【番外編】「神様がいなくなった日曜日」その14
【番外編】「神様がいなくなった日曜日」その14
■新らしい管理者、リコリス・フォーレンの視点■
流石に、温厚な私でも怒る時は怒ります!
許せません! 激おこぷんぷんモードです!
私だけじゃなく、リアちゃんにも酷い事するって言ってましたぁ!
審判の間の中で、てっぽうまで出して、お仲間のアイザックさん迄ケガさせてます!
それに、パパとママが遺した、生まれたばかりのコクーンを、
私から奪って自分の物にするなんて、神様が許しても……あ、私、今神様ですね?
えっと……お天道様が許しても、私が許しません!
「心臓を打ち抜いたのに? それになぜ、私の名を?」
『審判の間』として、既に再稼働しているコクーンと繋がっているので、
”施設部にある情報も、全て把握できている”とは言いたくなかったので……。
「神は何でも知っているんですぅ!」
「な、なんだとう!?」
ちょっとカッコつけて、監査団・代表こと、マグリフさんを指さす!
「マグリフさん、あなたの犯した罪、もはや看過できません! おしおきします!」
使うのは初めてだけど、視界に表示される、管理者権限のメニューから、ある機能を選択する。
「貴方のような、権力を振り回し、他者を痛めつける人には……」
管理者権限で”転生”の項目にある、出来れば使いたくないそれを選択した。
「一度、弱者になって反省して貰います!」
マグリフさんの背後に、赤黒い、観音開きの巨大な扉が出現し、気温がぐんぐん下がります。
ギィィィィィィィ……
扉が開くと、全てを吸い込む様に強風が生まれ、漆黒の空間に飲み込もうとします。
「そ、それは、まさか……」
異世界へ”転生”させるメニュー中でも、何に生まれ変わるか分からないという、
最も恐ろしい”ランダムモード”……しかも、当たりのない、
つまり”人間”とか”亜人”という知能を持つ種族にはけっしてなれないモノです。
「はい、強制的に、ランダム転生をして頂きます!」
まぁ、やり過ぎとは思うのですが、下手に知能がある種族だと、また同じことをしそうですし……ね?
「ば、ばかな、私は死者じゃない、肉体を持った生者なのだぞ! 転生システムが機能するわけが」
椅子にしがみ付き、吸い込まれない様に、必死に踏ん張るマグリフさんが叫ぶのですが……。
「ああ、それは、やらなかっただけで、出来ないわけではないんですぅ」
「「へ?」」
間の抜けた声を出す、マグリフさんとアイザックさん……ああ、いけないです!
同じ様に椅子にしがみ付いていた、アイザックさんの身体を、創造で変形させた床で固定する。
「アイザックさんは、本当はいい人っぽいので、それにつかまっててください!」
「あ、ああ、ありがとう……」
「な、なんじゃそりゃぁぁぁ!! ひ、ひいい!」
ガァァァァァン!! ガァァァァァン!! カチ、カチ……
マグリフさんが扉に向かって、鉄砲を撃ちますが……弾も無くなったようです。
「貴方の新しい人生……いえ、違いました、命に救いが……多少はあらんことを……」
ちょっと噛んだけど、初めてなので、気にしないです。
マグリフさんを、扉から延びる無数の黒い手が絡め取り、扉の中へと引きずり込む。
「ひゃぁ! た、たすけ……たす……!!」
ギィィィィィィィ……
扉が閉まり、その巨大な姿が消えると静寂が戻ります。
「はぁぁ、初めて使った”転生”が、”ランダム”の”ハード”なんて、がっかりですぅ……」
「えっと、リコリス君? がっかりしている所をすまないが、これを何とかしてほしい」
「ああ、忘れてましたぁ!」
慌てて、床に固定されたアイザックさんを解放する。
「撃たれた肩の傷は……あれ?」
アイザックさんが、心配そうに私の肩を見るのですが、既に傷は塞いであるのです。
「大丈夫ですぅ、審判の間の中なら、大した傷じゃありませんから……」
「そうか、良かった……私の傷も治してくれてありがとう」
「いえいえ、お気になさらずにですよぉ」
アイザックさんは、やっぱり根はいい人のようです。 ランダム転生にしなくて良かったです。
「新しいコクーン、新生した『審判の間』の管理者よ、度々の無礼、本当に済まなかった」
アイザックさんが土下座をして謝罪しています?
「あ、あの……頭を上げてください!」
「いや、命令をされたとはいえ、君を辱めたことには変わりない。
さっきの、ランダム転生とやらにされても文句は言えない、ぜひ私にも罰を!」
「ううむ、あれはですねぇ、良くて魔物、悪くて小動物に生まれ変わるんですよぉ? しかも、調整なしで管理する異世界に飛ばしちゃったので、最悪、意識はそのままかもです」
強制的に行う転生は、いわば罰であり”意識を持ったまま”とか”あるタイミングで意識が戻る”とか、管理者の気持ち一つで変化させられます。普通の転生であれば、要望も聞き入れられますが……。
「そ、それは怖いな、だが、私はそれだけの事をした。 この資料も燃やしてくれ」
アイザックさんは、私の実験結果の詰まったアタッシュケースを差し出す。
「外にいる奴等は、何も知らずただ従ってただけだ、出来れば許してやってくれ」
腕を組み、思案しました。 確かに、いっぱい恥ずかしい事や痛い事もされたのですが……。
「ん~、だめですぅ!」
「駄目なのか? そうか、そうだよな、あんな辱めを受けたんだ……」
ズズ……
私はアタッシュケースを、アイザックさんの元へ押し返した。
「え?」
「それは、有効活用してくださいですぅ」
「それって? え? ええ?」
ぽかんとするアイザックさん。
「ここで、アイザックさんや他の方を消したとしても、また、第2第3のマグリフさんが現れないとも限りません」
「あ、ああ、その可能性はあるな」
「ですので、それを持ち帰って、全てを公表してください、もう、二度とこんなことが起きないように」
「流石に、これは厳しい罰だな、わかった全てを公表し、代表の事を暴露しよう。そうすれば、代表を転生にかけた事も不可抗力とされると思う。 でも、いいのか?」
アイザックさんはアタッシュケースを開ける。中には目を背けたくなるほどの恥ずかしい資料がいっぱいです……。
「ううぅ……できればその、恥ずかしい所がはっきり見えてるのはですね、その、あの……」
私は顔を真っ赤にして床に”の”の字を描く。
「ああ、そこらへんは上手くぼかしたり、カットしておくよ。なに、私は元医者だ、患者のプライベートは護る……出頭するまでに何とかしておこう」
「そ、そうですか、いかがわしい、えっちな本とかにもしませんよね?」
「ははは、誓って、しないよ。それに……もう少し発育してないと需要も少ないと思う」
「あう……それはそれで、しょっくですぅ」
二人だけになった『審判の間』に、アイザックさんの笑い声が木霊した。
………
……
…
それから、アイザックさんは監査団を集め、施設部に対し謝罪した。
私といえば、リゼさんに心配され、トリスおじさんには、目いっぱい怒られました。
何せ、ローブには鉄砲で開けられた穴が開いていますし……。 ごめんなさいです。
マグリフさんがやったことや、そのマグリフさんをランダム転生にしたことについても、
アイザックさんを交え、施設部の皆に話しました。
リゼさんは顔を真っ赤にして、例の資料の破棄を求めましたが、これは私が望んだこと、
何とか納得して貰いました。
トリスおじさんは、終始、額に青筋を浮かべていましたが、何とか最後まで耐えてくれたようです。
最後に、外に出てアイザックさんと少し会話をした後、アイザックさんを殴っていましたが、
その後、握手をしていましたアレはどういう意味なのでしょう?
アイザックさんの緊急通信によって、2日とかからず新しい監査団がやって来ました。
今度の代表の方は、ゴードンさんといい、とても大きく逞しい方でした。
審判の間の中に会議室を創り出し、私とトリスおじさん、それとアイザックさんとゴードンさんとで、
今回の事件の内容を、皆に説明しました。
説明に必要なため、私が撮られた写真や映像も公開されます。 わかっていたとはいえ……。
うう、あんなことや、あんなとこに、あんな……とても恥ずかしいですぅ。
全てを説明を聞き終えたゴードンさんは、暫く難しい顔をしていましたが、突如、私の方を向いて立ち上がり、テーブルを粉砕しながら土下座をしていました。 あうあう、大理石くらいの硬さにしているのに……粉々です。
額を割り血を噴き出しながら、涙を流し謝罪するゴードンさんをなだめ、傷の治療をします。
ゴードンさんは監査団の代表と言っていましたが、実は監査団を纏めるもっと偉い人でした。
ゴードンさんは、審判の間のある、施設部の修繕や新しい物資なども手配してくれて、他のエデンとも交流をし、特異点発生時の対策も練れるようにと、色々手配してくれました。
アイザックさんは、マグリフさんの件で重要参考人として身柄を拘束される事になりました。ゴードンさんが”悪いようにはしない”と言ってくれたので安心です。 同じセリフでも、マグリフさんのとは全然違います。 これが、カリスマというモノでしょうか……。
「リコリス君、一ついいかな?」
「はい、なんでしょう?」
お別れの挨拶の後、アイザックさんが話しかけてきました。 何でしょう?
「聞かせて欲しい、私を助けてくれた本当の理由をね?」
「ああ、その事ですかぁ……それはですねぇ」
そうでした、マグリフさんのせいで話しそびれていましたね。 アイザックさんに、耳を貸す様に手招きをします。それでも届かなかったので、背伸びして耳元で囁きました。
(アイザックさんは、パパにちょっと似ているんですよぉ……)
「そうか……ありがとう、前管理者のロイドさんに感謝しないとな……いいお父さんだったんだね」
「はい、パパは素敵な神様でした」
アイザックさんは優しく微笑み、私の頭を撫でていきました……パパと同じ様に……。
あの事件で、破損した設備も元どおりになり、
改めて、私は新しい管理人として出発することになります。
ゴードンさんとアイザックさんもすでに帰られ、ようやく落ち着いたと思います。
ですが、コクーンの調整の為、私は、まだリアちゃんに会うことが出来ません。
次の日曜日に、私は正式に、このエデンの”神様”になるわけです。
将来の夢ではありましたが、望んだんだ形ではありません。
だって、パパもママも、エリナおばさんも、ココにはいないんですから……。
………
……
…
‐あの事件から21日後の日曜日‐
パパとママとエリナおばさんを失ってから3週間経ちました。
管理者権限も、ある程度使いこなせるようになり、数時間の外出なら可能となりました。
……ただし、施設部の監視付きですが……。 何故なら、傷の痛みを抑えるだけなので、
転んだりしたら、多分、激痛で動けなくなりそうだからです。
待ちに待ったリアちゃんとの再会。
久し振りのリアちゃんタックルも、トリスおじさんが、身体を張って防いでくれました。
その後、もみあげにぶら下がられたりしてましたが……痛そうです。
今日はリアちゃんへのお詫びに、特大ホットケーキと、特大ハンバーグを作る予定です。
流石に食べきれないので、施設部の皆を家に招き、皆で美味しく頂きました。
リアちゃんも満足しておねむになり、施設部の皆も監視の方を残し、帰っていきました。
「楽しかったですねぇ、リアちゃんも楽しかったですかぁ?」
ベッドですやすやと眠る、リアちゃんの頭を撫でながら語りかける。
「むにゅ、おねーちゃん……」
「はいはい、何ですかぁ?」
可愛い寝言に、耳を傾ける……。
「もう、ひとりは……やぁ……」
「……あはは、ごめんなさいですよぉ、おねえちゃんもね? 色々と……あぐぅ!」
胸を押さえ、リアちゃんを起こさない様に部屋を出ます。
「あぐぅ、かは! あああ!!!」
階段を降り、居間まで来たところで、私は倒れ込んでしまいます。
「リコちゃん? しっかり!」
「こちら監視班、発作が始まった、至急、応援を求む!」
監視班の方が駆けつけ、沈痛剤を打ってくれました。
「はぁ、はぁ……だい、じょうぶ……です、リアちゃんに……は」
時間切れです、少し前から痛みは強くなっていたのですが、
リアちゃんとの時間を惜しんで、監視班の方への連絡をしなかったのが原因です。
………
……
…
気が付くと、審判の間の中のソファーで横になっていました。
「えっと、その……」
私の視線の先には、とても怖い顔をしているトリスおじさんと、リゼさんがこちらを睨んでいる。
こってり絞られ、今後は定時連絡と検診を義務づけられました。
幼稚園の運動会など、リアちゃんの応援中に動けなくなるのを考慮し、影武者まで用意されていました。仕事とプライベートと大忙しです。
あの事件から3か月も経った頃、リアちゃんに「両親の死」を伝えました。
リアちゃんは、目にいっぱい涙を溜めながら、私に抱きつき、言ったのです。
「おねーちゃんがいればいい! リアのそばでずっと、ずーっと!!」
私は溢れる涙を、止める事は出来ませんでした。
「……はいですよぉ、おねーちゃんは、リアちゃんとずっと、ずーっと一緒ですよぉ」
「ほんとに? ウソついたら……」
リアちゃんとの指切り、小さな、それでいて大きな願いを込めた……。
胸が痛みます。傷の痛みではありません。守れない約束をしたことに、胸が痛んだのです。
………
……
…
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……。
リアリス、私の愛しい妹……約束は守れないのです。
少し前から予想はしていました。
私は、リアちゃんと、ずっと、一緒にいることは、過ごす事は……。
ごめんなさい、リアちゃん……。
もうすぐ、リアちゃんとは、お別れをしなければなりません。
………
……
…
<<神様がいなくなった日曜日>>
<<大事な卵が割れて、神様は遠くの世界に行ってしまいました……>>
<<神様の遺した、新しい卵を受け取った女の子がいました>>
<<女の子は卵を孵す事にしました>>
<<卵が孵った日曜日、女の子は神様になりました>>
<<神様に、なってしまいました……>>
………
……
…
ようやく、神ちゃん誕生編のラストとなります。
最後の修正と調整が厳しく、長くなってしまいました。
次回のエピローグを持って、番外編の最終話となります。書式からなんやらオーバーホールなので明日には無理ですが、週末付近には何とかしたいです。