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勇者とラスボスの協奏曲  作者: 魔王ドラグーン
9/11

サルガッソ大迷宮

「闘うのかー、がんばるー」byルーン

どうも魔王ドラグーンです

「そうか、今章は戦いだと言っていたな」byヴァルガ

んー

ん?

ちょっと待t「黙っていなさい」byラスタル様

「それでは本編にどうぞ!」byルーン

       幕間  蒼い少女の封

 目覚めてしばらく経ったのにも関わらず、まだ半分夢の中のような目を上げて、ぼんやりと何も無い天井を見上げる

 どうして今に?

 何処からが夢?

 何処までが夢?

 これも夢なの?

 分からない

 いや、分かりたくないのかな

 いっそ、全て夢なら良かった

 いつの間にか強く握りしめていたらしい、掌の中でクシャクシャになってしまった黄色い猛禽の羽根を虚ろに見下ろせば、さっきまでの会話がもう一度頭の中で流れ出す

「何だ、起きていたのか、それなら好都合だ」

 お兄ちゃんが帰って来た

 力なく頭を上げて、お兄ちゃんのその目を見る

 さりげなくボクのベッドに背中を向けて座る

 そのまま、ずっと昔絵本を呼んでくれていた時のような、優しい、でもどこか悲しい声でボクに語り出す

 それと同時に、回想の中の声もどこか似た響きを宿した声で語り始める

「戦技大会のこと、お前はどこまで覚えている?」

『このような事を聞くのは辛いかも知れんが、どうか許してくれ』

 戦技大会

 途中から意識があいまいで、その部分は最初夢だと思っていた

 そう、思い込もうとしていた

 お兄ちゃんの問いに、それらは全て現実だったという事を再認識させられ、少しうつむいて答えを返す

「途中から、何が起きたのか良く分からないけど、最後に、みんなが見えた」

「……そうか、構わん」

『そうか、じゃとしても、これは覚えておろう』

 これは、嘘だ

 本当は、さっき全て聞いた

 その内容、覚えていないはずがない

 あんなもの、忘れられるはずがない

「お前はあの時、シュマルゴアの魂に呑まれて、暴走していた」

『お主はシュマルゴアの手で暴走しておった、お主が最後に見たというのはそれを止めたあやつらじゃろう』

 二つの声が頭の中でこだまする、やっぱり、これは夢じゃなかったんだ

「……そう…………」

「それを止めるためには、こうするしかなかった、これは、分かってくれ」

『そうなったお主をヴァルガが止めたことは、我は構わんと思っておる』

 ボクが、止められなかったから、みんなに迷惑がかかったんだよね

「ごめん」

「止めろ、これはお前が謝ることじゃない」

『お主が謝ってどうする、やろうと思ってやった訳では無かろう?』

 ついさっきと今この瞬間の二つの声に慰められ、それがボクを余計みじめな気持ちにさせる

 これは任されたその気持ちに応えられなかったボクの責任だ

「それでも、ボクが悪い」

「謝ってくれるな、あれを起こしたのは俺なのだ」

『お主が謝るのは人違いという物じゃろう、あれはお主ではどうしようもないのじゃから』

 もう、驚く気力も失せた

 何で、言ってくれなかったの

 お兄ちゃんがそう思ってるなら、そう言ってくれれば、素直に喜べたのに

「俺が、あれを起こした、お前を騙してな」

『ヴァルガが、あれの真犯人じゃ、騙されたお主に罪はない』

 なんで?

 どうして?

 知ってる

 もう嫌だ

 聞きたくない

 知ってるよ、もう知りたくない

「どうとでも恨め、それぐらい覚悟の上だ」

『どうとでも恨め、事前に知っておったというのに、全てが終わった今になってから言いに来るなど、腑抜けの極み』

 お願い、恨んでよ、結局、ボクが無能だったから、起こったこと

 そう、今だって、知っていながら、言えてないでしょ

 怖いから

 恐ろしいから

 ボクが全部知っていて、しおらしいふりをしているだけだって、お兄ちゃんに言えてない

 全部分かってるよって、言ってあげる事が出来れば、どれだけお兄ちゃんの気が楽になるか、分かっていながら

「これだけのことをしておいて図々しいかもしれないが、それでも信じてくれるなら、一度だけ、俺に協力してくれないか」

『ヴァルガとて、悪意でこのような事をした訳ではない、この腑抜けの言うことを今一度聞いてくれるのなら、ヴァルガを許してやってはくれんか』

 いっそ、もう一度全部やり直せたらいいのにな

 それならば、きっと、ボクは

 お兄ちゃんを心配させなくて

 誰にも迷惑をかけることなく

 みんなとも純粋に笑い合える

 でも、その道を選ばなかったのも、ボク

「今決めなくても良い、今一度、俺を信じてくれるなら、いつでも言ってくれ」

『頼む、ヴァルガへの失望は、一時保留にしてくれ、厚顔無恥な真似であるとは分かっておる、今一度、ヴァルガの言葉を聞いてやってくれ』

 何で?

 答えは出ない

 そんなにボクの事が頼りなかったの?

 お兄ちゃんだけが抱え込まなくちゃいけなかったの?

 何で、言ってくれなかったの?

 ……ボクが言えた話じゃない

 お兄ちゃんが頑張ってる中、何も出来ないボクが言える話じゃない

 お兄ちゃんだけを押し出して傷つけて、ボクは後ろで震えてただけ

 この今だって、一番お兄ちゃんを傷つけてるのは、ボクじゃないか

 お兄ちゃんを心配させて、こんなことまでさせた全ての元凶はボク

 そんなボクが、言えた話じゃない

 お兄ちゃんが無言で立ち上がる

 レジーナさんが腑抜け?

 そんな訳無い

 一番の腑抜けは元凶のボク

 ボクがこれほどまでに腑抜けじゃなかったなら、これは起きなかった

 お兄ちゃんが、ドアノブに手をかける

 己に問う

 お前はこのままいつまでも腑抜けのままか?

 否、これをまた繰り返したくはない

 今、変えなければ、永遠にこのまま

 嫌、変える、今立たねば、いつ立つ

 震える足に鞭打って、ゆっくりと立ち上がる

 ドアが開く

 一歩よろめくように前に出て、思わず手を伸ばす

「ぉ兄ちゃん……」

 お兄ちゃんの動きがピタリと止まる、怯えるように、悔やむように

「……何だ」

 掠れる声を振り絞って、込み上がる思いを一言に集約、口にする

「ありがとう」

 静かに言葉を紡ぎ終え、静まる空間

「フッ」

 そのいつも通りの笑みが、これほど幸せに思ったことが今まであっただろうか

「こちらこそ」

 その短い言葉が、これほど心に染みたことが今まであっただろうか

 いや無かった

 あったなら、こんなにも涙が出るはずがない

「っ……!」

 思わずお兄ちゃんに衝動的に抱きつく

 お兄ちゃんの肩でしゃくり上げる

 何でこんなにも涙が出るのか、自分でも分からない

「泣くな、泣いてくれるな、お前に泣いてほしくない」

「ひっ……ぐ、ううう」

 お兄ちゃんの手がそっとボクの頭に添えられ、ゆっくりと撫でられる

 いつまでもそうしていたいと思えた

 お兄ちゃんをもっと強く、強く抱きしめる

 そうしないとお兄ちゃんに二度と会えなくなるような気がしたから

 もう二度とどこかに行ってほしくなかった

 もっと、ずっと一緒にいて欲しい

 大好きだから

       ◇

 その後、何て言うか切り上げどころが分からなくてしばらく抱き合ってた

 その時の事を思い出すと今でも赤面するけど、それほど悪い気はしなかったのはお兄ちゃんには秘密

 だって恥ずかしいもん

 

 

       間章  墜ちた太陽

 軽くドアをノックする

 まあ別にこういう時の作法を知ってる訳じゃないし、ドアをノックするのもなんとなくそれが正しい気がしたからなんだけど

 まあ失礼とか何とか言われたとしても、呼んだのは相手の方だし、ああそうですかとしか言いようがないんだけど

 ドアの向こう側から、はい、という返事が聞こえ、こちらに向かってくる軽い足音が数秒続いて消える

 その足音が私の記憶から怖気と共に一日前の出来事を引きずり出す

 脳裏に響く一つの声を再度思い出し、それが記憶であるにも関わらず思わず身震いする

 『今度またお話ししましょう、それも二人っきりで、ね?』

 甘いのに、どこか無感情で、綺麗なのに、どうしようもなく怖気を誘うその声

 それを私にぶつけた相手が、今ドアを挟んで紙一重の距離にいる

 その事実だけでも冷たい汗が背中を伝う

 ええい、臆するな私、どうせこうなった以上もう退けないんだ

 ゴクリと唾を呑み、意を決してドアノブに手をかける……一瞬前にドアの方が内側に開いた

 虚を突かれてつんのめる私、そんな私をあっけにとられたように眺める視線

 ラスタル……さん?様?がそこにいた

 どうすれば良いのか分からない私と、ラスタル様が数秒見つめ合う

 ええと……こういう時はどう言えばいいんだろう?

 やっぱりどうすれば良いか分からなかったのでとりあえず苦笑しといた

 それにラスタル様が微笑み返す

 ああ、何とか危機は脱したっぽい、良かった

 自然な仕草でラスタル様が椅子に座ったので、私も対面の椅子に座る

 何というか、こういう二人のきっちりとした話し合いみたいなのは、どうしてかは分からないけど慣れない

 私がなんとなくソワソワしていると、それを見たラスタル様が笑顔のまま話し出す

「どうしました?そんなに緊張しなくても良いのですよ?」

 早々に無理難題をぶつけてくる人だな……

 そういえばこの人って心も読めたよな……

 って事は、分かって言ってるのか、性格悪いな

 ん?ならさっきのドアの出来事もわざとかな?

 ……だとしたら性格悪いな……

 私がそんな確信を一人で抱き、それを知ってか知らずかラスタル様がそ知らぬ顔で口を開く

「今日貴女を呼んだのは理由が少々複雑でして、少しショックかも知れませんから今のうちにリラックスしておいた方がいいんじゃないですか?」

「いや知らないよ、そんなこと」

 思わず反射的にツッコむ

 それあえて言うか?普通

 まあつまり性格が悪いんだろうな

 私のジト目気味のツッコミに、ラスタル様はなぜか遠い所を眺めるような目をして懐かしそうに語る

「ああ、良いですね、全く変わっていない」

 ……どういう事?

「どこかで会ったことでもあったの?」

「ええ、今世ではありませんが、前世では多少深い仲だったのですよ」

 前世では、ね

 ああ、面倒事の予感がする

 まあ、杉本君が勇者とやらだったんだし面倒じゃない訳がないんだけど

 気楽に過ごせるのもここで終わりか、と思わずため息をつきそうになりながら、ラスタル様の次の言葉を待つ

「貴女の前世は神です、それも『呪光の先駆』と恐れられた先代の太陽神、その魂を貴女は有しているのですよ」

 へー

 あ、そう

 普通はここで思いっ切り驚いてやる所なんだろうけど、生憎私はそれほど驚かなかった

「おや、反応が薄いですね」

「濃い反応がお望み?なら別の人を選んだ方が良いよ」

 ラスタル様の驚き半分肩透かし半分の声を受け、それに私は平然と答えてのける

 そのまま、自分の本音を口にする

 どうせここで自分の気持ちに反することを言っても、心を読まれてるのならすぐ分かる話だし、この際正直に本心を言った方が良いと思うしね

「まあ、正直な所、自分の中に何が居ようとどうでもいい」

「ほう?何故ですか?」

「自分がそんなすごい魂を有していたとしても、それは自分の意思でどうにか出来る物じゃないんだろうし、そんな悩んだってどうしようも無い事をいちいち悩むのはバカらしい」

「ふむ」

「もちろん、それで何らかの恩恵を受けられるのならありがたく頂くし、逆に何か不都合があるなら対策もするけど、どうしようも無い事はどうしようも無いって割り切るね」

 驚いたように目をぱちくりさせるラスタル様

 それは数秒続き、今度は含み笑いをもらし始める

「フフフフ、本当に変わっていない、ですが、それでこそ太陽神です、見事」

「あ、そう」

 どうやら私の性格は先代のそれと全く変わらないらしい

 それが喜ぶべきなのかどうかは分からないけど、少なくともこの場ではラスタル様の機嫌を損ねなかったんだし、良しとしよう

「むしろ私はそれを知った後どうすれば良いのかが知りたい」

「ええ、教えますよ、と言いたいのですが、貴女がそう思っていても肩書きに寄ってくる輩は多い物です、かく言う私も貴女を陣営に取り込みたくてこのような事を言っているのですから、まずはそれに気をつけて聞いて下さいね」

 まあ、そうだろうなぁ

 私が面倒事と危惧していたのはまさにそれ、前世の私が今世の私にまで影響を及ぼすこと

 私がどれだけ気をつけても、面倒事の種は前世の私によってもうすでに蒔かれているのだったら意味がない

 逆にすでに面倒事があると分かっていれば対処も出来るし多少無理も出来る

「気をつけるだけなら、期待はしないで欲しいけど」

「それは困りますね、万一敵に回したら貴女のような面白い人材を潰さねばならない訳ですし」

 ラスタル様がクスリと笑いながら物騒な事をのたまう

 さらっと私を潰す宣言しないで欲しいな……

 その万一の時に敵に回りづらいから

 まあ、こんな厄介な人を敵に回すのも面倒だし、そんなことはそうそうないだろうけど

「ですが、それさえ気をつけてしまえば、神として覚醒するまでは正直これと言ってする事は無いですね、せいぜい覚醒した際に他の神に舐められないために多少の力を付けておくことくらいです」

「覚醒って?」

「神としての権限を十全に行使できるようになる瞬間ですね、自分の実力が魂をフルに活用するに値するほどに成長すれば起きます、これと言った指標はありませんが、いずれなれますよ」

 楽観的に語るラスタル様、その飄々とした口調を聞いているとなぜか妙に心配になってくるのだから不思議な物だ

「ふーん、なら、正確には私はまだ神じゃないってことね、じゃあまだ神だからって肩書きでゴリ押ししたり出来ないのか」

「あら、そんなことを言っていたらいつまで経っても覚醒できませんよ」

 まあ、何につけても例外はいるものですが、とラスタル様はどこへともなく呟き、過去を懐かしむようにさらに続ける

「先代は神のようで神ではなく、また人のようで人では無い、お互いの狭間に立つような人でした、いつもはマイペースで飄々としているのに、そのくせ妙に頼りになる人でしてね」

 ラスタル様はさっきまでの笑みとは違う、本当に笑みだと分かる表情で語る

 今までの性格の悪さがどこかに行ってしまったようなその態度に、私がえもいわれぬ感傷のような物を抱いていると、すっとその顔から笑みが抜ける

 もはや何も映していない仮面のような表情に変わったラスタル様が、ですが、と続ける

「それ故に彼の死には尚更強い衝撃を受けました、死んでしまえば良いのにと思った時ほど死なないのに、あんな何でもない戦いでポックリとは、肩すかしも良いとこですよ」

 淡々と語るその顔も、瞳も、口調にも何一つ感情を表さないそこに、私はなぜか置き去りにされた子供のような寂しさを見たような気がした

「ラスタル様は、先代のことが好きだったの?」

 気付けば、私はそんなことを聞いていた

 会ったばかりだし、目上の人に当たるのかもしれない相手にこんなことを聞くのは失礼なことかも知れないけど、しかしラスタル様は小さく笑うだけだった

「好き、ですか……彼がいた頃にはもうすでに忘れていた感情ですね、まして、彼が消えてしまった今においては、それを確かめる術はありません」

「そう……」

 その答え、少し笑ったまま返されたそれに、さっきまでの人を食ったような飄々とした態度は無かった

 その様は、まるでラスタル様という雑多な物事の固まりから、周りにこびり付いた様々な物が取り除かれて、その中核の少女だけになってしまったような、そんな風に見えた

 しかし、そんな態度は数秒で終わり、最初浮かべていた笑顔の仮面にすぐ切り変わる

「さて、少し話が逸れましたが貴女にする話はこれで終わりです、貴女からは何かありますか?」

 その薄っぺらい笑顔は、なぜかさっきまでの表情を見た後だとより薄っぺらく見えた

 その薄い仮面の奥に、さっき見た寂しそうな少女の面影がまだ透けて見えるような気がして、言葉を返すのを思わずためらってしまう

「…………」

「……何か?」

「いや……」

「そうですか」

 私とラスタル様の間にえもいわれぬ沈黙が流れ、すっと下を向いたラスタル様がそれを押し破るように口を開く

「まさか……」

「……?」

 顔に掛かった影がラスタル様の表情を覆い隠し、その下からさっきより温度が下がった声がふらふらと漏れ出す

「まさか貴女のような人だとは」

「……何が」

 ラスタル様が何を考えているのか、そもそも何かを考えているのかさえ分からないその声、それは私の心に小さな不安を植え付ける

「貴女がもっと正義を押しつけるような方であれば良かった、それなら私も容赦という物を捨てることが出来た」

「どういうこと……?」

 ふらりとその口から溢れた感情は、失望

「貴女は先代と変わらない、あれほどの面子の中に居るにも関わらずです、このままでは貴女はまた先代と同じ末路を辿る、また生け贄として世界に呑まれてしまう」

「……」

 ラスタル様が失望したのは、私

 私があまりにも先代に似すぎていたから

 だから、また先代のように死ぬと、そう言っているのだ

「……悪いけど」

 そんなラスタル様の大いにごもっともの()()()を、引き裂くように私は口を開く

「私は世界の命運だとか、知りもしない他人の生き死にだとか、そんな物には興味ない、私は私と身内が幸せならそれでいい」

「……!」

「私が動くのは、私のため、勘違いしないで、間違っても世界のためなんてしょうもない事じゃない」

「フ、フフ、フフフフ」

 私は、あくまで私

 誰かのための道具でも、誰かの意思で動く傀儡でも無い

 私

「貴女は……貴女という人は……」

 くつくつと含み笑いをもらすラスタル様

 本当に面白がっていると分かるその口が、皮肉に歪められる

「貴女という人は、なんて()()()()()()()()人なんでしょうか、ここまで徹底されていたのではもはや笑うしかありませんよ」

 なかなかに失礼な事をのたまうラスタル様、その顔にはさっきまでの薄っぺらいそれとは正反対の自重がこもった笑みが浮かべられていた

「神は、法則の部品、いつぞやか誰かが当代の勇者にそう言いました、しかし、太陽神だけは呪われているのでしょうか、二代続いてこれほどまで部品に向かない人材が集まるとは」

「当ててあげようか、その”誰か“って、あなたでしょ」

「大正解」

「やっぱりね」

 分からないはずがない、あれほどの自嘲の笑みが浮かんでいれば、素人でも分かる

 まあ、そう言ってる私こそが素人なんだけど

 すると、ふっと薄っぺらい笑みに戻ったラスタル様が最初の口調に戻って言う

「最後に、これを渡しておきましょう」

 ラスタル様が後ろから片手で何かを取り出す

 ラスタル様が逆手持ちに握りしめているそれは柄頭(つかがしら)擬宝珠(ぎぼうしゅ)をあしらった剣

 その思ったより巨大な剣が無造作に地面に置かれ、何の抵抗もなく床の石材に突き刺さる

 ズン、とい重い音が響き、ラスタル様の横に大剣が突き立つ

 私が思わずビクッとしてしまったのも仕方ないと思う

「これは先代の遺品の一つです、彼が生きていた頃にはこの剣を愛用していました、確か銘は【ゲイボルグ】でしたか」

 ラスタル様が床に突き立って自立した剣から手を離し、懐かしそうに語る

 椅子に座ったラスタル様を越えるほどの長大な刀身、鍔は無い、緩やかな曲線で構成されたやや細身のシルエットはやや古風な印象を与えると同時に、触れよう物なら何でも切り裂きそうな獰猛さと怜悧さを兼ね備えている

「これは少し特殊な構造をしておりまして、柄を除いて全てが純粋な魔力の結晶で構成されているのですよ、その特性を利用して先代は一度分解してから再構築することで様々な形に変形させて使っていました、今のこの姿も最後に使われていた姿であって真の姿という訳ではありません、もっとも、そんな物元よりありはしないのかも知れませんが」

 思い出すように語るラスタル様、しかし私の目はそちらでは無く、隣に突き立つ剣、ゲイボルグの方に釘付けになっていた

 ()()()()()()()()()()()()、と、意思よりも遙か奥にある何かが叫ぶ

 思わずゆっくりと手を伸ばし、その冷たい刀身を指先で撫でる

「…………」

「どうぞ、これはアナタの物です」

 沈黙する私にラスタル様の声、椅子から立ち、その柄を握りしめる

 強烈な懐かしさに痺れながら、床から一息に引き抜く

 その見た目に相応(ふさわ)しい重量が私の手に伝い、その濃密な質量感を無意識の内にどこから沸いたのか自分でも驚くほどの力で持ち上げ、目の前でその刀身を改めて見つめる

 ついさっきまで床の石材を切り裂いていた鋭い切っ先を見つめ、どこかから沸き上がる懐かしさに満足げに笑う

「気に入って頂けたようですね」

「これ、知ってる、転生しても忘れなかったんじゃ無いかな?この剣のことは」

「それは何より」

 笑みを深めるラスタル様、それに私は無言でうなずき返し……少し不安なことに気付く

 どうやって持ち運べば良いの……?

「これ……どうしようか?」

「さあ?確か先代は背中に担いでいたはずですが……太刀帯を貸しましょうか……?」

 そこで一つ思いつき、少し笑ってゲイボルグを見る

「いや、やっぱりいい」

「…………?」

 疑問げなラスタル様、それから目を離し、ゲイボルグに魔力を注ぐ

 思い出したのだ、どうしていたか

 貪欲に魔力を吸い取るゲイボルグにそのイメージを同時に流し込み、確かな手応え

 ゲイボルグから光の粒が散り始める

 魔力が帯になって私に絡みつき、そのまま再度固まって物体に戻る

 私の体にたすきのように掛けられた金属の鎖がものの数秒で出来上がる

 その鎖の背中側に設けられた金具に剣を掛ける

 カチャリという音と共に頼もしい重みが背中に移動する

「ああ、思い出しました、そうしていたのでしたね」

 ラスタル様が懐かしそうに声をあげる、私が無言でうなずく

「で、用件はそれだけ?」

「ええ、そうです、ああ、ですが、この後にヴァルガが全員で話したい事があると言ってましたので、それに行かねばなりませんが」

「ああ、そう」

 軽く返し、身を翻してドアノブに手を掛ける

 その私の心中には最初抱いていた恐ろしさはもうすっかり無くなっていた

 

 

       第十六章  封印

「あ、おーい、どこ行ってたのー?」

「フン、ずいぶんと遅かったですね、一体何を話していたのですか?」

「いえ、少しつもる話がありましてね、お待たせして申し訳ありませんでした」

「ラスタル様が?つもる話?……何か嫌な予感が……」

「いや、何もしていませんよ!?」

「本当か……?何でこんなに信じられないんだろう……」

「嘘だな、間違いなく」

 以上、ラスタル様と佐野さんがホールに現れた時の会話でした

 結局誰にも信じられていないラスタル様なのであった、完

 まあ、そう言う俺も一つも信じちゃいないんだけどね

 それより佐野さんの背中に鎮座する大剣は一体……?

 つもる話……何だったんだ……?

 大剣を背負って帰って来る『つもる話』とは……?

 後で佐野さんに聞いておこう、そうしよう

「それで、今日は何の用でした?」

「ああ、ラスタル様との今回の事にいいかげんケリをつけようと思って、ラスタル様が説明をすれば全て終わりでしょう」

 というかそうあってくれないと困る、そんな声が言外に聞こえたような気がする

 色々あって元々の目的から逸れまくったせいで忘れていたけど、今回の事の発端はラスタル様がヴァルガに良く分からん命令をしたせいだった

 それのせいで俺たちが急遽こっちに連れてこられたり、戦技大会に参加させられたりと、まあ散々な目に遭ってる訳だな

 結局は全てこの人のせいだったのか……

 死ななかったからいいものの、死にそうな目には何度も遭ったし、できればこれ以降はしばらくの間は平穏が良いなー

 まあ、そうはならないんだろうけどなー、と、なんとなくそんな気がする

「さて、今回のことですが……どこから話しましょう?」

「こいつらの転生の経緯と、ラスタル様の命令の話は話しました、というかそんなことはラスタル様も知ってるはずだろ……」

 まあ、最後の方は無茶苦茶になって命令もクソも無くなってたけどな

「まず無茶に付き合って下さった事に礼を言います、ヴァルガもルーンも勇者も太陽神も、皆さんには迷惑をかけました、おかげで今回の命令は完遂されたといって良いでしょう」

 礼、ねえ、あのラスタル様に言われてもむしろ気持ち悪いけどな

 それに、完遂?

 それは最初言ってた、ルーンの力量を見る事と、お人好しを直す事は成功したって事か

 俺から見ればどちらも失敗したように見えるんだが

 まあ、そんなのはただのカモフラージュで、本命はルーンを暴走させることだったのだから、どうでも良かったのかも知れないけど

「完遂ね、確かにあなたの嘘の命令でシナリオ通りにルーンは暴走したね」

「嘘とは人聞きの悪い、もちろんルーンの戦い振りはここからしっかりと眺めていましたよ、もちろん、貴女が護衛に向くかどうかもしっかりと」

 俺の皮肉気味の言葉にラスタル様が笑顔のまま答え、ルーンに意味深な視線を向ける

 その視線を受けたルーンがすっとうつむき、少し空気が重くなる

「正直、戦いの才能は皆無でしたね」

 ラスタル様の無慈悲な一言にその場が凍り付いたように静まる

「生まれが良かったから助かったものの、人並みの力しかなければ護衛がどうのこうの以前に貴女が死んでいる所でした」

 その言葉にルーンの身がすくみ、それを庇うようにヴァルガが声を上げる

「待ってくれ、あの試合は自然じゃない、いくら何でもあれだけで判断するのはおかしいでしょう!?」

「何を言っているのですか?判断材料としてはあれで十分、これ以上はいりません」

 慌てたようなヴァルガの声を遮り、冷厳なラスタル様の声が響く

 しん、と静まった空間にヴァルガの歯ぎしりの音が響き、それに続いて歯の間から静かに怒りが(こぼ)れ出す

「バカげたことを……!」

「待ってお兄ちゃん、もう良いの、ボクが弱かったから起きたこと、後悔はないよ」

 激昂するヴァルガを止めようとルーンが小さく諦めたように声を上げ、それを受けたヴァルガが俺たちを指さしながらさらに怒声を上げる

「お前のことを言ってるんじゃない!お前は良いとしても、こいつらはどうなる!?何のためにお前を地球に行かせたか、分かっているのか!?」

「っ……!」

「こいつらを任せられるのはお前しか居ない、そう思ってのことだ、こんなことでおいそれと変えられていいものじゃない、お前だって……」

 そこでヴァルガが言葉を切り、一時の静けさが場を包む

「こいつらと離れたくはないだろう?」

 ゆっくりと、懇願するように、零れ出す言葉

 それを受けたルーンがそっと目を伏せ、影に隠れたその口から躊躇いが混じった涙声が(あふ)れる

「それは……でも……」

「へえ、それはそれは、すばらしい友情ですことで」

「ラスタル様、余計なことはそれほどに」

「おっと、申し訳ありません」

「でも、ラスタル様、ボクは、ボクじゃ……」

「ふふふふふ、それは、ね」

「ラスタル様!……」

 葛藤に震えるルーンの声、それに曖昧に答えるラスタル様にヴァルガが苛立(いらだ)ったような声を向ける

 その声を無言で受け流したラスタル様が、すっと笑みを消してルーンに視線を向け、冷たく言葉を向ける

「ルーン、貴女に護衛は向いてはいません、これは厳然たる事実、これは分かって下さい、分かった上で貴女に聞きます」

「…………はい」

 ラスタル様はまず冷酷な事実を突きつけ、今にも泣きそうなルーンに、しかしそれでも問うと言う

「正直に、貴女は彼らと共にありたいですか?」

「ぇ……?」

「どうなのですか?」

 その口から出たのは、思いも寄らぬ選択肢

 ルーンの涙を一杯に溜めた瞳がラスタル様に向けられ、それを真正面から見返しながら、ラスタル様は再度問う

「でも……」

「余計なことは考えなくてよろしい、私が聞いているのは貴女の本音です」

「…………ぁ」

「……?」

 ルーンがもう一度うつむき、その頬に、つい、と一筋(しずく)が流れ

「やだ、まだ、もっと、一緒にいたいの、お別れなんて……やだ……」

「ふむ……」

 ルーンの血を吐くようなつぶやき、それにラスタル様は小さくうなずく

「よろしい、その言葉、忘れないで下さい」

「……?」

「確かに貴女に戦いの才能はありません、が、その代わり貴女にはその誠実さがあります、それは時に何よりも強力な矛となり、また盾と成り得ます」

「……じ、じゃあ……!?」

「私は判断に必要な物は見たとは言いました、が、私が貴女の今後を決めるとは一言も言っておりません、私は全てを見、決定し、その上で貴女に選択肢を与えます、貴女は彼らと共に在りたいですか?」

「!……はいっ!!」

「よろしい、これは貴女の下に貴女が選んだ道、彼らと共に有りなさい」

 静まる場、そこに静かに銀の雫が床に落ち、絶え間なく涙を流しつつルーンがラスタル様に飛びつく

「うあああ……ありがとうございます、ありがとうございますぅ……」

 膝の上で泣きじゃくるルーンを優しく撫でるラスタル様、それに安心したようなしてないような表情のヴァルガが話しかける

「戦いの才能がない、と言われた時はヒヤリとしましたよ、これで良かったのですか?」

 腑に落ちない、といった様子でヴァルガが問いかけ、それに少し慈しむような表情になったラスタル様が答える

「いずれにせよ彼らが歩むのは茨の道です、隣に一つぐらい棘の山が増えても良いでしょう、むしろ、それを恐れて彼らの本質を失うようでは本末転倒、これで良いのです」

 ままならない事への諦めと、一抹の悔しさが混じったようなラスタル様らしくない口調であふれた言葉、暗く沈み、膝で泣きじゃくるルーンにも、ともすれば聞いた本人であるヴァルガにすら聞こえてないのではないか、と思えたのに、俺にはなぜかハッキリと、嫌な予感のような物と共に聞こえた

「ぁ…………」

 それがどうしようも無く気になって、しかし、それを口に出そうとすると、喉がつぶれてしまったかのように声が出ない

 俺が何も言えないまま数秒が過ぎ、俺がそれを聞く機会は永遠に過ぎ去った

 


それは、正しいことだったのだろうか

 答えは出ない

 出ない方が良かったのかも知れない

 

 

       第十七章  サルガッソ大迷宮

「ラスタル様ーー!ありがとうございましたーー!!」

「ええ、またいつでも来て下さいね」

 あの集まりでルーンが泣き止んだ後、言うこともなくなってお開きになった後、部屋に戻ってもう一泊し、次の日の朝になるやいなやヴァルガがやらなきゃいけないことがあるとか言って俺たちはすぐ神界を発つことになった

 俺たちが何やかんやで二日泊まっていたラスタル様邸の簡素のようでどこか神聖さを感じる門、そこをくぐった俺たち、そこでもう元気になったルーンがブンブンと手を振りながら叫んだのが冒頭の言葉

 それに軽く手を振るラスタル様が柔らかく返し、ピョンピョン跳ねて進もうとしないルーンの服襟を掴んでヴァルガが引きずるように連れて行く

 首が絞まったのか、うぐっ、という声をもらすルーン、その隣のレジーナさんがつまらなさそうに呟く

「ここに来たんは結局一体何じゃったんじゃ、我がここに来る必要はあったんか」

 少し不機嫌そうなレジーナさんにヴァルガが真顔のまま言い返す

「元はといえばお前が勝手に俺たちの戦いに乱入してきたのが原因だろうが、俺は逃げろと事前に言っておいたぞ」

 レジーナさんの方を見すらせず、ヴァルガが恨み言をこぼし、何をーと言いつつレジーナさんがヴァルガに言い返す

「何を言うか、我が来んかったら今頃この内の誰かが欠けておる羽目になっておったぞ」

「ハ、俺がそんなヘマをするか、むしろ一歩間違って欠ける可能性があるのはお前の方だろうが」

「それこそ我がそんなヘマをするかと言ってやろう、大体お前がこのようないらん事を考えなければ今回のことは起こらんかったんじゃぞ」

「ならお前が俺の立場に立った時に我慢出来るか?俺は出来ないと思うがな」

「何をー!」

「何なんだ」

 いつまでも続きそうなレジーナさんとヴァルガの言い合いを間に入ったルーンがやや強引に止める

「え、えーと、お兄ちゃん、これからどうするの?」

「知ってどうする」

「え?いや、しばらくは何も無いと良いなーって」

「ハ、何もない訳がないだろう、一応この後は自宅に帰るつもりだが、その前に一つこなしておくべき用事がある」

 白い雲のような物が足下の石畳を覆い始め、それにも気付かないほどに強い悪寒が俺の背中に走る

 俺もこっちに来てからの短い期間で学んだ、一体どういう時が危険な時なのか

 その一、ヴァルガが言い出したことは大体危険

 その予感を感じ取ったのか、ルーンも無理矢理気味だった笑みを引きつらせ、恐る恐る問いかける

「え、えーと、それって……何?」

 それを聞いたヴァルガの顔に悪そうな笑みが浮かび、言葉を聞く前に俺の予感が的中したことを察する

 ああ、また何かあるな、と覚悟を決めた俺の前で振り向いて足を止めたヴァルガが笑みを浮かべたまま問いかけてくる

「今まではルーンのことで手一杯になっていたが、折角勇者が帰ってきたのだ、勇者らしいことをしてもらわなくては、そこで勇者に必要な要素は何だと思う?」

「いや、知らんよ」

「そうか、まあ知らなくて当然か、正解は剣だ、神器の内の一つ、代々勇者が使ってきた物で天剣と呼ばれている、その剣を取りに行かなければいくら称号があろうと勇者として格好がつかないだろう」

「ん?伝説の剣的な感じか?」

「まあ平坦な言い方をすればそうなるな」

 あれ?おかしいな?ヴァルガがあんな言い方をしたのに、剣を取りに行くだけ?

 佐野さんも疑問気味だ、俺もそう思う

 絶対におかしい、何か裏がある

 その俺の予感を肯定するように引きつったルーンの顔が視界に映る

「え……もしかしなくても……天剣って言ったら……あそこだよね」

「そうなるな」

「我は行かんぞ」

「構わん、むしろそうしてくれた方が良い」

 むう、どうやらルーンとレジーナさんはどういうことか分かってるらしい

 それも、あのレジーナさんが一も二もなく行かないと宣言するようなことらしい

 あれ?これって結構やばくね

 冷や汗が背を伝う、しかしそれは少し遅かったのかもしれない

 いつの間にか足下を完全に霧が覆っていることに気付いていなかったのだから

 ヴァルガが目の前で足を止めて振り返る、その手には小さく圧縮された複雑な魔法陣

 あ、これはまずいやつだ

 俺は全てを察した、が、それはあまりにも遅すぎた

「その剣なんだがな、どういう訳か勇者しか手に入れることが出来ないらしい、少し辺鄙(へんぴ)な所だが神界からのアクセスも良い、家に帰るついでに取りに行くこととしよう」

「いやちょっと待てよ、それだけなら何でレジーナさんが逃げるんだよ!?」

「ああ、辺鄙な所だと言っただろう、そういうことだ」

「どういうことだよ!?」

 吠える俺、それに笑って返しつつ、ヴァルガが手元の魔法陣を展開する

 魔法陣は大きく広がり、少し離れていたレジーナさんを除いた全員をあっという間に飲み込み、その効果を憎たらしいほど即座に発動させる

「それじゃ、行ってみようか」

「おい!おいぃいいぃぃいぃ!?」

「なんで私もなのおぉ!?」

 ヴァルガの笑い混じりの声が聞こえたような気がしたが、襲う激しい浮遊感にその内容も頭に入らない

 無意識に絶叫する俺の頭に、ふと襲ってきた浮遊感が疑問に変わる

 なんとなく理解しちゃいけないたぐいの事だと分かっていながら、その意思とは無関係に俺の頭は自動的に結論をはじき出す

 いつもの閃光とは真逆の、真っ暗なトンネルのような空間を通り過ぎる事一秒、足下から吹き上がる暴風

 真っ白に染まった雲が真横を流れ、今どういう状況か余さず完全に理解する

 はるか真下に無数に飛ぶ鳥のような物の群れ、その下にはどこまでも広がる黒灰色の大地

 放心する俺、その隣に余裕の表情でヴァルガが舞い降りる

「着いたぞ、サルガッソ大迷宮、今回の目標はここの中央だ」

「……」

 ……

「……おい?」

「……せめて」

「どうした……?」

「せめて落とすなら言ってくれよおぉぉぉっ!?」

 俺の叫び声が響き、それも虚しく迷宮の底に消えていった

 

 

       第十八章  サルガッソ大迷宮

「うわあああああぁぁぁぁ!?」

「ぐおっ!?」

「おわあああああぁぁぁぁ!?」

「きゃあああああぁぁぁぁ!?」

 三人の悲鳴がこだまし、その中に混じって痛そうなうめき声が聞こえた、様な気がしたが俺には今そちらを気にする余裕は無い

 うめき声を上げたのが誰かはまあ、お察し下さい

 そんな悲鳴が起こる事って一体何だって?

 答えは簡単、今俺たちは大絶賛自由落下中である

 ふ、風が気持ちいいぜ

 そんな場違いなセリフを心の中で呟くのも、現実逃避のため

 なにせ雲が漂うほどの高度からの落下だ、流石に現実逃避ぐらい許されるよー

「だああああぁぁぁぁぁ!?」

 あ、なんか全身鎧の見慣れた人が下に吹っ飛んでった、頑張れー

 まあ、ヴァルガには翼があるし、万が一も無いでしょう

 と楽観する俺の目の前で、いつもと同一人物とは思えないほど慌てたヴァルガが叫ぶ

「これはヤバイ!!避けろォッ!!」

 爆砕する寸前まで焦燥が詰め込まれたその絶叫、それが現実から必死で逃げ出そうとしていた俺の意識を強制的に現実に叩き返す

 ハッと気が付く俺、その目の前一面に広がる火炎

「ぉわあぁっ!?」

 と、情けない声を上げながら必死でもがくようにそれを避ける

 急に訪れた命の危機に思わず、何も考えずにその火球が飛んできた方向を見て、直後に後悔した

 これは……見なかった方が良かったかも……

 目の前に広がる火炎の弾幕、とてつもない密度を誇るその威容はもはや火炎の壁に等しい

「「「あ…………」」」

 もはや悲鳴すら上がらない、俺たちを飲み込もうと火炎が迫る

 呆然とその威容を眺めるだけの俺たち、それを火炎が一息に飲み込もうとして、寸前

 それを真下から吹き上がった闇の奔流が真っ二つに引き裂いた

 俺たちの左右を切り裂かれた火炎の壁が流れていき、その熱量が俺に夢ではないではないことを問うまでも無く刻み込んだ

「熱っ!?」

「馬鹿野郎!死ぬ気か!?」

 舞い上がってきたヴァルガが俺にそう焦り混じりの声で叫び、その声がルーンの悲鳴にかき消される

「あ、あれ見て!!また来る!!」

 悲鳴じみた叫びに、その方向を見れば、青空に無数、爛々と輝く火炎の光

 その場になって俺はようやく何が起きているのかを理解した

「……翼竜……?」

「気づいたか、正確には翼竜ではなく鳥竜の一種だがな、死体を漁る腐肉食者(スカベンジャー)で、一匹だけなら大した事は無いが、こうして群れになれば気が強くなって縄張りに入ろう物なら大型竜でも消し炭に変えられる事があるらしい」

 ほうほう、塵もつもれば何とやらなタイプの奴ね

 俺の横でホバリング……いや俺は落ちてるからヴァルガも等速度で落ちてるのか……しているヴァルガが嫌そうな顔でそう語る

 その視線の先には、青空に無数赤い星を撒いたかのような、幻想的な、が、意味が分かっている者には同時に恐怖も誘う光景

 その星一つ一つに目を凝らせば、実際は輝く物を口腔に宿らせた灰色の有翼生物であることが分かる

 即座にスキル【望遠】を発動、紅蓮の殺意を向けるそれを詳しく見る

 距離的に【閲覧】は出来ないが、確かに言われてみれば灰色の毛並みに覆われた骨張ったそれは強そうには見えない、しかしブレスの威力はさっき自分達が身を持って体感したばかりだ

 軽く百は超える鳥竜に無数の火球をぶつけられるという半分詰んだような状況、しかも今度はさっきより明らかに数が増えている、弾幕に厚みが付いた今もうさっきのように一息に吹き飛ばすことも出来ないだろう

 危機感にヒヤヒヤしつつ、隣のヴァルガに問う

「どうするのさ」

「また人任せか、まあ、この数では無理もない、任せろ」

 そしてヴァルガは手元の槍に無数の魔法陣を巻き付け、爛々と輝く紅蓮の星雲を睨み付けて口を開く

「この速度なら次の波を何とか凌げばその次が来る前に地上に降りられるだろう、数は多少増えているがもう一度だけ耐えろ」

 そう言い切り、魔法陣を展開、それが四つに分裂し、全員を取り囲む

「……!来た!!」

 ルーンのそんな声が小さく聞こえ、鳥竜たちが一斉に火球をその口から放つ

 そういえばアレってどうやって飛んでるんだろ、不思議だよな

 ふとそんな事を思う俺の前に立ちはだかる火炎の壁、見た目以上の速度で迫るそれを前にして、ヴァルガが小さく呟く

「覆え」

 と、同時に俺たちの周りの魔法陣が発光、火炎が俺たちを舐める直前にそれぞれを覆う結界に変わる

 火炎が結界を包み込み、結界の強度に安心する暇もなく瞬時に熱が結界を貫き、内部の気温を一瞬のうちに跳ね上げる

 暑い、っていうか熱い!

 反射的に氷結魔法を発動、内部を冷やす、が、それでも温度は容赦なく上がっていく

 焦り、思わず念話で叫ぶ

『お、おい、耐えろってそういう意味か!?』

『くっ、予想以上か、待ってろ、もう少しだ、もう少し耐えろ』

 すぐに念話で苦しそうなヴァルガの声が聞こえ、次の瞬間、一気に下への加速度が増す

 何だ!?と思うこと一瞬、すぐに温度が下がり始めている事に気づく

 少しずつ氷結魔法の効果が火炎の高温を押し返し始め、結界越しに見える炎が薄まり、それを一気に引き裂いて飛び出す

「おぉ!?」

「よし、抜けた!!」

 ヴァルガの叫びが結界越しに聞こえ、周りを見回せば苔や植物に覆われ、風化した四角い岩石柱が乱立している

 四つの結界が空中で速度を落とし、減速するエレベーターのような感覚が俺を襲い、それが収まると同時にトン、と地面に着地し、すぐに儚く砕ける

 一息つき、地面に足が付くことがどれほど幸せなことか実感した後、まだ上空でギャアギャアと騒いでいる鳥竜を見上げる

 そこでふと浮かんだ疑問が自然と口から零れ出す

「あいつら……地上に降りたらもう襲ってこないのか?」

「ああ、あいつらも命は惜しいだろうからな、それにそもそも地上はあいつらの縄張りでもない」

 俺の隣で空を見上げながら、ヴァルガがその疑問に答える

 思った以上になかなか物騒な内容だったが

「命が惜しい……って?」

「まあ、見ていろ」

 空を見上げたまま俺が問い返し、それにヴァルガは見ていろと言う

 すると、俺たちに気付いた数匹の鳥竜が怒りもあらわに俺たちに向かって石柱の間を縫って飛んでくる

「お、おい?」

「まあ、見ていろ」

 危機感を感じ取った俺がヴァルガに問い、ヴァルガはそれにさっきと全く同じ答えを返す

 鳥竜の一団との距離はみるみるうちに縮まり、その距離は灰色の顎から覗く鋭い牙が見えるほど

 思わず俺が身構え、しかしヴァルガは何を思ったのかまだ鋭い目で眺めるだけ

 そろそろ俺が訝しく思い、もう一度ヴァルガに聞こうとその方を向こうとした、その瞬間

 牙を剥きだして襲いかかる鳥竜の一団が、一瞬のうちに掻き消えた

 同時に凄まじい地響き、舞い上がる土煙を浴びながら気付く、違う、消えたんじゃない

 俺たちの前に横たわる、分厚い楯鱗に覆われた人の背丈ほどの太さもある足のない胴体、俺たちのよく知る生き物に酷似した、しかしそれと断定するには、その規格外の大きさが邪魔をする、それ

「うわぁ……」

「……蛇?……」

「ああ、こんなのがいるから奴らは地上には手出しをしてこない、一呑みにされるだけだからな、ここでボーッとしていれば俺たちも危ない、さっさと離れるぞ」

 何が起こったかは単純明快、俺たちを襲おうとしていた鳥竜の一団を、石柱の間、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ、それも俺が掻き消えたと錯覚するほどの速度で

 ズルズル、と怖気の走る音を響かせながら目の前の胴体が動いていく、それを見たヴァルガが身を翻して俺たちを促し、整然と並んだ四角い石柱の間の広い道のような物を歩いて行く

「はは、いつ見てもすごいね、ここは」

「私あーゆーの嫌い、気持ち悪い」

「ルーンは知っているだろうが、ここではこのような奴らは掃いて捨てるほどいるからな、さっさと慣れておくのが吉だ」

「うわぁ……」

 ルーンの半分呆れたような感想に、虫だとか爬虫類系が苦手な佐野さんが嫌そうな顔をしながらちょっとズレた反応をもらし、それにヴァルガが悪そうな笑みを浮かべて無慈悲な事実を告げる

 俺が気絶していた間の事と言い、ヴァルガは佐野さんをおちょくるのがマイブームなのだろうか

 歩きつつそんな会話をしながら脇を通り過ぎていく石柱を眺めていると、それらに猛烈な既視感を感じることに気付いた

 石柱はよく見ると、何らかの意思が働いたかのように雑多なようで整然と並んでおり、それはあたかもわざと道の脇に並べて立てたかのよう

 石柱一つ一つも、意図的にそうデザインされたかのような縦に長い直方体、崩れ落ちた部分を見ると内部はほとんど空洞で、空洞は一定の高さごとに天井のような物で区切られている

 まあ、何が言いたいかというと、完全にビル

 そう思って見てみれば、左右一列に並んだ崩れかけた石柱とそれに挟まれた広い通路は、風化して自然に還る途上のコンクリートジャングルにも見える

 なぜここに、なぜこんな物が、という疑問が頭をもたげ、俺はそれを前を歩くヴァルガにぶつける

「これって……もしかして昔ここに、人が住んでいたりしたのか?」

 その問いに、ヴァルガは必要最低限だけ後ろを振り向いて答える

「分かるか、まあ、分からないはずはないか、俺もお前たちの地球(ほし)を見た時真っ先にこを思い出した、もしやと思ってラスタル様に聞いてみれば案の上、ここは四千年前の文明の遺構、現行の魔力法則が成立する前の物だそうだ」

 四千年前、文明の遺構、太古の遺跡

 男のロマンをそそるワードばかりじゃね―か!

 まあ、小説とかだったら、こういう(たぐ)いのって大抵昔ここは地球だった!!で終わる所なんだろうけど、ここはそう単純な物でもなさそうなんだよな

 大体、本当に四千年前の遺跡なら地球のコンクリートが原形をとどめているはずもないし、それ以前によくよく見ると道路や建物を構成する材質も違う

 道路を覆うのは、地球の黒いアスファルトではなく、長い年月に風化してなお鈍い輝きを放つ金属

 建物も、コンクリートのような岩石質の壁を、所々剥がれ落ちながらも同じ材質の金属が覆っている

 これらの特徴は明らかに俺たちが知っているビルのものではない

「ずいぶん丈夫なのね、四千年もここで迷宮としてあるんだから」

 佐野さんがつぶやき、それにヴァルガが答える

「おそらくは逆だな、それだけ丈夫であったが故に、迷宮へと成れた、その方が正しいだろう」

「こんな物を作るなんて――誰なんだ?ここに住んでいた奴らは?」

「それは俺にも分からん、なにせ文献にも残っていないほど太古の昔の事だからな」

 勝手に俺の口から零れた疑問、しかしそれはヴァルガにも分からないらしい

「四千年前と言えば魔力法則黎明期の神代よりも前だ、記録が残っていたらここの存在よりそっちの方がよっぽど不思議だ」

 ヴァルガが小さく呟き、それをなんとなく聞きながら金属で舗装された道路を歩いて行く

 この道路は一体どこまで繋がっているのか、途中で地平に呑まれる様に消えており果てが見渡せない

 と、そう思っていた時期が私にもありました

 黒い地平線が近づいてくる

 違う、あれは道路の果てだ、だが道路が途切れただけなのなら、その先に少なくとも『何か』があるはず

 しかし、それが、無い、まるでそこで大地自体が途切れているかのように

 が、それを見てもヴァルガは何も違和感を持っていないように歩いて行く

 一体道路が途切れた先で何が起こっていたのか、それはすぐに分かった

 さっき、俺は大地が途切れているよう、と言ったが、それは案外的外れではなかった訳だ

 ヴァルガが足を止める

 理由は簡単、目の前で唐突に道路が途切れて断崖絶壁になっていたらこの世の大体の人間は足を止める

 そう、俺の前に口を開けているのは遺跡を真横に切り裂く巨大な裂け目、いや、U字型に抉られたようなその見た目は裂け目よりもあたかも氷河に削られた谷のよう

 そのはるか下の底を見下ろしてヴァルガが口を開く

「ん?……いないな、存外今日は運が良いようだ、今の内にここを渡っておくこととしよう」

 底を見下ろした後ヴァルガは油断無く周りを――と言うには少し大げさに――見渡しつつ、ほっとしたように呟く

「一体これはどういう状況?」

「ふむ、どう説明したものか……まあ、ここのヌシの通り道だとでも思っておけば良いだろう」

 この訳の分からん迷宮のヌシ……嫌な予感しかしないワードだ……

 それに、もしもこの巨大、というかもはや広大な通路がそのヌシ一人の力で作られたんだとしたら……考えたくもない

 俺が一人でヌシの力に戦慄していると、察したようにルーンが乾いた笑みと共にうなずく、どうやら心当たりがあるらしい

「ああ……あいつのことね……」

「ああ、あいつだな、出来る事なら遭わないに越したことは無いのだが……これからこの先――禁域にも踏み入る事を考えると、覚悟だけでも決めておいた方がいいだろうな」

 禁域って……また物騒(ヤバ)そうな単語が……

「ヴァルガ達でも覚悟が必要なのか……一体ヌシってのは何者なんだ?」

「そうだな、その説明は下に降りてからにしよう」

 そう言って一気に谷の底まで滑り降りるヴァルガ

 その後を【三次元機動】を駆使して追いかけ、俺たちも下に降り立つ

 底に積もっていた石片と砂利が踏みつけられて固い音を立て、それも気に出来ないほど明らかに上とは違う緊張感が俺たちを包む

 まるであたかも自分達以外の全てに見捨てられてしまったかのような疎外感、この通路をあらゆる物が本能的に避けているのが身に染みて分かる

「こっちだ、あまり開けた場所にはいない方が良い、死にたくないならな」

 先に反対側の道の端まで行っていたヴァルガが手招きし、小走りでそこに追いつく

「ここから先では警戒は絶対に怠るな、少しのミスで……」

 そこで不自然に言葉を切るヴァルガ、親指で指さした先には、人間大の影

 何気なくそれに近寄り、そこで全員が声を失う

「……こんな風になるぞ」

 その場にヴァルガの冷たい声が静かに響き、恐怖と戦慄に思わず息を呑む

 そこに立っていたのは人と見紛うほどに、精巧な、いやもはや生々しいと表現してもいい石像

 悶え苦しむかのように、許しを請うかのように、振り向き、迫る何かを手で防ごうとするような姿勢、その顔には隠しようもない極大の恐怖

 筋骨隆々とした体に、全身を覆う革製の鎧、明らかに“狩る”側の人間が、恐怖に顔を歪め、逃げ出そうとする様がそのまま切り取られたような石像

「下に降りたら説明すると言ったな、ここで説明することとしよう、とは言え、説明する必要などないかもしれんがな」

 沈黙を破るように冗談めかしてヴァルガがそう語る、その仕草にも、どこか目の前の石像への哀れみを感じるような気がする

「ここの『ヌシ』は【石化】の状態異常を操る魔物だ、端的に言えばそうなる、一口に魔物と言ってもピンキリだが、【石化】の状態異常を使うのは世界の何処を探しても完全にあいつだけだ、『ヌシ』の通り道のここで石化している事を(かんが)みてもこれは確実に『ヌシ』の仕業だろうな」

 石化

 どんな作品でもほとんど軒並みチート扱いされている属性

 まさか、とは思っていたけどまさか本当にあるのか……

 あれ?でも状態異常扱いなのか

「状態異常なら解除することも出来るのか?」

「お前は石化した状態で魔物からの攻撃を全て耐えきる自信があるのか?」

 俺が思ったことをそのまま口に出したら、ヴァルガの呆れ気味の質問が帰って来た

 うん、これは出会ったら死ねるな

「……でもこの人は壊されてないよね?この人は元に戻せないの?」

 ルーンの質問、しかしそれにヴァルガは悔しそうに首を横に振る

「……無理だ、もうこいつは死んでいる、それに……待て……」

 そこでまたも魂が抜けるように言葉が切れる、ヴァルガがふと顔を上げて呆然と空中を見上げ、その頬に一筋の冷や汗が伝う

「すまない……迂闊(うかつ)だった、すぐにその石像から離れろ」

 ヴァルガが空を見上げたまま、心ここにあらずといった様子で呟く

 そんなヴァルガらしくない様子に俺が何か嫌な予感を感じて一歩後ずさり、同時にピシリ、と何かが砕ける音が響く

 その音にヴァルガが過剰なまでに反応し、石像から一気に跳び退る

 怪訝そうな顔をしたルーンが問いかける

「お兄……ちゃん……?」

「ルーン、離れろ」

 ルーンの不思議そうな声が有無を言わせぬ圧力の籠もった声に遮られる

 ピシリ、どこかでまた音が響く、ヴァルガの顔に険しさが増す

 そこでようやく俺は気付いた、その音の正体に

 石像の頬に稲妻形に走るひび割れ、その奥から感じる、確かな魔力の脈動

「ヴァルガ……!?」

「逃げるぞ!!」

 佐野さんが危機を察したような声でヴァルガの名前を呼び、直後にヴァルガが叫ぶ

 同時に俺たちの体を魔法陣が取り囲み、それに驚く暇もなく強制的にヴァルガの方へと引きずり込む

 振り返れば俺たちとヴァルガの間にいつの間にか鎖が張られている、龍の翼が広がり、そんな俺の視界に大きな影を落とす

 そして翼を開く一連の動きで風を起こし、空へと一気に舞い上がる、鎖で繋がれた俺たちもろとも

 たった一回の羽ばたきでどうやって越えるのか少し心配だった高い崖を飛び越え、そのまま今来た道の反対側の大通りに転がり込み、片手を突いて素早く立ち上がる

 ……空中で放り出された俺たちには目もくれずに……な

「痛ッ!?」

「きゃっ!?」

「わわわわわ!?」

 俺が受け身を取り損ねて悲鳴を上げ、佐野さんが尻餅をついて短く叫び、ルーンが嫌な予感がする声を上げながら落下してくる

 ハッと上を向けば落下してくるルーン

 頭で考える前に反射的に横に転がって避ける

「ふぎゃっ!!」

 踏みつけられた猫のような悲鳴を上げてルーンが一回跳ねてうつぶせに倒れる

 思わず避けたけど……受け止めた方がよかったかな……?

 うつぶせのまま顔だけを上げたルーンの抗議の声が聞こえる

「うー!ひどいー!!」

「す、すまん」

 思わず反射的に謝り、そこに完全に余裕を無くしたヴァルガの声が響く

()れている場合か!!すぐに逃げるぞ!!」

 そう言って俺たちを待ちさえせず走り出すヴァルガ、その仕草には全く余裕がない事が伺い知れる

 慌ててその後ろに追随しつつ、叫ぶ

「どうしたんだよ!急に走り出して!?」

「どうしたもこうしたも無い!!最悪だ!!」

 するともはや怒号じみた返事が前の方から飛び込んでくる

 最悪……?

 今はあのヴァルガをして最悪だと言わしめる状況って事か……?

 一体何のことかと暗い不安に襲われていると、ヴァルガが下を向いたまま走りつつ、厳しい顔で誰に向けてかも分からない言葉を譫言(うわごと)のように呟く

(まず)い……このままでは……」

 なんとなくそれを聞き流していた俺、しかし、その次に繋がった言葉は、なんとなくで聞き逃せるような代物では決して無かった

「最悪……このままでは全滅だぞ……」

 ……!?

 ……全滅…………!?

 どういうことだ……!?

 

 

       第一九章  泥沼と百足

「最悪……このままでは全滅だぞ……」

 見たこともないほど険しい顔をしたヴァルガが前を睨み付けつつつぶやく

 全滅……って……

「おい、どういうことだ!?」

 斜め後ろを併走しつつ、それに問いを返す

 ヴァルガはそれに振り向かずに答える

「どういうことも何も、文字通りだ、“最悪”の場合“全滅”するという事だ」

「お兄ちゃん?……さっきのって……?」

 ルーンが心配そうに問いかけ、それにヴァルガは音も無く疾走しつつ答える

「アレは完全に俺のミスだ、すまない、最悪の場合、『ヌシ』に見つかった可能性がある」

 ここで最悪の事態とは何なのかがヴァルガの口から示される

 また『ヌシ』か……

 『ヌシ』はずっとヴァルガが過剰なまでに警戒していたからやばいんだろうなとは分かっていたつもりだったけど……全滅って……

「ヌシってそんなにヤバイ奴なのか……?」

「俺が全滅するかもと言っているのだ、どんな奴かは推して知れ」

 俺の困惑半分の問いに、ヴァルガが無愛想に返す

「さっき石像の中に居たのは奴の眷属だ、ここで石化している奴を見かけても近づいてはならないのはあいつが出てくる可能性があるからだ、あいつに見つかればそれはヌシにも伝わる、そうなれば為す術無く蹂躙されるのは目に見えている」

 ヴァルガが険しい顔のまま語り、それを一秒かけて理解した俺は素っ頓狂な声を上げる

「って事は……ここにヌシが来る可能性があるって事か!?」

「気付くのが遅い……まあ、その事実に言われるまで気付いていなかったのは俺も同じだが……」

 ヴァルガが困惑と自嘲が混じったため息をつき、すぐに険しい目で前を睨む

 と同時に虫らしい(らしい?)キシャアアァァとでも言えそうな鳴き声が耳に届く

 驚いて俺も前を見れば、そこには顎を掲げて威嚇するダンゴムシとクワガタを混ぜたような全長一メートルほどの多足型の魔物の群れ

 壁に張り付いた奴が三匹、下で俺たちを威嚇しているのが二匹、それを見てヴァルガが呟く

「クラウエントマが……五匹だけか、あいつらはああ見えて素早い、撒いているヒマは無いな、突破する」

 明らかに固そうな外骨格に包まれた魔物――クラウエントマと言うらしい――が見た目にそぐわぬ素早さで俺たちに向けて走り出す、壁に張り付いているせいで少し移動が遅い三匹は俺たちの管轄だろうと剣を抜こうと……した瞬間にヴァルガが速度を上げる

 俺が、は?と思うと同時にヴァルガが単身で突撃、それに合わせてクラウエントマが飛びかかる

 その飛びかかりに合わせてヴァルガも跳躍、いつの間にか取り出した槍鎌を空中で振り抜く

 空中に火花が散り、ヴァルガが着地、両断されたのは飛びかかった方だった

 二つに分かれた死体が緑色の体液を撒き散らしながら落下する

 一匹になった地面の同胞を守るように壁の個体が飛びかかり、しかし大鎌の一振りでいとも容易く真っ二つに切って捨てられる

 鎌を振るったその勢いで手元で槍鎌を半回転、その勢いのまま地面の個体を串刺しに処し、そのまま槍を振り抜いて壁の個体に投げつける

 固い――ヴァルガには通用しなかったが――外骨格同士がぶつかり合い、同胞の死体を叩きつけられた壁の個体が剥がれ落ちる

 死体投げと同時に発射していた暗黒弾をぶつけてもう片方の個体を粉砕し、落下してきた最後に残った一匹を魔力を纏った回し蹴りで蒸発させる

 俺はようやくそこで追いついた、当然ながら制圧はすでに終わっていた

「何を(ほう)けた顔をしている、逃げるぞ」

 そのまま振り向いて一言、不覚にもかっこいいと思ってしまった

 あまりにも圧倒的な実力差、これがヴァルガの本気か……と俺が思いつつ走っていると、そんなことは知らないヴァルガが依然険しい顔のまま呟く

「少し時間が掛けすぎたか……まさか追ってきてはいないだろうが……このままでは拙いかもしれんな……」

 氏、曰く、アレでも時間が掛かった方だとのことです

 最初はどうしようと思ってたんだよ……

「今のでヌシに気付かれたかも知れない、念のため裏路地に入った方が良いだろう」

 そう言ってヴァルガは横道に入る

「あれだけで気付かれるのか?」

「『ヌシ』に気付かれているかどうかは分からん、だがだからといって他の魔物にも気付かれていないとは限らん、死体狙いの腐肉食者、単純に戦いがしたいだけの奴、縄張りを侵されて激昂した魔物も寄ってくる、そうすれば『ヌシ』やその眷属に気付かれない保証は無い」

 走りながらそうのたまうヴァルガ、少し周囲を警戒してみれば、素人の俺でも分かるほど気配がざわめいているのが分かる

 と、急にヴァルガが足を止める

「っ!?お前ら、静かに」

 そう言ってヴァルガがマントを広げる、羽根の間に渡した黒マントがその先の路地の光景を完全に遮る

 不思議そうにルーンが尋ねる

「?……お兄ちゃん?」

「黙っていろ」

 それをヴァルガが小声で制する

「ち、こちらに来るか、仕方ない」

 悔しそうに小さく呟くヴァルガ、不思議に思う俺の視界が瞬時に暗く染まる

「ッ!?」

「黙っていろ」

 そのヴァルガの小声の忠告が耳元でやけに大きく聞こえ、暖かい吐息が耳にかかる

 全身が強く密着する感覚、後ろで息を潜めているのは女子勢二人か

 目の前のヴァルガの後ろを睨む顔が強ばり、その直後、目の前を重力を無視した動きで何かが空中を滑っていく

 それは一目見ただけではただの金属製の球体にしか見えない

 しかし、それがこちらを奇怪なまでに生物的な動きで振り向いた瞬間、それが間違いだった事に気づく

 中央に尖った楕円形にまるで瞼のように開く裂け目、金属板が多重に積み重なって形成されたなめらかに動く割れ目の間から覗く、無機物じみた見た目とあまりにも不釣り合いな生々しい眼球

 何より異常なのが、そんな小さい体の中に潜む魔力が俺を遙かに超えていること、その量はステータスだけなら一万を超えていてもおかしくないほど

 思わず息を呑む、鎧を着込んだバスケットボール大の眼球のような物があたかも点検でもするように周囲を見回しながら目の前を滑って行く

その光景は俺がこっちに来てから見た一番奇怪な物だと宣言できる

それが俺たちの前を通り過ぎる時、一瞬だけ俺と目が合い、しかし何も無かったかのように通り過ぎていく

 路地に丸く落とされたそいつの影が音も無く脇道に消え、しかしヴァルガはしばらく念押しのように待って、帰ってこないことを確認してから心底安心したかのようにため息をついてから立ち上がる

「ふぅ、命拾いしたな」

「今のって……?」

 顔を青ざめさせた佐野さんが問いかける、あんな物を見せられて平然としていられるはずもない

 それにこちらもやや顔から血の気が引いた様に感じるヴァルガが答える

「今のはさっき()()()見損ねた『ヌシ』の眷属だ、恐らくさっきの奴は俺たちが縄張りに侵入したという報告を石像から生まれた奴から受け取ってこの付近を捜索していたのだろう、咄嗟だったが、奴の主感覚が見た目通りの視覚でよかった」

「さっき一体何をしたの?」

「外套に視覚妨害と認知阻害の魔法陣を掛け、それで覆うことでお前たちを隠した、咄嗟にしてはよくできた方だ」

 だからあの目がこっちを見ても何もしてこなかったのか

 まあ、あいつに効く確証は無かったが、と何事も無かったかのように語るヴァルガ、それを聞いて佐野さんが呆れ気味に聞く

「で、もし見つかってたらどうなってたの?」

「さあな、まあ、ここで花火大会を開く羽目になるのは確実だろうが」

 冗談めかしてヴァルガがのたまう

 花火大会って……あんなのとさらに実力が未知数の『ヌシ』……もっと言えば周りの魔物まで加勢してきたら……

「考えたくもないな」

「そう思うなら早く移動しよう、いつまでもここに居る訳にも行かない」

 そう言ってまた歩き出そうとするヴァルガ、それを見て座り込んでいたルーンが音を上げる

「えー、もうちょっと休憩させてよー」

「だが……まあ一度見回った所をすぐ見に来ることは無いか……良いだろう、ここらで少し休憩するとしよう」

「やったー」

 ルーンが歓声を上げ、しかしそうはさせないとでも言うように地面が鳴動する

「え?え?」

「地震……?」

 ルーンと佐野さんが困惑したように声を上げ、そこにヴァルガの声が割り込む

「下から来るぞ!!飛べ!!」

 そう言って翼を広げるヴァルガ、すかさず俺も上に向かって飛ぶ

 LVがカンストしている風魔法の火力に物を言わせて一気に大通りの真上まで飛び、足場代わりに結界を張り、その上に着地、少し遅れてその上にルーンと佐野さんが飛び乗る

 最後にヴァルガが飛び立つ、と、その足下が破裂するように吹き飛び、そこから何かが飛び出す

 空中でヴァルガが錐揉みして飛び出してきた物を受け流し、受け流されたそれが放物線を描いて横の石柱に突っ込み、大穴を開けてその内側に潜り込む

 空中で制動を掛けたヴァルガが油断無く土煙に覆われたそのビルを睨み付け

 そのビルが内側から爆発する

 飛び散る破片に咄嗟に腕で顔を覆い、その土煙を引き裂いて岩ではない何かが飛び込んでくる

 真っ白い鱗、半分ヒレのような短い足、目の無い顔、そして、全て同じ形をした鋭い牙が並んだ顎

 思わず目を見開く、が、それしか出来ずに目の前に広げられた巨大なあぎとを呆然と見つめ

 それが閉じられる寸前、その顎が横からの衝撃に吹き飛んでいく

 巨大な鱗が砕けて宙を舞い、白い蛇と魚を混ぜたような生き物が地面に激しく衝突して奇声を上げる

 目の前の土煙の合間から拳を振り抜いたヴァルガが見えた

「ち、面倒なのが来た、土竜か何かの類いだろう、あいつは土の中を移動する、奇襲に備えろ、あいつが相手では休んでいるヒマなど無い」

 冷静に相手を分析するヴァルガ、休んでいるヒマなど無いの所にルーンが残念そうに「んぅー」とよく分からん声を漏らす

「地上に降りろ、空中で戦えば『ヌシ』に気付かれる」

 ヴァルガが声を上げ、地面に着地する

 それに俺たちが続き、それと同時にこちらに向き直った蛇魚が顎を大きく広げて威嚇し、全身をたわめて力を溜める、突進してくるつもりか

 前に立ったヴァルガとルーンが油断無く身構え、しかし俺の頭はなぜか目の前にある物に集中できない

 頭の中にしこりのように残った違和感、何かを忘れているような……一体何だったか

「来るよ」

 下を向いて考え込む俺の肩を叩いて佐野さんが忠告し、しかし違和感はさらに増す、それはもはや違和感を越えて危機感になりかけているほど

 何だろうか、何か重大なことを忘れているような、取り返しの付かない事をしようとしているような――

 蛇魚が全身をバネのように使い、蛇行しながら一気に走り始める、即座にヴァルガが手元の魔法陣を展開する、あれは暗黒波の魔法陣だ、迎え撃つつもりだろう

 人事のように考える俺、ヴァルガの鋭い眼光が視界に映り

 ――地上に降りろ、空中で戦えば『ヌシ』に気付かれる――

 声が再度頭の中に響く

 そこで気付いた、何を忘れていたのか

「――しまった……」

 ヴァルガが呆然と呟く、俺の視界に、場違いな金属の輝きが映る

 空中にポツンと浮かぶ金属の球体、それを見た俺はまず違和感の正体に納得し、同時に背筋が凍り付く

 蛇魚の上に漂う無機質な眼光、蛇腹の瞳の間から走る見上げる俺たちに一抹の感情も抱いていない事を伝える冷たい視線

「伏せろォ!!」

 無意識の内に本能が叫ぶ、これはマズいと

 石柱の彼方で閃光が爆ぜる、逆光が蛇魚を陰らせる

 さすがの反射速度で全員が伏せる

 ヴァルガが即座に前斜め上に球の一部を切り取ったような結界を張る、透明の盾が斜めに、つまり受け流すように構えられる

 そこにルーンが合わせる、四半秒遅れて俺と佐野さんの結界もそこに加わる

 合計四重の結界、それをなお飲み込もうと蛇魚があぎとを広げ

 

 刹那

 

 様々なことが同時に起きる

 まず一瞬のうちに蛇魚が石化した、巨大な鱗が、顎が、牙が、瞬時に石像へと変わる

 次に閃光が広がった、蛇魚があっけなく木っ端微塵に砕け、遮る物が無くなったのだ

 次に結界が砕け、四散した、四人で張った全力の結界を、まるで、薄氷を砕くように

 次に砕けたのは遮る石柱だった、閃光に中腹を貫かれた石柱が轟音と共に崩れ落ちる

 最後に頭上を染めていた灰色の閃光が消え失せた、何の予兆も無く、道中に舞う土煙

 目の前に積み重なる“蛇魚だった物”の向こうから迸る殺意、今のを食らっていたなら間違いなく死んでいただろう

 見逃された、とは思わない、そう思うにはあまりにも殺意が強烈にすぎ、またルーンの絶望とヴァルガの悔しそうな顔が鮮烈にすぎる

 薄まる土煙の合間からその向こうにいる“何か”が姿を見せる

思わずその姿に息を呑む、()()()()()()()()()、と本能が告げる

「遭わないに越したことは無かったのだが……見つかってしまった物は仕方が無い、あれがこの迷宮の『ヌシ』、【『骸蜒(がいえん)』エグロフナ】、この迷宮の生態系の頂点にして、初代四大天災だ」

 ヴァルガが腹をくくった様に語る、油断無く睨み付けるその視線のその先に、それを迎える眼光

 土煙と瓦礫の先に輝く巨大な瞳、無数の体節で構成された大通りが狭く感じるほどの巨体、そしてそれをくまなく覆う金属の装甲、そこから無数生え伸び、地面を踏み砕く鋭い足

 四大天災、そう言われても違和感が全くないその威容、それはまるで、百足の姿を借りた(うごめ)く要塞

 まるで時が止まったように音が消えた世界の中で、鎧を纏った眼球――エグロフナの眷属――が音も立てずに空中を滑るように集まり、無数の眼球が空中に浮かぶ中、それを統べる様に道の上に鎮座したエグロフナがゆっくりと、しかし轟音を立てながら一歩を踏み出す

 覚悟を決めたヴァルガがそれに応じるように一歩踏み出す、揺るがぬ戦意を見て取ったエグロフナの眷属が一斉に魔力を集め始める

 開戦の合図だ



       間章  出がらしの憂鬱

「ねえ、ロキ」

「何でしょうか?」

「あのコ達、大丈夫でしょうか」

「戦闘力ですか?それであれば心配は不要かと、一応ヴァルガもいることですし、あの鉄ムカデごときに遅れは取らないでしょう」

「…………」

「…………何か?」

「貴方、わざとやっていますね?」

「……それ以外、でしたら、話は変わるでしょう、いかんせん彼らは真っ直ぐに過ぎます、割り切ることができなければいずれ『白』に呑まれるのみでしょうし」

「…………フゥ――」

「…………?」

「甘ったるい世界が、これで変わるでしょうか」

「貴女は違うでしょう、むしろ、その甘さにしかめっ面をしているのですから」

「甘みにはもうこりごりです、このボディに慣れるのもずいぶんと時間が掛かりましたからね」

「そうですか、紅茶でも入れましょうか?」

「コーヒー、ブラックでお願いします」

「承知致しました」

「貴方も従者ならそれぐらい気を利かせて下さい」

「申し訳ありません」

「レジーナさんの元でもそんなことをしているのではないでしょうね?」

「それはまた別の話です」

本編はどうでしたか?

前書きにキャラが進出してる……どういうこっちゃ

べ、別にアレじゃないから、前書きのネタ切れとかじゃないからね

ネタを何とかして作るためにキャラを出した訳じゃないからね

違うからね!!

さ、さて、それじゃ次回予告!!

次章『難攻不落』

天剣を手に入れるために迷宮に踏み入った勇者一同

そんな彼らと、彼らに縄張りを侵されたエグロフナとの戦いの幕が切って落とされる

どこか不穏な空気漂う中、しかし戦いは止められる域をとうにすぎた

エグロフナの圧倒的な戦力を前に、果たして勇者達はどう切り抜けるのか

こうご期待!

それにしても前書きのキャラチョイスは一体……?

ルーンとヴァルガはいいとして、なしてラスタル様……?

これを書いた時の俺に聞いてみたいです

「何か?」byラスタル様

ナンデモナイデスヨー

ハァ、後書きもずいぶんと世知辛くなったもんだよ

よければ評価、コメント等もお願いします

ではまたの機会に


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