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異世界には村もなかった  作者: 西玉
第3章 1000年後

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98 城への旅路 ☆

 日光が地面を照らし、吸血鬼ドランが顔を苦痛に歪める。

 だが、俺が想像したほど劇的な効果はなかった。

 眩しそうに目を細め、唯一残った左手で光から逃れようとしているが、焼かれて体が崩れるということはなさそうだ。


 わかっていたことだ。

 昨日の昼間に出会った、棺の中の女吸血鬼ニキヤもそうだった。

 この世界では、日光は吸血鬼の致命的な弱点ではないのだ。

 俺は、ドランに魔法の石版を押し付けた。

 怪訝そうに振り返られる。


「ウー、ダンジョンの魔物も、収納できるはずだよな? 以前のダンジョンでは収納できたんだ」

「ええ。そうですね」


 ウーが頷く。俺は、二つ目のダンジョンでリザードマンのアンデッドを収納して持ち歩いたはずだ。

 それとも、あれは死体を物として収納して、呼び出して使役しただけだろうか。


「どうして、こいつは収納できないんだ?」

「服従していないからじゃないですか? ソウジは魔法で従えているかもしれませんが、ソウジに従いたいと言ったわけではないでしょう」

「……そうだな」


 俺は、結局死霊魔法をタップした。


「喉が渇いただろう」

「ああ。お前、いい匂いがするな」


 ドランが地面の上でもがく。


「王都に行けば癒される。その傷も直せる」

「ああ。もちろんだ」

「連れて行ってやる」

「……頼む」


 吸血鬼ドランはがたがたと震えながら、俺の命令に応じた。

 俺の死霊魔法に抵抗しようとしているのかもしれない。


「自分では歩けないだろう。運んでやる」

「そうか。悪いな」

「少し、運びやすくするぞ」

「ああ」


 俺は、死霊魔法から生命魔法に切り替えて、ドランの残った腕をむしりとった。

 痛みはないのだろう。

 自分の腕を引きちぎられたというのに、ドランは散髪でもしているかのように、千切られた腕を見つめていた。

 俺が地面に捨てると、陽に照らされた吸血鬼の腕がぼろぼろと崩れ去った。


「シルフ、蔦のタネがあるかい?」

「ほい」


 シルフが投げた種を受け取り、俺は生命魔法を使用して蔓を伸ばした。

 ドランを縛り上げる。

 吸血鬼一匹を荷物として、俺はこの世界で旅を始めることになった。


 ※


 移動は昼間だ。

 ハンヘドを呼び出し、全員で背中に乗って移動した。

 暗くなる前に人里と思われる場所から離れ、巨大な樹木の上や洞窟を見つけて夜をやり過ごした。

 夜の間中、俺は死霊魔法をドランに使い続けることになったため、昼間は寝ていた。


 ハンヘドの背中の上で、どうやらウーが接着魔法で落ちないようにしてくれていたらしい。

 この世界は、吸血鬼が支配した世界だ。

 昼間は支配者である吸血鬼がいないことで、草木と野生生物が旺盛に暮らしていた。

 吸血鬼はどんな生物の血も飲むが、人間以外の血は、すするために苦労して捉えるほど好きではないようだ。


 途中まで、俺はドランに道案内をさせていた。

 だが、数日進むうちに気がついた。

 俺が行こうとしている人間が飼われている場所は王都であると同時に、オーブがある場所らしい。

 オーブのある場所を表示すると、順調に近づいていることがはっきりしたのだ。


 ※


 このダンジョンに入ってから10日が経過した。

 俺は、ダンジョンを脱出するために破壊する必要があるオーブの位置を特定していた。間違いなくその中にあるという街を目にしていたのだ。

 城塞都市とでもいうのだろうか。


 いかつい壁に囲まれた街があるのがわかった。

 壁の高さは十メールを超えている。

 石積みで固められたしっかりした壁で、ぐるりと囲まれた内側を見通すことはできない。


 その状況で、俺が街だと断定できたのは、連れていた吸血鬼であるドランが断言していたからである。

 俺は死霊魔法を使い続けることが面倒になり、最後にはドランの両手足を綺麗に根本からもぎ取った上、猿轡をはめて危険性を極力排除して、荷物として扱った。


 もう一つの理由は、十メートルもの高さを持つ壁の向こうに、壁よりもさらに巨大な建造物が立ち並んでいるのが見えたからだ。

 しかも、俺が驚いたことに、街壁の上で歩いている人影を見つけた。


 昼間である。

 吸血鬼であっても、出歩けないことはない。

 だが、俺が見たのは、明らかに人間だった。

 生命魔法で視力を強化して凝視したから、間違いはないはずだ。

 人間が全て死に絶えたわけではないことはわかっていた。


 だが、街にとって重要な施設のはずの壁の上を歩いている。

 人間は、家畜のように飼われているだけだと思っていた俺には、驚きだった。

 俺は、街から俺を発見される前に、恐竜のハンヘドから降りた。


 街の周囲は見晴らしのいい平原となっているが、やや離れた場所に森がある。

 俺は、警戒されないように森の中でハンヘドを降り、巨大な恐竜を魔法の石版に収納した。


「ハンヘドで乗りつければ楽じゃないですか」

「この世界に乗用の恐竜がいるとわからない限り、目立ちすぎる。それに、ウー、あの街を大きくして見ることはできるか?」


 ハンヘドを収納したため、一緒にのっていたウーとシルフ、アリスも降りる。

 森の中である。アリスは早速草をむしり、シルフは木の根元をほじくり返していた。


「街を大きく……つまり、望遠魔法ですか?」

「そう言うのか? できるか?」

「できますとも。望遠魔法という名前は、今つけたんですけどね」


 ウーの魔法は、持っている杖と接していなければいけないという厄介なルールがある以外は、万能に近い。

 決まった魔法の法則ではなく、できるとイメージしたものはなんでもできるのではないかと、俺は感じている。


「何か動いていますね」


 杖についている水晶を自分の目に押し付けながら、ウーが言った。


「俺には、人間に見える」

「それは怖いですね」

「吸血鬼より怖くないだろう?」

「そうですか? 血を吸われるより、丸焼きにされる方がましですか?」

「……いや。俺が悪かった」


 ウー自身が魔物なので、吸血鬼より人間の方が怖いらしい。


「人間かどうかわかるか?」

「見た目で判断できるほど、私は人間のことに詳しくありません。ソウジが背負っているそれも、私には人間に見えます」

「人間なら、もう死んでいるだろうけどな」


 シルフが、ほじくり出したミミズをすすりながら言った。

 俺は、背負っていた荷物そのものの吸血鬼ドランを下ろした。


「ぐっ、ううっ……」


 昼間なので眠っているが、光が当たっているので苦しそうだ。

 無理やり起こせば目覚めるだろう。

 だが、昼間に無理に起こすと、まともに会話ができる状況ではないことも俺は知っている。

 何度か試したのだ。


 昼間は、夜以上に知性が低くなり、うめき声をあげてのたうちまわり続けるのだ。

 両手足を引きちぎられて痛くないという特殊な生態ではあっても、千切られたままでは肉体にも精神にも影響が出ているのかもしれない。


「人間がいるからといって、油断して軽い気持ちで行くことは危険だろう。情報収集して、明日行ってみよう。シルフ、アリス、夜に身を隠せそうな場所を探してくれ」

「ここはどうです?」


 アリスは、大きな木の根元に口を開けた穴の前の地面を、後ろ足で叩いた。


「うさぎの穴じゃ小さすぎる」

「土熊の巣だな。古いものだから、もう住んでいないよ。入ってから入り口を崩せば、一晩ぐらいは隠れられる」


 シルフがいうのなら間違いないだろう。俺は、吸血鬼たちの王都に向かう前に、一晩の野宿を決めた。


挿絵(By みてみん)

※少しほっこりする感じのイラストを入れてみました。『こいつ誰?』ってのもいますが、お気になさらずに。

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