表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界には村もなかった  作者: 西玉
第3章 1000年後

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

116/164

113 洞窟の中の温泉街 ☆

 見つけた洞窟の入り口は暗かったが、俺が入るとまるで明かりを灯したかのように明るくなった。

 中は広く、洞窟の中とは思えなかった。

 地面も壁も平らで、滑らかに整えられ、俺がかつて所属していた世界の屋台のようなものがある。


「はい、いらっしゃい。珍しい魔物だね。ツノのないゴブリンかい?」


 俺が近づくと、屋台の中から顔を出した、岩に顔をつけたような魔物が言った。

 ゴブリンといえば、俺がこの世界にきた時に最初に遭遇した魔物だ。

 身長は低いが体はがっしりとして、緑色の肌に短い角を持つ魔物だ。


 俺とは似ても似つかないはずだが、1000年のうちに魔物を作成する基準が変わったのだとハンヘドが教えてくれた。

 現在のゴブリンは、俺と似ているのかもしれない。


「違います。ソウジは人間です」


 俺の足に隠れていたウーが、魔法の杖を振り回しながら言った。杖を振り回しているのは、単に興奮しているようだ。


「嘘だろう。こんな人間がいるもんか。人間ってのは、銀色の肌をして、凹凸のない体をした奴らだ」

「ソウジは昔の人間ですからね。ダンジョンを3つも破壊したんですよ」


 俺の足に隠れていたもう1人、白兎のアリスも顔を出す。

 岩かと思っていた魔物には、顔と手足があり、人型の体を持っていることがわかった。


「なんだって? じゃあ、ドラゴンたちの言っていた、魔法士ってことかい? 昔、ダンジョンを1つ壊した魔法士も、2つ目のダンジョンに入ってから行方不明だって聞いたぜ」


 俺は、目の前の屋台にいる魔物を、仮に岩男と呼ぶことにした。


「その二つ目のダンジョンを壊すのに、千年かかった。最近、3つ目のダンジョンを壊したところだよ」


 俺が言うと、岩男は俺に顔を近づけて、じっと見つめた。


「じゃあ……昔の人間は、こんな姿だったのかい? どうして変わっちまったんだろう」

「銀色の服を脱がせば……いや、確かに人間は変わったらしい。1000年の間に何があったのか、俺にもわからない。俺は、ずっとダンジョンの中にいた」

「それもそうか」


 岩男が納得したところで、俺は逆に尋ねた。


「それより、あんたはここで何をしているんだ? 魔物たちが店をやるとは思えない。俺たちは、ドラゴンに勧められて温泉に入りにきたんだ」

「店をやっているんだ。温泉には、こういうものが必要らしい。金を払えば、温泉まんじゅうをやるよ」

「……金を儲けて、どうするんだ?」


 俺が尋ねると、岩男は顎にあたる部分をいかつい指で掻いた。


「知らん。金を集めたいわけじゃない。魔法士を気分良くさせて、次のダンジョンに送り込むのに必要らしい。あっ……あんたも魔法士だったな。変な姿だから、忘れていた。ちょっと、みんなに知らせてくる。饅頭は要るかい?」

「これでいいか?」


 俺は金を持っていなかった。俺が困っていると、俺の足に隠れていた最後の1人、エルフのシルフが顔を出して小石を渡した。


「はいよ。確かに。じゃあ、饅頭だ」


 岩男はシルフから小石を受け取ると、屋台の中に置いて、丸い何かが並んだ木箱をシルフに渡し、屋台から出て駆け出していった。


「……なんだ? これ……」


 シルフが饅頭だと言って渡された、丸いものを持ち上げる。

 半透明の茶色で、水分が多いらしくぷるぷると震えている。


「饅頭だというなら、食べ物だろう。でもシルフ、どうして石を渡したんだ?」

「あたしは石だと言って渡したわけじゃない。金って言われても何だかわからないから、これでいいかって尋ねて、饅頭をくれたんだか。だから、いいんじゃないか?」


「それはそうだが……ウー、二つ目のダンジョンを攻略する前、つまり1000年前だが、この世界に温泉とか屋台とか、温泉饅頭ってあったのか?」

「いえ、知りません。温泉なんて初めて聞きましたし、魔物が商売をするなんて、聞いたこともありません。たぶん、ドラゴン様たちに言われたんでしょう。魔物が意味のわからないことをしているときは、大概そうです」


 俺は、比較的広くなった洞窟の中を見渡した。

 屋台は一つではない。岩男が走っていった方角には、さまざまな店がまるで温泉街のように並んでいる。

 店舗というより、全て屋台風なのが気になるが、何の店なのか看板でわかるようになっていた。

食べ物屋から宿泊所、マッサージの店までが、屋台の形をしている。つまり店に壁がないのだ。


「この1000年間で、ダンジョンは俺が破壊した分しか壊されていないが、ドラゴンと交流した人間もいたんだろう。そいつらがどうなったのかはわからないが、俺の世界からきた人間なんだ、俺と同じ知識を持っているのは当然だ。人間は、温泉に入ると疲れが取れるし、温泉に行くのは湯に入るためだけではなく、さまざまな店で楽しむことが必要だと……教えたんだろうなあ?」

「ソウジ、どうして疑問系なんです?」


 不思議な茶色い物質を捏ね回しているシルフは置いておき、ウーが尋ねた。


「ドラゴンと交流した人間が、温泉街をまじめに作りたかったわけじゃないんだろうって思っただけだ。その人間から話を聞いて、ドラゴンが作ったのがここなんだろう。だから……店という名の、それっぽい建物と看板を用意して、魔物たちが要もない金をもらうことにしてあるんだ」

「ソウジ、あの店、私の看板がでています」


 アリスが、屋台の一つを前足で指した。

 アリスは何も間違っていない。


「焼肉屋だ。ウサギの肉を焼いて食べさせているんだろう」

「ひっ」


 アリスが飛び上がる。俺が抱き上げると、アリスは震えて俺に体を擦り寄せた。

 怯える毛玉を抱きながら、俺はシルフが小石と変えた饅頭と呼ばれるものは、食べ物のはずだとシルフに教えた。

 シルフが首を傾げながら食べようとすると、シルフの小さな手から滑り落ちた。

 俺が拾い上げて汚れを落とそうとすると、茶色い物質に小さな目のようなものが出来た。


「ウー、これ、食べ物か?」

「スライムですね。それは、石や泥を食べるタイプなので、ここの床を平らにするのに利用したんじゃないですか? 食べても平気だと思いますけど、次の日に生きたままお尻から出てきます。生物の老廃物を食べるタイプでないと、食べても意味はありませんよ」

「つまり、魔物か?」


 ウーの言葉を俺は要約して尋ねた。害はなさそうだが、魔物を生きたまま食べるのは遠慮したい。


「魔物です」


 ウーはこっくりと頷いた。


「シルフ、捨てろ。魔物の詰め合わせだ」


 俺が言うと、シルフは首を振った。


「勝手に逃げたぞ」


 シルフは、饅頭が入っていた木箱を見せた。

 わらわらと逃げていく、茶色い塊を見ることができた。


「温泉はとにかく、食べるものには気をつけたほうがいいだろうな」


 俺は、立ち並ぶ屋台を避けるように移動した。

 途中でアリスを怯えさせた、兎の看板の前を通り過ぎる。

 壁のない柱だけの店舗の中で、ウサギのような長い耳と丸い尻尾をつけた、人間の子どもぐらいの大きさのトカゲが、2体で餅つきらしい動きをしていた。


「ソウジ、ウサギの肉を出す店じゃないみたいですよ」


 俺に抱えられたまま、アリスが首を伸ばす。


「そうだな。ああいう種類の魔物かな? おい、あんたたち、何をしているんだ?」


 俺が屋台のトカゲたちに声をかけると、餅をつくような動きをしていたトカゲが動きを止めた。


「捉えた勇者の処理だよ」

「えっ?」


 俺は、臼の形に削り出された岩の中に、何か赤いものがあるのを見た。

 赤い色だけで、形はわからない。

 二体のトカゲが、杵で突き続けていた。


「その耳は生まれつきかい?」

「いや。ドラゴンの指示さ」


 言うと、トカゲの一体がウサギの耳を外した。

 つけ耳のようだ。


「どうして、そんな耳を付けているんだ?」


 二体のトカゲが見交わし、一体が答える。


「千年前にダンジョンを破壊した魔法士が、最初に仲間にした魔物に、こういう耳が生えていたんだってさ。きっと、どんな遠くにいる敵も把握して殺す、凄い奴だったんだろうな」

「魔物たちの憧れの的だし、ドラゴンたちが見習えって言っていたからな」

「うわっ……あの赤いの、血じゃないですか?」


 全ての魔物たちの憧れの存在が、俺の腕の中で震えている。


「あんた、見ない魔物だな。最近作られたのか?」


 再びウサギの耳を乗せたトカゲに尋ねられた。

 この時代の人間たちの外見は、俺とは違ってしまっていた。

 そのため、俺を見てもこの時代の魔物たちは、人間とは思わないらしい。

 ハンヘドは、アリスたちから事前に聞いていたのだろう。


「遠くから来たんだ。温泉に入ろうと思ってね。どっちに行けばいい?」

「そうか。なら、あっちの壁の奥だ」


 トカゲが教えてくれた方向には、滑らかで白く綺麗な真っ平の壁があった。


「屋台を見ていると、逆に疲れそうだ。温泉に行こう」

「そうですね。私は別に疲れませんけど」


 ウーが言いながら、俺の前を歩いた。

 俺はトカゲたちに礼を言ってウーの後を歩く。

 シルフは俺と手を繋いで横に、アリスは俺の腕の中にいる。


「壁の奥って、どうやって行くんだ?」

「入り口がありますね」


 ウーが蹄で示した先には、扉のような形の穴が、壁と地面の間に口を開けていた。


挿絵(By みてみん)

※洞窟内の温泉街のイメージです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >千年前にダンジョンを破壊した魔法士が、最初に仲間にした魔物に、こういう耳が生えていたんだってさ。 その魔物って、こういうヤツだったのかね?とアリスを見せたら驚くのか、いやいや違うだろ、と…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ