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異世界には村もなかった  作者: 西玉
第3章 1000年後

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97 吸血鬼の城を目指して

 俺が死霊魔法を、体の半分を失った吸血鬼に対して使用すると、ケダモノのように唸っていた吸血鬼の表情が消えた。

 何が起きたかわからないようだ。


「……あんたは?」


 体の半分を失っても痛みはないのだろう。床に転がったまま俺に尋ねてきた。

 声は極めて平静だ。


「仲間だ」


 俺は、昼間に地上で会ったニキヤのことを思い出した。

 ひょっとして、主人だと名乗っても信じられるかもしれないが、抵抗された時のことを考えて、昼間成功した方法をとることにした。


「……そうか? ああ……そうなんだろうな。そんな気がする。俺は、どうしてこんな姿になっているんだ?」

「爆発があったようだ。原因はわからないが」

「爆発だって? 旧人類の残した兵器か? まだ、生き残っていたのか?」

「兵器かどうかはわからないが……旧人類が生き残っていたとして、どうする?」


 吸血鬼が言う『旧人類』という存在が何なのかはわからなかった。

 ただ、俺と同じような当たり前の人間だろうと推測して話を進めた。


「決まっている。生き血を貰うさ。旧人類にそれ以外の価値があるか?」


 吸血鬼は、舌なめずりをした。


「そんな姿で、生き血を啜ってどうする?」

「新鮮な生き血をすすれば回復する。これぐらいはな」


 吸血鬼は、自分の体を見回しながら言った。

 これぐらい、という程度が、人間であれば致命傷、生命力の強いケダモノですら九割は死ぬほどだ。生き残るのは、ミミズかプラナリアぐらいのものだろうという怪我なのだ。


 俺が、かつて行った異世界は、動く死体であふれていた。

 だが、動いて本能的に襲いかかってくるだけで、理性的に考えることはできなかった。

 あの世界の人間たちの文明がどうなっていたのかは、もうわからない。

 俺が生き延びるには、オーブを破壊して元の異世界に帰るしかなかったのだ。


「旧人類がどこにもいなければ、回復できないか?」

「そうだな。少しばかり不便だが、腕が一本残っている。王都に行けば、牧場の獲物を分けてもらえるだろう。順番待ちだが、怪我の程度がひどければ、優先してもらえる」


 俺にとっては、非常に重要なことを吸血鬼は語った。

 人間が生きている場所がある。

 吸血鬼たちの王がいる。

 吸血鬼の王は、牧場と呼ばれる場所で、人間たちを飼育して、生き血を生産しているのだ。


「王都か。行ったことがないな」

「それはちょうどいい。俺は王の使用人だった。牧場の獲物を盗んで解雇されたが……気持ちはわかるだろう? 牧場の管理なんて、つまみ食いをしなければ地獄そのものだ。案内してやる。連れて行ってくれ」

「ああ。そうだな」


 吸血鬼は、ドランと名乗った。

 唯一失われていなかった左腕を伸ばしてきた。

 俺は、ドランの左腕を握りながら、扉に視線を向けた。

 ハンヘドが大きな頭部を押し付けて抑えているが、扉が歪みそうだ。

 外側から、非常に強い力で押されているのだ。


「なんだ? あれは?」


 恐竜であるハンヘドを背後から見て、吸血鬼ドランが驚愕した。


「心配ない。この辺りには、よくいる奴だ」


 俺はでまかせを言った。この辺りのことなど、そもそも俺は知らない。


「そ、そうなのか。田舎の村だと思っていたが、危険な場所なんだな?」

「そうでもない」


 俺は、ドランを担ぎ上げる。


「ドラン、この辺りに、吸血鬼はどのぐらいいる?」

「あんたもそうなんだろう。変わったことを聞くな。小さな村だから、20人ぐらいじゃないか?」

「そうか。じゃあ、俺を王都に案内してくれるんだろう。頼むぞ」

「わかった」


 俺は、ドランに再び死霊魔法を使用した。

 ドランの意識を失わせようと使用する。

 うまくいったようだ。

 吸血鬼のドランは、ぐったりとして動かなくなった。

 俺は、扉を抑えていたハンヘドに尋ねた。


「俺とこの荷物を背中に乗せて、外に出られるか? 外にいる連中、牙があるらしいが」

「外にいるのがティラノサウルスでなければ、問題ない」


 ハンヘドの返事を頼もしく感じ、俺はごつごつした背中に張り付いた。

 ハンヘドが扉を離す。

 俺の血の匂いに群がってきた吸血鬼たちが地下室になだれ込む。


「ハンヘド、行け!」

「わかった」


 小さな扉を潜るため、恐竜が屈んだ。

 踏み出した脚に、女吸血鬼がプチッと潰れた。

 俺は、潰れたのがニキヤだと見て取ったが、すでに昼間話した時とは別人だった。凶暴に血を求め、醜い牙を剝きだしにしていた。


 ハンヘドが走り出す。

 長い階段をいくつも飛ばし、俺は身体中に瓦礫の破片を受けながら、地下室から飛び出した。


 ※


 飛び出した地上は、水瓶が並んだ元厨房だ。

 ハンヘドは水瓶を踏み潰し、吸血鬼たちに囲まれた。


「あっちに扉がある」

「わかった」


 俺の指示に、ハンヘドは応じた。

 だが、俺は自分が言ったことが、全く意味がなかったことを思い知ることになった。

 ハンヘドは、俺が教えた扉の方向に突進し、扉の横の壁に頭から激突、壁を破壊して外に出たのだ。

 吸血鬼たちがわらわらと取り囲む。

 何人かが、ハンヘドの足や尻尾に噛み付いた。


「噛まれているぞ!」

「そうかい? 感じなかったな」


 ハンヘドが尻尾を振ると、吸血鬼が3人飛んでいった。

 吸血鬼の牙では、恐竜の皮膚を貫けないのだ。


「ハンヘド、森の中へ」

「わかった」


 俺を仲間だと思い込ませた吸血鬼のドランは、意識を失ったまま俺が抱えている。

 人間がいるという王都に向かいたいが、方向がわからない。

 夜が明ければ、吸血鬼は追ってこないはずだ。

 襲いかかって来る吸血鬼を振り払いながら、俺とハンヘドは森の中深くに逃げ込んだ。


 ※


 森の奥の大きな岩にできた洞窟に、俺は潜り込んだ。

 ハンヘドを魔法の石板に戻し、俺はウーとアリス、シルフを呼び出した。


「ここはどこです?」

「ダンジョンを攻略したのか?」

「美味しくなさそうな草の匂いがしますね」


 3人がそれぞれに感想を漏らした。

 俺は、途中で拾ってきた木の枝を集め、別の異世界で拾ったライターで火をつけた。


「俺は科学技術が発達した異世界を希望したんだが、ドラゴンのキリシアンは、人間が化け物に変化した異世界に送り込んだらしい」

「仕方ありませんよ。ドラゴン様たちも、ダンジョンの中まではわからないはずです」


 ウーはドラゴンに心酔している。俺が渡した携帯食料を嬉しそうに頬張った。

 これも、最初のダンジョンで見つけたものだ。

 携帯食料を喜んでくれるのは、ウーだけだ。

 アリスは勝手に草をむしって食べているし、シルフは地中から虫をほじくり出して口に運んでいる。


「そうだな。だが、人間が食料として飼われている場所があるらしい。人間なら、吸血鬼に対抗する方法を研究しているはずだ。人間に会いに行こうと思う」

「吸血鬼って何ですか?」

「ソウジ、これはなんですか?」


 ウーの問いと同時に、アリスが気絶している吸血鬼ドランを蹴飛ばした。

 アリスの足では大した衝撃ではなかったはずだが、時間が経過して、効果が弱まっていたのだろう。

 ドランの目が開いた。


「あれが吸血鬼だ」

「キャ! ソウジ、助けて!」


 ドランが唯一残った腕でアリスを掴み、大きく口を開けて牙を露出させた。


「ウー、太陽の光を出せるか?」

「はい」


 ウーが杖を光らせる。いつもの照明代りの明かりではない。

 太陽の光を再現した強力な光に、ドランが苦痛に顔を歪ませ、アリスを手放す。

 その間に、俺は死霊魔法をタップした。


「眠れ」


 ドランの目が、再び閉ざされる。咄嗟に使用したが、上手く機能したようだ。


「シルフ、夜明けまでどのぐらいだ?」

「3分ぐらいかな」


 シルフが、手のひらにミミズを乗せながら言った。


 俺が外に視線を向けると、夜明け近くの柔らかい光が降り注いでいた。

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