闇と光(トワイライト)
どうも水筒のパッキンを取るのに苦戦して爪がもげそうになって悶絶してた魔王ドラグーンです
なんでそうなったかはお察し下さい
うだうだ書いてても面白くないので、本編へどうぞ
第五章 七種族合同戦技大会、予戦
あのあと自分の部屋に戻った俺はしばらく寝ずに思考した
内容はルーンについてだ
あいつマジで死なないだろうな
心配なんだが、かなり
俺にもそんなことを思ってた時期がありました
「うおおおっ」
ルーンに向けて大剣が振り下ろされる
しかしそこにルーンはもういない
男の剣戟を遙かに超える速度で男の背後に回ったのだ
全力の剣戟をかわされて男がうめく
「くそっ!当たんねえ」
そこから一回転してなぎ払いを放つ
それをルーンは刀で受け流し、そのままバック転で大きく距離を取る
うん、余裕だな
戦闘中にバック転できてる時点で余裕なのが分かる
それに今回はルーンが使ってる刀も違う
昨日使ってた普通の刀ではなく、鎬に氷の結晶の付いた細身の刀を使ってる
明らかにこっちの方が使いこなされている
なにせルーンは鎧を着ているにもかかわらず昨日より素早いからな
今、俺たちは真正妖精領の闘技場にいる、右にはヴァルガ、左には佐野さんがいて、三人で観戦している
会場は満員の人で埋め尽くされ、外にも通信魔法を使って作られたテレビパネルのような物で放送されている
大人気だなー、日本でいうところの甲子園みたいなもんか
視線を戻すと、ルーンは未だに無傷、対する相手は傷こそ負っていないがかけずり回ってボロボロになっている
でも未だにAPが尽きてないのか、少しはやるんだな
いや、今は予選の決勝、むしろそこまで残った奴を無傷で翻弄できてる時点でおかしいのはルーンなのか
いやはや恐ろしい
なにせ今戦ってる奴、俺より強いからな
あいつに一人では勝てる気がしない
まあ実際に戦うんなら佐野さんと二人で挑むがな!
そこに追加でルーンとヴァルガも来るだろうから瞬殺だろうな
え、卑怯?知らんな、そんなもん
まあ今ルーンに翻弄されている時点でその確率はないだろうがな
ちなみにHPは生命力、MPは魔力、APは体力を表す
ルーンに当てようとして長期間戦い続けた代償として男のAPは残りわずか
APは三分の一を切ると自動回復しなくなる
男が勝つのは難しいだろうな
そんなことを考えてる内に試合が最終局面に達したようだ
男がルーンに向けて手を向け魔力を集中させる
「食らえ!メルカトルブラストッ!!」
男の手から極太の光線が発射される
それと同時にルーンの横からその光線に垂直にルーンに向けて同じ光線が一本、さらにルーンの真上から一本、合計三本の光線がルーンに襲いかかる
それをルーンは微動だにせず迎え撃った
ルーンの張った結界と光線がぶつかり合い火花をあげる
三軸方向から一本ずつか、逃げ場所を与えない優秀な魔力解放技だが…
いかんせん威力が足りないな
俺がそう思うと同時にルーンの魔法がそれぞれの方向に発射され、光線を押し返す
お、あれは俺たちが食らって氷漬けになった【氷結魔法LV27 獄凍波 】だな
光線と獄凍波が激しくせめぎ合う、しかし三方向に威力を分散させた光線より、ルーンのトンデモ ステータスで作られた魔法の方が威力が勝り、光線を押し返していく
その後を追うように刀を収めたルーンが獄凍波の“中”を駆け抜ける
そんなことをしたら俺の二の舞にならないのかと思うが、そうならない理由がある
ルーンが持つ称号【神狼ノ依リ代】の効果だ
効果は三つ
①氷結属性無効
②氷操作
③フェンリルの能力の使用
①の氷結無効で氷結属性ダメージを無効化し、それ以外のダメージは防御力と耐性で強引に無視しているんだろ
実際ほとんどHPは減っていない
そうそう、ちなみに俺たちの氷を砕いたときは②の氷操作で自壊させたんだそうだ
便利だな【神狼ノ依リ代】
そうそう、あと俺たちを凍らせた獄凍波はルーンだけど、最初の暗黒の奔流、【暗黒魔法LV27 暗黒波 】はヴァルガのものだったとか
ここに来るまでの暇な時間で聞いた
下ではまだ激戦(?)が続いている
ルーンはそのまま獄凍波で光線を押し返しきると、走っていた勢いのまま攻撃態勢に入る
右拳にオレンジの光をまとわせ、体の横でコンパクトに構える
左手は相手に向け、狙いを定める
【闘技LV23 正拳 】だな
単純な相手を殴り飛ばす技だがその早さと威力は折り紙付きだ
構えに両手を使用するため武器を持ったまま発動するのは難しいが
もはや殴りの域を超え、純粋な威力の塊と化した拳が魔力を使い果たし無防備な男の鳩尾に決まり、男を壁まで吹き飛ばす
お?なんか今ちょっと揺れた?
震度2くらいかな
破壊力が高すぎて壁にひびが入ってるし
崩れ落ちる男にルーンが追いつき首に刀を突きつける
「っっ!!」
「降参しろ、君ではボクに勝てない」
「か~~っ、あんた強えーなー!降参だ降参」
会場に沈黙が落ち、爆発的な歓声が巻き起こる
…………
うん
分かってたけど……強えええええ!
めっちゃ強いやん、ルーン
うん、なんか…ルーンが死ぬかもとか、戦えるかとか考えてたのがバカバカしくなってきた
俺だったら100人いても勝てる気がしないな
しかもあれでも相手を殺さないように威力を調節させてるんだろ?
本気出したらどうなるんだよ
「おおーい、勝ったよーー!!」
ルーンがそう叫ぶと5m以上ある段差を飛び越え、二階にある観客席に上がって来る
そのままヴァルガとハイタッチ
元気だな~
なんか実年齢より幼く見えるんだが
そういやルーンっていくつ?
まあいいか、女の子に年聞くのは不謹慎って聞いたことあるし
てかあんな戦いした後がこれかよ
すごいな、ありとあらゆるところが人間離れしてるな
すると後ろからパチパチという拍手の音とともにどこか楽しそうな声が聞こえてきた
「いやーすごかったですねー、ルーン様の戦いは、まさしく鬼神の如き戦いでした」
「「貴様は誰だ」」
楽しそうな男の声に対して、それを警戒したルーンとヴァルガの声が重なる
そこにはぴしっとした服を着た狐みたいな男が立っていた
狐みたいなっていうか、まんま狐だな、狐耳も生えてるし
おそらく狐の獣妖精なんだろうな
うん?てか、こいつ俺の【察知】に引っかからなかったぞ
わざわざ隠れてたって事か?そりゃ警戒されるぞ
「いえいえ、そんなに警戒しないでください、怪しい者ではないので」
いやいや、わざわざ隠れて声をかけてきた時点で怪しい奴確定だろ
ひょうひょうとした様子の男にヴァルガが若干トゲのある声で言い返す
「おまえは誰だと聞いている」
「ああそうでしたね、自分のことは獣妖精族長の犬だとでも思って下さい」
「ほう、ならその犬が何をしに来た」
犬っていうか狐だけどな
ヴァルガがそう聞くと同時ににこやかな笑みを浮かべていた男が笑みを消し真顔になって言った
「不躾なこととは理解していますが、ルーン様、ヴァルガ様とその連れの皆様に会いたいと我が主がおっしゃっています故、このあと王城に来ては頂けませんでしょうか」
俺たち、連れじゃないぞ、むしろ連れてこられた方だぞ
それにヴァルガが即答する
「断る、と言えばどうする?」
「そのときは真正妖精側に付いたと見なし、獣妖精族の全戦力をもってあなたたちに戦いを挑みましょう」
それを聞いたヴァルガは少し笑みを浮かべると、立ち上がり、言った
そういやここって真正妖精領だったな
「俺たちとしてもそれは困る、行ってやろう」
「ありがとうございます」
お、うん、なんかあれよあれよという間に俺たちも行くことになった…のか?
こういうお互いが敵対的とまでは言えないけどピリピリした関係の時ってはたから見てるとなんかヒヤヒヤするよな
でも話は固まったみたいだしヴァルガに付いていけば何とかするだろ
そうとも思っておかないとやっていけないな
ふと隣を見ると、佐野さんがルーンに小声で聞いていた
「ねえ、ルーン、どうなったの?」
「どうやら獣妖精族長のところに行かないといけなくなったみたいだね、大方この大会に参加したことが条約違反になると思われたんじゃないかな、昨日杉本が言ってたみたいに」
「へー、面倒ごとらしいことはわかった」
うん、面倒ごとなのは確定だろうな
するとヴァルガが立ち上がり、振り返って言った
「話は済んだか?すぐに王城に行く、ルーン、問題ないだろう?」
「えー、またあの精神力がゴリゴリ削られる会談やるの~?」
「仕方ないだろ?俺たちには説明責任がある」
「はあーーめんどくさい」
どうやら獣妖精族長とヴァルガの会談は精神力がゴリゴリ削られるらしい
まあ、獣妖精族長は知らんが、少なくともヴァルガは頭が切れるだろうし、会談はピリピリしたことになるだろうな
なにせあっちから見たら条約違反はこっちなんだろうしな
「それでは出発しますよ、範囲空間跳躍」
この世界に来てから二度目の空間跳躍、しかしもう慣れたらしく違和感は感じない
あ、でもルーンと跳ぶときよりちょっと術が荒いかな
まあ仕方ないか、ルーンはあのステータスだしな、見た目はアレだが
俺がそんなことを考えていると強い違和感の後、転移が終わった
そこは広い広間だった
豪華な調度品の数々、しかしそれらはそれぞれ存在感を主張しすぎず、かわりにその場の空気を荘厳な物にしている
だがそうして作り出された空気は玉座にいる凄まじい存在感に相殺されあまり気にならない
その存在感は初めて会った時のルーンを遙かに超えている
それどころか【天言】越しに感じたラスタルさんの気迫に通じる物がある
王者の気迫って奴かな
その存在感の元にいたのはこれまた荘厳な服を着た女性だった
豪華な椅子に身を預け、頬杖を突き、余裕の笑みを浮かべ、俺たちを睥睨している
そして何より、美しい
美しいのは確実なのに、浮かんでいる笑みは油断なく獲物を狙う猛獣のそれだ
その女性に向かって狐目の男が歩いて行き、跪いた
それを見ることもせず、女性が真っ直ぐにヴァルガを見つめ、口を開いた
「久しぶりじゃな、ヴァルガ、前に会ったのはいつじゃったかな?」
その視線を真っ直ぐ受け止め、ヴァルガが声を返す
「その前に、この二人に自己紹介してくれ、こいつらはおまえが誰だか知らんからな」
それを聞いて女性が目を細め、楽しそうに言い返す
「ずいぶんと偉そうじゃな」
「あいにく、おまえの下に付いているわけではないからな、立場としては対等だ」
それに平然と言い返すヴァルガ
それを楽しそうに目を細めて眺める女性
もうすでにこの二人が凄まじい覇気を放ち、二人の覇気がぶつかり会う所にはパチパチという音と共に小さな放電が起こっている
そのヴァルガの隣にいるルーンは泣き笑いのような表情を浮かべ、現実逃避しているのがよく分かる
うん、そうなるよね、こんなやばい覇気のぶつかり合いなんて耐えられないよね
実際俺も気圧されて辛い!
冷や汗が止まんね~
俺たち生きて帰れるかな?
ハハハハ
ハッ、いかんいかん、俺まで現実逃避するところだった
真面目に今の状況を分析しよう
えーっと、おそらくあの玉座にいる女性が獣妖精族長なんだろうな
なにせあの狐みたいな男が跪いてたし
さすが族長、とてつもない覇気だな、ただ物じゃないのがすぐ分かる
ルーンが嫌がる気持ちもよくわかる
すると今まで覇気をぶつけ合っていた族長が唐突にその覇気を引っ込め、多少真面目な顔になって言った
……多少だが
むしろあの余裕の笑みからいたずらっ子のような笑みに変わったと言った方が良いかもしれない
「まあ挨拶はこの辺にしよう、そこの二人、いやルーンも入れて三人か、に呆れられておるからな」
「この責任の半分以上はおまえにあると思うがな」
「つまり少しはそなたにも非があるということであろうに」
二人の凄まじい覇気を放つ奴らが惜しげもなく小学生みたいな言い争いをしている光景
この二人は一体仲が良いのか悪いのか
って、違う、このままじゃいつまでたっても話が進まないじゃないかっ!
俺はさっさとこんなやばいところから抜け出したいんじゃーっ!
「あのー、漫才すんのはいいんで話を先に進めてもらっていいですか?」
あ、言っちゃった
あ、やっちゃった
その一言にヴァルガが動きを止め、族長さんがさらに目を細めて俺を見る
「これは……、思わぬ伏兵がいたな、ヴァルガよ」
「ああ、そうだな」
族長さんは俺のことを面白そうに眺めているが、ヴァルガは背を向けたまま動かない
……怒らせたかな?
するとどこからか、くくくっという含み笑いが聞こえてきた
ヴァルガだった
「くくっ、背後への警戒がおろそかになるとは…俺たちの負けだな、いろいろと」
「ふふふふ、そうじゃなあ、ヴァルガ」
ん?、なんかヤバイ人たちの琴線にふれたらしい
怒ったかと思ったけど、杞憂だったみたいだ
良かった~~
「それで何じゃったかな?ヴァルガよ」
「おまえ絶対覚えてるだろ、…まあいい、こいつらにおまえのことを説明しろと言ったんだ、分かったか?」
「ああ、そんなこともあったのう」
「懐かしそうに言うんじゃない、さっきのことだろうが、認知症か?もう年なのか?」
本気で忘れていそうな族長さんをヴァルガがため息を吐きながら呆れたような声でいじる
本気でこの二人がどんな関係なのか気になってきた
でも仲は良さそうだよな
「さて、ではそこの二人よ、そなたたちのことはヴァルガから聞いておる、たしか『チキュウ』とか言う星から来たらしいのう、歓迎するぞ、不運なる旅人よ、我が名はガーネット・ラー・レジーナ じゃ、一応獣妖精族長をしておる、気軽に来て良いぞ、我がそれを許す」
「「は、はい」」
うお、すげえ、ハモった
てか族長さんがそんなんで良いのかよ
我がそれを許すって……
そんなに簡単に決まるのか俺らの国内滞在
ま、いいか俺はそれを受け取る側だしな
俺はレジーナさんの後ろにいる人たちがやけに慌てている所なんて見ていない
ない、ないったらない
大方俺たちをそう簡単に城の中に入れるわけにはいかないんだろう
でもレジーナさん言っちゃったしな
「ま、そんなところかな、じゃ、俺はレジーナと話したいことがあるから別室に行ってくる、おまえらは…好きにしてくれ」
「?!、我そんな話聞いてないぞ、どういうことじゃ?!」
「俺が何の用事もなくここに来たと思ったか?おまえにはしっかり言っておきたいことがあるからな」
「我がなんかしたか!?」
「お前だって何か用事があって呼んだんだろう?向こうで話そうじゃないか」
ヴァルガがいい笑顔で宣言し、それを聞いたレジーナさんが慌てている
うん、なんか察した、これは踏み込まない方がいいやつだ
てか踏み込みたくない
レジーナさん、ご冥福をお祈りします。
「じ、じゃあ僕たちはこの城を回っておくから、あとでね」
ほら、ルーンも何とかしてここから離れようとしてるじゃないか
「ああそうだな、話が終わったらここで会おう、行くぞレジーナ」
ガンバレー
さて、ヴァルガに連れて行かれたどっかの誰かさんのことはさっさと忘れてこの城を堪能しよ
「ははは、お兄ちゃんらしい…のかな?まああの二人はいつも通りだから気にしなくていいよ」
苦笑しながら言うルーン
てかあれでいつも通りなのか
あの覇気のぶつけ合いも?
あ、あれについてはレジーナさんが挨拶って言ってたし、いつも通りなんだろうな
するとあの話の間ずっと跪いていた狐目の男が立ち上がってこちらに来ながら言った
「やれやれ、変わりませんね、ではみなさん、この城は私が案内いたしますので付いてきて下さい」
間章 旧友達の集い
レジーナを連れて面会室に入る
しかしレジーナの連れは部屋に入ってこない
まあいつも俺が追い出しているからな、それなら入らない方がいいと分かったということか
レジーナが静かに扉を閉じる
そして口を開く
ややむすっとした口調なのは無理矢理連れてきたからだろう
「それで何の用じゃ、我は何もした覚えはないのじゃが」
やっぱり勘違いしているな
まあ仕方ないか、あの無駄に勘のいいルーンでさえ分かってなかったんだからな
こいつが分かるはずもない
少しこいつを翻弄して遊ぶか
心の中の自分が悪い笑みを浮かべているのが分かる
それに、そうすれば興奮しているこいつも落ち着くだろうし
「何を勘違いしているのか知らんが、俺はお前を怒るためにここに来た訳じゃない」
「なら何なんじゃ!我に言っておきたいこととはなんじゃ!全く身に覚えがないぞ!」
「だろーな、お前は何もしてないんだし」
「じゃからなぜ呼んだ?それを聞いておる」
わめいているレジーナが面白くて頬が緩んでしまうのが分かる
「まあそう急くな、落ち着いていないと聞ける話も聞けないぞ」
するとレジーナは呆れたのか真顔になってつぶやいた
「帰っていいかのう」
おっと、少しこいつで遊びすぎたか
レジーナがキレそうだ
そろそろ真面目な話をするか
「茶番はそろそろ終えるか、話が進まん」
「その茶番はお前が起こした物じゃろうに」
…なんだって?
確かにそうだが、あえて無視しよう
それにここからは真面目な話だ、お前の話には付き合っていられない
緩んでいた表情を引き締めて語り始める
「……今日は三つお前に言うべき事がある」
するとレジーナは大きくため息を吐いて問いかけてきた
「何じゃ、またルーンのことか?」
お、こいつにしては察しがいいじゃないか
野生の勘って奴かな
「それもある、というか一つはそれだ」
「ほう、当たったか」
「それじゃあそのことから言おうか、お前今年も見に行くんだろ?戦技大会」
「ああ、ルーンも参加するらしいな、それがどうした」
やはりこいつも知っていたか
だが今はそのことはどうでもいい
「単刀直入に言う、行くな、死ぬぞ」
それを聞いてレジーナの目が見開かれる
「っ、何じゃと?」
「それが無理ならできるだけ少人数で行け」
「どういうことじゃ、死ぬ、とは」
レジーナが驚くのもしょうがない
この話はレジーナは知らないはずだしな
だから最初から説明する必要があるな
「星魔戦役の際俺の上の奴に会っただろう」
「ああ、あいつか、ラスタルとか言うておった奴のことじゃろう、どうも奴は苦手じゃぞ、なんというか得体の知れん感じがするからのう」
「お前の感想は聞いてない」
「うるさいわい」
確かにそうだけどな
「まあいい、その得体の知れん奴がな、3つほど指令を出してきた」
「ほうほう、それで?」
「1つ、ルーンがあの二人を守るに値するか見極めろ、二つ、ルーンの過剰なお人好しを直せ、ここまでしかルーンには話していない」
「ほう、だがもう一つあるのだろう?どうしてルーンに話さんのじゃ?」
「あいつに話せば絶対に渋ると分かっていたからな、3つ目は…」
これは自分もできればやりたくないんだがな
「闇龍シュマルゴアを覚醒させろ、という代物だ」
「何?そんなことが……、それで、あいつにできるのか?」
そこなんだ、そこ
「いや、あいつでは無理だろう、あいつはフェンリルの方は相性がいいが、シュマルゴアの方はほぼ適性がないと言っても過言ではない」
「じゃろうな、むしろ龍の血を引いておるのはお前じゃろう」
調べるまでもない、見た目で一目瞭然だろう
ルーンは耳がアレだし俺には角と翼が生えてるしな
あの角、案外不便だからな
「これはあくまで推理だが、ラスタル様は俺にシュマルゴアを持たせる口実が欲しいんだろう」
「ほう、どういうことじゃ?」
「お前たちでも強い手駒は欲しいだろう」
「きわどいことを聞くのう、まあ手駒は強い方がいいが」
「シュマルゴアがルーンの元にある限りその力を完全に引き出す事は出来ないだろう」
「なるほど、ルーンがシュマルゴアを覚醒させられない、つまり適性が低いことを周りに見せることができれば、おぬしに持たせるほか無しとなるであろうな」
まあ大体はそういうことかな
「そういうことだな」
「そんなことしてルーンが許すと思っておるのか?」
「……何?」
「貴様のその判断はルーンの望む物なのか?と聞いておるのだ」
こいつ……
少し勘違いしているようだな
思わず椅子から立ちながら怒鳴ってしまう
「俺とてやりたくてやっているわけではない!あいつにあんな物を持たせていたらいずれ問題のもととなりかねない、そのことを俺は心配しているんだ!」
するとレジーナは少し気圧されたようだ
しかしすぐ笑みを浮かべ、言った
「それならばよい、我はただおぬしが力に目がくらみそのような行動に出たのではないかと心配しただけじゃ」
なんだかいつもと逆に手玉に取られたみたいで悔しいな
やれやれ、感情的になるとは俺らしくない
椅子に座り直しながら言う
「じゃあ話を戻すが、戦技大会だが、お前はどうする?」
「おいちょっとまて、シュマルゴアが戦技大会とどう関係するのじゃ?」
「シュマルゴアは戦いの魔力を感じ取れば覚醒するだろう」
これだけ言えば分かるだろう
「なるほど、覚醒させるためには戦技大会は格好のエサという訳か」
「そして十中八九あいつは覚醒に失敗する、その時何が起こるかは正直分からん、万が一があるかも知れんからな、このタイミングで世界の一角に死なれると困る」
「我はそう簡単には死なん、だがあいつの強さもよく知っておる、そこは検討してみよう」
「それはありがたい、そしてもう一つだが、軍を強化しておいた方がいいぞ」
「また物騒な話じゃのう、して、なぜじゃ」
「それはまだ確信が持てる情報じゃないから言えん、あと、できるなら水妖精と氷妖精との同盟を強化しておいてくれないか?」
「おぬしがそういう風に言うときはたいていろくなことがない」
「悪いな、だがもうしばらくすれば分かるだろ」
「たいてい分かった頃にはもう手遅れなんじゃがな!」
そうなのか?
多少心当たりがあるが…まあいいか
「今日はこれだけを言いに来ただけだからな、それじゃ、俺はこれで」
立ち上がり、ドアノブに手をかける
すると帰ろうとする俺をレジーナが引き留めた
なんだ?俺は帰りたいんだが
「おい、待たんか、最後に一つ聞きたい事があるんじゃ」
「なんだ?ルーンを待たせるとまためんどくさいんだが」
「これだけならなぜ我を呼ぶときにあんな言い方をしたんじゃ?てっきりまた何かやらかしてしまったかと思ってしまったじゃないか」
ああアレか
それぐらい察してくれたかと思っていたのに
「ああ、アレはな、ああ言ったらルーンが俺が何をしに行ったか勘違いしてくれるかと思ってな」
するとレジーナは驚いたような表情をした
あ、なんかうつむいてプルプルし始めた
どうした?
「お、おのれェ…そんなことで…」
ん?なんかヒヤッとしたぞ?
まずいな、これは……
「何か嫌な予感がするな」
「我の焦ったのを返せエェ」
あ、レジーナがキレた
これは面倒だぞ
「よし、逃げるか」
そういうと同時に一気に部屋の外に飛び出す
すると後ろから怒声が聞こえてきた
「まーてぇーぃ!一発殴らせんかーい」
やはり面倒な事になったか
しかし自分がこの状況を楽しんでいる事を感じる
そのことに少し口元をほころばせながら、外に向けて走り出した
間章 ガーネット城の中より
歩く
まだ歩く
まだまだ歩く
「なあ、この廊下どこまで続くんだ?」
「あと少しですよ、たぶん」
案内役の狐目の男がそう返す
たぶんって何だよ
あんた案内役だろうが
自分がいらつくのも仕方ないと思う
なんかずっとこの廊下を歩いてる気がする
城ってこんなもんなのか?
するとルーンがイライラする俺をたしなめる
「まあまあ、イライラしないでよ、急ぐ必要もないんだし」
まあそうだがな、こう景色が変わらないと飽きてくるんだよ
「私もその気持ちは分かる、こんなに広いとは予測できなかったしね」
ほら、佐野さんもそう言ってるじゃないか
するとルーンが提案を出してきた
「うーん、そうかー、じゃあ何か話でもする?ヒマなら」
そうだな、それしかない
それにちょうど聞きたい事があるし
「じゃあ、アレ聞いていい?」
「アレ?どれ?」
首をかしげながらルーンが聞き返してくる
どうやらルーンは気づいてないようだな
アレだよアレ
「いや、アレ」
そう言いながら俺は窓の外を指さした
指さす先では黒い龍騎士がオレンジの閃光の猛攻を華麗にかわしていた
その瞬間ドガァンという音と共に城全体が振動した
おそらく流れ弾が城に命中したんだろう
「え?あれって…ヴァルガ?とレジーナさん?」
佐野さんも困惑したような声を出す
そして一番ヴァルガのことを理解しているはずのルーンまで困惑している様子だ
「そ、そうだね、何しているんだろ」
「ああアレですか、久しぶりに見ますね、一ヶ月ぶりほどと言ったところでしょうか」
「え?知ってるの?」
お?狐目の男は知ってる様子だ
「はい、ルーン様も知っておられるでしょうが、レジーナ様が族長の座に着く前にも何度かヴァルガ様がレジーナ様を怒らせて戦闘になった事があったでしょう」
「ああ、うん、そんな事もあったね、もしかして族長になったあともあんなことしてるの?」
「まあそういう感じでしょうか、それに止めてもまた起こるのでもう誰も止めませんよ」
「止められないだろうしね」
ルーンが多少呆れた様子で言う
そういえばルーンは14年間フォルトゥーナを離れていたんだったな
だから知らないんだろう
それにしても、すごいな、そんな事してるのか
喧嘩するほど仲が良いって事なのか?
まあその喧嘩の規模が大きすぎる事は置いといて
すると佐野さんが問う
「今結構な衝撃が来たけど、そんな事してて大丈夫なの?」
確かにな、絶対どっか壊れただろ、アレ
すると狐目の男が答える
「大丈夫ですよ、あの衝撃はおそらく結界に魔法が命中した衝撃でしょう」
「なら結界の方は大丈夫なの?」
「ええ、お二方とも本気で戦っているわけではありませんから、ちょっとしたじゃれ合いみたいなものです」
「あ、アレでじゃれ合いなの…」
「ふふふ、少々常識外れですがね」
ホントに常識外れだよ
ホントこの世界強い人多すぎだろ
てか、じゃれ合うって事はかなり仲いいはずだよな
なんで?
「どうしてレジーナさんとヴァルガはあんなに仲が良いの?」
するとルーンが答える
「ああ、それはね、いろいろあってね、三年間ほどお兄ちゃんが放浪してた事があってね」
ヴァルガが放浪?
なんか想像できるんだが
ルーンが続ける
「その時に家出してたレジーナさんと知り合ったらしいよ」
なんだそんな理由なのか
てか何だよ家出してたレジーナさんと知り合ったって
ツッコミどころ満載過ぎるだろ
聞いてみよー
「いろいろと詳しく教えてくれ」
しかしルーンは難しい顔をして答えた
「うーん、それがねーボクも気になるんだけどね、放浪中の事はお兄ちゃんがあんまり言ってくれないんだよ」
ほー、ルーンも知らないのか
これはアレかな、妹には言えないような事をしていたのか
禁断の恋とか
あ、でも無いか、あのヴァルガだしな
あのヴァルガが恋の悩みに頭を抱えている所が想像できない
おそらくもっと別の裏社会的な何かなんだろう
そっちならまだ想像できる
あれ?でもヴァルガって自分が知ってる限りそんな悪いことしてないような?
まあいいか、よくないけど
「何やってたんだろうね、実は女の子とイチャイチャしてたりして」
佐野さんが面白そうにそう言う
やっぱりそうなりますよね
人はそういうたぐいの話が大好きです
「いやいやいや、あのお兄ちゃんに限ってそれはないって」
それを笑いながらないと言い切るルーン
なんかヴァルガがかわいそうに思えてきた
「あの、私も一つ聞いてよろしいでしょうか」
狐目の男がそう言う
「うん、いいよ、何?」
「では一つほど、サノ様とホンジョウ様はチキュウにいた頃はそちらの言葉で会話をなさっていたのですよね?」
「ああ」
「うん」
「うん、そうだよ」
何を当たり前のことを
「ではなぜこちらの言葉を操ることが出来ているのですか?」
え?
そういえばさらっと使えてたから全く気にしてなかったけど、確かに
「それはね、推測だけど、前世の記憶が残ってるんだと思うよ」
「どういうことだ?」
「本来魂とは死んだ時点で分解されて魔力にされることで記憶や能力は消えてしまうんだけど、二人の魂は死んだ際に魔力法則の中枢の外に出てしまったから中途半端に記憶が残ってしまったんじゃないかな、それがこっちに来たことでよみがえってしまったからこんな事になったんじゃないかな」
ご都合主義展開キター!!
なるほどね、まあ分かったよ
でもどう見てもご都合主義だろ
ついに俺も主人公の仲間入りか?
何もしてないけど
「なるほどそういうことだったのですか、よく分かりました」
狐目の男が納得したようにうなずく
そしてそれっきり静かになってしまう
どした?
するとその変な空気を破るように佐野さんが口を開いた
「それでさ、ヴァルガには恋人いないのかもしれないけど、ルーンはどうなの?」
おおっと佐野さんがさっきの話題をもう一回持ち出してきたーっ
「え?」
「ルーンは好きな人いないの?」
「え、えーと、たぶんいない、んじゃないかな」
なんか煮え切らない返事だな
ホントか?
「本当に?」
「うん………?」
「お兄ちゃん好きじゃないの?」
「え?好きだけど…」
「ほらやっぱりいるじゃん」
おおっとそれは卑怯だぞ
それに引っかかるルーンもどうかと思うけど
「え、え、あ、それはそういう意味じゃなくて…」
「ふふー、聞ーちゃった、聞ーちゃった」
「んもー!やめてよー違うってばー」
「アハハハハハ」
「うーー」
ルーンが顔を真っ赤にして怒っている
そして佐野さんがそれを見て笑っている
うん、これでいい
俺たちに暗い雰囲気は似合わない
そして俺はじゃれ合いながら先に走っていった二人を追った
◇
「ほうほう、あの少年は勇者じゃったか、面白くなりそうじゃな」
「となるとあの少女はまさか……面白い方々が集まってくれましたね」
「やはりキーストーンは戦技大会、あいつが行かせたがらんのもよく分かる」
「それにそれなら話にもつじつまが合います」
「どうなるかは神のみぞ、いや、神も知らんのだろうな」
「我らは高みの見物ですか」
「それしか出来んとも言えるしのう」
本編はどうでしたか?
今章は前章とは違い割と戦い多めとなっております
なにせ前章は大方ヴァルガがくっちゃべってただけみたいなもんですし
まあ次章はもっと戦いが多くなる予定ですけど
…………
……初めての後書きだから何書いていいのか分からない
まあいいか、それじゃ次回予告!!
次章、『動乱の戦技大会』
様々な思いが交錯する戦技大会本戦
動乱の渦の中央にいるルーンの運命は!?
そしてラスタル様の真意は!?
……こんな感じですかね
ちなみに次章は今作の中間ゴールだと勝手に思っている今日この頃
あとよければ評価、コメント等もお願いします
ではまたの機会に