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異世界には村もなかった  作者: 西玉
第3章 1000年後

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101 王城への潜入2 ☆

 ウーとシルフを魔法の石板に収納し、俺は一人で吸血鬼の王の都を歩いた。

 昼間である。吸血鬼たちはほぼ寝ている。

 だが、寝ているからといって、出くわさないとは限らない。


 シルフが想像したように、吸血鬼を恐れない態度をとれることが護符の役割なのであれば、俺が堂々としている限り、吸血鬼たちは俺も護符を首筋に刺青されていると思い込むはずだ。

 魔法の石板を左手に、右手には拳銃を持ち、俺は無人の街を歩いた。


 魔法の石板を出しておくのは万が一のためであり、拳銃を持つのは、俺の精神の安定のためである。

 これまでの吸血鬼たちを見て、拳銃で殺せるとは思わない。

 だが、引き金を引けば鉛の弾が飛び出すという単純な仕掛けは、頼もしく思えた。


 街はほぼ無人だが、誰もいないということもない。

 壁の上に見張りがいたように、必要最低限の人間が配置されている。

 王都の奥にある王城が次第に近づいてきたところで、俺は門の前に武装した人間がいるのに気づいた。


「おい! 何をしている! 持ち場を離れるな!」


 俺の方が気づくのが早かったが、黙って歩いた俺を見咎めると、武装した人間はすぐに大声を張り上げた。

 俺を、仲間のうちの誰かと勘違いしているのだろう。

 拳銃を持っていたところで、これが武器だと思われるかどうかはわからない。


 俺は、あえて精神魔法も使用せず、黙ったまま近づいた。

 精神魔法を使用しなかったのは、この世界の人間が俺を見てどう反応するのか、確認したかったからだ。

 男の武器が届く範囲の手前で足をとめる。


「お前……見ない顔だな。新しく配属された奴がいるとは聞いていない。誰だ?」

「……確認するが、人間だな?」


 俺は、男の血色のいい肌を見ながら言った。血色のいい肌をした吸血鬼はありえない。俺はそう思っていた。


「当たり前だろう。こんな時間に、上の連中が用もなくぶらつくものか」


 人間から見て、吸血鬼たちは『上の連中』という呼び方になるようだ。


「配属されたわけじゃない。ちょっと抜け出したんだ」

「護符は?」

「ああ。あるさ」


 俺は、自分の首元を撫でた。男は頷いた。護符とは、首にある刺青ということで間違いなさそうだ。


「なら、この街の中なら安全だが、不用意に出歩かないことだ。いつ侵入者が入り込まないとも限らない。そいつらには、護符は効かないんだぞ」

「周りの壁には、見張りがいるはずだろう」


 俺は言った。実際にいたのだから間違いない。

 だが、男は首を振る。


「あんなもの、気休めだ。逆賊たちが本気になったら、見張りが警笛を鳴らす前に殺すなんて、簡単なことだ」

「壁の見張りはそんなに弱くないだろう?」

「ああ。あいつらは精鋭だが、上位の吸血鬼に人間が勝てるはずがない。勝負は一瞬だろう」


 この世界の吸血鬼には、上位と下位がいるらしい。

 俺は詳しく知りたくなったが、目の前の男がそれほど詳しい情報を持っているとも限らない。

 まずは、重要な情報を得た。

 突然知らない人間が現れても、仲間であることを疑わない程度には、この世界には人間が残っている。さらに言えば、王都に飼われている人間以外には、人間はほぼ残っていないと考えられている。


「わかった。気をつける。俺は戻る」

「ああ。勝手に外出する奴なんて、いるとは思わなかった」

「……で、どうやって戻るんだったかな」

「お前、今までよく生きてきたな」


 男が眉を寄せる間に、俺は精神魔法をタップした。


「吸血鬼は、昼間も俺たちを見張っているのか?」

「わからない。昼間に見ることはないな」


 すでに精神魔法の支配下にある男だ。本音で話しても、俺のことを疑うことはない。


「なら、心配することはないだろう。昼間は寝ているんだ」

「あの方々は寝ているかもしれないが、眷属が起きているぞ。ドブネズミに密告されるかもしれない。さぼらない方がいい」


『あの方々』というのは、吸血鬼に違いない。この街を支配し、周囲から王だと認められている以上、かなり力が強いのだろう。

 何より、俺が壊さなければならないオーブを持っている可能性が高い。

 どんな力を持っているのかわからないが、動物を眷属として使役できると考えられているのだろう。


「ああ。人間のみんなは、どこにいるんだ? 本当は、俺はまだ出られないんだ」

「そうか。なら、早く戻った方がいい」

「うん。どうやって行くんだ?」


 俺は、何度か同じやりとりを繰り返した。

 精神魔法が効いているので、嘘をつかれるはずがない。

 それなのに、男はなぜか誤魔化すかのように、本題に入らない。


「夜は、どこで寝るんだ? 全員、同じ場所なんだろう?」

「もちろんだ。夜寝るのは城の中だ」

「そこに、みんないるんだな?」

「あ、ああ」

「案内はしてくれないのか?」


「俺はここを離れられない」

「わかった。でも、夜になれば行くんだろう?」

「ああ」

「わかった」


 俺は、男にかけた精神魔法を解くと同時に、同化魔法で壁に同化した。

 実際に壁にめり込むのではなく、壁と同化したように周囲からみつからないだけだというのは、検証済みだ。

 精神魔法が解けたことにより、男が動揺して襲いかかってこないようにという配慮である。


 俺が想像した通り、精神魔法が切れた男は、慌てて周囲を見回した。

 自分の頬を叩き、武器を持って警戒した。

 しばらくして、諦めたように武器を納めた。

 俺は、同化魔法を使用したまま移動した。


 門番の男をかわし、城の中に移動する。

 城の中は、まさに廃墟そのものだった。

 手入れがされているようには見えない。

 いまにも崩れそうな危険な建造物が、十数メートルの威容を誇っている。


 門から城までは庭園があるが、庭木だったものは低木ではなく、森と化しつつあった。

 俺は、木の幹に背を預けて同化魔法を解いた。

 それなりに長時間続けられるが、夜まで魔法を使い続けることはできない。

 俺は、下手に動き回るよりは、男が夜に帰る場所についていくことにした。


 太陽が傾く。

 男は外に向かって手を振った。

 手を振り返しながら歩いて来たのは、俺が気絶させて休憩室に残して来た、壁の上の見張りだった。


「今日も無事だったか?」

「いや……記憶がないが、壁の下で目を覚ました。無事だとは言えないかもしれない」

「でも、生きている。それで十分だろう」

「ああ、そうだな」


 俺の犠牲者二人が、この世界の実情をしみじみと語りながら、城の内部に向かって歩き出す。


 俺は再び同化魔法を使用し、城の中に入っていく男たちを追った。


挿絵(By みてみん)

※城内部のイメージです

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