家を造ろう 2
あっけないほど簡単に完成した、私の夢のマイホーム予定地。
そこが、人間が快適に暮らす空間として問題ないのか、まず空気や水、気温等々を解析する。
確か地球の空気の成分は、大雑把に窒素8割、酸素2割良く知らないアルゴン?とかヘリウム、二酸化炭素、その他良く覚えてない何かが極微量・・・だった?
成分を表示するのも良いけれど、それがごく普通の人間の住環境として、安全であるとか快適だとかを、わかりやすいように解析表示してもらえると有難いのだけれど。などとうんうん唸っている間に解析が終わって結果が表示された。
亜空間『夢のマイホーム』解析結果
総合評価:まさにこの世の楽園!
住環境:特級{SSS++}
季節:初夏{随時変更可能}気温21℃ 湿度48%
大気:清浄{汚染なし}
水:飲用可能{汚染なし}
光源:この世界の天然光源と同一
重力:15G{この世界を基準値1Gとする、地球と同一、随時変更可能}
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所有者:?{一條百合/現在所有者のみが入出可能}
なんてわかりやすい解析結果、ご都合主義満載の能力に思わず失笑しちゃったけれど、さあこれでいよいよ『家を造ろう』に進める。
大樹を見上げて改めて感謝を捧げる。
偶然か必然かわからないけれど、この場で目を覚まさなかったら、こんなにも安全に順調にことは成らなかったと思うから。
この場所を、私のマイホームからの入出ポイントとしてマップにマークしておけば、出入りの時の安全も担保されるし、何よりこの素敵な大樹に毎日でもお祈りしたいと思う。何ともいえない木の良い匂いがするんだもん。
入出時の簡単な呪文、例えば『チェック イン・チェック アウト』とかを創れば、出入りも簡単なんじゃないかな、と思う。うん、そうしよう。
マップを意識して世界樹をマークした・・・っていうか、聖域圏内を示す金色の表示範囲が最初に見た時より広くなっている!?
どう考えたら良いのかわからないけれど、世界樹の力が増して聖域が拡大したと考えるのが妥当なら、
世界樹は時間帯によって力の放出具合?か何かが異なる
もしくは、
世界樹の成長期にちょうど立ち会えた
とか、とにかくいろいろ何かしらの事情が想定できるよね。
そして、何よりどちらかというと良いことなのだろうから、問題解決の必要性がないだろうから、当然原因究明の必要もないはず。
と、何となく愚考しながら、本当にありがとう、またね、と心から感謝しご挨拶した。
さあ、いよいよだ。
お家を造ろう。
私の夢のマイホームに『チェック イン』
『チェック イン』私の専用亜空間、夢のマイホームへ念じるだけで転移する呪文。さっきちょこちょこっと創作済みで、転移の他に目視で確認できない小動物や虫、病原菌等々を一緒に持ち込まないように、フィルターと浄化を呪文に付与するイメージで創った。
そよそよと心地よい風、ここがこれから終の住みか。
野の草花の匂いは、さっきの聖域とはまた違う芳しい春の薫りで。目を転じれば、山頂に白く残雪をいただく美しい山並が遠く向こうに見えた。ここからは山並しか見えないので、家を造ったら後でお散歩がてらピクニックに行こう。
小鳥のさえずりが、どこからか聞こえてくるような気もするけれど、そんなはずないよね?だって、小鳥がもしいるのなら虫だっているかもしれない。いやいやいやいや、そんなことはこれぽっちも想像していないはずだし。
などと思っていると、目の前をひらひらと舞いながら横切っていく白い蝶・・・ん?まさかね?
目をパチパチと瞬かせながら、辺りを見回すとあちらでもこちらでも蝶々がひらひら舞い踊っている。モンシロチョウにモンキチョウ、アゲハチョウ、カラスアゲハもいる。それにあれっ!!青紫色のあれよ、あれっ!オオルリシジミじゃ?しかも何かいっぱいいるし、あっちのあれはオオムラサキ?
そしてウソー?ミイロタテハまでいるってどんだけー!?
・・・わぁ、綺麗。なんて呆けて見とれている場合じゃなーい。
美しい蝶々だって虫は虫、あんなに考えて外から虫は持ちこまないようにしたのに、既に中にいたんかーい。
最初の想定外があっさり露呈した。
ここには、木々や草花以外に他の生き物が既に存在している。いや、いるらしい。
この調子だと山や森、湖、川などの他の場所に何がいてもおかしくはない。食物連鎖や弱肉強食がこの小さな私専用の亜空間で成立しているのか、超疑問なんですけど。
思わぬところから伏兵が厄介な問題をひっさげ登場して、家造りがちょっと中断してしまったが、これは、畑や果樹に関わる大問題にもなる。
いくら考えても埒があかないので、今は家造りに集中して、今晩の安眠を確保するのが先決としぶしぶ自分を納得させた。
落ち着いて、深呼吸する。
気を取り直すのよ、自分。
深く瞑想するように呼吸を整え、まずは家。安心安全な生活確保が最優先よ。
と、その前に。家を建てるには、それなりの基礎や配管がないといけないよね。
生活排水やトイレの汚水の分解を一手に引き受ける強力な浄化槽も必要だし、さらに川に排水するための配管や、その出口にも念のため浄化フィルターを設置しないと。
次に、基礎。落盤や傾き防止のために、地盤全体を強化しながら同時に水捌けも良くする。それから家の間取りのように厚さ15cm、高さ42cmくらいに硬化させた地盤を盛り上げ、型抜くように家の土台となる基礎を固め、その上にアッシュピンクとピンクゴールド調のレンガを外壁として積むのだ。
内部構造は、2×4(ツーバイフォー)の壁パネルや柱で間取りを造った平屋だ。屋根は軽量化したボルドーカラーの陶器瓦の切妻屋根、玄関とテラスにも同じ屋根材で大きめの廂を造り、外壁のレンガや屋根瓦と、壁パネルや屋根パネルの間に断熱材をイメージした耐水、耐熱、耐火、除湿、防カビ、防虫、防音を付与した厚いフィルターの結界を挟んで圧着して固定する。
内壁は、香りの良い檜を腰壁に、厚手の壁紙を同様のイメージで貼りつけ、床と天井も壁材と同じ檜で仕上げた。
吹き抜けの玄関は、ブルーグレー調の天然石を敷き詰め、中心に向かって濃くなるように配色して青薔薇の花模様を描き、フラットな玄関ホールからは平屋のはずなのにゆるやかな階段がある。
廊下と階段を挟んで、LDKとトイレ、洗面と脱衣場を兼ねたランドリールーム、浴室があって、その奥に寝室。もう一部屋はトイレの隣、玄関ホール脇かな?
LDKも吹き抜けで、工房を兼ねた広いアイランド風のキッチンには、大きめの窓とカウンターテーブル、居間にはテーブルとソファだけではなく、冬のお炬燵用に畳敷きのこあがりも作りつけ、庭へと通じる大きな窓には廂が張り出し、屋根材と同じ色調の磁器タイルを楕円形に並べた広いテラスから、ゆるやかな段を降りると、芝草と淡いブルーグレーの敷石の庭へとつうじる。
玄関やLDK以外には天井を張る。屋根裏の広いスペースは、ロフト風にして床材は同じ檜を張る。屋根パネルはとりあえず剥き出しのままで、ロフトの採光のため二重サッシの天窓を二ヵ所大きめに開け、LDKからもロフトへの階段を作ろう。
水道はいろいろ考えた結果、給水や給湯にタンクを設置して、蛇口に直接つなぐことにする。ストレージ二個に、浄水と防水、保温、加熱、耐熱、現状回復を追加で付与し、水とお湯のタンクに設定する。
水源は、庭の外れの湧水の泉。そこからタンクに直接自動給水を常時行い、タンクと家の各蛇口を直結させれば、家の中に水道の配管がいらないので一石二鳥だ。
同じ泉から、庭の小さな池に流れこむ小川のせせらぎをひき、更に畑と果樹の向こうを流れる川と合流させてから、山並の手前の湖に流れこむ。因みに、泉の周りにはいろいろなベリーの繁みを、湖畔の方には桜並木が良いかな。
家全体や基礎、配管には強度増加と重量軽減、状態保持、浄化、自己再生機能を付与し、念のため家と庭や畑を囲むように私以外は入れないような結界をイメージする。
後は、魔力を固めて圧縮した魔石擬きが、電気の代わりのエネルギー源となるようにイメージして、照明器具やキッチンのコンロと換気扇、オーブン、冷蔵庫やミキサー、トイレの暖房便座やウォシュレット等々を作れば良いのかな?
ついでに、当面の食糧品と各種調味料、ヤカンやフライパン、鍋等々の調理道具やお箸に食器、石鹸にシャンプー、化粧品等々もボトル入りでセットでついてこないかなぁ、と都合の良いことを思いながらいよいよマイホームを念じた。