 言いながら、俺は生命魔法をタップした。


「ああ。そうだ」


 言葉と同時に、俺の目の前に浮かぶ大きな筒が火を噴いた。俺は、あらかじめ足に意識を集中させていた。

 魔王の玉座に大砲が打ち込まれ、破裂する音を足元で聞いた。


 生命魔法で強化した力で飛び上がったため、想定よ高く飛び上がっていた。

 着地しようとした。

 だが、足からではなかった。

 背中を、柔らかいものに支えられた。


「余と話しながら、あれを避けるか。器用なやつだ」


 俺が飛び上がり、空席となった一瞬で、魔王が玉座に転移していた。

 俺は、魔王の膝の上で抱えられていた。

 友好的な相手でないことはわかっていた。

 俺はすぐに体を回転させるように、魔王の膝から降りようとした。


 飛び降りた俺の胸ぐらが、魔王の細くしなやかで、力強い手につかまれた。

 魔王はまるで、俺の知る『ギャル』と呼ばれる女子のように、爪を長く伸ばしていた。

 違うのは、おそらく鋼鉄よりも頑丈で、ナイフよりも鋭利だということだ。

 胸ぐらを掴まれる時、俺は胸の肉を深く抉られた。


「んっ? よく見るとお前、人間とは少し違うな。まるで……余がこの世界に産み落とされる前に存在した、ホモサピエンスのようだ」


 魔王は言いながら、右手を引きよせた。掴んだ俺ごとなので、魔王の顔が目の前に迫る。

 魔王は、自分の右手を口元に運んだ。

 舌を伸ばし、舐めた。舐めたのは、俺の傷ついた胸であり、溢れ出す血液だ。


「ホ、ホモサピエンス? それは、滅んだんですか?」


 ホモサピエンスという呼び方は、俺も知っていた。俺の元々いた世界で、人間は自分達のことをそう分類していた。

 霊長類人科ホモサピエンスである。


「ああ。滅んだ。現在の人間は、少なくともお前よりは強く、逞しい。余の配下の魔物たちでは、簡単には討ち取れん」

「ど、どんな奴らですか? 俺にとって、この世界の人間は同族ではない。俺は、魔王様に協力できるかもしれない」

「ふん。所詮は人間の仲間だ。信用はできん。だが……こういう奴らだ」


 魔王が俺の頭を掴み、玉座に表示させたモニターの画面を変えた。


 そこには、人間だとして表示された、猿がいた。

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