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勇者とラスボスの協奏曲  作者: 魔王ドラグーン
8/11

神々の住まう所

な、……ん、だ、……と?

あの、あの戦闘狂共が、闘っていない……?

どうも魔王ドラグーンです

ついに、ついに成し遂げたぞォーー!!

今 章 は 戦 闘 が な い、ヒーハー!!

そんな訳で戦闘が(少)ない本編へどうぞ

 幕間  歪んだ従者の手記

   表紙裏

 私が生まれた事に意味はあるのか

 いつからだろうか、それを考え始めたのは

 しかし答えは出なかった

 これからも、出ることはないだろう

 だが、だからこそ、考える事をやめてはならない

 そのために、記すべき物をこれに綴る

 

   一つ

 始まりには、無があった

「これは……ふむ……厄介な……」

 私の前に立った鎧姿の男がそう一人語ちる

 どうやら彼の視界に私は、入っているものの入っていないようだ

 片手に槍と鎌を合わせたような武器を携え、もう片手に青白い毛並みの狼の死骸を引きずり、感情を感じられない目で私を見下ろすそいつが、不意に口を開く

「お前、来い、どうせここに居続ける訳にも行くまい」

 その一部始終を虚ろな目で見続ける私は、じっとりとぬれた黒髪を重そうに揺らし、弱々しくうなずいた

 

 それが始まりだった


   二つ

 出会いには、冷たさがあった

「……ごめん……」

 そう言って頭を下げる少女

 その顔、ぱっちりした目から人懐っこそうな雰囲気に至るまで自分に瓜二つなその少女、私の親とでも言うべき存在

 フェイン・レイ・ルーン

 呆然と……周りからはそう見えないだろうが……それを見つめる私の目は、どこまでも冷淡だっただろう

 冷たく見下ろす私の目、それを見返したそいつが、瞳に怯えるような色を示してわずかに表情を崩す

 それはどこまでも深い悔恨の色、どう足掻いてもやり直せない、その罪を悔やむ色

 それを見て私は、どこか、憎いような、悲しいような感情を抱いた

 私はこいつが憎い

 それができる力を与えられたならば、私はこいつを容赦なく殺すだろう

 でも、なのに、この時の私は口を開いて罵倒しようとは、なぜか思えなかった

 それをしても、なぜか満たされないような気がして、心の中にただただ胸が空洞になったかのような空虚さが巣くうのが、なぜか怖くて

 だから、私は逃げた

 何も言わず、身を翻して、歩き去った

 

 それが出会いだった

 

   三つ

 復讐には痛みがあった

 鉄で出来た扉

 私の目の前に立ちはだかるその扉に手を当て、鉄の刺すような冷たさを感じつつ、一気に力を込める

 ギイイイ、という長年使われていなかった扉特有の音を周囲に響かせつつ、扉がゆっくりと左右に開く

 まるで異形のあぎとのように開かれた真っ暗な室内、その圧にも気にせず容赦なく踏み入り、辺りを見回そうとし、何も見えないので手に小さな光球を作り出して周りを照らす

 その途端、目の前に照らし出された鋭い槍の穂に驚いて一歩下がり、その柄を握っているのが中身の無いただの甲冑であることに気づき、ほっと安堵の息をもらす

 控えめに室内を照らす明かりだけを頼りに、気を取り直して周囲を見回す

 その瞬間、剣、槍、鎧、弓、鎌、鎖、鞭、…………と種々雑多な武器防具が視界を埋め尽くし、この部屋をあぎとに例えるのならさしずめ大小様々な歯牙に当たるであろうそれらに圧倒される

 私の手から放たれる光を反射してギラリと剣呑に輝くそれらの圧により、思わず僅かに仰け反ってしまい、しかしすぐにここに来た理由を思い出して作業に入る

 触れれば私の体など簡単に真っ二つにするであろう刃によって作られた密林を肝を冷やしながらすり抜けていきつつ、視界を横切る武器を一つずつ値踏みしていく

 途端、カチャン、という音が足下から響き、思わず大きく跳び退(すさ)

 見れば、さっきまで私が立っていたところに剣が横たわっている

 どうやら足下の剣をうっかり踏んでしまっただけのようだ

 そんなことにすら気づけていない自分に少し呆れる

 どうやら、私は自分が思っているよりも緊張しているらしい

 気を取り直し、奥に向けて、今度は足下にも気を配りつつ、進む

 ここ、フェイン家邸宝物庫は基本的に奥に行くほど古い物が置かれている

 それに特に理由は無い、奥から詰めるように物を置いていった結果だ

 そして、この宝物庫においては、奥の物になればなるほど強力な物が増える

 普通昔の物は一部の特殊な物を除いて基本的に性能が低い

 しかし、それは一部の特殊な物を除いて、だ

 遙か昔、それも神代(しんだい)と呼ばれる、記録すら碌に残っていない太古の昔の武具、その時代の物自体がもうほとんど残っていないのだが、そんな数少ない武具がごく稀に破格の性能を持つ事がある

 そういった物は神器と呼ばれ、武器として超一級の物として扱われる

 その性能は通常の武具や、特殊な性能が付いた武具、つまり魔剣すらも遙かに凌駕し、時には戦争において切り札として扱われる場合さえある

 まあ、単純に強力なだけであり、効果の種類はピンキリだが

 今やそういった神器のたぐいはことごとく発見され、また、国家や色物好きな富豪などの手によって厳重に保管されている場合がほとんどだが、それは逆に言えば、保管している場所があらかた決まっているという事でもある

 そして世界でも有数の強力な旧家であるフェイン家が保有していないはずがない

 フェイン家の歴史の長さ、また、フェイン家の存在意義から考えても神器を保有していない方が不自然

 そう思った私はフェイン家の歴史から神器の記述を隅から隅まで調べ上げた

 案の定、あった

 【神弓ダイヤグラム】、黒と白の二色に塗り分けられた長弓、遙か昔、まだ国々とフェイン家の間に相互不可侵の条約が結ばれていなかった頃、その代の巫女と国々の間に戦争が起こり、その戦いで国家側が使用し、勝利したフェイン家が賠償として獲得、それ以来代々受け継がれてきた物だという記述を見つけた

 私のユニークスキルとも噛み合う上、戦争で使用された事や、フェイン家絶世の時代の物だということもあり、効果は折り紙付き

 唯一欠点を上げるならば、昔の物で神器ということで、奥にありすぎて取り出しづらいことか

 なぜそんな物を求めるのか、それは復讐のため

 あの少女に、私の苦しみを思い知らせてやるため

 意味もなく生み出され、生まれたその瞬間から自分が誰かの道具だと否応なく理解させられ、そして恨む相手が目の前にいる

 殺せると分かったのなら、殺すまで

 そのための神器、そのための私の命、そのための私の体、そう定めたのだから

 目の前を流れていく武具の(こしら)えがだんだんと古風になっていき、それに伴って質も上がっていく

 質が上がっているのはフェイン家が昔に戻るほどに強力な勢力だったことを差す

逆に言えば、時代を追う事に弱体化していったということでもある

 私が探しているのはフェイン家が絶世だった頃、最も昔の物、初代が大体二千年前なのでそれほど昔の物、宝物庫の最奥にあるはずだ

 それほどの時を越えても砕けていないことがその神器がどれほど強力かをすでに物語っている

 程なくして武具に錆びや綻びが目立つようになり、もはや原形をとどめていない物、果ては何かあった事が分かるだけの鉄屑の塊に成り果てている物さえ現れ始め、それでも歩いて行くとついに壁が目の前を塞ぐ

 壁に無造作に立てかけられ錆び放題になっている、外では文化財クラスになるであろう武具を横目に、壁に沿って歩いて行く

 私とて何の算段もなしに歩き回っている訳ではない、ダイヤグラムの在処ぐらい調べている

 二つの壁が交差してできた角、この宝物庫の一番奥側の端にそれがある

 まあ、簡単に言いはしたが、実際そこまで行くのは言うほど簡単ではない

 単純に広すぎるのだ、この宝物庫は

 下手をすれば簡単に迷子になるほどには広い

 ファイン家二千年の歴史を収める宝物庫なのだから当たり前ではあるが、それでも冗談だろうと言いたくなるほどに広い

 ごく稀に中でどこからか迷い込んだ魔物が繁殖していたりするほどには広い、もはや小さな迷宮だ

 さらに天井も高いのが広さに拍車をかけており、実際の広さよりも遙かに広く見える

 それほどに広いためわざわざ先に突き当たりまで進んでから壁沿いに進むという判断をしたのだが

 そんなことをボーッと考えながら足を進めていき、ある所を境に剣が弓に代わり、朽ちた大小の弓の中を歩くという状態になる

 と、ふと気配が肌を刺し、咄嗟に弓の間に身を隠す

 あまりにも何もなさ過ぎたことで気が緩み、反応が遅れた

 魔物か、それとも人か、やり過ごすか、できなければ倒せるか、手頃な武器を拾ってこなかったのは失敗だった、私が気付いているのだから相手が気付いていないはずがない、などの思考が頭の中を駆け巡り、冷や汗をにじませながら息を潜める

 しかし、気配は全く動かない、間違いなく気付かれているのに、動かない

 まさか気付かれていないのか、そうでないならもしかして瀕死なのか、食べ物など何一つ無いここなら仕方が無いが、そう(いぶか)しみながら、そっと外に出る

 その時の私は相手が空腹ならば襲って来る可能性の方が高い、出て行くのは下策、ということに気づけていなかった、咄嗟の出来事に冷静さを欠いていたのだろう

 闇の中、私の手元の光球からの光を反射して光る双眸、肉食獣ならではの低いうなり声、何より野生の強烈かつ一途(いちず)な殺気

 (まず)い、私は遅まきながらそう気づき、が、それは少し、しかし致命的に遅かった

 体に無数の切り傷をにじませる蒼い毛並みの狼が、飢餓に命を削られながらじわじわと近づいて来たから

 咄嗟に【閲覧】を使用し、相手のステータスを見る

 強い、それが第一印象だった

 ステータスは私の倍以上、まともに闘って勝てる訳はない

 速度で劣る以上、逃げるなど夢のまた夢、撒くにしてもステータスで劣り、また相手は私を逃せば死ぬ、諦める訳がない

 外に出れば何とかなるかも知れないが、この広い宝物庫の中では逃げ切る前に追いつかれてエサにされるのが目に見える

 なら、闘うのみ

 だが、私は正直言って、弱い

 最初も言ったとおり相手のステータスは私の倍以上、私が勝つには武器の力を借りるより他はない

 が、ここにあるのは弓、矢はない、さらに長い年月に朽ち果て、使い物にならない物ばかりだ

 だからといって、諦めはしないが

 何の策も無しに身構える私、そこにうなり声とともに狼が飛びかかってくる

 飢餓によって逆に洗練されたその飛びかかりをかろうじて見切り、横に転がって避ける

 周囲が弓だけで剣がないのはこの場合救いか、避けた先に剣があって体を切り裂かれるなんていう事故の心配がない

 その私の目の前に、着地した狼の牙が一杯に広がる

 瞠目し、咄嗟に首をひねって避けようとし、狼が避け遅れた長い髪の毛に食らいつく

 髪の毛を引っ張られ、否応なしに床に引き倒される

 (まず)い、即座に起き上がろうとした私の右腕に、容赦ない激痛が走る

「──────!!」

 声にならない悲鳴が私の口から漏れ、どうしようもない死の気配をすぐそばに感じる

 焦って逃げ出そうとする私を狼の足がその細い見た目からは想像できない怪力で押さえ込み、問答無用で縫い付ける

 腕の肉が食いちぎられた、床にじわじわと血だまりが広がっていく

 動脈をやられたのか、流れ出す血の勢いは思ったより早い

 全身から力が抜け、それと同期して体は失血により、心は恐怖で冷え切っていく

 もがこうとするも、血を失った私の体には思うように力が入らない

「ぁ………………」

 脇腹に走る二度目の衝撃と激痛、しかし急激な失血で意識すらも朦朧とし始めた私にはそれすらもぼんやりと薄まった鈍痛と成り果てている

 脇腹を、臓物をあさられる感触、本来ならおぞましいと感じるはずのその感触も、まともに感じすらしない

 どうしようもない眠気、体が重い、寒い

 最後に”あいつ”を、せめてぶん殴ってやれなかった事だけが残念だ

 と、”あいつ”の幻覚を残して、閉じられようとした私の目の、その前に

 

 蒼光

 

 幻覚ではない“あいつ”が映った

「やめろぉーー!!」

 そのどう見ても子供にしか見えない体躯から蒼い光点を(こぼ)しつつ、私の恨む相手、ルーンが古弓を砕いて躍り出る

 木片を撒き散らしながら滑り込んだその眼光が、倒れた私と、その上の狼をハッキリと捕らえ

 と、右手に握られた刀が霞み

 全身に走る怖気に従い本能的に身を伏せ

 頭上を蒼色の威力が駆け抜け

 血飛沫が舞う

 生暖かく赤黒い液体が私の顔を濡らし、服を赤く染める

 恐る恐る振り返ってみれば、口から上下に引き裂かれた狼の死骸

 私の物と混じったおびただしい量の血が床を染め上げ、狼の死骸がその上に横たわる

 かなり無残な光景、しかしそれは私に不快感よりも先に、終わったという安心感を与えた

 肩で息をする”あいつ”が恐る恐る私の横に歩き寄り、切り裂かれた狼を見て酷く安心したようにその場にへたり込む

「……良かった……間に合った……」

 そう言いつつ、私の方に目を向け、私の体に刻まれた傷を見て、うわっ!と悲鳴を漏らす

「ご、ごめん……ぜんぜん間に合ってなかったね……待って、すぐ治癒魔法を掛けるから」

 そう言って、”あいつ”が手元に魔法陣を作り出し、控えめに発光、暖かい感覚が傷口を包む

 助かった、ということをこの上なく自覚させる暖かみに気が緩み、心の中の、仇に助けられたという複雑な感情が思わず疑問詞の形になって口からもれる

「何で……」

「ん?」

 その無意味な単語に耳ざとく反応した”あいつ”がいつもの顔で私の顔を見上げる

 その顔に、自分の行動に何の疑問も持っていなさそうなこの顔に、なぜかひどく(いら)ついて、思わず口調を強くして聞き返す

「何で、何で私を助けたの……私なんて…()()()()()()()()でしょ……」

「ぇ……」

 激しい怒りの籠もった怨嗟の声を受けた”あいつ”が、驚きで手元の治癒魔法を霧散させつつ一歩後ずさり、再び傷口に戻ってきた激痛を感じながら、目尻から涙をこぼしつつ語気を荒げて問いかける

「いっそ、いっそ見捨ててくれれば良かった!……そうすれば私はお前への恨みを揺らがせることはなかった!」

 腕の傷口から再び血が溢れ出し、それにも気付かずになお叫ぶ

「お前が!私への半端な慈悲を向けるたびに!私の恨みは毎度軋む、その痛みがお前に分かるの!?」

 軋む、揺れる、私の心は暖かみを知り、その度に己の激しく燃える刃に傷つく

 違うのだ、決定的に、私が心の奥底で求める暖かみと、私が為そうとしていることは

 怨嗟に乾き、ひび割れた私の心に、”あいつ”が向ける暖かみは、自分でも気付かぬうちに劇薬となって注がれ、染み込み、溜まっていった

 その痛みは、なぜかあいつへの恨みには変わらない、ただただ私を()(さいな)むだけ

 その苦しみを吐き出す私、それを無言で見つめるあいつが、恐る恐る私に手を伸ばし、私は私に触れようとするそれを勢いよく払いのける

「来るな!!」

「何で?」

 鋭く振るわれた右腕、それに触れる寸前で手を止めたあいつが、私のさっき言ったのと同じ疑問詞をもらす

「何で、何でキミは暖かさを受けちゃダメなの?誰だって、幸せに生きるのが一番でしょ?」

 素朴な疑問、それは自分が思うよりも深く私の心に突き刺さった

「ボクにはキミを生み出した責任がある、償いなんて言うつもりは無い、けど、せめて、せめてキミには幸せに生きて欲しいんだよ」

 払いのけられても、あいつはもう一度手を伸ばす

 それをもう一度拒絶する気力すらもない、腕に小さな手が触れる感触、もう一度暖かい癒やしが私の傷口に染み込む

 さっきまで溢していた涙とは違う種の涙が頬を伝い、思わず疑問詞が口からこぼれる

「何で……」

「分身とか、本体とかなんて、関係ない、ボクにとっては、誰だって大事な人」

 そんな無意味な単語にすら反応し、覚悟のようで、どこか悲しみを含んだ、憂いのような言葉を、あいつは紡いでいく

 ああ、ダメだ、私はそれを、聞いてしまった

 さっき狼に襲われた時にすら感じなかった、諦めという感情が心の中に表れ、しかし、なのに、なぜか、どうしようもなく安心できた

 

 それが、私の、復讐だった

 

   

「あれ?そういえばどうしてここにいるの?」

「武具を取りに、神器ダイヤグラムを」

「?何であんな物を?」

「付近の魔物の退治に使えないかと思って」

「じゃ、いいや、このままとって帰ろ」

 ……一つ追記、こいつ気付いてない、確実にバカだ

 これでは意趣返しにもならないが、ここでだけ言っておこう、バーカ、と

 

 

       第十四章  闇と光(分かたれた物)

 緩やかなまどろみ

 視界全体を覆う白

 ゆっくりと目を開く

「ぅ…………」

 途端、激しい頭痛に苛まれ、うめき、額に手を当てつつゆっくりと起き上がる

 っ痛~

 収まらない頭痛に顔をしかめながら周りを見回す

 見れば、一面の白

 壁も白、天井も白、床も白

 遅まきながら自分がベッドに寝かされていることに気付くが、それもマットレスからシーツまで全て白

 病院を思わせる純白の光景、色を失ったその中に佇む圧倒的な違和感を放つ黒

「起きたか、また酷い顔だな、あまり良い目覚めでは無かったようだな」

 足と手を組んで椅子に腰掛けるヴァルガだ

 俺に向けて大欠伸(あくび)をすると、ふう、と言いつつ軽く首を回しつつ組んでいた足を降ろす

 このようなところに来ても今だ律儀に着続けている鎧が小さく音を立て、立ち上がると同時に大きく伸びをする

 軽く羽ばたきつつしきりに首を回しては欠伸をもらすその様をぼんやり眺めているとある意味恐ろしい推測が立った

「まさか……」

「んぁ?」

 三度目の欠伸をしたままの状態…つまり口を開けたまま…声を出したために妙な声で返事を返すヴァルガ

「お前昨夜寝ていなかったのか?」

「そうだが、どうした?」

 俺の少しジト目気味の質問に、なんてことなさそうに答えるヴァルガ

 そして四度目の欠伸、大丈夫か?

「いや、寝ろよ」

「お前らが死ぬかもしれんのだ、そんな中で寝て居られるか」

 ああそうか……俺はあの時……

 ヴァルガが俺を気遣ってくれていた事にちょっと感動しつつ、あの時の俺の状況を思い出して乾いた笑みを浮かべる

「俺……良く死なずに済んだな」

「フン、あの後かなり苦労したからな、恨み言の一つでもぶつけてやりたい気分だ」

 ああ、ヴァルガが頑張ってくれたんだな

「ありがとう」

「ふ、それはこいつに言ってやれ」

 俺の感謝にヴァルガは軽い笑みで答え、俺の通路を挟んで向かい側のベッドを親指で指さす

 他人のベッドを覗くのはちょっと失礼かな、と思いつつそこを覗き込む、と

 !!

「佐野さん!……」

「ああ、こいつが散々心配していたぞ、おかげさまでお前を軽く放り出すなんてことができなくなった、もっとも、お前が起きる前に疲れて寝てしまったが」

 向かいのベッドに横たわっていたのは、佐野さんだった

 すーすーと軽い寝息を立てつつ、ベッドの中で丸まって寝ている

 ちなみに同じベッドにはルーンも寝かせてある

 起こしてしまわないよう少し声を小さくしつつ、ヴァルガに問いかける

「心配してくれてたって?」

「死ぬんじゃないかとか何とか騒いで、とにかく厄介だった」

 俺の疑問に少し呆れ気味に答えるヴァルガ

 昨夜寝てないのとあいまって完全に目が死んでる

 何があったんだ

 自分が昏睡している間のヴァルガの事がやや心配になっていると、ヴァルガがこちらに向き直って話しかけてくる

「まあ、助かると分かった後も言わないでいたら、案の定いつまでもアワアワしていた、それはやや滑稽ではあったがな」

 そう言ってヴァルガはクックッと悪役のような笑い方をもらす

 ヴァルガ……性格悪いよ……

「それはそれとして、だ、もう立てるだろう、さっさとこの部屋から出るぞ」

 いや、早いな

「もう少しこうしてたらダメか?」

「そうしてやりたいのは山々だが……」

 ?

「お前との話をそいつには聞かせたくないからな」

 ヴァルガはそう言ってルーンを優しく見る

 ……大体察した

 空気が鋭く変わるのを感じ、同時に気を引き締め、答える

「分かった」

「助かる、念のためだが、歩けるな?」

「ああ」

 闇龍シュマルゴア、か

 確かにルーンには聞かせたくはないだろうな

「大丈夫か?」

「ふ、お前が言うな」

 俺の心配に返す言葉も、どこか疲れたような気配が混じる

 ヴァルガ……

「でも今夜は寝ろよ?」

「善処する、が、二時間で許せ」


 

 

       第十五章  神々の住まう所

 ヴァルガが扉を開け、その後に俺が続く

 音もなく扉が閉められ、白い壁で覆われた通路を無言で歩く

 無音の廊下に二つの足音だけが規則的に響き、その音が否応なしに俺の緊張感を高める

 間違ってはいない、これからされるであろう話を思えば、むしろ多少の緊張はしておいた方が良いかもしれない

 やはり病院にしか見えない廊下を少し歩くと、こちらも白を基調とした飾りすぎないホールが目の前に広がる

「着いたな、座るか?」

 ヴァルガが周囲を見回しながらそう言い、それに無言でうなずく

「分かった」

 そして何もない虚空から急に椅子を二つ取り出し、カン、という音と共にタイルで覆われた床に軽く離して置く

 軽く手で促され、座る

「さて、何から話そうか……」

「闇龍シュマルゴア、あいつをけしかけたの、お前だろ?」

 座り込み、少し考え込もうとしたヴァルガに、容赦なく今回呼んだ理由であるはずの話題を叩きつける

 案の定、ヴァルガは驚いたような表情をして一瞬固まり、怪訝そうに疑問の言葉を投げかけてくる

「なぜそれを……?」

「あいつが暴走し始めた時、会場の誰も危険に気が付いていなかった、それなのにレジーナさんだけは一目散に逃げていた、あれ、お前の入れ知恵だな?」

「…………」

 沈黙するヴァルガ

 だが、それに俺は無表情に追撃を入れる

「それだけじゃない、シュマルゴアが暴走し始めた時、お前は一目であれがシュマルゴアだと見抜いた、あれ、事前に分かっていたからじゃないのか?」

「っ…………」

「まだある、ローレンスが言っていた……」

「もう良い、分かった、呼ぶまでもなかったな」

 俺の容赦ない質問の連打に、諦めたようにヴァルガが首を振る

「認めてくれるか?」

「ああ、認めよう」

 そこでヴァルガはためらうように一拍おき、静かに言い放つ

「あの暴走の犯人は俺だ」

 やっぱりな

「ふ、切れる奴だとは思っていたが……まさか見破られているとはな、いつ気づいた?」

「お前が一切躊躇なくシュマルゴアに突っ込んだ時だ、何かがおかしいと思った」

「ふ、あのような行動は俺らしくなかったか」

「それがローレンスの言っていたことで全て繋がった、お前の仕業だとな」

「やはり俺は隠し事が苦手らしいな、嘆かわしいことだ」

 自嘲気味に言うヴァルガ

 その表情には進みたくはないが進まざるを得ない悲しみがあった

 が、悪いが、同情してはやれない

「なぜ、あんな事を」

「ふん、お前には分からん」

「質問に答えろ」

「ふん」

「答えろと言っている!」

 俺の詰問にも鼻を鳴らすだけで答えようとしないヴァルガ

 思わず声を荒げて問い詰める

「お前はなんであいつにあんな仕打ちを!」

 椅子から立ち上がり、ヴァルガを問い詰める

 静寂の中俺が一人荒い息をもらす

 すると、それを破るようにヴァルガが重々しく口を開く

「もしも」

 喉一杯に詰まった苦しみを吐き出すように、ゆっくりと

「もしも、お前が、お前の大切な人を守る為に、その人を傷つける必要があったならばどうする?」

「?」

「俺はその人のために己を捨てた、それだけだ」

 その人を守るため?己を捨てた

「どういうことだ」

 訳の分からない事を言うヴァルガに困惑した内面をそのままに問い返す

 するとヴァルガは苦笑しつつ、さらに続ける

「フッ、分からないだろうな、お前には、何の躊躇いもなく他人のために尽くせる、お前には」

「は?」

 今更開き直るなよ

 全く反省していないかのようなヴァルガの態度に再び怒りが再燃し、その矛先をヴァルガに向け、怒鳴る

「あいつが、お前のことをどう思っているか、知ってんのかよ!!」

「…………」

 無言

 しかし、俺を眺めるヴァルガの目には暗闇が宿るだけ

 俺はさらに続ける

「あいつはいつだってお前のことを慕ってた、お兄ちゃんって!そんな妹への仕打ちがアレか?それはないだろ!」

 俺の口から出たルーンの事についにヴァルガが驚いたように顔を上げ、そして気圧されたように目をそらす

 そして、数瞬の間続いた沈黙、それを破り今度はヴァルガが立ち上がり、必死の声を張り上げる

「ならば、ならば俺は、どうすればよかった!?……俺に、あの時無かった選択肢を、どう選べば良かったというのだ!?」

 その顔にはさっきまでの自嘲とは違う、怒りに混じった悲しみが溢れていた

 睨み合う俺とヴァルガ

 お互いの視線が交錯するその場に

「はい、そこまで、お二人とも怒らないで下さい、折角のお茶もこれでは美味しく頂けないではありませんか」

 響く声

 全身が総毛立つ

 ヴァルガに向けていた視線が、強制的にその奥に引きずり込まれ、その先の通路の闇に恐怖そのものを幻視する

「ヴァルガも、あまり小難しい言い方をしないで下さい、相手に言いたいことが全く伝わってませんよ」

 声が再び響く

 聞く者に言葉を強制的に一字一句刻みつけるような、凄まじい存在感

 いつぞやか声だけを聞いた時、声だけで俺にどうしようもないとはどういうことか、それを理解させた、その威圧感

 ただの声だけで、俺たちの前に立ちふさがった部隊を壊滅させたその威圧感

 ヴァルガに向けられたその言葉を聞き、ヴァルガが後ろを振り返る

 その二人の視線を受ける中

 暗闇の中、笑みだけがまず、白く、現れる

 そのあまりに無邪気すぎる笑みに思わず一歩後ずさり、後ずさったその足が椅子の脚に当たって軽い音を立てる

 笑みに続き、白い指が、それに軽く握られたティーカップが、白いワンピースが、豊満な胸が、腰まで届く黒髪が、抜け出して

 さっきの笑みを崩さないまま、人離れした美貌の純白の女神が、そこにゆっくりと、現れ出た

 全てが凍ったかのような静寂

 それの中、一人優雅に歩みを進める白い女性

 それを見て、最初に動いたのはヴァルガ

 見たくない物を見たかのように顔を歪め、引きつった苦笑を浮かべる

 それを見て白い女性が存在感を消し、子供のように頬を膨らませて不平をもらす

「もう、何ですかその顔は、折角神らしい登場を演出したというのに」

 あ、それ自分で言っちゃうんだ

 さっきまでの風格はどこへやらの白い女性に、どこか脱力する

 そんな俺を傍目にヴァルガがまた虚空から椅子を差し出しつつ白い女性へと話しかける

「ラスタル様、一体何をしに来たのですか?」

 ものすごく迷惑そうな表情のヴァルガに、白い女性改め、ラスタル様が僅かに笑みを浮かべながら答える

「何をするも何も、ここは私の家ですよ、自分の家を他人にどうこう言われる筋合いがありますか?」

「いえ……ありません」

 ラスタル様の問いかけにヴァルガがやんわりと否定したのを最後に、再度沈黙が降りる

 待てよ……私の家……?

 俺がその違和感を口に出す前に、その沈黙をラスタル様が、さて、とあっさり破り、先に口を開く

「気にしないで話を続けて下さい、私はただの面白そうな話をしていると聞きつけた通りすがりの神ですので」

「気にしないで、とは……俺はともかくこいつがすぐ気にしないなんて出来るはずが……」

 ラスタル様のあまりにも身勝手な発言に、俺を見ながら呆れたように苦言を呈するヴァルガ

 なかなか話し始めない俺たちを見たラスタル様から急かすように少し覇気がもれ、その剣呑な雰囲気に思わずぶるりと身を震わせる

 その様を見たヴァルガが諦めたようにため息をつきつつ話し始める

「ハァ、全く面倒な、それで、何だったんだ?お前が言いたかったのは」

 何が言いたかったか?

 そんな物決まっている

「なぜあんな事をした?それが知りたかった、お前の理由で納得できれば、それでいい」

 静かに、まだ少しラスタル様の方に気を向けつつ語る俺

 それを見たラスタル様が口を挟む

「納得出来なかった場合は?」

「ぶん殴る」

 容赦ない俺の断言、それにラスタル様がぷっと吹き出す

「だ、そうですよ、これは下手なこと言えませんね、ヴァルガ?」

「それを貴女が言うか、むしろぶん殴られるべきは貴女の方でしょうが」

 ラスタル様がからかうようにヴァルガに話しかけ、それをヴァルガがぶっきらぼうに返す

「仕方がない、こうなったら全て話す、か、ラスタル様はそれで良いのですか?」

「構いませんよ、元より口止めした覚えもありませんし」

 疲れたようにヴァルガがラスタル様に問いかけ、それをラスタル様が微笑みながら快諾する

 何というか、構わないと言っているその笑みが暗に言うなと言っているように見えなくもないが

「なら良いか……お前にはシュマルゴアがどういう物か、ローレンスのバカから聞かされていることだろう」

「ああ、可哀想な奴だなとは思った、それが?」

「あいつを、あんなモノを、ルーンに持たせるのか、お前はそれで良いのか」

「そ、それは……」

「俺とて兄だ、妹にあんなモノを持たせ続けるのはいくら何でも我慢しきれなくてな」

 ちょっと待て、それは百歩譲っていいとして、重要なことが抜けてるぞ

「何でそれがアレに繋がる?」

「まあ落ち着いて俺の話を聞け」

 この状況で落ち着けるか

 話は読めないし、ラスタル様からの圧は酷いし、落ち着ける訳がない

 後者はこの話には全く関係ないが

「シュマルゴアをルーンが持っているのは今始まった話ではない、お前達に会う前からずっとルーンはあいつをその身に封じていた」

「ならどうして」

「俺もずっとおかしいと思っていた、変えてやりたいと思っていた、しかしそれでも出来なかったのは理由があったからだ」

 話が飛んだ

 理由?

「俺のステータスは見たな?」

「ああ」

「ならその中に【封印】のスキルはあったか?」

 そう言われて、俺の頭の中にヴァルガのステータスのユニークスキルの項が頭に浮かぶ


・ユニークスキル

  【眷属召還】【変幻自在LV30】


「そう、無い、無いのだ、俺は生まれつき【封印】のスキルを有していない」

 確かに、思い出してみればそうだ

 でも、なぜ?

「妹のルーンにはあるのに……どうしてお前には……?」

「フェイン家には度々こういう子が生まれるらしい、俺もそういった子の一人なのだろう」

「なら……」

「そういうことだ、俺ではあいつの代わりにシュマルゴアを受けてやることはできない」

 あまりにも慈悲の無い現実、それを吐き出してもヴァルガはなおも声を止めない

「そのために今まで俺はルーンを見ても手をこまねいている事しか出来なかった、が、今は違う」

「私が居ますから、ね」

 ヴァルガが言葉を切ると同時にラスタル様が笑みと共に言葉を継ぐ

「……とは?」

「神の権限は何か分かるか?」

 また話が飛んだ、何なんだ

「知らん」

「だろうな、神の権限は多岐にわたるが、それらは全て魔力法則の維持と改善のためのものだ、言わば魔力法則のエンジニアだ」

 維持と改善?

「って事は神は魔力法則を書き換えることさえ出来るのか!?」

「限定的だが、可能だ、そしてラスタル様は神だ、ならばラスタル様の力を持ってすれば俺のユニークスキルの問題すらも何とかなるのではないか?」

「結論から言いましょう、何とかすることは、可能です」

 ヴァルガが問題提起し、それをラスタル様が力強く肯定する

「と、言っている、それはもちろん、無償でというわけではないが」

「私も出来るなら無償でやってあげたかったのですがねぇ」

「どういうことだ?」

「俺が良くとも、世間はそれを許さない、という事だ」

 世間が許さない?

「四大天災を封じる役目は代々のフェイン家の巫女の役目、二千年続いてきたそれを恣意で容易に侵す訳には行かない、それも昔の一国をも超えるほどに強力だった頃のフェイン家ならばいざ知らず、何をするにしても周りの機嫌を伺わなければならないまでに弱体化した今ならば尚更だ」

「自分で宿す器さえも選ぶことすらできないっていうことか」

「そうなる、それ故に俺にシュマルゴアを移すにしても大義名分が必要な訳だ」

「そのために、ルーンを?」

「シュマルゴアが暴走した事例は多いが、どれも不完全なまま終わっている、が、それは宿す器の側の抵抗力が高く、同時に相性も良かったがためのこと、その点、ルーンは抵抗力も低く、同時にシュマルゴアとの相性も良くはない」

 淡々と語るヴァルガ、その無表情な目からは何の感情も読み取れない

「やるならば、今をおいて無い、不完全だからのほほんとしていられたのだ、完全な暴走が起こればいくら他国でも首を縦に振らざるを得ない」

「そうか、なら、もうルーンを悲しませるのはアレで終わり、ということでいいか?」

 俺のさらなる質問、それを聞き、ヴァルガが再びうつむき、小さく呟く

「……悲しまないはずがない」

「……?」

 血を吐くかのようなヴァルガのつぶやき、それに連なるように言葉がヴァルガの口からこぼれる

「分からないか、いくら俺が引き継ぎが可能な状況を作ったところで、()()()()()が承知を言わなければ、全て無意味だということが」

「私の権限でルーンからシュマルゴアを取り出すことも不可能ではなかったのですが……それだけはヴァルガが頑として拒みましたからね、全く解せないことです」

 うつむくヴァルガ、その横で笑みを崩さぬままラスタル様がやれやれと首を振る

「当たり前だ……あいつが知らないのでは意味がない」

「おや?妹に自分の頑張りを知って欲しいのでしょうか?貴方らしくありませんねえ」

「余計な軽口は止めて下さい、話が進まない」

 ヴァルガのつぶやきにラスタル様が笑いつつ挑発するように軽口を言い、それをヴァルガが嫌がるように否定する

 ラスタル様のその言い方にどうしようもなくまた腹が立つ

「あんたは、一体こいつのことを何だと思っているんだ!」

 無音の空間に俺の声だけが響き、それを受けたラスタル様が

「はて?どう思っているか、ですか、難しいですね、何も思っていないのならどう答えれば良いのでしょうか」

「何も思っていないって!?」

「ええ、こう言ってはなんですが、このような苦しみ()()()()下界では珍しい物ではありませんし……」

「珍しいとかどうとかの話じゃないだろ!」

「なら、貴方はどうしろと言うでしょうか?よもや神ならば全て救って見せろ、と言いはしませんよね?」

 俺の怒声を受けてもラスタル様は笑み一つ崩さない、その在りように一瞬俺がたじろぎ、そこにラスタル様がさらに言葉を挟む

「貴方は何か勘違いしていませんか?神とは人では無いのですよ?思い悩む心は人の物、法則の部品たる神には無縁です、私が求めるのは強く、遠く、届く手足のみ」

「勇者よ、怒らないでくれ、これは俺も承知の話だ、下手な慈悲をかざす妖精より、純粋に力を求める邪神の方がよっぽどやりやすい」

 ラスタル様の問いかけに絶句した俺に、加えてヴァルガの懇願を受け、もはや怒る気すらも失せた

もちろん、納得出来てすらいないが

 微妙な空気に包まれた場を晴らすように、ヴァルガがやや無理矢理に話をつなげる

「勇者、納得出来たか、俺から話せることは全て話した」

 ヴァルガの問い

 それに無言で俺は席を立つ

 そして背を向けながらそれへの答えを返す

「納得出来るか、そんなもん、だがぶん殴るのは保留にしとく、お前を殴っても意味がない」

 それへの答えを待たずに俺はホールを後にした

 他に選択肢がなかった?

 ふざけんな、あって選べなかっただけじゃないか

 どこにも向けようのない怒りが燃えるのをヒシヒシと感じながら

 

 

       間章  九割九分九厘の愚民と一柱の神、世界はそれで出来ている

「良かったですね、殴られずに済みましたよ」

 白いホールに響く一つの声、その後に続くクスクスという笑い声が無駄に俺の神経を逆撫でする

 俺の口からギリッという歯ぎしりの音がもれ、それを耳ざとく聞きつけたそいつがさらに嘲笑うように口を開く

「おや?どうしました?怒らせてしまいましたか?ヴァルガも忙しいですね、謝ったり怒ったり、と」

 その声が俺の耳に届いた時、ずっと必死で押しつけ続けていた何かが腹の奥底で切れた音も同時に聞こえた、気がした

 振り向き様にその忌々しい顔面を全力でぶん殴る

 ガッ、という鈍い音が響いたような気がして、しかし、その顔面はなおも口を開く

「虚しいですね、弱いというのは、己のいかな感情すら、力にねじ伏せられるだけなのですから」

「そもそもねじ伏せられる感情すらない奴と、どちらが虚しいかな、ラスタル様」

 振り向いた先にいた人離れした美貌、その真っ白な頬は、その儚い見た目と裏腹に俺の拳に僅かな変形してすらいない

 もちろん、その下の体は小揺るぎもしていない

 その様が、どこまでも忌々しい

「どうしますか?この際ついでに日頃の恨みも私にぶつけてみますか?」

「…………」

 顔に張り付いた仮面のような笑みを揺らがせすらせず、ラスタル様が誘惑するように口を開き、それを俺が黙殺する

 睨み合う、いや、俺が一方的に睨むこと数秒

 ゆるゆると力を抜き、拳を降ろす

「どうしました?この程度では貴方の鬱憤を欠片も晴らせてすらいないでしょう?」

 キョトンとしたラスタル様が俺に本当に分からないという調子で問いかけてくる

 その顔をもう一度睨み返しながら、汚物を吐き出すようにそれへの答えを返す

「勘違いしないで下さい、俺が恨んでいるのは貴女ではない、貴女を殴り飛ばしてやれない自分の力だ」

 それを聞き、さらにラスタル様がフフフフと謎めいた笑いをもらす

「良いですね、なおも力を求めるその貪欲さ、圧倒的な力を見ても諦めようとしないその心、実に良い」

「……失礼する」

 俺を舐め回すように睥睨しながらの言葉、その銀の瞳の奥から何か、剣呑な光が一瞬漏れ出す

 その光に久方ぶりの捕食される獲物の恐怖を思い出し、思わず目をそらす

 そのまま背を向け、その場から立ち去ろうとした俺の背中に、ラスタル様の声が再度掛けられる

「ああ、そういえば、一つ聞きたいことが」

 無視して立ち去っても良かったが、どうせここからの出口は全て結界で塞がれているのだろう

 無視したならば絶対にここから出してはくれない

 経験から導き出された反応しなければならないという結論に心の中だけでため息をつき、足を止め、背を向けたまま一言だけ答える

「何か?」

「いえ、大したことではないのですが、貴方が勇者に全て話したと言うので、つい気になって」

 大したことではないのなら、今聞くか?

 そういえばそういう性格だったということを思い出してまた心中でため息をつきながら、次の言葉を待つ

「全て言った、という割には、ヴァルガ、貴方、動機を話していませんね?何故シュマルゴアの精神汚染について話さなかったですか?」

「動機は話した、もっとも、全てではありませんが」

 ラスタル様の俺への質問、それに俺は半分だけ答える

 それにラスタル様の目が細められ、なおも質問を続ける

「だとしても、ですよ、貴方がシュマルゴアのことを話さなかったのは大いに意外でしたから、ね、教えて頂けると嬉しいのですが」

 俺が言おうとしないのを面白がるようにラスタル様が口を開き、今度は実際にため息を吐きながらそれに答える

「言ったところで何が出来ると?」

「ほう?」

「シュマルゴアの精神汚染はどうしようもない問題、しかしそれを知れば勇者はそれをどうにかしようと足掻くはずです、絶対にどうしようもない壁をどうにかしようと足掻くことほど、虚しい事は無い、そう思ったまでの事」

「なるほど」

 ラスタル様が納得したように目を閉じて首を縦に振る

 それで満足しただろうと思った俺が今度こそ立ち去ろうと歩き始め、しかしその背にさらに声が掛かる

「貴方も、結局は勇者と同じだった、と、そういうことですね?」

 その言葉は、俺の足を止めるのに十分な破壊力があった

「とは?」

 思わず背中越しに疑問を返す

 それに答えたのは、ラスタル様の声ではなかった

「『お前たちはいつでもそうだ、他人に任せる事を怠惰として認めず、己の分を越える物をも受け止めようとし、その果てに傷つくのはお前ら自身のみ』……でしたね」

 それは俺が昏睡する勇者に掛けた言葉、それがもう一度ラスタル様の手元から流れ出していた

 思わず振り返った俺を真正面から見据えながら、さらにラスタル様が続ける

「何を違うことがあるのでしょうか?シュマルゴアという己の分を遙かに越える物を、他人に任せようとせず、貴方だけが受け止める、全く同じではありませんか」

 その見事に俺に返ってきた言葉を悠々と紡ぐラスタル様、それを直視するのも辛く、目をそらし、足を速めてホールを出ようとする俺

 その背中に、さらなるラスタル様の言葉が深く突き刺さる

「さあて、一体どうするつもりなのでしょうか?己の身に余る穢れを溜め込んで、そうして得た傷を全て己だけに封じ込めて、破綻が来ないとでも思っているのでしょうかねえ?その人は、ねえ、ヴァルガ?」

「っ!……失礼する」

 何かに追われるようにホールから駆け出す俺

 クスクスという笑い声だけが、ホールを出た俺の耳にいつまでも響き続けていた


 

       間章  金の煌めきは獅子か子猫か

 どこか古典的な石畳の広い道路、その真ん中に翼を羽ばたかせつつ着地する

 商店街に当たる場所なのか、活気の良い店や露店の姿を傍目に見ながら立ち上がる

 ザワ、と周囲が沸くのを感じる

 それが招かれざる客を目にした時のそれであると本能的に理解し、隠そうともせず顔を(しか)めながら、大きくため息をつく

「やれやれ、何故こうもここの民はいつ来ても判を押したように同じ反応しかせんのか、解せんのう」

 小さく呟くように文句を吐き出し、そのまま道路の真ん中を歩いて行く

 ふと、視界の端に串焼きの露店が映り、それに向かって歩みを変える

 その店の周りにいた客が後ずさるように我の周りから離れていく

「おいそこの、それを一つくれんか」

 店主をぞんざいに呼び、串焼きを指さして頼む

 我を取り囲む客の一人が顔をしかめて唾を道に吐き捨てる

 ふむ、少し邪険にしすぎたか

 フン、ま、どうせ行儀良くしても気味悪がられるのは同じかの

 すぐに出てきた串焼きを椅子に座って食らいつつ、意味もなく彼方に見える城を見る

 と、その白い壁面に小さく黒い点が映る

 ハン、もう気付かれたか、忌々しい

 その黒い点はみるみるうちに大きくなり、そして狐のような仮面を付けた人の形を取って我の前に着地する

 そして男は仮面を外さないまま()()()()()()()()()()()()話しかけてくる

「レジーナ様、探しましたよ、勝手に出て行かれては困ります、すぐにお戻り下さい」

 城から飛んで来たその燕尾服に身を包んだ奴の、あたかも苦労したような言いぐさを、フン、と鼻で笑い飛ばす

「何が探した、じゃ、貴様が来たのは我が城を出てから一分も経っておるまい、それでも探した内に入るんか」

「……ラスタル様がお呼びです、お早く」

 探したもクソも無かろう、という我の文句を受けて、しかし男はそれに答えようとはせずさらに我を急かす

 ……まあ、そんなもんか、こいつが我を逃がす訳もなし

 ハァ、もう少し時間が稼げると思っておったのじゃが

 前ここに来た時は四六時中あの城の内に閉じ込められておったからのう、今回はそれを見越して分身まで城下に置いておったというのに、一分も稼げんか、まあ、城から出られただけ上々というものじゃが

 前回外に出られたのは出て良いと言われた時限り、まるで囚人のような暮らしを強いられたからのう、本当に辛かった

 串焼きをやや急いで食いちぎると、串を屑籠(くずかご)に放り込み、代金を店主に投げつけ、しぶしぶ立ち上がる

 我が飛ぶのを待っておるのか、中々飛ぼうとせん男に、呆れ半分の内心をあらわに言葉をぶつける

「案内せい、よもやこの我にラスタルを自力で探せと言うのではあるまいな」

「は、勿論です、こちらへ」

 そう言い、ようやく飛び立つ男

 やれやれ、ここの住人は閉鎖的なのみならず気も利かんのか

 背に猛禽の翼を生やし、男の斜め後ろを追走する

 そのまま無言のまま飛びつつ、静かに相手を分析する

 気には食わん、が、こいつ、給仕なんぞやっとる割にはやり手じゃな

 今でも我をまともに案内できておるのが良い例じゃ

 今の我は全速力ではないが、そこそこの速度で飛んでおる

 その我を疲れ一つ見せずに同速度で案内出来ておるのじゃから、少なくともルーンほど、上は分からんが、それでもかなりの速度のステータスを持っておることが分かる

 平均をとると、男のステータスはヴァルガほど、いや、それ以上か

 ま、ただ者ではないのは分身に惑わされもせず我を一分ほどで捕まえてのけた時点で分かっておった事じゃが

 捕まえるだけならあのラスタルとかいう奴に言われて我を捕まえに来た小物でも出来るが、今のこれを見るとそうではないんじゃろう

 どうせあいつの性格を鑑みれば、ラスタルが命令したのは我を連れてくるところまで、我が逃げたことに気付き、見つけて、連れ戻すところは全てこいつの独断なんじゃろうな

 となると、我はラスタルの給仕ごときにすら劣るんか、ちょっとショックじゃな

 我が少し落ち込みつつ飛んでおる内に、開け放たれた大窓、我が飛び立った所が目の前に迫っておった

 男が減速しつつ窓に滑り込み、その後に翼をたたみつつ我が着地する

 白を基調とした落ち着いた廊下、そこに降り立ち、もう必要なくなった翼を消し、歩き出した男の後について歩みを進める

 物理的に押し潰されそうなほどの気配を感じる、近いな、ラスタルは

 まあ、これほどの気配を垂れ流しておるのじゃから、我じゃなくとも近くにいるということは簡単に分かるじゃろうがな

 もはや圧力そのものと化した気配を感じ、そしてそれに強く顔をしかめ、男に言葉を吐き捨てる

「は、舐められたものじゃな、我の相手は分身で十分か」

「……」

 しかし我の吐き捨てた言葉に給仕は無言

 ……フン

「……無視か、給仕のくせして、殊勝な」

 バレておらんとでも思っておるんか、凄まじい気配で塗りつぶしておるつもりかも知れんが、我が以前会った本体とは僅かに魔力の波長が違う、そこにおるのは間違いなく偽物じゃな

 大方、これほどの気配を垂れ流しておるのも偽物じゃからじゃろう

 それを問うた我の言葉、それを黙殺し、男が気配の流れ出す部屋の扉を叩く

「はい、どうぞ」

 間もなく返事が返り、男が扉を開ける

 それにより倍増した気配に気づかぬうちに少し仰け反り、それに一拍遅れて気付いて苦い顔をしつつ、せめて気丈に見えるように心掛けつつ部屋に踏み込む

 両手でティーカップを握ったラスタルが全てを見透かしたような目でそんな我を眺める中、その何とも言えぬ引力のような物を放つ目を見ないように心掛けつつ円卓に向かい、向かい側の椅子にドカリと座り込む

 本人は無意識で垂れ流しているのだろう膨大な魔力、それによってやや粘性を増したような空気、それから伝わるドアを閉める小さな音、それにすら反応して心拍が上がる自分を否応なく自覚して、その怖気を不機嫌そうに鼻を鳴らすだけで吹き飛ばそうとし、案の定失敗する

 そんな我の虚勢を知ってか知らずか……恐らく前者じゃろうが……ラスタルが軽く目を細めつつ、にこやかにその端整な口を開く

「久しぶりですね、十四年ぶり、でしたかね?」

「フン、出来れば二度と会いたくはなかったんじゃがな」

 社交儀礼的な言葉を威圧と共に口の端に載せてきたラスタルに、我は少しでも気丈に見えるようにお返しの威圧と共に恨み言を返す

 その両方を薄紙のように圧倒的な気配のみで吹き飛ばし、しかしラスタルははぶてる子供のように顔を歪める

 そしてその威圧を引っ込め、当てが外れたとでも言いたそうに続く言葉を放つ

「いつの間にそんなに腹芸が出来るようになったのですか、面白くない」

「貴様らのように変化を知らん連中には分からんじゃろうが、普通十四年あれば腹芸ぐらいそこいらの町娘でも覚えるわい」

 腹芸、か、やはり我が怖じ気づいておることは分かっておったか

 その上で、我がオドオドしておる所を出しておらんことが面白くなかった、か

 そんなあくまで手のひらの上で踊らされている事が分かったみじめな気分をラスタルの言う所の腹芸で押し殺し、さらに吐き捨てるように軽口を返す

 その我の口調ににじむ嫌悪にラスタルの笑みが深まる

 何が面白いんじゃ、と思う我を尻目に、その三日月型に薄く開いた口からラスタルが面白そうに我に問いを投げかける

「貴女がずいぶん私達を嫌っているようなので少し放置してみたのですが、どうやら逆効果だったようですね、そんなに串焼きが不味かったのですか?」

「クソ不味かった、何より進歩という味が無い」

 ラスタルの面白がるような口調に、我は迂遠な皮肉を吐き捨てる

 実際は結構ヒヤヒヤしながらなのじゃが、それを表に出すような我ではもはやない

 そんな我の反応が、内側はともかく上っ面の反応だけでも面白くなかったのじゃろう、面白くなさそうにラスタルが小言を溢す

「むう、それにしてもこれは当てが外れましたね、ヒマだから呼んだというのに、これではヒマがつぶせないではありませんか」

「…………?まさか我を呼んだ理由はそれだけか?」

 我の少し呆れの混じった問い、それにラスタルは何を当然のことをとでも言いそうに返す

「ええ、ヒマでしたから、勇者には嫌われてしまった様子でしたし、太陽神は少し扱いがデリケートですし、ルーンは病室まで行くのが面倒ですし、消去法で話し相手が貴女しかいなかったのですよ」

 堂々とそんな事をのたまうラスタル、じゃがそんな様も見過ぎてもう慣れてきたのか怒りではなく呆れがやってくる

「ふう、まあ良い、我もちょうどヒマじゃったからの」

 我の呆れを込めたつぶやき、それも興ざめだとでも言いたそうにラスタルが頬杖を突きながらぶっきらぼうに言う

「やれやれ、ここで激昂の一つでもすればかわいげもあるというのに」

「ふん、ヒマも何もどうせ貴様()()()()今頃素知らぬふりしてヴァルガとでも話しているんじゃろうが」

 我の恐らく本質を突いたであろう言葉、それを聞いてラスタルの顔から薄っぺらい笑みが消える

 それは我の言葉が奴の心に確実に届いた証拠、それに心の中だけで密かにガッツポーズを決め、ビックリしたと顔が語っているラスタルを見ゆる

「驚きましたね、まさか貴女にさえ見破られるとは、今回の分身はちょっと自信があったのですよ?」

 いつもの笑みを消してそうのたまうラスタル、意表を突かれたと言葉には出さないままに語るその面に少し溜飲が下がる思いをしながら、どうよとばかりに我は胸を張る

「ヴァルガの動向をこれほどまでに察することが出来るとは、さすがは元彼女と言った所でしょうか」

 その我の胸にラスタルが放った言葉が容赦なく突き刺さった

「んがっ!?かか彼女!?何を言うか、そ、そんなことないわい!!」

 彼女!?違っ、あやつとはそんなふしだらな仲ではない!!

 ラスタルの思いもせぬ言葉に我は慌てて言いつくろうが、そのラスタルの顔にはいつも通りの、いやそれ以上に質が悪い笑みが戻ってきていた

 必死で冷静さを取り繕うとする我の意に反して、顔がどんどん赤熱していくのを感じる

 やらかした、そう我が気付くと同時に、やたらむかつく笑顔に変わったラスタルの追い打ちが我に刺さる

「ああ、そういえば片思いで終わってしまったのでしたか、そういう意味では確かに元彼女ではありませんですね」

 た、確かにそうじゃが、そうなんじゃが

 他に言い方という物はなかったんか……

 ラスタルの言葉に完全に負けたと実感した我が、うつむいたまま睨み付けながら恨み言を吐く

「さっきからわざわざ彼女に”元“を付けたり、あえて片思いと言ってみたり……貴様の性根も全く変わっておらんな」

「ええ、そうですね、貴女もヴァルガのことに関して過敏な事だけは初々しかった頃から全く変わっていない、それには心底安心しました」

 全く進歩していない、という事を言外に言い含めるように最後に放った皮肉も、我に対する、お前も同じだ、という皮肉で返される

 全く、我はいつまで経ってもこいつには勝てんままなのかのう……

 見ればもういつもの笑みに戻ったラスタル、それを見て無意識に、はぁ、とため息をついていると、ラスタルが余裕の笑みのまま口を開く

「さて、どうしますか?おしゃべりはこの辺にしておきますか?」

「どうした?我との話がそんなにつまらんかったか?」

 まあ、どうせこの有利なまま話を終える魂胆じゃろうが

 それを分かっていて一矢も報えぬ我が身が憎いわ

 ハァ、もう敵わんという事は嫌と言うほど実感した、どうせこのまま話しておっても好きなようにいたぶられるだけじゃろうし、第一こいつとはもう話したくもない

「いえ、貴女がずいぶん帰りたそうにしていたので?もっと話したいという意味なら大歓迎ですよ」

「フン、言われずとも帰ってやるわ」

 帰りたそう、か

 ハッ、どの口が言うか、我に決定権など最初から無かったくせに

 無言で席を立ち、さっさと部屋を出る

 と、ドアノブに手を添えた所で、ラスタルが、ああ、と思いだしたように我の背中に言葉を掛ける

「ああ、そうでした、貴女にも外出を認めようと思いましてね、貴女なら万に一つも町中で暴れたりしないでしょうし、外出させても構わないと思いまして」

 フン、何じゃそれは、我くらいならどうとでもなるという意思表示か?

 ふん、何処までも胸クソ悪い奴よ

 言い返すかどうか迷い、一瞬だけ扉の前で動きを止め、すぐに迷いを振り切って部屋からさっさと出る

 扉を閉めようとした我の目にちらりと入った室内で、ほほえむラスタルが何かを呟く

 ふん、こんなことになると分かっていたなら読唇術など覚えなかったものを

 何が、『ヴァルガによろしく』じゃ、あやつを苦しませておるのが誰か、貴様が一番知っとるくせに

 我の心も、何もかもすべて分かっていて、その上でのその言葉か

 強くかみ合わせた奥歯がギャリッと音を立て、しかしその怒りをぶつける先を我は持っておらなんだ

 戻ってぶん殴ってやるべきか廊下に立ち止まって逡巡する事数秒、ため息を一つ付く

 廊下の中であることも全く気にせず大きく翼を開き、すぐそばの窓をこじ開けてそこから容赦なく下に身を投げる

 上下が荒々しく掻き乱されること半秒、向かい風を受け一気に空に舞い上がる

 やはり、ムシャクシャした時は何もかも忘れて飛ぶに限る

 雲一つ無い仮初めの空を黄金の流星と化して一線切り裂き、どうしようもなくイライラする内心と、それを思うがままに(ほど)いてやれない我が力の無さにまたイライラをつのらせる

 今すぐあのラスタルをぶん殴ってやりたいのは山々じゃが、今回は許しておいてやることにしよう

 一番ぶん殴ってやりたいはずのヴァルガが自重しておるのに、それを我が先を越すのはどう考えてもおかしいからのう

 まあ、あいつのことじゃから一発ぐらいは殴っておるかもしれんが

 じゃとしても、我ではとあいつではあまりにも違いすぎる

 我に今できる事はそれこそ、何も無い

 それがもどかしくないかと言われれば、否定することは出来ん

 じゃが、どうせそんな我の思惑もどうせあの野郎にはお見通しなんじゃろう

 あいつと我では、年期があまりにも違う、違いすぎる

 そんな中で我ができる事など、奴の手の内で少しでも自分に有利になるように足掻いてやることだけ

 その事実はどうしようもなく悔しいが、それしか出来んのもまた事実

 この世はどうしようもなく、ままならん

 じゃが、またそれ故に、面白い

 何も出来ぬとしても、我は黙って大人しくしておるほど物静かな奴ではない

 我は、我の信じる道を行く

 例え、その道が(いばら)の道であろうと、笑って踏みしめてやろうぞ

 そして獰猛に笑い、激しい向かい風に抗うように、大空を飛び翔った


本編はどうでしたか?

……どこぞの従者さん、居すぎじゃね?

はい、どう見ても増えすぎですね

前半ほとんどあの人ですね

コンナハズジャナイノニィ!

主人公って何だっけ……

まあ、主人公が出てこないっていうのは今始まったことじゃないですけどね

そんな感じで、今章は戦闘も少なく、主人公ポジになるはずのルーンも少なく、かなり異例な章となっております

前章で出るって言っていたのはどこぞの女神様のはずなんだけど……

どいつもこいつもキャラが濃すぎるんじゃよ……

ま、彼女も無事出てるし、いいか

それじゃ次回予告!!

次章『サルガッソ大迷宮』

戦闘君、出番ですよ(また)

終 わ ら ぬ 戦 い

ガンバ!!(完全に人ごと)

神界でつかの間の休息をした勇者達

しかしその安寧はヴァルガによって打ち砕かれる

サルガッソ大迷宮、その地への遠征という形で

こうご期待!

ふう、また戦闘か、肉体言語会得してたりしません?

残念ながら私には通じませんけど、どこぞの超野菜人の方々なら通じるんじゃ……?

それはそれで困りますが、いろいろと

誰だ?こんなはた迷惑なことしでかした奴

ああ、自分(以下略)

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