【番外編】「神様がいなくなった日曜日」その8
【番外編】「神様がいなくなった日曜日」その8
■エリナ視点■
-日曜日 午前 0:55-
『神の眼』
「う、ぎぃ……あぐっ」
身体が燃える様に熱い、脳の奥が焼かれる様な激しい痛みが私を包んでいた。
調整を行わず、無理矢理の起動とアクセス……その反動だ。
「も……う、……すこし!」
煮え滾る油の中を泳ぐ様な、そんな錯覚さえ覚える。意識だけは手放さない様に……、大切な友人たちと、その友人たちの娘……いや、あの娘は……、リコは私の娘同然だ! この世に生まれる事の出来なかった我が子の……ぽっかり空いた穴を埋めてくれた、ウチの娘だ!
「娘のピンチに……駆け付けられない、ぐぅ! なんて……そんなかっこ悪い、ぐぐ、とこなんて……」
精神だけが『審判の間』に同調し始める。まだ、まだだ! 本体がどうにかなっても!
「あってたまるかってんだぁぁぁぁぁぁ!!!!」
パキィィィィィィン!
私の叫びが届いたのか、視界がクリアになり『審判の間』の状況がすべて把握できた。
「通った! ロイド、アリス……リコ、リコは!?」
ロイドとアリスの状態は分かった、けど、リコの状態だけ感知できない。
「管理者権限を、使用してまでの隠ぺい状態?」
私の直感が告げている、そこまでして自分を隠そうとするって事は……。
「アリス! 今からリンクする! 気をしっかり持って! 気絶したらリコが死ぬ!
それと、ロイド! 死なない様に踏ん張って!」
(え? エリナ? ……来なさい!)
(よく分からないが、分かった! リコを頼む!)
流石は親友たち、私の意図をくみ取ってくれた様だ。 私は、アリスに意識事ぶつかっていった!
………
……
…
■ロイド視点■
-日曜日 午前 0:55-
『審判の間・中央』
少年との対峙中、”それ”は起きた。『審判の間』へのエネルギーが遮断されたのだ。
(トリス? いや、アイツはそんな事はしない、……いや、リコもいるのに出来るとは思えない)。
「神様、どうかしましたか? 何かトラブルでも?」
「いやぁ、キミたちの来訪自体がトラブルなんだけどね? おっと!」
私と少年は、言葉を交わしながらも、ずっと打ち合っている。 お互い決め手に欠け、時間だけが過ぎていく。
「ふぅ、はぁ、いい加減、殺されてくれません? お年のようですし、限界じゃないんですか?」
「ふぅ、ははは、こう見えても学生時代は鍛えていてね、まだまだ現役だよ? はぁ、はぁ……」
……とは言いつつ、『管理者権限』で、身体強化を行っているのに互角だとはね。
(アリス! 今からリンクする! 気をしっかり持って! 気絶したらリコが死ぬ!
それと、ロイド! 死なない様に踏ん張って!)
「!!」
(え? エリナ? ……来なさい!)
エリナが何で? そうか、そういう事か……。 相変わらず無茶をする、でも!
(よく分からないが、分かった! リコを頼む!)
エリナとアリスなら……リコは大丈夫だ。 ならば私も……。
「おやぁ? 降参する気になったんですか? はぁ、はぁ……」
「はぁ、はぁ、ふぅ、そうだね、君が知りたい事でも話そうか?」
「はぁ、はぁ、 何だって?」
「知りたいんだろう? 何故ここに来たかを?」
ここからは推測だ、彼らは紛れもなく『特異点』だろう、先々代が『審判の間』いや、『コクーン』と共に”堕ちる”事になった原因、先代からも話は伺っている。
「ふ、ふははは! 分かるんですね? この記憶、この衝動! そしてこの殺意が!」
少年の眼の色が変わった……。
「どうする? 私を殺すかい? それとも話を聞くかい?」
ギィン!
「いいでしょう、聞かせてくださいよ神様、その後で殺すと思いますけど!」
少年は、刀を床に付き立てその場に座り込んだ。
「千夜一夜物語、みたいにはいかないか……」
私も、剣と盾を収め、腕を組み壁に寄りかかる。私の予想だと、アリスが大きな管理者権限を使う。その邪魔をしない為と、少年に無防備であることを悟られない様にするためだ。
「いいから早く話せよ……」
「キミ達『特異点』は……」
………
……
…
■アリス視点■
-日曜日 午前 0:55-
『魂の書庫』
”揺らいだ”
……そう、それが、一番しっくりくる。リコを捜し、本棚を破壊しながら焦っていた私の頭を冷やしたのは。
『審判の間』自体に何か異常が起こったのか、それとも……。
「まさか、『施設部』側からエネルギーを切った? でも、それなら……」
あのもみあげが、そんな強行を取るとは思えない。『コクーン』が自立状態になったら、色々ヤバイという事は理解している。
「確か、先々代の時になんかあったとか……」
ロイドがいるからって、マニュアルを隅々まで読んでなかったのが仇になった……。
「そんな事より、リコよ! リコ! 何で、同じ書庫内で探知できないのよ!」
(アリス! 今からリンクする! 気をしっかり持って! 気絶したらリコが死ぬ!
それと、ロイド! 死なない様に踏ん張って!)
「!!」
「え? エリナ? ……来なさい!」
突然、頭の中にエリナの声がした。 リコの命が危ないと聞こえたた瞬間、眼を閉じ、身体の力を抜く。
(よく分からないが、分かった! リコを頼む!)
ロイドの返答も聞こえた、あっちも無事な様だ。
「いっ! くぁぁぁぁぁぁ!!! な、これは!」
ホッとした瞬間、頭をハンマーで殴られたような衝撃が走り、視界が変化した!
(アリス、正気? 頭大丈夫?)
「うっさいわ! 人をおかしくなった人みたいに言うんじゃないわよ! これは?」
(『神の眼』を使った、あんたの『管理者権限』と同調し、リコの居場所を見れるようにする!)
キィィィィン
『魂の書庫』内の状況が、隅々まで見渡せた! ……見えた!
(急げ、ロイドが時間稼ぎをしている間に!)
「『管理者権限』発動! 身体強化系フルドライブ!」
身体強化系は身体に大きな負荷をかける、そのフルドライブは秒単位でしか行使できない。そうしなければ、身体がバラバラになって死ぬだろう。
音が消えた、空気がゼリーの様に感じる。私の視線の先には、横たわったリコの大事な部分に、でかいナイフを刺し込もうとする少女が見えていた!
「させるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
立ち塞がる本棚を気にもせず、私は踏み出す! 通常では壊すのも困難な本棚が、まるで紙を破くかのように千切れ、舞う、そして、届いた!
時間が停止したような感覚の中、私は全力で手を伸ばし……リコをナイフで犯そうとする少女の手を掴み、そのまま肩からの体当たりで吹っ飛ばした!
ズガァァァァァァァァァン!
「ぐぅ! がっ!」
少女に体当たりした事で減速し、”フルドライブ状態”を解除した。ぶつけた肩は折れたようで感覚はない。 しかしそんな事よりも!
「リコ! 酷い……、今、治癒を!」
リコの変わり果てた姿を見て驚愕した……。 顔にも血がべっとりと張り付き、四肢も、服を裂かれた胸と腹部も、無数の刺し傷が……。 『管理者権限』を全て治療に集中させれば……だが。
(まて、アリス! 特異点を先に何とかしろ! 止血はこっちでなんとかしておく、時間がない!)
「……くっ、わかったわよ!」
血の海に沈む、リコを前に、治療を実行しようとしたが、エリナに止められた。 フルドライブを解除したとはいえ、『管理者権限』は発動したままだ……ロイドが危険になる、その前に!
本棚に叩きつけられ、藻掻いている少女の元に向かう。 私の手にはナイフを掴んだままの少女の手が握られている。 どうやら掴んだ時に捩じ切っていた様だった。
「とりあえず、リコの純潔は護れたみたいね……」
………
……
…
■侵入者の少女視点■
-日曜日 午前 0:56-
『隔離された魂の書庫』
あたしのダガーは、薄布一枚にだけ守られたお嬢ちゃんの純潔を、無慈悲にも薄布事貫き、子宮をも串刺しにして、しぶとく燻っていたお嬢ちゃんの命の炎を吹き消す……筈だった。
「がっ! かは!」
何で? どうして? どうしてあたしは本棚に叩きつけられ、血を吐いている?
「リコ! 酷い……今、治癒を! ……くっ、わかったわよ!」
あれ? お嬢ちゃんがあんな遠くに? それに誰か……女の声? ヤバイ、もう片方の神様?
「ちっ! いつの間に……え? 私の右手……どこ?」
体勢を立て直すため、右手を床に手を突こうとしたが、手首から先が付いていなかった。
「探し物はこれかしら? 残念ね、リコの初めては、イケメンで、性格も良くて、私の老後の生活も面倒見てくれる紳士で素敵な男性に優しく破ってもらうって決まってんのよ!」
ガシャァァン!
金髪の女が、ダガーを掴んだままの私の手を投げ捨てた。
「こ、このクソババぁ! ぐぎゃぁぁ!!」
右手首を押さえ、立ち上がろうとしたあたしの胸をこの女は踏みつけた、ヒールの部分が鳩尾を抉り思わず悲鳴をあげる。
「さえずってんじゃないわよ! 本当なら、このままぶっ殺してやりたいけど……あんたともう一人の名前は?」
「彼は”ジェームス・ディーン”で、あたしは”マリリン・モンロー”」
ボギン!! ゴギン!!
「…ぐがぁ! あ、あたしの脚ぃ!! ぎゃぁぁぁぁ!!!」
からかう様に偽名を口にした途端、この女はあたしの、両ひざを踏み折った。
「はぁ、はぁ、エリナ……こっちはいいわ、リコの方を……おぶ!」
悶絶しながら見えたのは、あの女が膝を突き、血を吐いている所だった。 それに……まだだ、まだチャンスがある!
「ひっひひ! よかったよぉ? あんたの娘、リコちゃんだっけ? 白いすべすべのお腹をサァ、突き刺す度に、ぴいぴい鳴いてサァ、お漏らししながら、”ママぁ、ママぁ!”ってサァ!」
意識が遠くなるような激痛の中、あたしは挑発を続ける。
「”何でもするから助けてぇ~”って、涙と鼻水でめっちゃくっちゃな顔してサァ……」
逆上して殴りかかってくると思っていたが、あの女は、ただ憐れむような眼でこっちを見てやがる!
「なんだよ、親子揃って気持ち悪ぃ! なんなんだよぉ!」
ドム!
「あ、か……」
「もういい、黙って、寝てな……、とりあえず、拘束だけはしておく」
あの女の拳が、あたしの腹にめり込み、鎖の音が聞こえ、そのまま意識を失った。
………
……
…
■リゼ視点■
-日曜日 午前 0:57-
『施設部・制御室』
「成功です、『審判の間』アクセス可能です!」
「よし! 直ぐに救出隊を配置につかせろ!」
「『魂の書庫』損害アラートが出てます!」
「ち、火災発生だけ注意して、まずは『神職』とリコの安全に注力しろ!」
「神職は二人とも健在、アリスさんに、多少のステータスダウンがありますが許容内です!」
「そうか、出入り口へのアクセスはどうだ?」
「外壁に扉の出現を確認、ですが、開閉にはまだ少しかかります!」
「ちぃ……」
エリナ先輩の決死の作戦で、クリアになった『審判の間』
私は、リコちゃんのバイタルサインを追った……。バイタルサインと共に身体の状態が表示される。
「そん、な……し、施設長!」
「何だ、どうした!」
「リコちゃんに……」
モニターには【デッドライン】の警告が赤く表示されている。外傷の状態や、出血多量の情報が次々と表示され続け”死の間際”であることが示されていた。
「そ、そんな……、おい、医療班はどうなってやがる!」
「それが、警報で市民がパニックになった際、連絡が……」
「畜生! 何でこんな時に限って!」
「このままリコちゃんが救出されても、治療が受けられないなんて……」
(みんな! 聞いとくれ! そっちは私が何とかする、とにかくリコを助け出すんだ!)
「エリナ……」
「先輩! でも、その状態でどうやって?」
(リゼ、知ってるだろ?『神の眼』は全てを見通せる。サポートを頼む!)
「……はい、上層・中層の医療関係、及び、退職した医療従事経験者も含めてデータを送ります!」
(それでいい、頼んだよ)
”先輩、死なないでください”私はそう願いつつ、データベースを呼び出しアクセスを行う。
……でも、私は知っている。
過去に『神の眼』を使用して、生き残った人はいない事を……。
………
……
…
在宅勤務になってしまって、自宅に居ながら仕事がてんやわんや……カメラが無ければ執筆しながら仕事ができるのに(ヲイ)
この過去編を書き上げてから、本編の続きを第1部終了までと決めてから長々とやっちゃってますが、”文章を纏める”という難しさにボコボコにされています。もう少しお付き合いください。