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異世界には村もなかった  作者: 西玉
第3章 1000年後

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107 家畜化された人間たち

 この世界にどれほどの文明がかつてあったにしても、現在は完全に廃れてしまった。

 そのことを、俺は痛感することになった。

 食事は干し肉と乾燥させた果物だった。人間が調達することはできず、人間を飼っている地上の城の主人たちに、餌として分け与えられるらしい。


 食事の後、一緒に戦い、俺のことを仲間として受け入れてくれた男に案内され、俺は地下に蟻の巣のように広がる人間の居住空間を見て回った。

 俺のせいで見張りだったクルナスが死んだし、大勢の人間が失われた。

 俺もそれはわかっていたが、今さら言い出すことはできなかった。


 生活に必要なものが、幾つもの空間に収納されていた。

 俺は、深い場所で元気に遊ぶ子どもたちに会った。

 子どもたちは、知らない大人である俺を不思議そうに眺めていた。

 俺は、さらに奥に連れられた。

 最も奥深い場所の空間は、さらに無数の部屋に区切られていた。


「ここはなんだい?」

「繁殖場さ」


 俺に背を向けたまま、俺を連れてきた男が言った。


「繁殖場ってつまり……人間を増やすのか?」

「もちろんだ。妊娠していない、子どもを産める女は、全てここにいる。よりどりみどりだ。クルナスはここにはいなかった。クルナスはいい戦士だったし、妊娠していた。父親は、多分俺だと思う」


 男が振り向いた。

 涙が頬を伝い落ちていた。


「それは……残念だったな」

「お前が殺したんだ」

「俺に復讐するために、連れてきたのか?」


 俺は尋ねながら、左手に魔法の石板を取り出していた。

 右手には、渡されたままの剣がある。


「そうしたいが、俺も監視されている。お前がクルナスを殺したのは、ジャミロフ執事長が教えてくれた。同時に……お前をここに案内せよとの仰せだった」

「……俺を? 何のために?」


「決まっている。人間は、血が近い者どうしで子どもを作り続けると、健康な子どもが生まれにくくなる。定期的に外部の人間を連れてくる習慣があったが、ここ数十年、外部の人間というものは発見されていなかった。お前は、ここにいる女たち全員と子どもを成す必要がある。この繁殖場が空になるまで、精液を搾り取れとの仰せなのだ。俺がお前を殺すのはその後だ」


 大量の吸血鬼たちを一瞬で滅ぼしたジャミロフ執事長は、俺に気づいていたのだ。

 俺が外部から侵入し、そのために城の外から吸血鬼の侵入を許すことになったと知っているのだ。

 俺を殺さなかったのは、より効果的な使い方を思いついていたからだろう。


「俺には……心に誓った女性がいる」

「俺の心に誓った女性は、お前が殺した」


 俺が抵抗を試みると、あっさりと言い返された。

 クルナスは美人で、凶暴で、魅力的だった。


「……わかった」


 ヒナのことは大切だが、ヒナ自身も千年前の世界で俺を女たちに売り渡したことがある。

 しばらく、命の保障はしてくれるということだ。

 俺は観念した。


 個室の数は20もあるだろうか。

 俺は剣を捨てた。

 近くの個室に入ると、骨と皮ばかりの痩せほそった少女が、怯えた目を俺に向けた。


 ※


 10日が経過した。

 すでに地下施設の女たち全員を孕ませていた。

 生命魔法の力である。

 千年前の異世界でも経験があるが、その時よりもレベルが上がっている。


 自分の体力を犠牲にして精力を回復させることもできるし、妊娠しやすい時期かどうかも判別できる。

 女の中に入った精を、誘導して確実に卵に定着させることもできるのだ。

 ただし、それができると知っているのは俺だけで、相手をしている女たちが妊娠した実感を得るまでは、外に出してもらえないだろう。


 それに、全員が妊娠したと判断されたら、俺は多分大勢の人間を死なせた罪で殺される。

 女たち自身が気づかなかったとしても、姿を霧に変えることができるジャミロフ執事長が確認するかもしれない。

 俺は、何とかして自力で逃げ出さないといけないのだと焦り、魔法の石版をタップした。


 同化魔法を取得したのは偶然だった。

 壁の中に1000年間埋め込まれていたという経験がそれを可能にしたようだ。

 隠密活動が必要な場面で、これほど重宝する魔法もない。

 俺は、女たちを孕ませた後、同化魔法を使用して人間の生活空間をあらためて見て回ることにした。


 結果としてわかったのは、この世界に人間たちは、家畜のように生かされているということだ。

 初めからわかっていたことだ。何も不思議ではない。

 この城の支配者たちに血を啜られるため、他の吸血鬼に血を啜られないために、人間たちは鍛えている。


 吸血鬼たちも万能ではないから、自衛の手段として武器を与えられている。

 魔法らしいものも存在した。

 使っている人間もいた。

 だが、生活を便利にし、清潔を保つための魔法でしかなかった。


 時間を超えることができるような魔法は、少なくとも人間たちは持っていない。

 同時に、俺は吸血鬼たちが時間を超える方法を持っているとも思えなかった。

 餌となる人間たちが足りなければ、より多くの人間たちがいる時代から連れてくればいいはずだ。

 俺は、同化魔法を使い続けて人間の居住地から外に出た。


 それは、地上の城部分ということになる。

 城は長いこと、廃墟同然となっていたのではないかと俺は思っていた。

 だが、城としての形だけでなく機能も失われていない。

 地下では時間がわからなかった。


 俺は同化魔法を使用したまま新しい見張り役の兵士を素通りして地上に出ると、どうやら夜らしいことがわかった。

 城は無人だと思っていたが、どうやら昼の間だけだったらしい。

 俺が地上に出ると、まず目の前に腐った人間の死体がいた。


 モップで床を掃除しているが、腐った死体が歩いた後は腐った肉汁やこぼれた臓物で汚れており、何度も振り返っては掃除をやり直している。

 その通路を永遠に掃除し続けるのだろう。

 俺は、壁と同化しながら通路を抜けた。


 壁を拭き掃除していた骸骨に出会った。

 俺を壁の一部と認識している骸骨に、雑巾で顔を拭かれることになった。

 無数のクモやネズミを見かけた。ただ餌を求めているだけでなく、きちんと前足を洗い、食器を磨いているのを見た。


 吸血鬼には、ネズミやクモを従える能力を持つ者もいるのだろう。

 この城は、動く死体や害虫たちが維持しているのだ。

 城内は清潔ではあったが、使用されているわけではなかった。

 生活に必要なものは何もない。


 もっとも、吸血鬼にとって生活に必要なものが、人間ほど多いわけではないことはわかる。

 執事長ジャミロフが霧となる能力を持っていることがわかっている以上、城の中では油断できない。

 仲間の魔物たちを出すのも控えたほうがいいだろう。

 俺は、同化しながら城内を散策し、客間の中に立派な洋服ダンスがあるのを見つけた。


 この中なら、同化魔法を解いても簡単には見つからないと思った。

 洋服ダンスを開けると、干からびた人間の死体が倒れてきた。

 床に落ちる。

 動く気配はない。


 魔物化していないだけ、恵まれた死に際なのだろう。

 俺は洋服ダンスの中に入り、魔法の石板のページを捲るつもりだった。

 同化魔法にどれだけの効果時間があるか、俺は確認していない。

 確認する方法もなかったので、俺はいつでも同化魔法を使える状況にしておいたのだ。


 魔法を使い続けると疲れるので、どこかで休憩しなければならない。

 洋服ダンスの中身は、当然服があったはずだが、全て風化して下に落ちていた。

 洋服ダンスを閉めて魔法の石板を捲ると、俺が壊さなければならないオーブが表示された。

 場所が近い。


 この城の中にあるのは間違いない。

 位置からして、この城の主が持っていると考えるべきだろう。

 この世界で時間を超える方法を探すのは、無理だと諦めていた。

 ならば、この世界のオーブを壊して、別の異世界を目指すべきだ。


 オーブ自体は、それほど頑丈なものではない。

 床に落としたぐらいでは割れないが、拳銃で撃てば壊れるのは実証済みだ。

 俺は、オーブの位置を確認してから、魔法画面に戻そうとした。

 洋服ダンスの扉が開かれる。


 乾燥した死体は、やはり魔物化していたのだろうか。

 俺がそう思って視線を向けると、洋服ダンスを開けた姿勢で、見たことのある吸血鬼が立っていた。

 執事長ジャミロフと名乗っていた。


 どうやら、同化魔法の効果時間が切れていたらしい。

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