家を造ろう 1
地主さん(世界樹)のお許しを、なんとなくいただいたような気がするので、誠に勝手ながらステップを進めてしまおう。
と、いうことで。
まずは、家を造るために完全に安全な自分だけの土地を確保したい。
スキルの時空間制御か創造で、自分専用の亜空間を創って、家や畑ができたら良いなと漠然と想像する。もちろん、魔法の練習をしたいし、できるなら空も飛んでみたい。武術も、せめて自分の身は自分で守ることができる強さを持ってみたいから、鍛練のために某有名テーマパークくらいの空間が必用かもしれない。
常春で暑くも寒くもなく、春の野の花々が咲き、ベリーの繁みや綺麗な湧き水の泉、めだかの小川や金魚の池が家をとりまく。
白とアッシュピンクの小さな家は、2LDKくらいが良いかな。
陽当たりの良いLDKはちょっと広めに、寝室は女子の憧れ、大きめのベッドに白いレースの天蓋は外せない。トイレは狭い方が落ち着く派で、お風呂は大きめの猫足バスタブにジャグジーやシャワーも欲しい。
薬草からポーションも作ってみたいし、キッチンは工房を兼ねて・・・と、楽し過ぎて妄想が止まらない。
妄想といえば、愛読していたラノベや漫画の続きをどうにかして読みたい。分量を覚えているかわからないお菓子やパンのレシピ検索、調理器具や手芸用品、チョコレート、お茶や珈琲、お酒、チーズ等々のネットショッピングもしたい。
静まれ、煩悩。
いけない、いけない。気を取り直して。
まだできるかどうかもわからない、夢のようなマイホーム計画に、膨らむ一方の妄想を何とか止めて、大きな亜空間の前にまずストレージを創ってみようと思った。時間停止機能付きの無限収納、はい、それです。
大きなコンテナ倉庫を沢山並べて繋ぎ、全個室に時間停止と解析をデフォルトで付与、時間停止や温度管理、解体や浄化、洗浄等々を、各個室毎に管理画面でも設定できるようイメージしながら念じた途端、脳内ウィンドウにストレージ(無限収納)のタブが追加されていた。
とりあえず、大樹の下に散らばる金色の落ち葉を収納するよう想像すると、周辺の落ち葉が全てなくなり、画面に箱が1つ。
世界樹の落ち葉:288枚
アイテム名と収納量が表示されている。
次は、その箱から葉っぱを2枚、手のひらに取り出すイメージをすると、葉っぱが2枚手のひらに現れた。
世界樹の落ち葉:286枚
表示も反映されていて、よしっ!と思わずガッツポーズが出た。気を良くしながら、葉っぱを再び箱の中にしまう。
世界樹の落ち葉:288枚
検証とはいえない簡単な実験に、今後も検証の必要を感じながら、とりあえず順調にストレージを創造できたので、次のステップに進もう。
まずは、深呼吸で少しおちついて。
次は大本命、本番だ。
さあ、いよいよ夢のマイホーム、テーマパークサイズの大きな住空間を創ろう。
具体的なイメージを、これ以上ないくらいに練る。
時間経過がこの世界と同じで、昼夜のある空と大地に、自然の採光。
清浄な空気と水は言うに及ばず、野原や草原、森と泉、川、湖、山を周囲に配し、美しく豊かで温暖、初夏に近い常春の、人に優しい安心安全快適な自然環境を強くイメージする。
悪意ある外敵なんて、さすがにないとは思ったものの、不慮の天変地異や事故は何となくでも想定しておいた方が良いかなと漠然と思う。
空気や水の元となる元素を、循環浄化させながらも逃がさないようにするためと、何らかの異物や侵入者を防ぐために、物理的な衝撃や魔法にも耐性を持つ結界を何層か構築する。
結界に過剰な負荷を与えないように、亜空間内部と外側の圧力を緩和するため、緩衝材として空気の層を結界の層の間に挟みこもう。
念入りにイメージした、多層構造の結界の分厚い透明な球体が住空間を包み、さらに、中心が桃色の白いお花の蕾、睡蓮をイメージして、球体の結界ごと包みこんでいる感じ。だって、浪漫でしょ?
最後に重力はこの世界の10倍くらいにしようか、などと考えながら。家や環境の外観、レイアウトや重力は後でも変更できるように、脳内ウィンドウに管理画面を作るイメージをしてから、夢のマイホームの創造を念じた。
因みに外郭のお花の蕾には、高感度のアンテナのイメージも付与して、何とか地球のインターネット環境を受信だけでも再現したいと、それは強くこれでもかと何度もお祈りした。
でも、地球の大気圏内の電波を、どこかもわからない異世界の亜空間で受信できるとはさすがに思えない。それでもダメ元で、チャレンジしてしまったけど。
さすがに、夢のマイホームは凄まじかった。
念じた直後から、ふわふわした目眩におそわれて、さすがに立っていられず座りこみ、再び大樹にもたれかかる。バリバリの初心者が無謀なことしちゃった、とちらっと頭をよぎったけれど、やってしまったことはもう仕方ない。
何とかやり過ごそうと深く深呼吸しながら、頭を膝に抱えて静かにしていたが、ステータスがどうなっているのかどうにも気になり始める。多少ぼんやりしている意識をステータスに集中すると、魔力の欄が黄色く明滅している。
これってアラート!?だよねぇ。赤くなったらもしかしてピンチ?
暫く膝を抱えてじっとしていると、お風呂で逆上せてしまったような、ふわふわした眩暈はやっと治まってきた。
日本では、ちょっと前から少し体質が変わってきたのか、熱いお風呂に少し長湯したかなと思うと、すぐに逆上せちゃって。暫く動けないくらいの眩暈がおきたりしてたよね。更年期が近いアラフォーだからかな、とか悲しく思ったりしていたっけ。
そんなことをぼんやり思い出していると眩暈もほぼ治まり、でも直ぐに立ち上がったりはできなさそうなので、ステータスを確認する。
魔力欄は、黄色から黄緑色っぽく変わっていて、明滅も止まっていた。大量の魔力を一度に使ったからおかしくなったのかなぁ、と思う。さっきアラートが出ている時に、魔力を解析していればもしかしたら何かわかったかも、と今になってちょっと後悔した。
そして、更に家のマークのアイコンがついた新しいタブが、ステータスとマップの後ろにできていた。アイコンには夢のマイホームって書かれていて、思わずふいてしまった。
夢のマイホームの進捗状況をウキウキしながら見ると、画面中央に思ったとおりのお花の蕾のイメージとその下に
亜空間『夢のマイホーム』読み込み完了:構築中〈building 0.25%〉
と表示され、中の透明の球体の結界層、更にその中に大きな箱庭のような景色までが白い空間に浮かんでいた。
家予定地の周辺は、オオイヌノフグリやハコベ、蒲公英、スミレやレンゲ、撫子、シロツメクサやムラサキツメクサ等々の春を思わせる野原が広がっているだけだ。牧歌的だが、まだめだかの小川や金魚の池、ベリーの繁みに畑や果樹はない。家周りは場所を造ってからじっくりとだ。
漠然と桜の並木道やポプラ並木、楢や楓等々の落葉樹もイメージしてしまっていたけど、そうすると常春ではなくてやっぱり四季があった方が良いのかな?とも思う。
追加するなら今だよね・・・でも大丈夫?
不安はあったけれど、思いたったらやらずにはいられない私って・・・。まぁここは前向きに、アラートの確認もしたいから・・・ね?などと自分に言い訳しつつ。
ステータスをもう一度確認すると、魔力欄は青い表示になっていた。魔力総量が未だに謎だからはっきりとはわからないけれど、もしかして回復力も半端なくない?やっぱり私って超チート?なんて、何の根拠もなくお気楽に一人にやけながら、自分の知る四季を念入りに思い浮かべて追加を念じた。
特に何事もなかったけれど、ステータスを見ると魔力欄が青緑色っぽく表示されている。さっきのアラートは、黄色になったことか、もしくは急激に減ったことか、今は原因を特定できないけれど、良く考えればこの世界で気がついてまだ1時間もたってない気がするから焦る必要なんて全然ない。いろんなことを体験して経験値をためていくうちに、わかっていけば良いのだから。
そうこうしているうちに、私の夢のマイホームは〈building 96%〉まで順調に進んでいた。
あんまり深く考えていなかったけれど、出入口のポイント作った方が良いのかな?意識すれば入れそうだけど・・・。
熟考の結果、意識するだけで入出が可能ならあえて扉をつける必要は今のところない、という結論に当然達した。
入れないなら扉も必要だけど、もしかしたら他の生き物が一緒にそこから入ってしまう可能性だって絶対ないとは言いきれないのだ。例えば服に虫がくっついていたら?
・・・いーやーっ!!!
そういうのって意識的に入出できるとしても、もし服に虫がついていたら一緒に入って来るんじゃ?
・・・ていうか、そんなこと言い出したらウィルスとか細菌はどうなるの?
人間の体って、誰にでもいろいろな常在菌が皮膚や体内にもいるよね・・・。わかっていてあえてインフルエンザ・ウィルスや食中毒菌等々の良くない細菌や寄生虫だって持ち込みたくない。かといって見えないものをどうやって対応するの?それに、殺菌し過ぎも良くない。
悩みに悩んで、とりあえず意識的に入る時に虫とか病原菌を連れて行かないイメージを一緒にしよう、ということで落ち着いた。
もしかして、これって気休め?
そんなことを一人大騒ぎしている間に、いつの間にか私の夢のマイホーム予定地は無事完成していた。