【番外編】「神様がいなくなった日曜日」その3
【番外編】「神様がいなくなった日曜日」その3
-日曜日 午前 0:10-
『審判の間・中央』
■ロイド視点■
「ふう、準備はOKっと」
妻のアリスと、娘のリコリスを「魂の書庫」に残し、服装を正して今日最後の……、いや、既に日が変わっていた。
今回最後の”来訪する魂”である5人を、「審判の間」に一度に招き入れるため椅子に腰を下ろし、前方に出現した扉を開放する。
「お待たせいたしました、どうぞお入りください」
ガコォォォォォン……
観音開きの扉から、5人の人影が入ってくる。
「ようこそ、私がこの「審判の間」を管理する、ロイドと申します。複数対応に応じて頂き、感謝します」
事前に用意された資料によると、全員学生で、旅行中に5人揃って事故に巻き込まれたらしい。
5人とも同じ様なパーカーを着ており、フードを目深に被っていて、顔がはっきり見えなかった……。
失礼だなと思っていたが、中央の一人がフードを取り顔を見せて笑った。
「いえいえ、神様も色々大変でしょうから、お気になさらずに♪」
人懐っこそうな笑顔で、丁寧に頭を下げる少年。
「ご理解頂き、複数対応にあらためて感謝を……」
「いーの、いーの、こちらも都合が良かったんだ、何しろ後の3人は、コミュ障なんで♪」
少年の右隣に立っていた人物もフードを取りながら発言した、こちらは、悪戯っ子のような笑みを浮かべる少女だった。
ん? 資料の中に女の子なんていたか?
「……ところで神様、僕たちこのまま立っていればいいんです?」
「ああ、これは失礼」
スィィィ……
私の疑問を遮る様に質問され、管理者権限で、テーブルとソファーを出現させ、腰を下ろす様に促す。
「ホントに肉体がある、ふっしぎー!」
少女が、自分の手足を確かめながら、感心している。 何だ? この違和感は……。
「ええ、この中にいる間は、一時的に肉体を持つことが可能ですが……」
「ここから一歩でも出ると、再び”魂だけ”になっちゃうんですね?」
「……その通りです、よく分かりましたね?」
「審判の間」では、魂に一時的に受肉させて、対話を行う事が可能だが、外に出れば受肉は解除されてしまい、魂だけの存在に戻るのだが、少年はまるで知っていたかのように言った……感が良いだけか?
「いやぁ、死ぬ直前、自分たちの身体が、ぐちゃぐちゃになるのが見えましたから、そういう事なのかなーと」
「成程、理解が早くて助かります。 では、皆さんの死亡した時の状況を詳しく話していただけませんか?」
事前に送られてくる情報、「審判の間」に辿り着くまでの道、通称「魂の回廊」での質問による回答、その二つを元に、アリス達によってその人物の記録が「本」の形をとって具現化する。「審判の間」でその人物と対面を行い、異世界へと転生する”資格”があるかを見極め、導くのが私の役目だ。
「ええ、実に不思議な事故でした……。僕たちは、高校の卒業旅行でバスに乗っていたんですが、裂けたんですよ」
「裂けた……とは?」
「バスの中で、そう、まるで時空が断裂して、空間が裂けた様になって、僕たちだけが巻き込まれたんですよ」
事前の資料にも、バスが真っ二つに裂けて大破、運転手を含め、搭乗者は全員意識不明の重体で、幸いにも死亡者は無いが、乗車名簿より5人の少年たちが行方不明だとなっている。
「確かに、それは普通ではありませんね……」
「でしょでしょ? せっかく卒業後の思い出にって、皆で楽しくパーっと、するところだったのにさー!」
「それは災難でしたね……」
「えー? それだけー? どう考えたって普通じゃないよね? 超常現象だよね? 私ら被害者だよね?」
「……」
おかしい、まるで、そうなることが分かっている様な口ぶりだ、それに、少女の言動に対し、少年は沈黙している。突っ込みどころは満載だが……何かが引っかかる。
「そちらの3名も、そう思われますか?」
私は、ソファーに腰かけた後もフードを被ったままの、3人に向かって質問した。
「だーかーらー! こいつ等ってば、コミュ障なんだから、人と顔合わせて喋れるワケないんだってば!」
やはりか、少年は冷静だが、少女はそうでもなくボロを出しまくっている。
「失礼、お譲さん……いえ、”大前田さん”とお呼びした方が?」
「……!」
「はぁ? 私が大前田? そんなダッサイ名前じゃないわよ!」
……現世の”大前田さん”に大変失礼な言い様だな、しかし……。
「では、どなたが大前田さんですか?」
「え、えと、そいつよ! そこの端っこの奴! ね? 大前田!」
大前田と呼ばれた人物は、ゆっくりと頷いた。
「そうですか……。 バスの事故で行方不明となった5人、前田敏夫君、横山信之君、飯島悟君、利根川正君、唐沢健司君だったと思いますが、彼が”大前田君”だとすると変ですね?」
「あ……、言い間違いよ! 言い間違い! そいつは前田だったわ!」
「……」
「卒業旅行、それも友人だけで行く様な仲で、名前を間違える? それに、コミュ障なのに仲良くパーっとでしたか?」
「え、あ、それは……」
「それに、5人の”少年たち”であって”少年少女”ではなかったと、思いますが?」
彼女が、フードを取った時点で感じた違和感は、自爆気味に解決したが問題は……。
「……」
「貴方たちは誰ですか? 転生や補填が目的ではないね?」
「くっくっく、やっぱりバレますよねー? だから大人しくしとけって言ったんだよ、この馬鹿女……」
「えー、ひどくなーい! ”あいつ等ってどこか抜けてるから、こんなのでも騙せる”って言ったじゃーん!」
「キミが何もせず黙っていれば、騙せるかとも思ったんだけど……そんなに抜けていなかったかー」
沈黙を破った少年に抗議をする少女、やはりこの二人は”害意”を持ってここに入ってきたのだ。
「”一対一の対面”だって聞いた時には、正直焦ったけど、急に”複数対面”を要望されたから、これはチョロいなーって思ったんだけどね?」
「目的は何だ?」
私の問いに、少年は大人しそうな外見に似合わず、鋭い目つきになり、答えた。
「僕たちが欲しいのは、”管理者のシンボルアイテム”と”魂の書庫”と”世界の鍵”」
「何故それを?」
現世から来た魂なら、知りえないキーワードが発せられ、驚愕した。
「……それと、”神様の命”も貰っておきたいですね」
「くっ、管理者権限発動!」
彼のただならぬ殺気に、私は管理者権限を発動した……。
■アリス視点■
-日曜日 午前 0:20-
『審判の間・魂の書庫』
「どう? リコ、終わりそう?」
「はいママ、えっと、今、対面中の人の本が、うまく具現化できなくて……」
妹の世話に、学業に、私たちの仕事の手伝い迄して、ほとんど寝てないだろうに……それでも泣き言を言わず作業をするリコを労わる様に言った。
「無理しないでいいわ、ロイドが何とかするでしょう、だいじょぶじょぶ! 何かあれば”シンボルアイテム”を通して伝わるし」
「それでも、手を抜きたくないのですぅ」
にっこりと微笑むリコ、そうなのよね、ロイドの真面目な所と、やると決めたら頑固な私の血を引いてるだけあって、真っすぐだ、いや、真っすぐ過ぎだった。
「それでさ、リコ……豚丼パーティの件って、エリナには?」
「はい、伝えてありますよぉ?」
「そ、そう?」
「(私の事は気にしないで、家族で……おまけでウチのダメ亭主も連れてってあげて)だ、そうです」
はぁ、聞く方も、答える方もお互い辛いのに律義というかなんというか……。エリナは持病を患い、今はまともに食事が摂れず、点滴と、特別に調合された流動食しか胃が受け付けなくなっている。
「……ったく、自分も辛いってのに、あんにゃろめ……」
何処までも、気を遣う親友の顔を思い浮かべて、思わず笑みが零れるが……。
「あと、(アリスには、ボンボカ喰わせて、自慢の体型を崩さしてやれ!)って、言ってましたぁ」
「あ、あんにゃろう……」
サンドバッグがあったら、浮かんで消えたであろう悪いあんにゃろうの顔めがけて、殴りつけていたであろう……とか思っていた矢先だった。
「え? どうして?」
リコが具現化させようとしていた5冊の”本”が、燃え始めた!
「ちょ、リコ、離れなさい!」
リコの手を引き、燃え上がる本から離した。 一体何が?
「な、何これ?」
5冊中、2冊の本が燃え尽き、3冊の本が残った……それも、黒い本に変わった?
「まさか……特異点?」
「ママ、特異点って一体?」
確か、「管理マニュアル」にあった筈、でも”まずありえない”とちゃんと目を通さなかったけど、”発生したらやばい事になる”事だけは理解している。
ヒュィィィィィィィィィィィ!!!
「なっ?」
「え?」
「審判の間」が警告音を発した、何かが起きたのだ!
「ロイド! どうなってるの? ロイド!」
左手のブレスレットに触れ、ロイドに念話を送るが、ノイズが酷い……向こうも緊急事態の様だ。
「ママ、一体何が? それにパパは?」
「リコ、非難の準備を! 最悪、貴方だけでも外へ……」
そう言いかけた時、中央に続く扉の下から、何かが染み出してくるのが見えた。
「みぃぃぃ、つけたぁぁぁぁぁ……」
影の様に染み出したソレは、奇声を上げながら、人の形へと変わっていく。
直感で分かる、こいつは「敵」だと……。 せめて、リコだけでも非難させなくては……。
「管理者権限発動! 『魂の書庫』、迎撃モー……しまった!」
私は、『魂の書庫』の”自動迎撃モード”を展開しようとしたが思い止まる、管理者以外を自動的に排除する機能ではあるが、ゲストとはいえ「管理者」でないリコも、排除対象になってしまう。
「まさか、こんな所で喧嘩を吹っ掛けられるとはね……」
私は、「管理者権限」を手動状態に戻し身構えた……。
年内に本編に戻したいところですが、上手くいかないですorz
先ずはデスマを終わらせないとにっちもさっちも行きませぬが……( ゜Д゜)キャァァァ