【番外編】「神様がいなくなった日曜日」その1
神ちゃんが、神ちゃんになるまでのお話です
【番外編】「神様がいなくなった日曜日」その1
これは伊勢海助が異世界転生を知る前の話……。
【審判の間について】
異世界転生……、現世で言う”死んで魂は天に昇る”とは違う道筋。
神の不手際とも言われる”通常ではありえない死に方をした者”が通る道。
”魂の循環システム”そう呼ばれる機能により魂は巡る。
……その循環の輪から外れた魂は、無数にある『審判の間』のいずれかにたどり着く。
システムも完璧ではない、本来”通常ではありえない死に方をした者”のみが
『審判の間』に辿り着き、審査を受け『魂の書庫』に記録され、異世界への転生か魂を昇華するかの選択をするのだが、ここ最近、例外もある事が分かった。
偶然に迷い込む魂もあれば、仮死状態で魂だけが迷込むこともある。
極稀にではあるが『審判の間』の存在を知る魂が、引き寄せられる事もあるという。
紆余曲折あるがそれは特異……
…………
……
…
「おねーちゃん! おねーちゃん!」
小さな手が私の袖を引っ張り、私を現実に連れ戻す……。
「ふへ? ん、リアちゃんどうしたのぉ?」
幼稚園に入ったばかりの、年の離れた私の妹のリアリスだ。
かわいいほっぺを膨らまして、ぷんぷん怒っている、なして?
「おねーちゃん、ご本ばっか読んでる! リアと遊ぶって約束したのにー!!」
あー、そうでしたぁ~。うっかりしてましたぁ~。
リアちゃんと遊ぶ約束をしてたのに、テーブル上のパパの資料が目に入ってつい。
怒ってる? ですよねぇ……チラリ……。
ぷくーっとしてて、可愛いですねぇ~、うっとり……はっ!?
「ごめんなさいですぅ、おねーちゃんうっかりしてました、ごめんですよぉ!」
あ~そっぽむいてる、げきおこぷんぷんモードです、あうあう、どうしよぉ、そうだ!
「お詫びに、今日のおやつはホットケーキにしますからぁ……ね?」
「ほんとに? 甘いのいっぱいかかってるやつ? えへへ、ほっとけぇぇきぃ」
どうやら、私のとっておきの”土曜日の楽しみ”を献上することで、許してもらえそうです。
「あー! リアちゃん、よだれ! よだれ!」
…………
……
…
「じゃぁ、何して遊ぶんですかぁ?」
「じゃぁね、じゃぁね、豚さんごっこ!」
「ぶ、豚さん? ですかぁ? 私そんなに太ってないですよねぇ……ねぇ?」
「はやく! はやく!」
「わかりましたぁ、まずはどうすればいいんですかぁ?」
「えっとねぇ……」
…………
……
…
は、ハードですぅ~、まさか豚さんごっこが、こんなにハードだったとは……。
ぐったりと床に突っ伏して、呼吸を整える。 お子様パワー侮れません。
でも、リアちゃんも遊び疲れたのか、お舟をこいでいる……あらあら。
「リアちゃぁん、そろそろおねむするですかぁ?」
ぷるぷるぷる
うや? 激しく首を横に振っているです?
「ほっと……けぇき……まだ……(カクン)……ほっと……(カクン)……」
あらぁ……眠気と食い気が争っていますですねぇ……。
「パパ……ママ……帰るま……で……あした……(カクン)……くぅ……すぴー」
どうやら、眠気さんが勝った模様ですね。
私はリアちゃんを起こさないように優しく抱きかかえ、そっとベッドへ連れて行き、布団をかける。
「おねーちゃんの……むにゃ……」
おやおやぁ? 夢の中でも戦いは続いているのですかぁ?
可愛い天使のほっぺを、ぷにぷにしてその感触を楽しんでいると……。
「おねーちゃんの……おしりって豚さんそっくり……むにゃ……」
がぁぁぁぁぁぁん!! そ、そんな! そんなに太ってな……い、はず?
暫くその場で落ち込むも、直ぐに立ち直り出かける準備をする。
大変です、時間かかってしまいました!遅刻しちゃいます!
「えっとぉ、パパの資料よし! ガスよし! 水道よし! リアちゃんよし!(*´ε`*)チュッチュ!」
可愛い妹の寝顔にキスをして、身支度を終えた私は、そっと家を出て戸締りをしてから、
パパとママの勤める審判の間に向かって駆け出す! もう空は真っ暗だった。
私の両親はこの世界を管理する”神職”の要、平たく言うと神様をやっている。
現世から見れば”異世界”と呼ばれる無数にある世界の入り口の一つだけど、
担当する異世界の管理と、招かれる魂の選定と色々大変です。
特に、審判の間は様々な魂がやって来るので、その役目は重要なのです。
…………
……
…
「トリスおじさん、おはようございますぅー!」
「ああ、おはようリコ、気合十分だな、今日もロイドたちの手伝いか?」
パパの親友の、トリスおじさんだ!
審判の間のある施設を支える”施設管理部”のとっても偉い人で、色々とお世話になっている頼れる人です!
「はいですぅ、今日はめいっぱい頑張って、明日は家族みんなで豚丼パーティをするのです!」
私はガッツポーズをして、気合が入っている理由を口にした。
最近、急に審判の間に送られる魂が増えまくり、パンク寸前になってから、両親は殆ど家に帰れない。 それで、私が手伝っているのです。まだ学生である私は、本来ならばこの場所には入れません。
でも、特例としてお手伝いをさせてもらっています。
「そうか、それは頑張らなくちゃだな?リアも喜ぶだろう、家族4人揃うなんて、滅多になかったからな」
トリスおじさんが、申し訳なさそうな顔をする。
「何言ってるんですかぁ? トリスおじさんも参加ですよー?」
「はぁ? 俺はそんな話、聞いておらんぞ?」
キョトンとするトリスおじさん。
「んふふー、パパがですねぇ~こほん!
『トリスは、強引に誘うと断れない!根はいい奴だからな!』って言ってましたぁ!」
私はパパの声真似をして、トリスおじさんの顔色を窺う……やはり、だめでしょうか?
トリスおじさんは、何故か肩をプルプル震わせてます。
「ロイド……あ、あのやろう、毎回毎回そうやって、俺の都合も考えずに!
あー! わかったよ! 俺も急ピッチで、残った仕事片付けるとするかー!」
トリスおじさんが、やれやれといった感じでいると、
周りの部下の人たちが。くすくすと笑っていた、みんな気のいい人たちです!
「けっ!そうやって笑ってられるのも、今のうちだぞ? おめぇら!俺の明日のために、
残った仕事終わらせるまで、帰れると思うなよ!!」
「「「「「!!!」」」」」
はうぅぅ? 皆さんが一瞬、固まってしましました!
「へん、後悔したって遅いぜ!」
トリスおじさんはドヤ顔で笑っています。
「施設管理部の皆さん、すみませんですぅーー!」
私が皆さんに、深々と頭を下げると。
「気にすんなよ! 頑張って明日は、口五月蠅い施設長のいない、優雅なランチを楽しむよ!」
「日曜の仕事まで、がみがみ怒鳴られたら、テンション下がりますしねー♪」
「はっ? 施設長がいない? 俺、居眠りし放題じゃん!」
「おめーは、施設長がいても寝てるじゃねーか!」
「ちげぇねぇ!」
「て、てめぇらぁ~、週明けの仕事量、覚悟しとけよぉ!?」
皆さんから温かい言葉がって、はぅ!? トリスおじさん! 顔怖い! 怖いです!
……でもどこか嬉しそうです。 温かくて良い職場なのです。
「あ、ありがとうございます、皆さん! トリスおじさんが来れば、妹も喜びます!」
バササッ!
「そ、そうだった、リアがいるんだった、あの、リトルデビルが……」
トリスおじさんが、青い顔をして書類を落としてしまいました。
あーそうでした、以前トリスおじさんがリアちゃんと遊んでくれた時、リアちゃんがトリスおじさんの立派なもみ上げを、ものすごく気に入っちゃって、リアちゃんが毟ろうとしたり、ぶらさがったりとそれはもう……。それ以来、リアちゃんがトリスおじさんのもみあげを、執拗に狙うようになったわけで……。
「施設長のもみ上げも、暫く見納めかー」
「若くて可愛い女の子に迫られて、良かったですね施設長!うふふ」
「まさか、剃ったりしませんよねぇ?そんなに立派なのに?」
「女心を鷲掴みなんて、罪な男ですねー!」
「よ! 幼女ハンター!」
し、周知の事実に!? なんでですぅ? まさかリアちゃんが一人でここに? 幼稚園の送り迎えは私がしてますが、一体いつ? どうやって?
「あーリコちゃん、施設長が自分で話してたんだよ……。まるで、孫を自慢する爺さんみたいにさ! ぷくく!」
表情で読まれてしまったのでしょうか? こっそり教えてくれるスタッフさん。そうだったんですねぇ、ふふ。
「いいから、仕事に戻れ! 俺のもみ上げは、明日までの命だこんちきしょう!」
どっと笑いが広がるも、皆さんはそれぞれの持ち場へと戻ります。ほんとにいい空気です、私も将来はここで働きたいです。
「ほら、お前さんも早く行かんと、明日がなくなっちまうぞ!?」
ぺちーん!
「わひゃぁ!?」
トリスおじさんが去り際に、私のおしりを叩いて去っていきます! せ、セクハラなのですー!皆さんにも笑われてますー!
「は? いけません、私も頑張らなくちゃなのです!」
私はパパとママのいる、審判の間のある最奥へと駆け出した……。
…………
……
…
「こんばんわー! リコリス・フォーレン『審判の間』に入ります!」
「ああ、お疲れさん、今日も頑張ってな! 開門だ!」
施設の最奥に『審判の間』と『施設』を繋ぐ場所に『開かずの門』と呼ばれる大きな扉があり、この扉の先に審判の間への入り口があります。
扉の前の守衛さんたちに挨拶し、扉の前に立つ。 私は息を整え、扉が開くのを待つ。
”ゴゴゴゴゴゴゴ……”
扉が開くと、ひんやりした空気が流れてくる。
”ガゴォォン”
扉を潜ると間を置かず、門が閉じられます。暫く進むと、そこはとても大きな空間があります。
ものすごーく大きい竪穴の中心に、これまた大きな卵の様な真っ白な塊が浮いています。
竪穴の底は真っ暗で何も見えません!とても深くて、落ちたら死んじゃうでしょう……ぶるる。
「おつかれさまですぅー!」
「ああ、リコちゃんお疲れさん!」
要所要所で作業をしているスタッフさんに、挨拶しながら審判の間に続く橋を渡ります。
因みに、スタッフの皆さんは揃って、ゆったりとしたローブを纏っています。
私のいる『現世と異世界の間にある世界』では、神様の望む時代に設定出来るそうで、
中世風のところもあれば、現世と変わらない時代に設定されているところもあります。
私のいるこの世界は、先代の『審判長様』が好きだったという『昭和』に設定されているそうです。
現世では日本という国の、少し古い時代だそうですが、私も気に入っています。
そんな中、私の格好はというと……学校の制服です。
皆さんのようなゆったりしたローブだと、背の低い私では裾を踏んで転んでしまいます。
学生なので、制服は礼服と同じ様なものとされているので、このセーラー服が私の仕事着です!
実は一度、制服をクリーニングに出しているときにワンピースで来たことがあるのですが……。
凄く浮いてる上に、橋を渡る時、下からの突風で全部捲れ上がったことがありました。
「あれは恥ずかしかったです……」
あの悲しい悲劇を繰り返さない様、学生服は無理言って2着用意しています!
因みに突風の吹くタイミングは、計算されていて回避は可能だったと後で知りました。
そうですよね、ゆったりしたローブでだなんて危ないですもんね……はうう。
「リコちゃーん!ボーっとしてると危ないよー! よー !よー!……」
ビュゥゥゥゥゥ!!!
「へ? わ? きゃぁぁぁぁぁ!!!」
考え事しながら橋を渡っていたら、突風のタイミングだったようで、私は突風が収まる迄、恥ずかしい思いをすることになりました。
「もぅ、分かってたのならもっと早く教えてくださいよぉー! よぉー! よぉー!……」
橋は格子状で、壁から審判の間まで筒状に伸びていくため、落っこちるという事はないのですが、つい、しがみついてしまうのです。もそもそと、滅茶苦茶になった髪と制服を整え、審判の間の前に立ちます。
「今日も、いい白だね! ごちそうさん!さん!さん!さん……」
「わざとですかぁ? わざとなんですかぁ!? かぁ!? かぁ!?……」
お互いの声が反響し、やがて静かになっていく。
振り向けば、スタッフの皆さんが何人か集まっていて、いい笑顔でこっちを見ています。
ううー、恥ずかしいですぅ、耳まで真っ赤になっているはずです。気を取り直して審判の間に向き直ります。
コォォォン……
固く閉ざされた扉には、鍵がかかっていて、スタッフさんも入る事は出来ない。
ここは、現世と、この世界と、管理する異世界が交わる場所なので『資格』が無いと、入る事は出来ないのです。
チャリ……
私は懐からネックレスにしている『金の鍵』を取り出し、鍵穴に挿しこむ。
ガチャ、キイイ……
神様から渡された、この金の鍵が『資格』であり、扉を開けることが出来る。私は扉を潜り、審判の間へと入っていく。それと同時に扉は消えて、静寂が戻っていく。
少し進むと明かりが見えてくる、そこが審判の間の中心になり、神様のいる場所だ。
『では、貴方の新しい人生に祝福を……。いってらっしゃい』
『有難うございます、今度は悔いのない人生を送りたいと思います、それであ……』
フォォォォォォン……シュゥゥゥゥ……
丁度、異世界への転生希望者を送り出している所だったらしいので、その場で立ち止まり、待機する。
「貴方の新しい生活に幸あらんことを……、なんちゃって」
目を閉じ、右手を差し出して神様の真似事をしてみる。何度かその光景は見たことがあるが、殆どの人が安らかな顔で転生して行き、心が温かくなる。
「私みたいな、へっぽこさんじゃ、とてもとても神様になんてなれませんけどね」
我ながら、神様なんて高望みし過ぎだなと思う反面、憧れでもある。そんな妄想を振り払って、身だしなみをチェックしながら深呼吸、そして気合を入れる。
「パパ! ママ! じゃなかった……、審判長様、遅くなりましたぁー!」
「やぁ、ご苦労様リコ」
「リコ、いらっしゃい」
純白の神聖さが溢れる様なローブに身を包んだ、両親が出迎えてくれる。
「随分と遅かったから心配したよ、迷子にでもなったんじゃないかってね?」
「そうよね、リコはおっちょこちょいさんだから、また、道を尋ねてきた人と一緒に迷子になってるんじゃないかと思ったわ」
「もう、パパもママも酷いです! それは昔の話で、今は迷子になったりしません!」
パパとママが、私の黒歴史を掘り出します。 恥ずかしいですぅ……。
「ここは私達しかいないんだ、いつもの様にして良いんだよリコ?」
「う、……はぁ、お待たせしました、パパ、ママ!」
「今日も宜しくね、リコ」
パパとママは優しく微笑んでくれた。パパとママは二人で『審判長』をしている、二人で一人の神様なのです。
「お仕事の進捗は、どんな感じです?」
資料をパパに渡した私は、壁に現れた大きな扉に近づく。ママの管理する『魂の書庫』と呼ばれる巨大な書庫だ、ここには、この世界に訪れた魂の記録が全て納められているという。
「ここ最近は、リコが頑張ってくれたおかげで、大まかに転生希望者と昇華希望者との区分けが終わったから、これから訪れる人たちの情報を分けることに専念できるわ」
「これから来る人のを優先です?」
「あはは、ここの所、押し寄せる様に転生希望者が偏っちゃってたから、より分けとか大変だったのよ」
異世界への転生希望者、昇華希望者、それにこの世界への移住希望者と大まかに3つの情報が混在していたので、ママと私は手分けして整理したので、ようやくスムーズに情報が引き出せるとのことだった。
「これから審査を受ける人の”人生の記録”等は本の形をとり、出現する……ですよね」
「そうそう、それをもとに審査を行う為、虚偽などが無いかをここで洗い出すっと、ふふ、リコもすっかり魂の書庫の管理人みたいね」
あまりにも色気がないと思われる、母と娘の会話であるが、私は誇らしかった。だって、何の取柄もない私が、神様のお仕事のお手伝いが出来るんですよ?凄いと思いません?
「所でママ、あのね……」
「「明日の事だね?(でしょ?)」」
ハモった声に振り向くと、何時の間にやらパパ迄書庫の中にいた。
明日は”豚丼パーティ”をするんだったね。
「はい! パパとママの結婚記念日と、リアちゃんの入園祝いも兼ねて家族みんなで、後、トリスおじさんも加えて、みんなで楽しく豚丼パーティしたいのです!」
「あ……」
「え……」
パパとママか気まずそうに、お互いを見ていた。
「まさか、娘に指摘されるとは……うっかりしてた」
「そうね、私も忙しくてすっかり忘れていたわ……母親失格ね」
パパとママが、棚に手を突いて反省のポーズをとっている。
「リコがやたらと張り切ってるから、てっきりリアが寂しがっているから”家族揃って”ってに拘っているかと思ってたよ」
「私もよ、結局、リアの入園式にはリコに学校休んで迄、行ってもらってたし」
更に、ずぅぅんとしたオーラを纏い反省し続ける、神様二人の姿がそこにあった。
「あ、でもでも、私行きたかったんです!パパとママが恋に落ちた場所に!」
「「な、何故それを!」」
物凄く驚いているパパとママ、あれ? 秘密だったのかな?
「えと、トリスおじさんが、昔教えてくれました」
「「あの、もみ上げめ!」」
又ハモってる、本当に息ぴったりです。
「まぁ、それはともかく、リコが頑張ったご褒美だ、そんな豚丼ではなくもっと豪勢なのでもいいんじゃないか?」
「そうよ、学校に、リアの面倒に、ここのお手伝い迄、友達とだって遊びたいでしょうに……欲しいものがあるなら……」
パパとママが、ものすごく申し訳ない顔をする。
「それは大丈夫ですよぉ、私って、ほら、お友達……少ないですし……」
私は、昔から要領が悪いのか友人を作るのが苦手だった、寧ろ話が合わないので苛めにもあった、パパとママが『神職』ついてからはお留守番で、夜もずっと一人だった。料理は掃除は得意になったけど、寂しかったのは覚えてる。
「「いつも笑顔だったから、気付かなかったぁぁぁ!!」」
今度は二人とも床に手を突いて、落ち込み始めたです?
「で、でもでも、パパとママは、私のお願い聞いてくれたじゃないですかぁ」
「「え?」」
ぽかんとする二人、そこまでシンクロしなくても……。
「私が、”弟か妹が欲しい!”って我侭言ったら、リアちゃんを生んでくれました!」
「「あれかぁぁぁ……」」
『神職』になって大忙しのパパとママに会えず、寂しさで泣いていたある日、トリスおじさんの奥さんであるエリナおばさんが、泣きじゃくる私を施設部に連れてきて、パパとママを強引に呼び出した。そこで初めて両親に”我侭”を言った、『一人は寂しい、弟か妹が欲しい』という我侭を……。
「だから、私には友達がいなくっても、何時でも”愛しい天使”に会えるからへっちゃらなんですよぉ?」
パパとママが、ぎゅーっと私を抱き締める。
「ごめんなぁ、明日は、絶対!豚丼パーティしようなぁ!」
「私もごめんなさい、エリナのあの顔を見て、気づくべきだったわ……」
パパとママは泣きながら私に謝罪した、謝られることなんてしてないのに。
小学校5年の頃、リアちゃんが生まれた。ママのお腹が大きくなって行き、パパは一人で頑張ってたので、私もお手伝いをした、ママには無理だと言われたが。『魂の書庫』は私を受け入れてくれた。そのおかげで今では卒なくお手伝いが出来るようになった。
「リアちゃんの笑顔が、私の原動力なのですよぉ」
ママがお仕事に復帰した後は、エリナおばさんの助けもあって、リアちゃんの面倒を見た。子供だった私に”育児は無理だからどこかの施設に預ければいい”と周りは言っていたが、たった一人の食卓で食べるご飯の味を、”寂しい”という味だけは妹に、決して味合わせたくはなかった。
「今日だって、私のホットケーキを楽しみにしてたんですよぉ? その前に寝ちゃったですけど……」
育児は大変だけど、少なくとも”寂しい”なんて感じている暇などなかった。リアちゃんが笑う度、拗ねてむくれる度、泣いて我侭を言う度、私の心は満たされていきました。二人で食べるご飯はとても美味しかったのです、家族みんなで食べたら、どんな味がするのでしょう。
「ロイド! 何が何でも、今日中に明日の分まで廻すわよ!」
「アリス……分かった、こっちも複数対面を頼めるか、事前に聞いてみる!」
パパとママが勢い良く立ち上がり、やる気になっている?
「リコ、明日は、最っ高の豚丼パーティにするわよ! リアが泣いて喜ぶくらいにね!」
「え? ええー?」
ママが燃えています、魂の書庫も呼応するように震えた気がします。
「施設部、トリス施設長、聞こえるか? 今からちょっと無茶をする、付き合え!……」
パパも施設部への通信を行いながら、魂の書庫を後にした。
「リコもしっかりついてきなさい!」
「はい、ママ! サポートは任せてください!」
「魂の書庫へ、管理者権限発動! 現時点より48時間分の情報を提示、昇華希望者を優先、年齢層は”高・小・中・高・高”の割合で流して!事前調査で質問が多い人物、消極的な人物は外してちょうだい!」
ォォォォォォォ……カコン!、ダラララララララ!!
ママの眼前に、おびただしい数の本が並んだ、その本が二つのグループに分かれ、一つが私の元に並ぶ。
「リコ、昇華希望者の、お年寄りを中心に事前審査表の作成をお願い!ぐずるなら後回しでいいわ!」
「は、はい……凄い迫力ですぅ……」
ここに訪れる魂にはシステムにより事前調査がされ、簡単なアンケートがとられる。今私が行うのは、そのアンケートの回答と、魂の書庫で生成された本による情報から『審査』に使われる表を作る事だ。アンケートに答えなかったり、虚偽の答えを言った場合ここで浮き上がってくる。いわば最終チェックとなる。とても重要なお仕事です。
「さぁ、今日はバリバリ働くですよぉ! みんなで豚丼パーティ実現のために!」
リアちゃんの喜ぶ顔が目に浮かんで、思わず顔がにやけてしまいます……えへへ!
………
……
…
……でも……私の、そんな小さな願いは、叶う事はありませんでした……。
………
……
…
随分前に書いたものを、引っ張り出して修正、一日がかりに……。
最初は没にしようと思っていた番外編シリーズで、最初に書いたものとなります。
永くなりましたが宜しければご覧ください。




