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たかが人間の非日常  作者: コタツムリ
6/6

第6話 お金に取り憑かれる男

 店が完成した。


 近くの不動産屋で良さそうな立地を選んで、五十万円以下の訳ありの家を買い、デンと『高賀霊能相談所』とある看板を貼り付けた。ちなみに訳ありの理由はこの家で何人もの人が死ぬから幽霊が出るらしいとか。早々に家の汚れも併せて掃除した。

 今日からここが俺の家兼仕事場と思うと、なんだか高揚感に浸ってしまう。


 道具も十字架のアクセサリーとか厳つい小瓶、食塩、お香、水晶玉、魔法陣的な何か。

 兎に角それっぽい物を安く買い集めて、祓魔師っぽい内装にする。家具は前の家の物を少し持って来て、後は売るなり捨てるなりした。実にフワッとしている。


 会社立ち上げるのにこんな適当でいいのかね。

 ……まっ、大丈夫だろう。


 それにしても、アルブ・ギギさんから貰ったお金を使うのは酷く緊張した。本物だと無理矢理信じてたけど、いざ使って何もなかった時の安堵は忘れられない。


 チラシとかも作ってその辺に貼った。

 誰か見てくれると良いんだけどね。


 何はともあれ完成した。じゃあ、次は軌道に乗るまでにどうやって食って行くかだが……







◆○◆






『外からフジノミヤが先頭に立った! フジノミヤが先頭だ! はたしてアーノルドに初のクラシックのタイトルか! 初のクラシックタイトルか! フジノミヤが先頭!』


「行けっ! 行けフジノミヤ!!」


『外からレッドハンドが来た! 外からレッドハンドが来た! レッドハンドまた二着か!』


「来るな! やめろ! 邪魔だぞ!」


『テルミーリリナ! テルミーリリナ! アイスランドが突っ込んで来る!』


「ああ! ああ!」


『しかし先頭は十二番フジノミヤ! 先頭は十二番フジノミヤ! 初のクラシックの栄冠! フジノミヤ一着ううううううぅうぅぅぅぅ!!』


「よっしゃあああああああ!!」


 競馬である。

 まごう事なき競馬。小さい頃はギャンブルって聞くだけで悪いものとしか思えなかったが、やってみると面白い。


 勿論、勝算あっての博打である。じゃなきゃ二十歳の俺がこんな堂々と、緊張もせずにやれる筈がない。

 

 そうだろ? フジノミヤ。


 人垣を押し退けて、再び券売所へ馬券を買いに向かう。


 最近は念力しか使ってなかったが、別にそれだけしか使えないわけじゃない。念力が一番強力で安定しているから常用しているわけで、超能力関連ならだいたいの事はできる。


 パイロキネシス、テレパシー、テレポート。透視とか念写とか。そして、未来予知。


 念力よりは数十段劣るが、それでも出来なくはない。流石はもう一人の俺といったところか。


 で、俺は考えた。どうやったら楽に金を稼げるのかを。考えて考えて、辿り着いたのが、この競馬だった。


 未来予知。範囲を限りなく限定した上で全力を出して、一日に一回だけその日に何が起こるのかを知ることが出来る。これ以上は今のところ無理。


 だが、充分だ。

 それだけ出来れば一日に一回だけ確実に当てられるのだから。


 今日も資金五万円だったのがフジノミヤのオッズーー倍率5.2で二十六万円として返って来た。

 

 ウハウハである。


 心なしか俺の目利きも良くなった気がするし、未来予知がなくてもなんだかいけそうだ。


 笑いが止まらない。


 金、金、金! お金が俺を呼んでいる! 大金が手に入ったらなに買おうかな。キャバクラとか行ってみるか? 風俗店もいいな。二十歳だし、行っても問題無い筈だ。そんで可愛いチャンネーの胸を札束で叩いて、叩いた回数万札を払うってのはどうよ。


 たまんねぇぜ!


 よーし、ここは一発やっちゃるぞぉお。


 券売所に辿り着いた。

 さあ買おう、すぐ買おう。と足取り軽く行く途中で、俯きながらなにかを呟いている男性が目に留まった。

 近づくと、


「クソッ、また外した! 次こそは当ててやる。大丈夫だ。さっきは当たったんだ。なら、次こそは! 当てられないわけじゃない。僕ならできる。何回やったと思ってるんだ。僕の目利きなら、絶対に当たる! それで、それで借金は全部無くなる。自由になるんだ!」


 やべぇ、本当にいるんだなこういう人。


 もうやめとけって言うか? いやいや、変に関わるとろくな事がない。

 それより金だ。あんな負け犬に付き合ってる暇は無いのだよ。


「ああ、なんで僕はあそこで止めとかなかったんだ。そしたらこんな、惨めな思いをせずに済んだのに……なんでっ、僕は調子に乗っちゃったんだよぉぉおぉおお」


 足が動かない。大丈夫、俺なら大丈夫だって。だって金だよ? ハーレムが俺を待ってるんだ。こんな所で足踏みしてる場合じゃ……


「クソ、クソッ」


 …………


 チラッと券売所を見る。男と券売所を交互に見て……俺は帰る事にした。


 ま、まぁ、そんなリスクを負う必要も無いかな。一回は絶対に当たるんだし、また今度にしよう。うん。


 俺は競馬場からそそくさと出て行った。






◆○◆






 競馬場から出てもうすぐ家に着く頃。俺の家の前で数人、知らない人が何か話し合っていた。


「お前行けよ」


「嫌だよ、お前が行け」


「どうでもいいけどさ、早くしてくんない? 私帰りたいんだけど」


 学生のようだ。恐らく中学生の、三人組。

 男二人に女一人か、珍しい組み合わせだな。その年だと俺の頃は女子を意識し過ぎて逆に嫌われてた記憶しかない。男子からは勇者と呼ばれていたが、最近の奴らが草食系なだけだろと思った。


 てか、この前公園にいた奴らじゃん。もっと人数は多かった気がするけどな。


「すいませんが、僕の家に何か用事でも?」


 話しかけると三人の肩が飛び上がり、ばっと驚いた表情でこちらを向いた。


「あ、すいません。特に用事があるわけじゃ……って、お前! この前子供を泣かした奴!」


 覚えてたか。

 どうでもいいけど。


「ああ、そういう君達はこの前無断で僕を撮ろうとした人じゃないか。それで、なにか?」


「なにかじゃないだろ! 子供を泣かしてよく平気な顔していられるな!」


 おお? 珍しい。こんな正義感溢れる人がいるなんて、想像も付かなかった。漫画やアニメとかのフィクションだけだと。

 現に他二人は気まずそうというか、居心地が悪そうにしているし。


「もう、やめなさいよ」


「なんでだよ! この前だってお前らが抑えなければ、一言文句でも言ってやれたのに!」


「お前のそういうところは好きだけどさ、それ、やめた方が良いぞ。危なくて見てらんねぇよ」


 なんだ、こいつら! 眩しい! 眩し過ぎる! 身体が浄化されそうだ!


 これが青春ってやつか。俺なんて帰宅の部活動に全力を捧げてたから、こんな会話した事がない。


 でもな。


「騒ぐのは良いけど、他所でやってくれないかな。近所迷惑になるだろ」


「どの口が!」


 ギロリと睨んでやれば、怯んで数歩引き下がった。


「入るのか? 入らないのか?」


「っ! 入る!」


「ちょっと!」


 制止を振り払い大股で家に上がって行く少年に、他二人も渋々と俺の家兼仕事場に入った。


「胡散臭い場所だな」


「霊能相談所って言うだけあって、色々あるわね」


 玄関で靴を脱いで上がると、それほど広くもない応接間にソファが二つ、向き合うように置かれている。それからテレビ、家用の電話、その他俺が安く買い集めた道具や家具が三人を迎える。


「ま、取り敢えず座りなよ。今お茶出すから」


 そう言って玄関側のソファを勧めるが、一人だけ熱心に道具を見て回って聞いちゃいない。


 突っかかってきたあの少年だ。


「おいおい、詐欺師なだけあって高価そうなもんばっかりだな」


 え、全然高価じゃないけど。


 って、


「……詐欺師?」


 言葉に反応する少年の顔は、嫌悪感を隠そうともしていない。自分の言っている事が絶対に正しいとでも思っているような表情で、俺を睨みつける。


「だってそうだろ。お前みたいな奴が、まともな仕事してる筈がない。なにが霊能相談だ。どうせこの壺も、騙した人の金で買ったもんだろ」


 まともな仕事じゃないのは認めるが、さっきから聞いてれば生意気にも程があるぞ。

 生意気なだけなら、別に構わない。こいつに礼節がどうのとか無理そうだしな。ただ、詐欺師呼ばわりはいただけない。


 少年はその後も喚いていたが、俺がまともに聞いてないと知るや、この前千円ほどで買った高級そうな壺の前に移動する。


 友人が何かを察したのか、少年の腕を掴んだ。


「やめろって!」


「いいや、言うね。お前は詐欺師だ。だからこの壺も、お前に、相応しく、ない!」


 しかし少年は友人の手を振り払い、壺を抱え、地面に落とした。パリンと割れる音が部屋中にこだまする。


 少年の友達であろう二人の顔が真っ青に染まり、恐る恐る俺を見た。


 俺は、ただ微笑んでいた。

 微笑んで、少年にある提案をする。


「君の意見はわかった。なら、勝負をしないか?」


「勝負?」


「君は僕を詐欺師というけれど、それは間違いだ。僕は本物の霊能者で、この地域を霊の脅威から守ってるんだよ。けど君は違うと言う。だから、僕が霊能者である事を証明するよ。それを君が認めたら僕の勝ち。認めなければ君の勝ち。簡単だろう?」


 俺の言葉に少年は一瞬キョトンとして、それからドッと笑いだした。ソファに座っていた二人も笑いを堪えている。


「プッ、あははは! 霊能者? 霊から守ってる? お前、恥ずかしいわぁ。言ってることちゃんと自分で理解してんのかよ。頭大丈夫でちゅかぁ?」


 少年の言葉に堪えきれなくなった二人が大声で笑いだす。


 ドンッと、目の前にある机を殴る。それだけで笑いが止まった。


「君達こそ、理解してるんだろうね。他所の家の物を勝手に壊して、そんな大声で笑って。子供だから許されるとでも思っているのか? その壺、いくらで買ったと思っている? 一千万円だよ」


 少年達が凍りつく。勿論、大嘘である。


「払えるか? 一千万円。無理だよね。じゃあ、君の親に頼もうか。それでも払えなければ、器物損害で訴えるのも良いな」


「ま、待てよ! 母ちゃんは関係ーー」


「あるね。だって親子でしょ? 関係無いわけがない」


 事ここに至って、少年は自分の危機を把握し始めたようで、顔が若干引き攣っている。


「だからさ、勝負しよう。簡単さ。君が認めなければこの勝負、負けないんだから。そうだろ?」


 高賀は微笑んだ。これ以上ない程の微笑み。しかし少年は見る。高賀の表情は決して微笑みなどではなく、それを遥かに通り越した満面の笑み。


 悪魔の笑みを。

 

作者は不動産とか競馬とかはあまりよくわかっていません。なので、間違っていたらすいません。


あと、コイツを主人公にして良かったのか、今少し後悔をしています。


悪役が似合い過ぎるだろ……

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