【番外編】「神様がいなくなった日曜日」その5
【番外編】「神様がいなくなった日曜日」その5
-日曜日 午前 0:30-
『審判の間・中央』
■ロイド視点■
「そろそろ、正体を明かしてくれてもいいんじゃないかな?」
「それは、ご想像にお任せしますよ♪」
「審判の間」への侵入者は5人ではなく3人だった、目の前にいる少年と少女、それともう一人いるはずだが、どうやら既に別の場所に移動している様だ……、まさかとは思うが「魂の書庫」に?
ギィィン!
「おやぁ、神様、焦ってません?」
「そうかい?」
私は、「管理者権限」を簡易発動させ、片手剣と小型の盾を装備し応戦していた。対する少年は日本刀を手にしており、少女の方もまた、複数のナイフを取り出している。一体どうやって持ち込んだかと思っていたが……。
「まさか、武器をそこに隠してくるとはね……実に悪趣味だ」
5人の内2人は、受肉した肉体を武器の容れ物として使われていた。事故で亡くなった人間を利用して、ここまで来たわけだ。
「どうせ、生きていても何の役にも立たないクズでしょうし、僕らに利用された方がまだ価値があるってものです……よっと!」
ガギィィン!
「隙ありぃ!」
ガガン!
「おっと、危ない危ない」
少年は会話しながらも斬りかかり、少女は隙あらばナイフを投げてくる。審判の間と部分同調を行っているので、この空間内であれば私の死角はないが、こちらも決め手に欠ける。管理者以外の存在を排除する機能があるにはあるが、”ゲスト”のリコも対象になるので外に避難したのを確認するまで使えない、リミッターを解除すれば「審判の間」に多少の被害は出るが殲滅は可能だと思う、思うのだが……。
「おっしぃ!」
「全部見切られているじゃないか、バカ女!」
「ひっどぉい! またバカ女って言ったぁ!」
……あの少年は、まるでこちらが「管理者権限」を使うのを待っているかのようだ、大きな能力を使うのは不味いと、私の直感が警鐘を鳴らしている。
「ねぇ、大人しく当たってくれたら、1回位ヤラせてあげてもイイわよ? オ・ジ・サ・マ」
「せっかくの申し出だけど、遠慮しておくよ、私は妻一筋なのでね」
「ムッかぁ! あったま来た、イケメンだから優しく殺そうと思ったけど、手足をバラバラにして【バキューン!】を【ズダダダ!】ったあと、【ダキューン!】して、カミさんの目の前で【ドコーン!】させて、ソレを見ながら【バラタタタタタタ!】ってやるわよ!」
「……くっ」
余りにも、聞くに耐えない下品な言葉を浴びせられたためか、頭が痛くなってくる。 リコにはとても聞かせられないな…。
ガギィン!
「をっと!」
見た目とは裏腹に、この二人は戦いなれているのか、攻撃にためらいが感じられない。まるで人を殺すのを楽しんでいる様にも見える。
「キャンキャン吠えるだけで隙を作れるなら、多少は役に立つかもだけど……」
「ソレって誉めてんの? 貶してんの? ”レイジ”よりかは役に立ってる筈だよ?」
「……っバカ女!」
しめた!
(審判の間! 対象検索、対象名”レイジ”範囲、1時間以内)
私が脳内で審判の間にアクセスし、対象を検索した瞬間、「魂の書庫」の中に反応が出た。しかも、アリスとリコのすぐ側だ……。アリスとの念話も、施設部への通信も何故か繋がらない。恐らく何らかの妨害がされていると見て、間違いないようだ。
「こっちは囮……と、いうことかな?」
「ええ、ここに入った時から……もう、隠したって無駄でしょう。 彼、レイジを「魂の書庫」にいる、もう一人の神様を捜させてたんです。貴方よりは御しやすそうですし……ん? へぇ、娘さんも今いるんですか、それは都合がいい♪」
「そんなことまで……」
魂の書庫に侵入され、アリスが危険な目に遭っているというのに、リコの存在まで知られているとは……。 まずい、ここを何とかして駆け付けたいが、そうは上手く行かせてくれない様だ。
「いい、実にいい表情ですよ♪ 愛する妻子の危機に焦りが見えます! レイジ! そこにいるのが神様の弱点だ、痛めつけても構わないが殺すなよ……っておい! ちっ! 使えない!」
余裕の笑顔だった少年が、忌々しいとばかりに毒づいた、何だ?何が起きた?
「いやいや、困りましたね♪ レイジがもう一人の神様にキレてしまったのか、暴走しちゃいました♪」
「暴走だって?」
「レイジはね、自分の母親を殺して、バラバラにして食べちゃったんですよ♪ 極度なマザコンの上、自分より弱い存在は、過剰に虐待することで平静を保つ異常者です……娘さんなんか丁度良い獲物でしょうねぇ♪ 二人ともバラバラにされて食べられちゃうかも……うぉ?」
ビシィィィィィン……
少年の立っていた床が裂けた、いや、私が斬り裂いた。
「どうやら、穏便にはいかない様だ……手足を斬り落としてでも、君たちを止める」
「ようやくやる気になったようですね♪ おい、バカ女! ここはいい、レイジのバカを何とかしてこい!」
「ええ~! そいつは私が殺したいのにぃ~、レイジなんてほっとい……う、わかった……」
隙あらば私にナイフを投げようとしていた少女が、文句を言うが、少年に睨まれ大人しく引き下がる、一人減って好機と見るべきか、だが、少女が離脱するという事は、アリスとリコの危険度が上がるという事だ……。 今までになく私は焦っていた、……それが少年の狙いだと、そう分かっていてもやるしかない様だ。
「来いよ、神様! 全力でこないとどうなっても知らないよ?」
………
……
…
-日曜日 午前 0:35-
『施設部・制御室』
■トリス視点■
「一体どうなってやがるんだ!」
あのバカ野郎が、無茶をするとか言って何をしでかすかと思ったら、複数人を纏めて応対するとか言いやがった。 いや、確かに以前の俺が効率を優先し、提唱していた事ではあるが、急すぎる。 理由は痛いほどわかっちゃいるが、複数対応に応じた5人を「審判の間」に誘導し招き入れた途端、システムがエラーを発して外部からのアクセスが滞り、内部からの通信も不可能となった。審判の間の異常を示す警報がけたたましく鳴り続けている。
「施設長、ダメです、アクセスが次々と拒否されて……」
「え? 管理者権限が複数個所で使用されている?」
「リコちゃんのバイタルサイン、ロストしたままです」
「外郭出入り口もアクセスできません」
「ぐ、ぐぬぬ!」
ロイドとアリスなら「管理者権限」が使えるし、トラブルが起きても対処できるだろうが……、今はよりにもよってリコが中にいる。 「審判の間」は自らが危険だと判断すると、管理者以外を無差別に排除する機能もある。 ロイドたちに何かあったらそれが稼働するとも限らない……どうする?
「整備班をすべて集めろ! 多少危険ではあるが、俺が疑似認証で、物理的に突破口を作る!」
「施設長、そんなことしたら……」
「危険すぎますよ!」
「審判の間に外敵と判断されたら……」
「運が良くて消し炭……」
スタッフたちに動揺が走る、俺もかつては神候補だったとはいえ、一度は拒絶されている。審判の間はいわば生き物だ、機嫌を損ねたら文字通り”消される”だろう。
「うるせぇ! 分かってる! だけどな、リコは明日の……、家族が揃える時間の為に頑張ってきたのは、おめぇらも知ってるだろうが!!」
<<今日は目いっぱい頑張って、明日は家族みんなで豚丼パーティーをするのです!>>
俺が神職になれなかったせいで、両親との時間を奪われ、一人寂しい思いをしてきたリコリス……。そんなあいつの只のひとつの”我侭”も、寂しさは薄れても当時幼い子には過酷だっただろう。エリナの奴の手助けもあって、今はロイドたちを手伝い、家族で一緒に過ごせる時間を作るために苦労していることも知っている。その努力が今日、少しは報われるはずだった。俺なんかの命でそれが叶うなら……。
ぱぁぁん!
決死の覚悟を決めかけた俺の顔を、部下のリゼがひっぱたいた。
「な、何しやがる!」
「施設長も忘れたんですか? リコちゃんは施設長になんて言ってたか!」
「あ……」
<<何言ってるんですかぁ? トリスおじさんも参加ですよー?>>
そうだった、家族水入らずだってのに、俺まで誘っていたんだ……。
「承諾の言葉を貰えるまでの、不安そうなリコちゃんの顔、施設長は見えてましたか?」
「う……、それは」
断るつもりはなかった、スケジュールの調整で目いっぱいで、リコの表情を見ていなかった……。
「承諾の言葉を貰えた時の、嬉しそうなリコちゃんの顔、施設長は見えてましたか?」
「う……、そうだったのか」
リゼは女性だからか、そんな細かい事に気付いていたのだなと思い、少し頭が冷えた。
「施設長以外、全員気付いてますよその位! そうじゃなきゃ、週末にこんな無茶ぶり誰が付き合うって言うんですか!」
「おめぇら……」
「そん位気付いてくださいよ、長い付き合いでしょ?」
「当然、これを無事に収めたら、臨時ボーナス位出してくれますよね?」
「第一、施設長が消し炭になったら、リコちゃんにどうやって、誰が説明するんです? リコちゃん絶対泣きます、そして自分を責めます! そうだと確信します、自信あります!」
「みんな、未来の可愛い後輩……それとも、ほっとけない位の天然で優しい上司が心配なんですよ」
「……みんな、すまねぇ」
「謝るのは後で、全部無事に終わってから打ち上げの席で謝罪してください!」
「「「「勿論、高級な飲み屋で、それと施設長の奢りで」」」」
「けっ、分かったよ! 審判の間のコンディションをより細かくチェック、ストレスが発生している箇所へのアプローチを続けろ、それと神職の二人とゲストのバイタルサインのチェックも怠るな! 施設部内戒厳令は解除、手の空いてる奴に片っ端から応援を頼め!」
「「「「了解です!」」」」
フィィィィィィィィィ!!!!
施設部全体に、緊急警報が発信される。 一般の区画にも異常があったことが知られるだろうが関係ない。 どのみち「審判の間」が万が一暴走した場合……。
「リゼ、ここを少し任せていいか?」
「施設長はどちらへ?」
「先代に連絡をつけてみる……」
「分かりました、こちらはお任せください」
………
……
…
本来なら神職ではない俺が、先代の神職に緊急連絡など、出来る筈もないのだが、ロイドのサポートをしていた時、”自分たちに万が一の時があった場合”に備えて、緊急マニュアルの閲覧権と、先代の緊急連絡先を渡されていた。
「ふ、まさかまたあの爺さんに、頭を下げる事になるとはな……」
施設部の一角にある、神職専用の通信室に俺はいた。ロイドから預かった”金色の鍵”があれば、ある程度の無茶は出来る。 まさかこれを使う事になろうとはな、ロイドの奴め……、今は助かるがな。
ガチャリ、ジーコロコロ、ジーコロコロ……
『昭和』の時代が好きだったという、先代の趣味丸出しの通信機器でコードナンバーを穴の開いた円盤を使い入力していく。
プルル……プルル……ガチャ、
(はい、現神職の方ですか? それとも施設部の方ですか?)
「な……、は、はい! 現神職ロイド・フォーレンの代行、施設長のトリス・リードと言います!」
連絡先に繋がったと思った瞬間、聞こえてきたのは、先代の爺さんの声ではなく、凛とした女性の声だった。 何故か神職でない可能性も踏まえた対応に、声が上ずりつつも返答をした。
(こちらにも警報が聞こえてきたものですから、緊急事態だと察します)
「は、はい、その通りです、それで先代に知恵をお借りしたく、先代を! お願いします!」
逸る気を抑えきれずに、失礼だと思いつつも懇願した。
(申し訳ございません。 父は……いえ、先代は既に亡くなりました……)
「な?」
予想外の返答に血の気が引き、目の前が真っ暗になった。
………
……
…
-日曜日 午前 0:40-
『リード邸』
■エリナ視点■
「ん……」
あまりの寝苦しさに、私は身を起こす。
「こんな時間か、トリスはきっと今頃、リコたちの為に頑張っているんだろうね……」
私は持病を患っていて、点滴と特別な流動食しか身体が受け付けない。それでも、親友の娘は、私の眼を真っすぐ見て”豚丼パーティ”のお誘いを伝えてきた。 ”こんな身体じゃいける訳もない”そう、分かってる。でも、それでも声をかけられないというのは少々辛い、声をかける方も辛く気を遣うだろうが、こればっかりは仕方のない事だ……。 でもリコは、それを承知で声をかけてくれる。優しいし、それでいて真っすぐだ。
「あんな子なら……欲しかったな」
私は自分のお腹を撫でる。 こんな身体だ、女の喜びなど……恋愛も結婚も、ましてや出産なんて夢のまた夢、そう思っていた。 恋愛をすっ飛ばして、私を受け止めてくれた人と結婚は出来たが……、ようやく授かった子供は失ってしまった。それ以来、夫は気を遣ってか子づくりの話題はしなくなり、神職になってしまったがため、家に殆ど帰れない親友の娘を、我が娘の様に可愛がり、心の傷を癒していたのだ。
「何かヤな予感がする、まいったな、こんな時の私の予感は良く当たる……」
ィィィィィィィィィ!
「この音は? 緊急警報、それも最大級にやばい部類じゃない!」
遠くから聞こえる警報に私は安静にしていられず、既に引退していた職場の制服を身に纏う。
「記念にとか言って譲ってくれたけど、今は助かるかな」
身体が重い……でも行かなきゃ、何か大切なものが……。 子供を失ったときの様に”大事な存在が消えて無くなってしまう”そんな予感がしていてもたってもいられなかった。
「アリス、リコ、無事でいなさいよ……」
私は戸締りもそこそこに、家を飛び出していった……。
見てくれてる人にはとても申し訳ない。
最近、更新がめっさ遅れてます。 スマホが半壊してる中、ちまちま書いてようやく形に……。 むむむ、あと一回のつもりが、もう一回増えそうです( ;∀;)