表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者とラスボスの協奏曲  作者: 魔王ドラグーン
5/11

混沌

どうもこんにちは、魔王ドラグーンです

さて、今章は一体何が起きたんだい?

なしてこんな長いのかな

何が起きたのか、今章は前章を超えるほどの章の長さになってしまいました

新年スペシャルとは一体……?

ま、まあ何はともあれ本編へどうぞ

第八章  混沌


    とある語り部(かたりべ)は語る

 私は問うた

 最も居てはならない魔物は何か?と

 そして《かの戦》を知る者たちは皆、口を揃えてこう答えた

 闇龍シュマルゴア、と

 闇龍シュマルゴア

 それは天災

 かつて東の果てに突如生まれ、一国を喰い荒らし、血と戦の果てにまた突如消えた龍

 それは収まらぬ殺意

 その龍は痛みも苦しみも知らず、ただ殺意だけを(たぎ)らせ、迫る

 己だけとなろうとも、己を突き動かす何かをだけを持って、進む

 それは静まらぬ怒り

 かの者を見ることが叶ったとある者はこう言った

 其の姿、(あたか)も怒りを統べるが如し、と

 それは止まらぬ狂気

 後の人々はその龍のことを誰が言いだしたとも知らずこう呼び始めた

 狂華龍、と

 それは狂い咲きの闇の華

 血塗られた紅蓮の花園の中央に、ただ一つ咲き誇る漆黒の華

 嗚呼、今日も親が子どもを叱る時こう語る

 そんなんじゃ狂華龍が来るよ、と

 

       ◇

 

 ヴァルガは悔やまない

 なぜなのか?と、問う気持ちはもちろんある

 しかし、悔やめども悔やめども答えは出ず、その代わりと言わんばかりに一つの厳然たる事実が心を締め付けるだけだった

 それは、過去は変わらない、ということ

 過去から学ぶことならいざ知らず、過去を悔やむことなど無意味だ、何時(いつ)だっただろうか、そう決めたのは

 それ故に、ヴァルガは悔やまない

 はずだった

 何時(いつ)ぶりだろうか、()()()()()()()()()

 皮肉だな、俺が悔やみ続けることの愚かさを学んだのも、このような戦いの場だった

 これを笑わずして何を笑う……

「フッ」

 笑う、いや、嗤う

 自分の前に立ちふさがった事実を、嗤う

 自分が悔やんでいるということをも、嗤う

 全て自分の思い通りになると舐めきっていたそれを、嗤う

 そして、それに類するほどの恐怖と悔恨を己に与える目の前の光景をも、嗤う

 たとえ、それを自分の前へもたらしたのが、他ならぬ自分だとしても、嗤う

 たとえ、その刃の、牙の、爪の向かう先は他ならぬ自分だとしても、嗤う

 嗤う、嗤う、恐怖と悔恨を押し殺すように、嗤う

 たとえ……

 そう、たとえそれが己が妹だとしても

 嗤う、嗤い飛ばしてやるよ

 そうでもなきゃやってられない


       ◇

 

《結果報告》

〔種族、名前、LV〕 闇龍、シュマルゴア、   LV23

〔ステータス〕

  【HP】  最大 34000  現在 34000

  【MP】  最大 34000  現在 34000

  【AP】  最大 37000  現在 37000

  【物理攻撃能力】  36000   【物理防御能力】  38000

  【魔法攻撃能力】  32000   【魔法防御能力】  38000

  【移動速度能力】  33000

〔称号〕

  【闇龍】【支配者】【覇者】

〔スキル〕

・ユニークスキル

  【悪魔召還】【怨憎会苦LV30】

・デフォルトスキル

  【HP回復能力上昇LV30】【MP回復能力上昇LV30】

  【AP回復能力上昇LV30】【思考能力上昇LV30】

  【魔力撃LV30】【体力撃LV30】【身体強化LV30】

  【攻撃強化LV30】【斬撃強化LV30】

  【打撃強化LV30】【刺突強化LV30】【魔法強化LV30】

  【疾風強化LV30】【暗黒強化LV30】【妨害強化LV30】

  【防護強化LV30】【魔法発動速度LV30】

  【魔法威力LV30】【魔法射程LV30】【疾風魔法LV29】

  【暗黒魔法LV30】【妨害魔法LV30】【防護魔法LV30】

  【斬撃耐性LV30】【打撃耐性LV30】【刺突耐性LV30】

  【火炎耐性LV30】【水流耐性LV30】【疾風耐性LV30】

  【迅雷耐性LV30】【土砂耐性LV30】【氷結耐性LV30】

  【暗黒耐性LV30】【閃光耐性LV30】【妨害耐性LV30】

  【閲覧】【飛行LV30】【察知LV30】【五感強化LV30】

  【隠密LV30】【痛覚無視LV30】【気絶耐性LV30】

  【毒属性付与LV30】【麻痺属性付与LV30】

  【睡眠属性付与LV28】【酸属性付与LV30】【狂気LV30】

  【赫怒LV30】

〔状態異常〕

   なし

〔魔力解放技〕

  《アビスブレイザー》

「フッ」

 ヴァルガがどこか空っぽな笑いを漏らす

 は、ははは

 俺もなんだか笑えてきたわ

 思わずとっさに閲覧を発動したらこんな結果が映るなんて誰が思うよ

 あのルーンのステータスをも超えた前人未踏の三万台のステータス

 数は少ないものの全てカンストしているスキル

 しかもそのスキルはことごとく闇と物理を基軸にした攻撃系スキル

 そして表示されるその名はヴァルガに聞いた天災たちの、その一柱の名

 ステータスがことごとく二万越えくらいは覚悟してたけどそれの一・五倍って……

 もはや絶望を通り越して笑けてくるわ

 それにしても不自然なまでに綺麗にそろったステータスだな

 それも四大天災だからなのか?

 まあ今そのことはどうでもいい、今するべきはあの化け物をどうにかすること

 なにせ相手は天災と呼ばれるほどの魔物、そんな物をこんな街の中央で好き勝手させたらどんなことになるか分からない

 それに、ルーンの豹変があの龍のせいならこのまま放置するのはかなりまずいんじゃないか?

 最悪、ルーンと龍が一体化してもっと強くなるとか

 それに、今のところその可能性は低いとは言い切れない

 閲覧結果に闇龍シュマルゴアのステータスが映ったのがそのいい証拠

 【閲覧】のスキルの効果はステータスを見るという物、つまりそれはステータスの宿る魂を間接的に見るということ

 つまり、今俺たちの前にいるルーンもどきはシュマルゴアの魂が操っているということだ

 しかし体の方は多少…いやかなり変化したが、それ以上の、例えば完全な龍に変身するとかの兆候は無く、顔や体型は素体になったのであろうルーンから大して変わっていない

 つまりそれは体はルーンのままということ

 闇龍シュマルゴアがルーンと見分けが付かないようなそっくりさんでもないのなら、つまりそれはルーンの体に闇龍シュマルゴアの魂が入っているということになる

 そして、魂は体に宿る

 一番無難な考え方をするなら、今ルーンの体の中には二つの魂が宿っているということになる

 実際、ルーンは今の今までフェンリルとシュマルゴアの魂を体の中に封印していた

 しかしそれはルーンの封印のスキルがあってこそのことで、ふつうなら魂はいつぞやかルーンが語ったように分解してしまう

 氷をそこらへんに置いておけばあっという間に溶けてしまうのと同じ

 なら、あの体の中で体から半分切り離されてしまっている本物のルーンの魂はどうなるのか?

 俺は魂と魂が融合してしまうのではないかと思う

 おそらく瞬時に分解してしまう心配はないだろう、一応体という器に入っているのだから

 しかしそれでも拠り所をなくした魂が長持ちするとは思えない、いずれ分解するだろう

 冷蔵庫に氷を入れたような感じだな、じわじわ溶けていくはずだ

 ならその分解した魂はどこへ行くか?

 そのまま体の中に止まるのならまだいい、しかしもう一つの魂に取り込まれてしまった場合、そしてルーンのスキルやステータスがシュマルゴアのステータスに還元されてしまった場合、最悪の予想が当たることになる

 ならすぐに倒せばいいかもしれないが、そうもいかない

 第一にあのステータス相手じゃ誰も歯が立たない、俺や佐野さんははもちろん、あのゴーレムたちだっておそらく勝利するのは不可能だろう

 第二に、あれはルーンだ、さっき考えたようにまだ今のうちならルーンの魂が残っている可能性が高い、つまりあいつを力ずくで討伐してしまった場合、器を失ったルーンの魂も消滅してしまうだろう

 つまりあいつを止めるためには、あいつと渡り合える力を持ち、かつ、殺さない程度に無力化できる技術を持っている人材が必要な訳だ

 いるかよ、そんな都合のいい奴、と言いたいところだが、なんともちょうど良さそうなのが左隣にいるっていうね

 無言で左隣の奴ことヴァルガを見つめる

「…………」

「…………」

「なんだその目は」

 俺に押しつけるなとばかりにヴァルガが聞き返してくる

 それにジト目で言い返す

「あいつを止めてくれ」

「やれやれ、今度は人任せか」

 人任せじゃない、お前しかできる奴がいないんだよ

 何でもいいから早く助けてやってくれ、俺がそう答えようとしたその時、俺の右隣の席から強い意志を伴った声が響いた

「何でもいい、ルーンを助けて」

 佐野さんだ

 それを聞いてヴァルガが僅かに笑いながら答える

「フッ、そうか、お前たちがルーンのことを大切に思ってくれているということは分かった」

「じゃあ……」

「ただし勝算は万全ではない、それにもし俺が死ねば俺の中に封印されているシュマルゴアの魂の片割れもあいつに取られてしまう、そうなればもう誰もあいつを止められんぞ」

 佐野さんはそれにも強い意志で答える

「それでもやって」

「分かった、お前の方はどうだ?」

 そう言って俺の方を見るヴァルガ

 どうもこうもないさ

「それでもだ、何もしないでこのまま歯噛みしてるよりずっといい」

 俺がそう言うとヴァルガは呆れたように小さくため息を漏らすと、小さく愚痴る

「まったく、どいつもこいつも自分で動かん奴ばかりだ……まあいい、言われずともルーンは助けるつもりだった、守らねばならん奴が二人増えただけだ、やってやるよ」

 それを聞いて佐野さんと二人で胸をなで下ろす

 そこにヴァルガが立ち上がり、戦闘しようと歩き去りながら言う

「俺のステータスはいつでも確認しておけ、もしHPが半分を切ったら迷わず逃げろ、生き残ってさえいればラスタル様が助けてくれるだろう、保証はできんがな」

 立ち去りながら投げかけられたヴァルガの忠告、それはありがたい、が、大人しく待ってるワケにもいかないし、それにヤバイからっていう理由で逃げるワケにもいかない

 軽い笑みを浮かべながら俺はヴァルガに言う

「いや、その心配はない、なにせ俺たちも参戦するからな」

 歩き去ろうとしていたヴァルガはそれを聞いてひどく驚いたように勢いよく振り返り、佐野さんはいたずらっぽい笑みを浮かべながら「そうこなくっちゃ」とつぶやく

 ヴァルガが近寄ってきてこればかりは譲らんとばかりに言ってくる

「バカなのか?俺でも危ういとさっき言ったばかりだろうが、お前らがのこのこ入ってきたら秒殺されるぞ!」

「もちろん分かってる、俺たちだけじゃ敵うとは思ってない、でも友達が死にかけてるのに俺たちだけのんびり観戦なんてしてられない」

「正気か!?友のために命を捨てるというのか!?」

「もちろん死ぬ気はない、そんなことしたらルーンが悲しむからな、それに……」

 そこで一拍おき、笑みを浮かべながらこう言う

「……さっき俺たちのことを守るって言ってたよな」

「っ!!…………」

 驚いた表情のまま固まるヴァルガ

 それを横目に眺めながら戦闘準備をする……とは言っても靴の紐を締めて、今まで切っていた身体強化系スキルを解禁するだけだが

 佐野さんはもうとっくにこの結末が予想できていたらしく万全の状態でルーンを見つめている

 そんな俺たちを見て絶対に退かないという硬い意思をくみ取ったのか、もうどうにでもなれといった体で投げやり気味にヴァルガが言う

「あーもう、なんでこうなるかな……まあいい、足手まといにはなるなよ、そうなったら迷わず戦場からたたき出すからな」

 それを聞いて佐野さんが首肯しながら答える

「分かった、全力で戦うことにする」

 そして俺は魔力を体内に循環させつつ答える

「もちろんだ、存分の働きを期待してくれ」

 それを聞いて軽くため息をついた後、ヴァルガが作戦を伝える

「三十秒後に戦闘を開始する、下のゴーレムがそれくらいなら時間を稼いでくれるだろう、俺が突入した後、俺の開けた穴から結界の中に突入しろ、その後は斬るなり撃つなり好きにしろ」

「「わかった」」

 二人で返事を返して、下でゆっくりと動き出したルーンに視線を向ける

 必ずお前を止める、待ってろ

 そう決意した瞬間、ヴァルガが誰へとも分からない念話を飛ばす

『死ぬな、殺すな、それだけは守れ、作戦開始』




       第九章  乾坤一擲


 あははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!!!

 あふれ出る力が気持ちいい、今なら何でもできる、何でもやれる

 血が欲しい、殺したい、殺す、殺す、あははっ、あははははははははははははは

「ッッガアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

       ◇

 

「ッッガアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 耳をつんざく咆吼、気圧されるゴーレム、観客もかなり怯えている

 そして地面を踏み砕き、動き出すシュマルゴア

 ヴァルガはそれを見届けるとテラスまで一瞬で到達、結界の表面に小さな魔法陣を仕掛ける

 あと二五秒

「すぐに突入できるよう結界の近くに寄っておけ」

「分かった」「うん」

 返事を返し、観客の間をぬって結界のそばに行く

 下ではシュマルゴアが凄まじい速度でレギンに肉薄、そして一発殴るだけで分厚いゴーレムの胸部をぶち抜く

 レギンの気配が瓦礫と共に吹き飛んでいき、主を失ったゴーレムがただの岩隗に還る

 それを横目に見ながら結界のそばに近寄る

 ヴァルガが俺たちが結界のそばに来たのを確認すると、無言でうなずき、何も無いところから片方が鎌槍、もう片方が大鎌になった武器を取り出す

 残り一五秒

 そしてマントを払い、後ろに流す

 マントの下は初めて会った時と同じ全身を覆う金属鎧姿だった

 そしてマントの下からバサリと広がる龍の翼

 全身のほとんどは鎧の銀色なのに、なぜかその姿を見た俺は全体的に黒く見えた

 シュマルゴアが同時に襲い来る二体のゴーレムの片方を蹴り飛ばし、もう片方を刀で無造作に薙ぎ払う

 黄色い三日月となって放たれた斬撃は運良くアレイの乗っている所のすぐ下を通り抜け、同時にゴーレムの下半身が魔力の支配から切り離され、ただの土塊になる

 そして間を開けず自重を支えきれなくなったゴーレムが崩壊する

 残り十秒

 ヴァルガが手元に持った武器を半回転させ、槍になっている方を結界に向ける

 その穂先に魔力が集まり、闇となって纏わり付いていく

 残り五秒

 そう思った瞬間、ヴァルガが自分の設置した魔法陣の中央に向けて神速の突きを放つ

 めり込む穂先

 残り四秒

 穂先に宿る闇が収束し、爆散、闇の粉塵が爆発地点を覆う

 その間シュマルゴアはただ一体になってもめげずに魔法を撃ってくるオリバーに向けて暗黒弾を乱射、オリバーの張った結界をいとも容易く貫くと、その奥のゴーレムに着弾、瞬時に砂埃に包まれる

 その奥でゴーレムが崩壊するのがかろうじて見えた

 残り三秒

 俺たちの前、闇の残滓が晴れたそこには、結界に空いた大穴があった

 それを見届けるが早いか、ヴァルガがテラスの縁に足を掛けると、跳躍

 ここは二階の観客席の先端にあるテラス、飛び降りればすぐに自由落下が始まる

 それはもちろんヴァルガにも適用され、落下が始まる

 しかし、ヴァルガには翼がある

 その落下は途中から滑空に変わり、ちょうど三人を倒し終えたシュマルゴアに向けて飛ぶ

 残り一秒

 自分に迫る気配に気づいたシュマルゴアが対抗するように自分の翼を羽ばたかせ、真正面から迎え撃つ

 その二つの軌道が交差するところでシュマルゴアが刀を振るい、それヴァルガがを冷静に受け止める、そして一言

「きっかり三十秒だ、始めるぞ」

 それを聞くが早いか二人で跳躍、結界の中に飛び込み、【三次元機動】で体を支える

 それと同時にヴァルガがシュマルゴアを刀ごとはじき飛ばす

 それが戦闘開始の合図となった


       ◇

 

 まだだ、まだ足りない、もっと、もっと力を

 そう思った瞬間、高速で近づく気配に気づく

 あいつだ、あいつが力を持ってる

 力を、その力をよこせ、殺す、殺す殺す殺してやるッ!!

 

       ◇

 

《結果報告》

〔種族、名前、LV〕 (ケッ)妖精(トシー)、フェイン・レイ・ヴァルガ、   LV89

〔ステータス〕

   【HP】  最大 28593  現在 28593

   【MP】  最大 25879  現在 25879

   【AP】  最大 32168  現在 31836

   【物理攻撃能力】  34372   【物理防御能力】  27361

   【魔法攻撃能力】  36332   【魔法防御能力】  28658

   【移動速度能力】  31524

〔称号〕

   【(しん)(ろう)ノ力】【闇龍ノ力】【大賢者】【絶技】【戦神】

   【神ノシモベ】【魔術師】【槍士】【支配者】【策士】【救世主】

   【闇二巣クウ者】【殺戮者】【強者】

〔スキル〕

・ユニークスキル

  【眷属召還】【変幻自在LV30】

・デフォルトスキル

   【HP回復能力上昇LV30】【MP回復能力上昇LV30】

   【AP回復能力上昇LV30】【思考能力上昇LV30】

   【魔力撃LV30】【体力撃LV30】【身体強化LV30】

   【攻撃強化LV30】【斬撃強化LV30】

   【打撃強化LV18】【刺突強化LV30】【物体強化LV30】

   【魔法強化LV30】【付与強化LV16】【火炎強化LV13】

   【水流強化LV21】【疾風強化LV24】【迅雷強化LV19】

   【土砂強化LV28】【氷結強化LV21】【暗黒強化LV30】

   【閃光強化LV15】【空間強化LV26】【妨害強化LV27】

   【支援強化LV22】【回復強化LV29】【防護強化LV28】

   【魔法発動速度LV30】【魔法威力LV30】

   【魔法射程LV30】【火炎魔法LV21】【水流魔法LV22】

   【疾風魔法LV29】【迅雷魔法LV27】【土砂魔法LV30】

   【氷結魔法LV30】【暗黒魔法LV30】【閃光魔法LV17】

   【空間魔法LV25】【妨害魔法LV29】【回復魔法LV30】

   【支援魔法LV19】【防護魔法LV29】【致死魔法LV16】

   【斬撃耐性LV27】【打撃耐性LV28】【刺突耐性LV30】

   【火炎耐性LV25】【水流耐性LV26】【疾風耐性LV28】

   【迅雷耐性LV25】【土砂耐性LV27】【氷結耐性LV30】

   【暗黒耐性LV30】【閃光耐性LV16】【妨害耐性LV25】

   【剣技LV16】【槍技LV30】【鎌技LV30】

   【盾技LV10】【闘技LV28】【刃術LV27】

   【獲得経験値増加LV13】【獲得熟練度増加LV16】【閲覧】

   【友情】【三次元機動LV30】【察知LV30】【透視LV29】

   【五感強化LV30】【念話LV21】【隠密LV30】

   【痛覚無視LV30】【気絶耐性LV26】【激痛付与LV15】

   【打撃属性付与LV24】【刺突属性付与LV30】

   【斬撃属性付与LV30】【毒属性付与LV30】

   【麻痺属性付与LV30】【睡眠属性付与LV28】

   【酸属性付与LV30】【スキル付与LV27】【鍛冶LV23】

   【調理LV21】【製作LV25】【修繕LV23】【浄化LV27】

   【学習LV21】【建築LV16】

〔状態異常〕

    なし

〔魔力解放技〕

   《黒龍焼滅波》

 …………え?

 あーれー?おっかしーなー、俺の目が腐ったのかな?

 いや、ヴァルガ強すぎん?なんであんたも三万超えてんだよ

 いつだったかシュマルゴアの三万越えのステータスを見て前人未踏って言ったけど、あれ撤回するわ

 まあでもシュマルゴアとは違ってオール三万越えってワケじゃないけど、それでも凄い

 さらにスキルを見ると数だけ見ればシュマルゴアの倍近いスキルが高レベルの状態で揃っている

 しかし、ステータスだけ見れば圧勝しそうだが、実際には戦況は拮抗している

 なぜなら直接戦闘に影響を及ぼすタイプのスキルはほとんどシュマルゴアも持っており、しかもそういった戦闘用のスキルはたいていシュマルゴアの方がレベルは上なのでヴァルガの方が不利

 単純なステータスも魔法攻撃力以外はシュマルゴアの方が上ということもあり、ステータスでもヴァルガの方が不利

 しかしそれでもヴァルガは拮抗に持ち込んで見せた、ならばステータスの差を埋めた物は何か?

 それは単純な技術と経験の差

 下を見ればまたシュマルゴアが速度任せの特攻でヴァルガに一撃与えようとしている

 それを冷静に避け、刀を持つ方の手を掴むと、空中で相手の勢いを生かした投げ技を放ち、投げ飛ばす

 それにも懲りず体勢を立て直すとまた特攻するシュマルゴア

 しかし、今度はヴァルガは迎撃しない、代わりに左手に持っている槍に魔力を集中させていく

 迫るシュマルゴアの刀

 それを見てもなお、全く動じず、魔力を集中させ続ける

 いくらヴァルガの物理防御力が高かろうとも、シュマルゴアの物理攻撃力には及んでいないし、刀の攻撃力もある

 いくら鎧を着ているとはいえ簡単に切って捨てられてしまう

 ヴァルガの体に刀が触れようという直前、何も持っていないヴァルガの右手が閃き、刀と体の間に割り込む

 しかし、圧倒的な攻撃力はそれを意にも介さずなめらかにヴァルガの右手を切り落と……さなかった

 驚愕するシュマルゴア

 振った軌道に問題はない、ヴァルガの腕にも特殊な仕掛けのような物はない、刀の刃も問題ない

 しかしそこで疑問が生じる、なぜシュマルゴアは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そしてシュマルゴアは気づく、己の刀が峰打ちの状態になっているということに

 そう、ヴァルガは投げ飛ばした際にルーンの刀を気づかれないようにルーンの手元で半回転させ峰打ち状態に切り換えさせていたのだ

 全力の一撃を防がれ、硬直したルーンの体に濃密な魔力を纏った槍が薙ぎ払われる

 脇腹に一撃叩き込まれ、錐揉みしながら飛んで行くルーン

 しかし、それで終わりではない、槍の一撃が決まり、浅い傷が入ったルーンの脇腹にこびり付いているのは魔法陣

 そしてその魔法陣から光があふれ、爆発

 爆発の衝撃で勢いよくシュマルゴアが結界に衝突し、重く衝撃が走る

 攻撃をもろに受けてしまった脇腹を見ればそこを覆っていた楯鱗と鎧は吹き飛び、その下の肉も大きく(えぐ)れ、焼かれ、その上で酸のような物で溶かされ、(ただ)れている

 ヴァルガのスキル構成から想像すると、おそらく爆発系の魔法をシュマルゴアの鎧に付与した後、その付与魔法にさらに【酸属性付与】で酸を付与したのだろう

 爆発によって硬い楯鱗と鎧の防御を皮膚ごと吹き飛ばし、その下の無防備な肉を露出させた後、酸を使ってそこを焼くというえげつない戦法

 しかし、そんな惨状すら、本人は意にも介さない

 結界を蹴りつけ、またヴァルガに突貫していく

 魔法で弾幕を張って牽制しながら見ていれば、まあ、終始こんな感じだ

 見れば見るほど恐ろしくなる、一体どれだけの修羅場をくぐり抜ければこうなるのか

 技一つにつき目的が一つではない、どこから何が飛んでくるか全く予測不能

 しかも防いでも躱しても攻撃しても一方的にダメージを与えられるという理不尽さ

 そんなどう頑張っても喰らってしまう上、一つの技の結果で終わりではなく次の技への布石なのだから(たち)が悪い

 しかし、これでも拮抗している

 なぜならヴァルガの防御力がシュマルゴアの攻撃力に届かず、またヴァルガの攻撃頻度に比べてシュマルゴアの回復力が高いからだ

 つまり、シュマルゴアの攻撃はヴァルガに通るのに、逆はほとんど通らないということだ

 その証拠にさっきせっかく与えたダメージもHPの自動回復効果でみるみる回復されていっている

 逆にヴァルガを見ると技の直撃を受けていないのにHPが減っている

 いくら斬撃を受け止め、打撃を防ぎ、魔法を相殺しても、その余波までは完全に殺しきれない

 それは微々たる物だが、防御力が低い上に長期戦を強いられているヴァルガにとってそれは致命的だ

 お互いがお互いを削り合う消耗戦

 しかし、これもあまり続ける訳にはいかない

 なぜならあまり長く戦いすぎると俺たちが大丈夫でもルーンの魂が壊れてしまうからだ

 それに比べ相手側はMPSPHPのどれかが尽きるまで半永久的に戦える

 その上、場合によってはルーンを取り込んでさらに強くなる可能性さえある

 この差はあまりにも大きい

 どこかでこの流れを変えなければ、負ける

 戦局をどこかでひっくり返す事のできる何か、つまり切り札が必要だ

 切り札と言えば真っ先に思い浮かぶのが魔力解放だが、これは頼らない方が良いだろう

 魔力解放は全魔力を消費して繰り出す強力な攻撃で、一人一つ独自の魔力解放があり、効果も様々だ、その火力は全魔力を使うだけあって魔法やスキルとは比べものにならないほど絶大で、しかもステータスや魔力総量が上がるほどに威力も上がる

 いわば必殺技みたいなもんだな

 戦技大会の予選で男が使っていた【メルカトルブラスト】もその一つだな

 あれは遙か格上のルーンの魔法と拮抗するぐらいの威力を誇っていた

 それほどの効果を持つ魔力解放をぶつければいくら闇龍シュマルゴアでも無傷とは行かないだろう

 しかし、悔しいことにも俺たちの魔力解放では大した威力は望めない、俺たち一人につきメルカトルブラストと同じくらい、その程度ならヴァルガの魔法の方がよっぽど脅威だろう

 ましてやシュマルゴアを無力化するほどの威力となると俺たち二人で同時に撃ち込んでも不可能だ

 その上使用してしまえば魔力が完全にゼロになるので身体強化すらできなくなる

 そんな状態で攻撃を受ければ間違いなくアウトだ

 威力という点ではヴァルガの魔力解放なら申し分ないだろう、しかし今度は威力が高すぎ、シュマルゴアは無力化どころか消し飛んでしまうだろう

 魔力解放は全魔力を使用するという性質上、威力が調節できないのだ

 それに、それは当たればの話であり、当たらなければ魔力がない状態であのシュマルゴアに襲われる羽目になる

 そうなればいくらヴァルガでも危うい

 強すぎず弱すぎず、ちょうどいい威力の切り札があるといい、というか無いと困る

 ふむむむむむ

 一応、心当たりはあるにはある

 しかし、それも魔力解放に負けず劣らすリスキーな技になる

 機を見て使わなければ当たらないし、発動に失敗すれば自爆する羽目になる上、消費する魔力もバカにできない

 さらに、それを発動するのは俺一人では不可能、佐野さんの手を借りる必要がある

 まるで曲芸のような技をこの状況で成功させるのはかなり厳しいが、ステータスの低い俺たちがシュマルゴアに対抗できる唯一の技だ

 俺たちはそれを発動させる機を見極めるためにもこれまで通り魔法で牽制しながらその切り札の準備をすることになるだろう

 

       ◇

 

 シュマルゴアがもう何度目かも知らぬ突貫を仕掛けてくる

 しかしそれがいくら速く、鋭かろうとも所詮は芸のない突貫

 振り抜かれる刀を冷静に槍(銘はナイトメアという)の表面で受け流す

 そして交錯する瞬間、拳を先の一戦で鎧と鱗を剥いだ脇腹に撃ち込む

 そして、密かに拳に込めておいた爆発の魔法をシュマルゴアと拳の間に炸裂させる

 激しい衝撃が走り、錐揉みしながら吹き飛んでいくシュマルゴア

 しかし、所詮ただの爆発、さっきの一戦でもほぼ効いていなかった、もしもシュマルゴアに冷静に考えられる頭があったならすぐに時間稼ぎだと分かっただろう

 なぜできるだけ早く助けなければならないこのタイミングで時間を稼ぐのか、それは俺一人を敵と認識させ、次の目的の下準備をするため

 厄介なことにも俺は今回の戦いでは三つのことを制限時間内にできるだけ迅速に周りに被害を及ぼさずやらなければならない

 全く、こんなハードなミッションはいつぶりだろうか

 そして目的とは、自分に敵意を向けさせ、周りの観客を逃がし、そしてその上でシュマルゴアを無力化するということ

 今のシュマルゴアはルーンの怒りと憎悪を依り代に無理矢理封印を破って暴れているだけに過ぎない

 正確に言うと、ルーンと半分一体化した状態で、だが

 逆に言えば、肉体とのつながりがほぼ無いシュマルゴアの魂は、非常に脆い

 ほぼ確定で、気絶させるか魂を無理矢理拘束するかすれば元に戻るだろう

 しかし、この無力化するというのがくせ者なのだ

 普通に討伐するのなら魔力解放で一息に吹き飛ばせば済む物

 適当にあしらうだけならこれほどにダメージを食らうような戦い方はしない

 無力化とはその境目のギリギリの所、俺でも一筋縄ではできないことだ

 正直な所、本気で無力化する段階になると、周りに気を配っている余裕はないだろう

 だが、もし万が一にも観客が巻き込まれ、死にでもされるとそれはそれで非常に面倒臭い

 主に戦後処理が

 アルフ執政部だのサラマンダー大使館だのなんだのから責任がなんだかんだ言われるのを想像するとそれだけで頭が痛くなりそうだ

 そうならないための二つ目の工程、そして今やっているのはその下準備のための工程なのだ

 なのだが……どうだろうか

 結界にぶつけられ、粉塵が漂う中、俺の敵の爛々と輝く黒曜色の双眸には今や理性の色はない

 それが捉えるのは、ただ自分を傷つけた相手のみ

 それに映るのは、全てを焼き尽くす煉獄の怒り

 そして一声、吠える

「ッッ…ガアアアアアアアアアァァァァァァァァッッッ!!!」

 その叫びはただ純粋な怒りのみがはち切れんばかりに詰まり、こういうのには慣れているはずの俺でさえ軽い怖気を感じる

 しかし、その咆吼を聞いてなお、俺は不敵な笑みを浮かべる

 一つ、行程を終えた、そう確信した

 今までは目の前にいるから攻撃する、それだけだったのが今や完全に俺をロックオンしている

 これで今のところは上の二人や、周りに山ほどいる案山子…もとい観客に危害が及ぶことはほぼ無くなっただろう

 つまり俺がある程度本気で暴れられる下地が整った訳だ

 さて、次の工程に行こうか

 今まで留まっていた空中からきびすを返し、シュマルゴアから逃げるように飛ぶ

 予想通りに追ってくるシュマルゴア

 それに向けて見もせずに暗黒弾を乱射する

 それを避けようともせずに食らいながら追いかけてくるシュマルゴア

 予想できていたことだが…やはり痛みすらも感じていないか

 ちょうどいい、これなら成功しそうだ

 無数の暗黒弾の中に一つ特殊な弾丸を混ぜる

 その弾丸の見た目は周りの無数の弾丸たちと全く同じ

 ならば効果はというと、それも全く同じ

 いじることもできたが、無数の魔法を連続で並列発動している今、そんなことをしている余裕がなかった

 ならば何が違うのかというと、何のことはない、それに込められた魔力量

 魔法の威力は魔力量に比例し、魔法に込められる魔力量は魔法攻撃能力に比例する

 そして俺の魔法攻撃能力は、自分で言うのもなんだが、相当高い

 その俺が限界まで魔力を注いだ一発

 もしシュマルゴアに【察知】を見るだけの余裕と理性があったなら、これを食らったらただでは済まないと一目で分かっただろう

 まあ、もしそうだったとしても何ら変わらないのだが

 なぜなら無数の弾丸たちに紛れて飛ぶ高威力弾、それが向かう先はシュマルゴア()()()()からだ

 俺が狙っているのはシュマルゴアではなく、その先

 数多(あまた)の観客と、この戦場とを隔てる結界だ

 あやまたず結界に突き刺さり、大爆発する高威力弾

 高威力弾が着弾したそこはさっきまで叩きつけられたシュマルゴアが留まっていた場所

 そこには俺が設置した第二の仕掛けがある

 正確には俺は製作しただけで設置したのはシュマルゴアだが

 高威力弾の闇色の爆発、込められた魔力に対してあまりにも小さな衝撃を合図にその仕掛けが発動する

 浮かび上がる中心が空白の魔法陣

 その空白部に魔力が逆再生された波紋のように収束し、爆砕

 その爆発は一回では終わらず、空白の内部で連鎖するように多重の爆発が起こる

 この魔法陣は俺がさっきシュマルゴアを殴った時ついでにお使いを頼んだもの

 殴った時の爆発は狙った位置への運搬兼目眩まし、本命はこっちだ

 まず殴った時にシュマルゴアに付与し、結界に触れた瞬間に結界に自動的に付与し直す、そしてさっき高威力弾が着弾した時その衝撃で発動、高威力弾から吸収した魔力で結界に多重爆発を食らわせたという訳だ

 そして、爆発の残滓が晴れたそこには分厚い結界に走る蜘蛛の巣状の亀裂が残されていた

 しかし、これだけでは結界に亀裂を入れるという無意味な行為をしただけであり、付与魔法と魔力の無駄使いでしかない

 それにこの結界には自動で修復する機能が付いており、放置していればすぐ元通りに修復されてしまうだろう

 現に俺と上の奴らが結界内部に入るために開けた穴はもう完全に修復されてしまっている

 これを生かすためには、もう一仕事必要だ

 高速で飛翔する俺の目の前に小さな円形の結界を張り、空中で反転しそこに着地、勢いを殺し終わるのを待たずにすぐに今までと正反対の方向に飛ぶ

 高速で飛ぶ俺の視界に映るのは、自分に一直線に向かってくるシュマルゴア

 交錯に半秒もかからず、迫る刀

 それを手甲で払うように受け流し、お返しとばかりに首を掴み、無理矢理そのまま飛び、結界に叩きつける

 手の中でシュマルゴアが暴れ出すのを感じつつ、目の前の魔法陣に魔力を注ぐ

 そう、結界は結界でもここはさっき俺が亀裂を入れた箇所、そこの中央

 結界の中で最も脆弱な箇所だ

 シュマルゴアが俺を吹き飛ばそうと覇気を放つ

 俺はそれに抵抗せず、あっさり手を離し、後方に飛ぶ

 それを待っていたかのように結界に設置された魔法陣が光を放ち、その効果を遺憾なく発揮する

 すなわち、爆発

 先程結界を打ち砕いた物と全く同じ光景が目の前で繰り返される

 一つ違うことと言えば、連鎖する爆発の中央にシュマルゴアがいることだが

 おっと、もう一つあった

 さすがに二度目ともなるともう結界が持たない、ということを忘れていた

 パキィインという結界が砕け散る儚い音が会場全体に響く

 とは言っても亀裂が入っていた一部だけのことだし、すぐ修復が始まるが

 そんな中いまだに漂う爆発の残滓が爆発的な圧力で吹き払われる

その中から現れるシュマルゴア

 それが現れるのを見るが早いか、それに向けて容赦なく魔法を乱射する

 無数の魔法がシュマルゴアを面で押し潰すかのように殺到する、まるでさっき俺が逃げていた時をもう一度繰り返したかのように

 しかし、これにもまた一つさっきとは違う点が一つある

 今まで外れ弾を受け止めていた結界が射線上に無い、ということだ

 その代わり、その射線上には本来なら俺が守るべき観客がひしめいている

 さらに言えば、その観客たちにおそらく俺の弾を受け止めるだけの防御力も、避けきるだけの速度も無いだろう

 それが分かっていても容赦なく追加の弾丸を撃ち込む俺

もしこのまま打ち込み続けたならかなりの死傷者が出るだろう

 そう、このままなら

 シュマルゴアの横を、上を、足下を通り抜け、その背後の結界の穴も通り抜け、その先の観客に向けて殺到する無数の弾丸たち

 それを見てようやく自分達の身の危険に気が付いたのだろう、今更、まさかと言わんばかりに目を見開く観客たち

 その()()()()()光景に薄く笑う俺

 安心しろ、死なせはせん

 もちろん俺の目は節穴では無い、全て見えていた

 なにしろ俺の目には、時に”普通なら見えるはずのない物”まで映るのだからな

 その” 普通なら見えるはずのない物“は今しっかり見えている

 ……決して俺がどうにかしているという意味ではないからな

今俺の目に映っているのは、高速で飛翔する魔力で出来た弾丸たち、それだけでは無い

 その後ろから尾を引くように伸び、俺の体まで繋がる魔力の帯だ

 そう、これこそが普通なら見えるはずのない物

 この魔力の帯は俺と魔法たちを繋ぐ一種の配線のような物

 通常ならば魔法との関係は発動された瞬間に魔法との関係は切れるため、このような物が発生することは無い

 この状況はかなり異例なのだ

 この(さい)だ、いっそもっと異例なことを起こしてやろう

 俺と魔法を繋ぐ魔力の帯にイメージと共に軽く魔力を流し込む

 その瞬間、観客に迫る弾丸たちが急に、そして一斉に向きを変える

 全ての弾丸が一糸乱れぬ動きで空中でカーブ、まるで魔法に意思があるかのように観客を避けて飛ぶ

 そして観客を避けてなお動き続け、その軌道が収束する一点を目指す

 その一点にいるのはシュマルゴア

 弾幕の防御に必死になり背後を気にする余裕の無いシュマルゴアに後方からの一斉射が襲いかかる

 轟音、爆風

 シュマルゴアは今頃混乱していることだろう

 なぜ躱したはずの弾丸が帰って来たのか?と

 たいていこのような訳の分からない現象は大抵一つのことで結論付ける事が出来る

 ユニークスキル、と

 そしてこれもまたその通り、これこそが俺のユニークスキル【変幻自在】

 効果は、自分の支配下にある魔力物体の軌道を自由に変えることが出来る、という物

 これによって俺は一度発射された魔法は後天的に操作することは出来ない、という一種のルールを突破することが出来る

 それに軌道を変えるのに必要な魔力は魔法の魔力とは別払い、魔法本体の威力が弱まる心配は無い

 そんな万全の魔法の斉射を受けたシュマルゴア、そこに漂うのは爆発の残滓たる黒煙と一瞬の静寂

 しかしそれも長くは続かなかった、炸裂した地点に留まる爆発の残滓が内側からの圧力により吹き飛ぶ

 その奥にはやはり両目を憤怒に燃やしたシュマルゴア

 その体は黒焦げになり、鎧も半分は機能していないような有様だ

 それらを軽く眺め、これまた予想通りの結末に俺は笑う

 かなりのダメージを与えられただろうが、俺を喜ばせたのはそれでは無い

 俺の目の前で滞空するシュマルゴアのその後ろ

混沌の様相を極める観客席だ

 いくら軌道を歪めて直撃は避けたとは言っても、あれだけの量の魔法が一点に集中して発生した爆発は戦闘に慣れていない一般人には相当な恐怖だろう

 それをまともに受けたのだ、混乱が起きてしかるべき

 それに俺が軌道を変えていなければ死んでいたのだ、恐怖を感じるなという方が無理がある

 それにこの混乱はここだけで起きている訳では無い、同じように逃げ出そうとする観客たちによる混乱があちこちで起きている

 なにしろ結界があるから今までのうのうと見物を決め込んでいられたのだ、その結界が破壊出来ると分かった今、命の危険を感じた観客たちは我先にと逃げ出すだろう

 これで二つ目の工程がほぼ終わった

 わざわざ結界に穴を開けたりそこに魔法を放ったりしたのは全てこのため、観客に混乱を起こさせ自主的に逃走させるためだ

 これならいちいち誘導だの何だのして避難させるよりずっと効率良く観客共を危険から遠ざけることが出来る

 さて、後は観客が逃げる時間を稼ぎ、シュマルゴアにトドメを刺せば終わりだな

 今後の予定を定め終えると同時にシュマルゴアが動き出し、俺に突進してくる

 ほう、ちょうどいい

 振り抜かれる刀を手甲で受け流し、首を掴み、会場の中央に向けて突進の勢いを生かして放り投げる

 自身の勢いを利用した攻撃に対応できず、なすがままに飛んで行くシュマルゴア

 観客があらかた逃げるまでは結界を吹き飛ばすような大魔法は行使できない、まずは中央付近で時間稼ぎがてらHPを削ることとしよう

 シュマルゴアを追うように飛び、俺も会場の中央に向かう

 迫る俺を無数の魔法が迎え撃つ

 いや、これは魔法では無いか

 俺のそばを掠めていく闇の塊、それが急に何の前振りも無くスライムのように変形する

 そのまま俺に追いすがり、覆い被さろうとしてくる

 なるほどな、原理は分かった

 もちろん、対処法も

 【閃光魔法LV11 閃光装衣】、発動

 その魔法を発動すると同時に俺の体が淡く光り、迫る闇が光に打ち消される

 おそらくあのスライムのような物は魔法でも何でも無い、ただの魔力の塊だろう

 今のあいつに魔法を行使できるほどの理性があるとはとても思えないし、ただ魔力を発射するだけで事足りるのだから魔法を使う意味もない

 それに極めつけは変形だ、そんなことが出来る暗黒魔法は無い

 それに対してあいつは称号【闇龍】の効果の一つに暗黒属性操作がある、それによっての変形なら辻褄が合う

 奇遇だな、俺がやろうとしていたこととよく似ている

 俺を狙った荒い弾幕を軽く避け、時に貫き、シュマルゴアの真上に行く

 そしてその瞬間に魔法を発動

 【暗黒魔法LV27 暗黒波】

 シュマルゴアに向けた俺の手のひらから魔法陣が現れ、そこからあふれ出る闇が奔流となってシュマルゴアに襲いかかる

 それを真正面から受け止めるシュマルゴア

 闇に包まれ、シュマルゴアの姿が見えなくなる

 しかし、【閲覧】で見たシュマルゴアのステータスに表示されるHPはほとんど減っていない

 それもそのはず、称号【闇龍】の効果の一つで暗黒無効が付いているため、あいつに暗黒属性は効かないのだ

 暗黒波の中にあるシュマルゴアの気配が急速に近づいてくる

 おそらく暗黒波の中を魔力の怒濤に逆らって飛んでいるのだろう

 いつぞやかあいつが自分の発射した獄凍波の中を走った時とまるきり同じことが起きている訳だ

 もう彼我の距離はみるみる縮まり、最初の半分ほどになっている

 傍から見れば相当な危機だろう、しかし、それでも俺は笑う

 暗黒波を放つ俺の目の前でシュマルゴアが闇の奔流を飛び上がるように真上に突き破り、シュマルゴア自身より大きい膨大な闇の魔力を凄絶な笑みと共に俺に向けて放つ

 上から二人の「危ない!!」という声が聞こえる

 心配してくれるのは嬉しいが、今となってはあいつはもう躱せんな

 その魔力の塊は半秒もかからず俺に到達、無表情でたたずむ俺の体が瞬時に粉砕され、闇の中で拡散、燃え尽きる

 それを眺める()()()

 その四対のうち二対の目は空中で静止しつつ驚愕と絶望をその目に映し、眺める

 その四対のうち一対の目は爆炎を満足げに眺め、絶望する二匹の獲物を、眺める

 その四対のうち一対の目は一部始終を地面から片膝立ちになり無表情に、眺める

 最後の目の持ち主のその姿は、つい先程打ち砕かれた物と全く同じ

 もう一人の俺が、そこに居た

 死んだとでも思ったか?

 悪いがあの程度のことで死ぬ訳にはいかないのだ

今だにしぶとく発動し続ける暗黒波に繋がる魔力の帯に指令を込めた魔力を送る

 それと同時に勝敗が決したと勘違いし残り二人にその牙を剥こうとしたシュマルゴアに、()()()()()()()が無言で容赦なく槍での薙ぎ払いを放つ

 唐突に現れた気配に驚愕し、しかし持ち前の反射神経で何とか受け止めるシュマルゴア

 その背後から()()()()()()()巨大な魔法陣を展開させる

 二人の俺に挟み撃ちされるというあり得ない現象にシュマルゴアが愕然とする

 その動きが止まったシュマルゴアに向けて後に現れた俺が、魔法陣から正真正銘の本気の一撃、【迅雷魔法LV27 轟雷波】を放つ

 現時点で撃てる迅雷魔法の中では最高ランクの一撃が魔法陣から吐き出され、紫電入り交じる金色の奔流が一瞬で空中を駆け抜け、シュマルゴアを飲み込み、その体を焼き焦がしつつ吹き飛ばす

 今頃シュマルゴアは混乱しているだろう、それほどの理性があればだが

 俺がどうやってあれから生き延びたか、と

それは簡単な話だ

 正確に言えばあの時打ち砕かれた俺は偽物、本物の俺は暗黒波を放った直後にあそこからはさっさと退散している

 ならあの時打ち砕かれた物は何か、それは俺によく似せた暗黒属性の魔力の塊

 もっと言えば今シュマルゴアに攻撃を加えた二体の俺もただの魔力の塊だ

 しかし、ただの魔力の塊なら攻撃を加えることはおろか実態を保つことすら出来ない

 それを突破したのがこの称号【闇龍ノ力】

 効果は名前の通り、闇龍シュマルゴアの能力の一部を行使できるようになるという物だ

 つまり、シュマルゴアに出来ることは大体俺にも出来る

 すなわちそれは、さっきシュマルゴアが披露した暗黒属性操作もできると言うことだ

 それを俺の【変幻自在】と共に使えば魔力を固めて身代わりの傀儡を作ることなど造作も無い

 そう、暗黒波はただの目眩まし兼材料、真の目的はそれの一部を使って作った傀儡と入れ替わることだったのだ

 そんな俺の思惑にも気づかず結界を蹴って高速で突進するシュマルゴアが傀儡に向けて突進の勢いを乗せた斬撃を放つ

 拡張され、高速で飛んで行った斬撃はあやまたず傀儡に命中し、その体を上下に真っ二つに切り裂く

 物を斬る愉悦から僅かに笑みを浮かべるシュマルゴア

 俺がそう仕向けたとも知らずに

 真っ二つになった傀儡の体が瞬時に本来あるべき闇色に染まり、破裂

 煙幕のように闇の霧が拡散し、シュマルゴアの視界を塞ぐ

 その中、煙幕を貫いて二体目の傀儡がシュマルゴアの前に躍り出る

 その勢いのまま鎌を使い、放つ斬撃

 それを意にも介さず掴み取り、逆にその体を刀で文字通り叩き切るシュマルゴア

 変色、爆散、また煙幕が濃くなる

 そこに一瞬も猶予はやらんとばかりに後ろから無数の雷が、光線が、風刃が襲いかかる

 驚き、振り返るシュマルゴア、黒煙に包み込まれ、ドームのようになったそこには新たな傀儡が三体生まれていた

 それでもシュマルゴアはあくまで愚直だった、居並ぶ傀儡たちの中に突っ込み、バラバラに逃げ散る三体の内一体に追いすがり、肉薄、瞬時に切り捨てる

 それの結果を見すらもせず、残りの二体に何の小細工も無い魔力弾を放ち、粉々に打ち砕く

 しかし辿るのはさっきと同じ課程、その後に残るのはもはや一寸先も見えぬ闇の牢獄

 その中シュマルゴアの尖った耳にさっきまでの無機質な相手とは違う、生暖かい息づかいがかかる

 さっきまでは感じなかった神経を逆撫でされるかのような悪寒がシュマルゴアの全身を駆け巡り、反射的にその相手に向き合った時、全ては終わっていた

 腹部に突き立つ短剣、それが一体何を意味するのか理解したくないかのように硬直するシュマルゴア

 そして、理解した頃にはもう遅かった

 空を蹴り、距離を取る俺

 ようやくシュマルゴアが自分の状況を理解したかのように自分の腹から短剣を引き抜き、俺に向かって突進してくる

 しかし、その動きはさっきまでより明らかに鈍く、遅い

 そんなシュマルゴアの腕を掴み、関節を極め、そのまま容赦なく関節をあり得ない方向にへし折る

 関節が外からの過剰な力に破砕される生々しい音が右腕から響き、シュマルゴアが声にならない悲鳴を上げる

 そのまま流れるような動きで投げ飛ばし、気づかれないように傀儡と入れ替わる

 そこに濁流のように無数の魔力弾が押し寄せ、俺の目の前で傀儡が砕け散る

 そしてまた傀儡が黒く染まり、俺の目の前で拡散、黒い煙幕が俺の体を覆い隠す

 それを隠れ蓑にまたシュマルゴアの後ろに、さらにそれを察知されないようにシュマルゴアの目の前にさらに闇の煙幕から生成した傀儡を配置し、目眩ましにする

 目の前の敵に釣られ、傀儡を破壊せんと踏み込みの体勢を取ったシュマルゴアを俺の放った【暗黒魔法LV28 深淵縛鎖】が後ろから捉え、絡め取る

 あらゆる動きを封じられ、魔法陣から吊り下げられる形になったシュマルゴアを、闇の霧全てを消費して新たに生成した物と生き残っていた物を合わせた四体の傀儡が四方から取り囲む

 そしてそれを僅かに後ろから圧するように眺める俺

 闇の霧は完全に消費されて消え去り、元の見通しの良い状態に戻った会場の真ん中でまるで処刑されるのを待つ罪人とその執行者のような光景が広がっていた

 憤怒に彩られたその顔は僅かに紅潮し、苦しそうに開かれた口からは少しでも空気を求めるかのように荒い息を吐く

 いまだ消えぬ怒りを映すその瞳には、今まで己を焼き焦がしていた物とはとは違う、凍てつくようなもう一つの感情が俺を見上げている

 それは、怯え、己の死の可能性にようやく気づいたかのようにわき出してくる恐怖

 だが、悲しいかな、猛毒にあえぎ、麻酔と麻痺で体を動かすのもままならないシュマルゴアにこの期に及んで出来ることは何も無い

 それを無表情で眺める俺は、哀れな咎人に最後の一言をかける

「恨むのなら俺を恨め、俺はその恨みを主になった時好きなだけ受け止めてやろう、間違っても今の主を恨むんじゃ無いぞ」

 そう言って、その意識を刈り取るための最後の一撃を繰り出そうと魔力を集中させていく

 そう、決着を急ぎすぎたことに気づかずに

 

 刹那

 

 俺の心が決着を予感し、不覚にも一抹の油断が沸いた、刹那

 それを知ってか知らずか、シュマルゴアが動いた

 

       ◇


 何で、何で勝てない

 どうして、何で……

 さっきあいつに突き刺された腹部にはさっきの灼熱が嘘のように何も感じない

 まるでそこだけ死んでしまったかのように

 その感覚がまるで己の運命を暗示しているようで、恐ろしい

 嫌だ、こんなところで負けられない、死にたくない、死ねない

 嫌だ、嫌だ、嫌、いや、や……ぁ、ぁぁ、ああああああああアアアアアアアアッ!!

 

       ◇

 

 シュマルゴアの体に瞬時に魔力が満ち、己を縛る鎖をまるで薄紙のように消し飛ばす

 何だと!?

 あいつ、まだ余力を残していたというのか!?

 いや、違う、あいつの今集めている魔力は限界を明らかに超えている

 おそらくSPはおろかHPまでもMPに変換し、その魔力全てをもって最後の一撃を繰り出すつもりなのだろう

 消費される魔力の量にもよるが、そんな攻撃の反動に自分の体が耐えきれる保証は一切無い

 あいつ、俺を道連れに自爆する気か!

 しかし、その予想は外れていた

 それも、絶望的なまでに最悪の方に

 収束し、魔力がシュマルゴアという存在に不似合いな規則正しい魔法陣を築き上げる

 その中央に宿るのはあたかも空間そのものに穴を開けたかのような漆黒の球体

 それが周囲に放つ存在感、威力そのものの具現のような威圧感はさっきまで体に満ちていた魔力、それをもはるかに凌駕する

 それを見た俺は一目でそれが何であるか見抜いた

 そして導き出した正体にどうしようも無い戦慄を覚える

 それは、魔力解放

 瞬間、今まで立てていた何十通りもの策を全て捨て去る

 アレは多少の策がどうこうしたところでなんとかできる代物では無い

 そして、それと同時にどうしようも無く導き出される無慈悲な結論

 つまり、対処不可能

 そしてチラリと後ろを確認し、予想以上に悪い状況に焦る

 俺を焦らせたのは観客の避難の遅さ

 もとより出口はそんなにたくさんある訳では無い上、満員まで観客が入っていたのだ、それほどまで長い時間稼ぐことが出来なかった今の状況で全員逃げ切れるはずもなし

 そしてシュマルゴアが繰り出す魔力解放はどう見ても結界の耐久力を超えている

 このまま撃たせれば確実に甚大な被害が出る

 クソ、やられた

 決着を急ぎすぎたのは俺の方か……もっとシュマルゴアに余力が無くなるまで堅実に攻めるべきだったか

 期を読み損なったか、深追いしすぎたな……

 せめて被害が少しでも少ない方にその矛先を変えさせようと上に向かって飛ぶ

 すると絶対に当ててやると言わんばかりに俺に平行してシュマルゴアも上に飛ぶ

 その様を横目に見ながら焦る心を落ち着かせて考える

 避けるのはそもそも論外として、これほどの威力を防ぐのは不可能、魔法陣が形成されてしまった以上発射を止めるのもおそらく不可能だろうし、もし止められたとしてもあれほどの魔力、暴走すればそれだけでここなど跡形も無く吹っ飛ぶ

 となると、同威力の何かで相殺するしか無い

 だが、それをも嘲笑うように、それすら不可能だという結論が出る

 まず魔法で相殺するのは不可能、となると同じ魔力解放で相殺するしか無いが、それも今までの戦いで減った俺の魔力では十分な威力を出せるはずも無い

 シュマルゴアと同じことをすれば威力を底上げすることは出来るが、相殺するにはそれでもまだ足りない

 だが、百の威力をゼロにする事は出来ずとも、せめて十にしてやる事ぐらいは出来る

 それなら少しでも被害を減らすことは出来るはずだし、上手くやれば結界で防ぐことが出来るかもしれない

 覚悟を決め、魔力を手に集中、それと平行していまだに俺の周りに浮いている傀儡を元の魔力に分解し、それも一緒に収束させていく

 集中させた魔力にSP、HPを限界まで注ぎ、そして最後に静かに覚悟を決める

 その時俺は今更ながら気づいた

 そうして覚悟を決めた俺の背後で、見たことも無い奇怪な魔法陣が展開されたことに

 

       ◇

 

 お?

 これは決着かな?

 結界の上の方から眺める俺の目に闇の霧が晴れた直後に飛び込んできたのはあまりにも一方的な光景だった

 魔法陣から伸びる真っ黒な鎖の先に吊り下げられているのはボロボロのシュマルゴア

 それを四方から取り囲んだヴァルガが一斉にそれに槍を向ける

 それを少し後ろから冷たく睥睨する五人目のヴァルガ

 あれ?ヴァルガいつの間にそんなに増えたの?

 素早く全員を閲覧、その結果、包囲陣には加わらず少し離れたところにいるヴァルガが本物であり、他は全てただの魔力であることが分かった

 ほえー、ヴァルガ凄いとは思ってたけど分身も作れるのか

 分身とは二つのパターンがあり、一つは以前フェイン家邸で出会ったエレンのような自我を持った魂が宿った分身体タイプ

 もう一つは、俺は出会ったことがないが、単純な魔力で作り上げられ、魔法に似た仕組みで動き、召還主に与えられたいくつかの簡単な命令をこなし、一定時間すると消える使い魔タイプ

 だが、見る限りどちらも今の状況には当てはまらないようだ

 あの分身は単純な魔力の塊なので、もっと高度に作る必要がある前者のタイプではないし、後者のタイプにしても単純な命令に従っているような単純な動きではない、というか微動だにしていない

 こんな芸当は目標を愚直に攻め立てる後者には出来ない事だ

 それに、【閲覧】と【察知】を併用して初めて気づいたことだが、分身とヴァルガとの間に薄い魔力の道ができており、どうやらそれで直接分身に指令を送って操作しているようだ

 そんなタイプの分身は聞いたことがない

 ってことはあの分身全部あいつが直接動かしてるのか、それはそれで凄いな

 それでもヴァルガなら不思議じゃないって思えるステータスしてるけど

 それにさっきシュマルゴアが放った魔力でヴァルガが粉々になった時もおそらく実際に砕け散ったのはあの分身なんだろうな

 そうだと分かっていればあんなにヒヤヒヤせずに済んだのに

 あれは本気で死んだかと思ったからなー、心臓止まるかと思った

 あー、そんなふうに余計なこと考えられるぐらい余裕が出てきたってことかな?

「恨むのなら俺を恨め、俺はその恨みを主になった時好きなだけ受け止めてやろう、間違っても今の主を恨むんじゃ無いぞ」

 ヴァルガが最後に死刑を宣告するかのようにそう言い放つと魔力を集め始める

 しかし、その通常なら安心すべき一言を聞いて、逆に俺は嫌な予感のような物を感じ、もう一度頭の中でヴァルガの発言を繰り返す

 主になった時に?……どういうことだ?

 違和感を覚えたのはそこだった、まるでルーンがもう助からないかのような言い方、まるでその後釜に自分が座るとでも言うかのような

 まさか……

 そんな考察が形を成そうとしたその瞬間、俺の思考を吹き飛ばすかのように凄まじい魔力の気配が俺を戦場に連れ戻す

 思わずはっとシュマルゴアを見据える、そうだ、まだ戦いは終わっていない、いくらこちらが有利でもいつ逆転されるか分からないのだから油断は禁物だ

 まあどうせヴァルガがトドメ刺そうとしただ…け……?

 あ……れ……?おかしいぞ

 そして、シュマルゴアを見た俺は思わずその光景に瞠目した

 渦巻く魔力はさっきトドメを刺そうとしていた気配からではなく、トドメを刺されようとしていた方、つまりシュマルゴアから溢れ出していた

 それだけなら気を引き締めはするだろうが、さっきまでさんざんあったし、驚くほどではない

 異常だったのはその量

 そう、度重なる戦いの末シュマルゴアは今俺たちから見て結界の反対付近にいる

 そんな距離から魔力の気配をここまで届かせたのだ、半端な量のはずがない

 まあ、事実半端な量ではなかったのだが

 と、急にその魔力が収束、複雑な魔法陣を形成し、その中央にさらに気配と威圧を増した魔力が球となって収束する

 間違いなく、魔力解放だ

 わーすごいねー、あれならこの会場ぐらいなら簡単に吹っ飛ぶねー

 って現実逃避してる場合じゃねー!!

 ヤバイって、アレはどう見てもヤバイって!

 さっきまでの余裕はどこへやら、シュマルゴアが繰り出そうとする攻撃の規模に慌てる俺

 ヴァルガー!何とかして!

 と俺が全てを丸投げしようと(最初からしてた)した瞬間、ヴァルガが上に向かって飛翔、それに合わせるようにシュマルゴアも戦いの場を上に移す

 つまり、上から援護射撃していた俺たちの近くってこと、もっと言えば俺たちとヴァルガとシュマルゴアが一直線になったってことだ

 ちょ、それはないって

 何がないのかというと、俺たちの生き残れる道がない

 おそらくヴァルガはあのシュマルゴアの攻撃を真正面から相殺する気なのだろう

 なぜならそれしか道がないから

 つまりそれはどちらかの押し勝った魔力解放が負けた方を吹き飛ばすということ

 そんな凄まじい威力のどちらかが突破して威力の解放が起きたらどうなるか?

 答え:死にます、主にここにいる二人が

 当ったり前やろ、あんなインフレのフルパワーの威力なんて余波だけで俺たち消し飛ばすには十分よ

 さらに悪い知らせ、おそらくヴァルガが負ける

 なぜなら【察知】でお互いの魔力の反応を見ると、ヴァルガの魔力はシュマルゴアのそれに比べて高度に練り上げられているものの、絶対的な量で劣っているからだ

 別にヴァルガを信頼していない訳じゃないし、負けて欲しい訳ではもっとないけど、目の前の事実は無情にもヴァルガの敗北という可能性を示している

 そしてヴァルガが負けた場合、シュマルゴアの魔力解放の次の標的はその射線の延長上にいる俺たちになる訳で

 その場合、余波どころかあのとんでもない量の魔力を全て受けることになる訳で

 ヤバイ、ヤバイ!ヤバイ!!死ぬって、これは間違いなく死ぬって!

『ねえ』

 よし、逃げよう、ってするにも結界があるから逃げられない!

『おーい、聞いてる?』

 うあー、どうすりゃいい!?

『おい、聞けっての!!』

 絶望的な状況に頭を抱える俺の耳(?)に半ギレの佐野さんからの念話が突き刺さる

『はっ、ごめん、パニックに陥ってた』

『その気持ちは分からなくもないけど、そんな状況だからこそ話を聞いて』

『さーせん』

 強いなー、佐野さんは

 それに佐野さんの言うとおりだ、ここで混乱してるばかりじゃ何も解決しない

 ってわけで

『どうする?』

『いや、いきなり聞かれても困るんだけど』

『ホントどうする』

『知りません』

『という茶番は置いといて、どうする?』

『始めた本人が言うな、しかも言ってること何一つ変わってないし』

 これは耳が痛い

『俺は正直言って策なし、八方ふさがりだね』

『ダメじゃん!まあそういう私もなんだけどね』

『どうすれば死なずに済むかなんだけどな』

『一度発動されてしまえば防ぐのは不可能だろうし……いっそ発動する前にシュマルゴアを倒すってのはどう?』

『大きく出たな、けど無理だと思う、俺たちの力でシュマルゴアを倒すのはほぼ不可能だと思う』

『”アレ”でも?』

『この距離じゃたぶん無理だと思う、それに仮に倒せたとしても魔法陣ができてる以上魔法陣だけで発動されかねない』

『なら魔法陣を破壊すれば……』

『それをシュマルゴアが許すか?』

『っ……』

 念話越しに佐野さんが絶句するのが分かる

 シュマルゴアの手元の魔力は高度に練り上げられ、いつ発動してもおかしくない

 くそ、もう少し近かったなら”アレ”の射程圏内だったかもしれないのに

 それならダメ元で足掻くこともできるのに……

 そこまで考えて、そしてふと思う

 うん?待てよ、もしかして”アレ”なら……

 ふと思ったそれが命の危機でこれ以上ないほどに冴え渡った頭の中でどんどん形を成していく

 そして一つの作戦として形を成したそれを見て、俺は思う

『いけるかもしれない』

『え?』

 すぐにその作戦を佐野さんに話す

『いける……の?それ』

『現状それしか策がない、それにこれ以上迷ってる時間もない』

 すぐ前を見ればシュマルゴアの魔法陣が禍々しい光を放ち、それに向かい合うヴァルガの魔法陣も静かな輝きをたたえ、それがすぐにでも発動できることを示している

 これ以上もたもたしてたら本当に詰む

『一か八か、掛けてみるか?』

 永遠にも思える一瞬、そしてそれを破るように覚悟のこもった声が帰って来る

『それしかないなら、やるしかないでしょ』

『そう来なくっちゃ、だな、よし、やるぞ』

 返事と同時にずっと期を狙いつつ構築してきた魔法陣を展開、俺よりはるかに大きいそれを目の前に配置する

 その魔法陣ははるか下、激戦の様相を残す地面に柔らかく張り付くと即座に色を失い、消える

 それを見ると、覚悟を決め、今目の前で始まったエネルギー同士のぶつかり合いを見据え、もう一つの魔法陣の展開を開始する

 賢者曰く、成せば成る、だ、やってやるよ

 

       ◇

 

 【アビスブレイザー】

 【黒龍焼滅波】

 声には出ない詠唱が向かい合う二人の間を駆け抜け、その後を追うように純然たる漆黒の威力の塊が、お互いを押しつぶし、圧倒せんと迫る

 闇色の怒れる少女からは、猛り狂う炎の怒濤が

 漆黒の龍騎士からは、一筋の渦巻く闇の奔流が

 それぞれ溢れ出し、迫り、そして交わる

 しかし拮抗したのは一瞬、燃え盛る闇色の炎は瞬時に闇の奔流を散らし始め、強引に前へ前へと押し上げんと殺到する

 くっ、強い

 舐めているつもりはなかったが、やはり予想を超えてきたか

 だが、こちらも負けてばかりではない!

 衝突点でぶつかり合い、吹き散らされる魔力たちを操り、再度手元に集め、十分な量集まったと思った瞬間、溢れ出す奔流に一気に合流させる

 やや押されていた奔流が急に力を盛り返し、炎の怒濤をわずかに押し返す

 しかしそれも束の間のこと、(とど)まるところを知らない漆黒の炎は再度次から次へと溢れかえり、あっけなく前線をさっきの位置に押し戻す

 っ、ダメか

 こんなことをしても時間稼ぎにしかならないのは重々承知、それにこの行為自体に意味があるのかさえ怪しい、しかし、それでもやらなければならないのだ

 ジリジリと、しかし着実に破局の時は刻一刻と近づいてくる

 それが残り三分の二を切った瞬間、黒い龍騎士はたった一瞬を稼ぐため、動く

 唐突に、あれほど苛烈に抵抗していた闇の奔流が押し返すのをやめた、いや、こう言った方が良いか、闇の奔流が口を開けた、と

 漆黒の龍騎士が腕を振り上げるのと同時に、口を開けるという表現がこの上なくよく似合う動きで、進むのを止めた奔流の先端が漏斗状に開いたのだ

 その中に止まろうともせぬ漆黒の獄炎が面白いほど見事に吸い込まれていく

 その炎は漏斗状の傾斜に沿って形を変え、一筋の(くさび)となって闇を引き裂き、穿ち、放ち手を焼き尽くさんと驀進(ばくしん)する

 それが己へと近づいてくる気配をひしひしと感じながら、龍騎士はそれでも嗤って受け入れる

 なぜならそれこそが己の策だから

 炎の楔が己の闇をほとんど食らいつくし、残すは己と紙一重の闇のみという状況になった、その瞬間、振り上げていた手を勢いよく下ろす

 それに連動して、炎を飲み込み続けていた口が勢いよく閉じ、止めていた進撃を再開する

 そして、己が入ってきた唯一の入口が閉じることによって細長い袋に閉じ込められるような形になった炎たちを、全方位からまるで締め上げ、押しつぶす様に闇が殺到、その内部で無理矢理磨り潰す

 そして再度始まる闇と炎のぶつかり合い、しかし悲しいかな、さっきまでのわずかでも押し返そうという勢いも、それを可能とする魔力も、もはや闇の奔流にはなかった

 しかしそれを放つ龍騎士は、あくまでいずれ来る諦めという最短ルートを最後まで愚直に通ろうとしなかった

 ここまで闇が量を減らした、それならもうこれができる

 再度形を変える闇、それが次に取る形は高速回転する円盤

 これが最後のあがきだ、どちらが先に力尽きるか、根比べと洒落込もうじゃないか

 回転する巨大な壁、いや、巨大な円形盾(バックラー)と化した闇が、容赦なく突き進む炎の奔流を真っ向、受け止める

 円形盾の中央を炎が闇をまるで火花のように散らしつつ無理矢理抉り、その直後に圧倒的な回転力に為すすべ無く削り取られ、火の粉として散る

 回転によって必死に闇の炎をいなし、吹き散らし、それでもなお殺到する炎を精神力だけで咆吼と共に押し返す

 双方が前線を一ミリでも前進させようとする一進一退の攻防が、そこにあった

 すると、ここに来てまさかの粘りに勝敗を急いだか、炎がさらに密度と勢いを増し、闇の盾にぶつかる

 しかしそれをまともに受けるような愚は犯さない、にわかに回転を増した闇の中央が西洋槍のように鋭さを増し、炎を中央から引き裂き、吹き飛ばす

 しかし、それまでだった

 炎をどこまでも吹き散らさんという勢いだった盾が唐突に動きを鈍くする

 すかさず中央を貫かんと殺到する炎、それを苦し紛れ程度に再度奔流の形に戻った闇が迎撃し、しかし為す術無く押し返される

 盾自体の耐久は魔力がある限り無限、しかしその肝心の魔力の量はそうは行かない

 魔力が底を突いても無理矢理闇を動かし続けた代償に、代替として消費されたHPがほとんど残っていないことを全身の倦怠感と朦朧とする意識から察し取り、そんな中でも邪魔者を最後の一波で全て吹き散らした炎が己を焼き尽くそうと迫るのをぼやけた視界に捉える

 これまでか……

 それでもせめて己の体を最後の障壁とせんと、吹き飛ばされないよう最後の力を翼に込め、不動の体を固めようとした

 その瞬間だった

 後ろから感じる二つのそこそこ大きな魔法の気配、それもシュマルゴアの炎を真っ向から迎え撃つ方に進んでいる

 それを朦朧とする意識の中感じ、半分無意識の内に戦闘時の習慣として分析する

 そして、半ば予測できていたことながら、その結果に一瞬寄せた期待を捨てる

 悲しいかな、絶望的に威力が足りない

 その上、さらに俺を絶望させたのはその魔法のタイプ、それは魔法陣から垂直に巻き上がる、回転する細く鋭い漏斗の形、つまり旋風なのだ

 旋風系の魔法は単純な火力においては申し分なく、また、柱状に面を蹂躙するため避けられにくい魔法だが、その形がゆえに逆に一点突破型の波動系や弾丸系の魔法に極端に弱いという弱点もある

 今俺に迫っているシュマルゴアの魔力解放はその波動系の典型的なもの、まして威力でもはるかに劣るあの魔法で受けきれる道理はないのだ

 それでも十分絶望的だが、さらにとあることが俺に絶望を超えて失望を抱かせた

 それは軌道、二つの魔法の軌道の延長線はちょうど俺のすぐ後ろで交差している、そしてその予想に違わず二つの魔法はその交点に吸い込まれるようにお互いの距離を詰めながら走っている

 つまり、簡単に言えばこのまま進めばこの二つの魔法は俺の後ろで衝突するということだ

 そうなった理由は知らんが、大方、シュマルゴアの予想外の大威力に驚いてろくに二人で相談もしないまま魔法を放った結果だろう

 実際は二人とも綿密な連携の内に放った一撃なのだが、それを知るよしもないヴァルガは、なおも考える

 正直言ってこの有様では俺を援護するどころか魔力解放に触れることすらできずお互いで潰し合って消滅するだけだろう

 そう考えている間にも炎の奔流は迫り続け、今やその圧倒的な熱量は肌でヒシヒシと感じられるほどになっている

 もはや向かうのが叶うのはただ、死のみ

 もはやこれまでか、そう思い、閉じようとしたヴァルガの瞳が

 

 寸前

 あり得ない光景に見開かれた

 

 その瞬間、俺は衝突が起こると思っていた

 そう、思い込んでいた

 が、

 違った

 目の前で重なる火炎と雷撃の旋風、それらは破壊という絶対の性質に抗い、まるでシャボン玉の合わさるように、また、手を繋ぎ、舞踏を舞うように、合わさり、絡み合い、そして混じり、一つとなる

 変化したのは外見だけではない、中に込められた威力、さっきまでは弱々しかったそれが混じり合いつつお互いを高め合うように増幅、寸刻の内に爆発的な威力を(みなぎ)らせる

 ヴァルガの目の前に、寸刻前の二回りはあろうかという、紅蓮に燃えさかり、その内に紫電を走らせる巨大な旋風が堂々、屹立していた

 しかも、それから迸るプレッシャーは、先刻の比ではない

 その強さは俺に迫りくるシュマルゴアの魔力解放と見比べても見劣りしないどころか、上回りそうなほど

 バカな、なぜあいつらがこれほどの魔法を……

 あり得ない光景に呆然とする俺、その耳を音にならない慌て声が叩く

『やばいって、に、逃げてヴァルガァッ!!』

 おいお前ら、さては俺のこと忘れてたな

 ここまで来ての()()()()()()を軽く苦笑に変え、わずかに差し込んだ光明に生き残るため全力を傾ける

 本来使おうと思っていた方向とは違うとはいえ、運良く翼に溜め込んでいた力を、真横に解放、弾き飛ばされるかのように飛んで行く

 そしてそのまま慣性だけで飛んで行き、それが尽きたところで漂うように静止する

 まったく、あいつらのせいで計画が狂いっぱなしだ

 その狂いのせいで拾った命であることを自覚し、さらにその”あいつら”に事の終息を任せたことにまた苦笑を浮かべながら、前を見る俺

 その目の前で、ついに旋風が標的を見失った黒炎の奔流に触れる

 

       ◇

 

 【迅雷魔法LV28 黒雲昇嵐】

 【火炎魔法LV28 火災旋風】

 声には出さない二つの詠唱が、示し合わせたかのように(実際示し合わせているが)同時に放たれ、目の前に置かれている限界まで魔力を注いだ二つの魔法陣がまばゆい光を放つ

 そして巻き起こる二陣の風、それは瞬時に旋風(つむじかぜ)となり、竜巻となり、仕上げとばかりに片方は燃え上がる火炎を、もう片方は紫電を走らせる黒雲をその身に纏う

 と、思う間もなく二筋の竜巻が重々しく動き出す

 もちろん向かう先は今シュマルゴアとヴァルガが激戦を繰り広げている、まさにそこ

 これが今使える中での最大火力の魔法だ

 だが、あのシュマルゴアの魔力解放を打ち消すにはそれでも全く威力が足りない

 それは分かっていたことだし、ましてやただの魔法で魔力解放を受け止められると楽観していた訳でもない

 それをするためには予選の時のルーンとあの男ぐらいのステータス差がないとならない

 もう一押し、何かがないと打ち消すことはおろか勢いを緩めることすらできずに消し飛んでしまう

 だがそれを分かっていてもなお、俺は不敵に笑う

 何を隠そう、その一押しこそがこの俺なのだから

 よく見れば分かる、二つの魔法の軌道は平行ではなく、微妙に内側に傾いている、つまり、お互いの衝突ルートに入っている

 このままならシュマルゴアの魔力解放に当たる前にお互いで潰し合って消滅してしまう

 そう、このままならな

 みるみるうちに二つの魔法の距離は詰まり、魔法の間に挟まれ悲鳴を上げる空気が衝突までにそれほど時間が残されていないことを告げている

 だがそれでも、俺は不敵に笑う

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 二つの魔法が吸い込まれるように一点に向かい、その寸前でお互いに触れ、抜き身の威力がお互いを砕き散らさんとせめぎ合う

 その下に設置された巨大な魔法陣の上で

 その様は、まるで円形の舞台の上で二つの龍が争っているかのよう

 それを見るや、全身に練り上げた魔力を余すことなく解放、前方に察知された巨大で複雑な魔法陣に全て流し込む

 その溢れる魔力を飲み干した魔法陣が、その魔力全てを己の効果として発揮し、四方八方にその効果をまき散らす

 その方向性の定められていない悍馬のようなあふれ出る魔力を操作するのこそ、俺の役目

 わずかでも気を抜けばその瞬間に魔力は俺の制御を振り切ってしまい、それと同時にこの作戦も、俺たちの命運も(つい)える

 ならば二人ですれば良いじゃないか、と言われるかもしれないが、それはできない

 なぜなら、これは俺にしか使えないから、もっと言えば、俺の所有するスキルだから

 【一心同体】自分の支配下にある魔力物体を融合させ、増幅現象によって威力を増幅させる

 これこそが、魔法だろうが何だろうが魔力でできていれば混ぜ合わせて増幅させるという俺のユニークスキル、今、二つの魔法を乗せている魔法陣の正体だ

 己の上でせめぎ、争う二つの魔法を、まるで仲裁する様に魔力が割り込み、お互いの威力をまるで不協和音を調律するかのように、また、好き勝手に鳴り響く楽器たちを指揮してオーケストラにするかのように、誘導し、合流し、増幅していく

 それと共に、二つだった魔法が次第に混じり合い、一つの魔法へと織りなされる

 魔法陣が役目を終え、己が織り上げた物をそこに残し、光の粒となって消滅する

 それを見て俺は、自分が作り上げた物だということを一瞬忘れ、圧倒された

 それは火炎と黒雲をその身に纏い、堂々、屹立する旋風

 俺たちが繰り出せる最大の攻撃がそこにあった

 それは寸刻も待つことなく、与えられた使命を遂行すべくさっきまで激しくヴァルガの闇とシュマルゴアの炎がぶつかり合っていた、そこを目指す

 ……あれ?そう言えばヴァルガは?

 さっきまでそこでシュマルゴアと激戦を繰り広げていたはずだし、そうじゃなきゃ俺たちはとうの昔に消し飛んでるはずだし……

 うん?って事はヴァルガは少なくともさっきまでシュマルゴアの射線上にいたって事で、さらに俺たちの攻撃はそのシュマルゴアの射線を真正面から轢き潰していく訳で

 つまりヴァルガがいた、そこから動いていなかった場合ヴァルガが今もいる場所も巻き込んでいく訳で

 なんか、すごく嫌な予感がします

 その予感を肯定するかのように俺が考えていたその地点に弱々しいが高度に練り上げられた魔力が【察知】に映っていた事に気づく

 あ、はい、もしかしなくてもヴァルガですね、分かります

 じゃねえ!【察知】を見る限りかなり弱っているらしいヴァルガがあんなの食らったら死ぬって!!

『やばいって、に、逃げてヴァルガァッ!!』

 それを聞くが早いか、ヴァルガが弾丸のように真横に飛び、瞬時に射線から離れる

 なんか念話越しに呆れられたような気配を二方向から感じるけど、感じなかったことにしよう

 っと、そうじゃない、まだ戦いが終わった訳じゃないし、まだ一つやることがある

 俺たちの魔法とシュマルゴアの魔力解放はみるみるうちに距離を減らし、ついに衝突

 大質量同士が衝突する腹の底に響く重い音が走り、真っ黒の火の粉と紫電混じりの火炎がまき散らされる

 黒い火炎の奔流はその勢いと内包する威力に任せて無理矢理邪魔する物を押し破ろうとし、巨大な旋風は壮絶な回転力でその圧力をいなすように削り取り、火の粉に変える

 お互い一歩も譲らぬ字義通りの拮抗

 に、見えるが、実際はそうではない

 なぜなら、シュマルゴアはぶつかった魔力を使い捨てにしなければならないが、俺たちの魔法はそうではない、回転力に物を言わせた薙ぎ払いのため、見た目の派手さに比べ、こちらの被害はほとんどない

 何しろこのタイプの魔法を選んだ理由の一つがこれなのだから

 俺のスキルなら他のタイプの魔法でも同じことをやろうと思えばできるが、この旋風系には利点が多いので準備の大変さを押してでもこれを選んだ

 炎の奔流はその計算された戦術の前に為す術無く一方的に被害を増やしていく

 と、思い通りにならない現状にイラついたか、奔流がさらに激しさを増し、濁流となって押し寄せる

 わずかに、しかし確実に旋風が後ろに押され、それを見て奔流がさらに勢いを強める

 再び戦局がシュマルゴアに有利に傾く

 しかし、そんな状況の悪さはどこ吹く風と俺は余裕の笑みを浮かべる

 ()()()()()()()()

 俺がそう思うと同時に、旋風を取り囲むかのように再度魔法陣が現れる

 それはさっき二つの魔法を一つにした物と同じ、俺のユニークスキルによる魔法陣

 これが起きることを見越して設置していた物だ

 なにしろシュマルゴアが魔力解放の出力を上げるというのはヴァルガと闘っている時に一度見ている上、こんな悪あがきなら俺も予想できていた

 まあ、そうなることこそが俺の狙いなのだが

 俺のユニークスキルは魔力で出来ている物ならば何であろうと融合、増幅させて己の糧とする物

 つまり、魔力で出来ている物なら全て俺の糧なのだ

 そう、今俺たちの魔法に触れているシュマルゴアの魔力解放でさえ、それに含まれる

 魔力を注がれた魔法陣が輝きを帯び

 瞬間、理が歪む

 効果は劇的だった

 今まで撒き散らされていた漆黒の火の粉がはたと止む

 それと同時に、旋風の中に紅蓮、深紫に続く第三の色が混じり込む

 すなわち、漆黒

 漆黒の炎が螺旋を描いて旋風の中に踊る

 奔流が旋風に取り込まれているのだ

 弾丸系のような、瞬間に全てを消費し尽くす物ならばいざ知らず、逐次投入の波動系に俺たちの魔法が負けるはずはない!!

 その俺の心中の静かな叫びに鼓舞されたかのように螺旋を描いていた漆黒の炎が完全に混じり、元より膨大だった威力がさらに跳ね上がる

 もはや最後の障壁だった火炎の奔流さえも己の力に変えた旋風がその奔流の流れを(さかのぼ)るかのようにシュマルゴアに向けて驀進する

 だが、それの代償も大きかった

 俺の手元にある小さな魔法陣からまばゆい光が溢れ出し、俺の歯を食いしばった必死の表情を照らしだす

 実は相手の魔力解放を巻き込むというこの使い方は半ば邪道の、本来の使用法から離れたもの

 なにせこのスキルで融合させられるのは俺が支配している魔力のみ、本来ならシュマルゴアの指揮下にある魔力解放は融合できないのだ

 今回はそれを有り余る威力に物を言わせて無理矢理魔力の波長を揃えて巻き込んでいるだけなのだ

 それゆえに、統御に多大な労力を割かなければならないのも、半ば自明(じめい)()

 両手を魔法陣に向け、巻き込まれてなお荒れ狂う火炎の制御に文字通り全力を込める

 MPが尽きることさえも(いと)わず、全意識を持って旋風を内側から引き裂こうとする火炎を巻き込み、纏め上げ、束ね上げる

 一筋汗が頬を伝うが、それすらも意識に入らないほどの極度の集中

 しかし、それでも無情にも魔法がわずかずつ制御から抜け出し、崩壊していくのを魔法陣越しに感じ、俺の限界を知る

 理由は簡単、俺の魔法攻撃力ではシュマルゴアの魔法全てを飲み干すほどの掌握力は発揮できないのだ

 このままではいずれ旋風は俺の制御を振り切り、自壊する

 ここまで来ての自分の限界、しかしそれでも諦めない

 崩壊するとしてもすぐ崩壊する訳じゃない、完全に崩壊し切る前にシュマルゴアを倒してやる!!

 たとえ、もうすでに魔力が尽きていようともな!!

 もはや会場を縦に貫く魔力の柱と化した旋風が全体から三色の光の粒をこぼしながら、さらに勢いを増し、シュマルゴアに迫る

 驚きに目を見開いたシュマルゴアの顔が一瞬目に映り、すぐに旋風にかき消される

 最後の障壁のように突き出されたシュマルゴアの両手に宿る魔法陣を瞬時にガラスのように打ち砕き、刹那の間さえ与えずその主を飲み込む

 それによって力を得たかのように旋風が一気に上下を繋ぎ、結界さえ打ち砕かんばかりに爆風を発散する

 一拍遅れて旋風が俺の制御を振り切り、その瞬間三つの混じり合った威力がお互いをかき消し合い、さっきまでの猛威がまるで嘘のように拡散し、消える

 解放された爆風が俺の顔を激しく叩き、その衝撃に思わず目を閉じる

 瞬時に全ての音が消え、痛いほどの静寂が戦場を支配する

 か、勝った……のか…………

 目を開ける

 一瞬前まで旋風が猛威をふるっていたそこには、うつむき、歯を食いしばったまま戦闘態勢を取ったシュマルゴアのみが残っていた

 それに呆れに似た戦慄と恐怖を覚える

 マジか……あれを食らってまだ耐えるか

 あれは俺たちの正真正銘の全力の一撃、あれで倒せないのなら正直打つ手がない

 絶望しかける俺、しかし結果から言えばそれは杞憂に終わった

 シュマルゴアの体から闇が拡散するように抜け、元のルーンの姿に戻る

 その体から力が抜け、空中からこぼれ落ちる

 ハッ、危な…

 そこに慌てて飛び込んだヴァルガが優しく受け止める

 良かった、と胸をなで下ろす俺、そこでようやく周りを確認する余裕ができる

 ビックリした

 誰もいなかった

 何を言っているのかわからねーと思うが俺も何が起きたのか分からん

 戦闘前には文字通り会場一杯に詰まっていた観客たちが一人もいなかった

 その様を見てヴァルガが念話をこぼす

『こりゃまた……少しやり過ぎたみたいだな』

 いや、これやったのあんただろ

 そんなヴァルガのつぶやきに対して佐野さんがやや呆れと追及を込めて短く念話を返す

『どうするの』

 それに対してヴァルガはそっと目をそらした

 ああ、考えてなかったんだ……

 その場が呆れ笑いのような少し緩んだ空気に包まれる、瞬間

 

 瞬間

 

 その時俺は油断してるつもりなんて全くなかった

 ついさっきまで綱渡りのようなギリギリの戦闘をしていたわけだし、油断なんてして良いはずがなかった

 でも、それでもどこか自分の中に油断しているところがあったのだろう

 そうじゃなきゃこんなことにはならなかった、かもしれない

 

 会場を覆う結界が消え去った

 俺がその意味を知る間さえ与えず

 

 光芒が目の前を貫いた

 血煙が宙に一線描いた

 空中の鎧がよろめいた

 必死な形相が俺を見た

 

 それを見て、俺は何もできなかった

 

 ヴァルガが撃たれた

 

 入口から入ってきた、兵士のような服を着た男たちが、撃った

 何のためらいもなく、その手から放たれた光線が、撃ち抜いた

 それをボロボロのヴァルガはどうすることもできず、撃たれた

 

 それを、俺はどうすることもできず眺めていた

 

 

 

 

 運命は新たな歯車を加え、動き出す

 その行く先に何があるのか、それは誰にも分からない

 その行く先に何が起こるのか、それも誰にも分からない

 しかし、それでも因果は巡る

 

 

       間章  動き出す者たち

 走る

 走る、走る

 走る、走る、走る

 全てを後ろに流れる風景にして、走る

 全てを捧げた主の命に従うために、走る

 街の裏路地を駆け抜ける黒風と化し、走る

 きらびやかな表とは対照的なそこの中、走る

 一陣の吐息が後ろに流れ、そしてついに”それ”を補足する

 主の気配、大勢の気配、一糸乱れぬ気配、そしてその中にある二つの”それ”の気配

 感じ、目指し、走り、走る

 黒い衣に身を包む走狗は、再びの邂逅を目指し、走る

       ◇

 何度も、笑った

 何度も、闘った

 何度も、怒った

 先度は、逃げた

 今度は、助ける

 冷たい得物を手に取り、その重みを感じつつ、指の間に挟む

 腕を胸の前で交差させ、まるで猛獣の爪のように輝く鋼の得物を見、猛獣の笑みを浮かべる

 全くふさわしいのう、我にも、今にもな

 猛禽の翼を生やし、飛ぶ

 豪奢な衣に身を包む猛獣は、友を助くため、飛ぶ

       ◇

 取り囲む

 押し通る

 踏み倒す

 踏み込む

 着々と淡々と命令を果たしていく兵士たち

 それを見ゆり、しかし油断せず事実だけを見る

 そして、それが正しかった事をすぐに知る

 群がる黒、踏み込む白

 それを遠目に見つつ、ただ命を下す

 兵士の服に身を包む道具は、己が命を果たすため、下す

       ◇

 紅蓮

 黄金

 純黒

 紺青

 これは、焚き付けなければならない、そしていずれはその自らの炎で自滅させなければならない

 これは、引きずり出さなければならない、引きずり出し、ぶつかり合わせ、それで滅べば良し、滅ばずともそれはそれで良し

 これは、巻き込まなければならない、これは困難な道程(みちのり)になるかもしれないが、なんとしてでも()()げる

 これは、どうなろうとも良い、動かずとも構わない、動いたとしても所詮我が手の内で足掻いているだけなのだから

 明かりも無く薄暗い部屋の中、深く椅子に腰掛け、両肘を机に突き、手を顔の前で軽く組んだ体制で、それは深い思考にたゆたいながら策を練る

 神聖な服に身を包む野心は、己が望みを果たすため、練る

       ◇

 墨色の走狗は、つぶやく

「では、行きますかな」

       ◇

 黄金の猛獣は、つぶやく

「さて、行くかの」

       ◇

 灰色の道具は、つぶやく

「よし、行くか」

       ◇

 純白の野心は、つぶやく

「さあ、行け」


本編はどうでしたか?

よく飽きずに戦い続けられるね、君ら

今章も頑張って戦い抜いてくれました

ですが今章まで続いた戦闘ラッシュも一旦ここで終わり……かな?

そう信じたいヴァルガとルーンなのでありました

それじゃ次回予告!!

次章『伸るか反るか』

ついに戦いに決着が付いた、しかし戦技大会は続行不能になってしまった

そんな様を空中で見下ろす三人の元に謎の男たちが姿を現す

どうやら混乱はまだ集結にはほど遠いようだ

こうご期待!

さて、次章は最初登場して以来ずーっと出番が無かったあの人が登場します

あと、次章は戦闘がやや落ち着きそうな予感がします、あくまで予感ですけど

あとよければ評価、コメント等もお願いします

ではまたの機会に

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ