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たかが人間の非日常  作者: コタツムリ
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第5話 そうだ、祓魔師になろう

 今日はとことん付いてない。厄日なんてのは超能力に目覚める前は信じていなかったが、これは認めるしかないかもしれない。


「おい。やめとけよ、お前ら」


「あ? 誰だテメー、関係ねーだろが」


 何が付いてないって、彼女が絡まれているからーーではない。いや、それもあるけど、もっと根本的に駄目だった。


「少し前に知り合ったんだよ」


「はっ、じゃあ関係ねーな。とっとと失せろやヒジキ野郎」


「ブハッ! 確かにヒジキみたいな髪だなぁ! キッモ!」


 ケラケラ笑う奴らに、俺はなんだか力が抜ける思いだ。真面目に相手するのも馬鹿らしい。


 飲み物袋を地面に置いて俺はその、二つある鳥頭の首根っこを掴み、グッと腕を引いた。


「ぁあん!? なにすんだテメッこの! 離せや!」


「そうだ離せヒジキ野郎! 殺されてぇのか!!」


 そのまま腹に力を入れて、腕の筋肉のしなりを十全に生かした勢いで空へと……飛ばさず、硬いコンクリートの地面に叩きつける。


 弾ける肉片、それに伴って流出する光の玉が周囲を周り、天に昇っていった。


 もう無闇に飛ばしたりはしない。

 後が怖いからな。


「………あ」


 さて、ここからだ。


 オゴロギアムの強制力が無くなった今、地球は宇宙の影響を大いに受けている。

 こんなわけわからん奴らが山ほど闊歩する程、世界は不安定だ。しかし、忘れてはいけない。このわけわからん奴ら、ハードが生まれるのは俺達生きとし生けるもの全てが原因だということを。


 ハードがいるから不安定なのではなく、不安定だからハードがいるのだ。


 俺達人類も少なからず宇宙の影響を受けて日々変化し続けており、異変が起きてもおかしくないということで。

 つまり、彼女がハードを見えるようになっても仕方がないということで。


 だから、俺がこのまま何も説明せずに帰るのも仕方がないということだ。


「え!? あの、あのっ! こ、これ! どういう事ですか!? さっきの鳥の人は何だったんですか!? き、消えたんですけど! こ、ここ、殺したん、ですか!?」


 面倒臭いよ〜。面倒臭いよ〜。


 あー面倒臭い。早足で歩く俺の隣を戦々恐々と付いてくる彼女に、いったいどう説明すれば良いんだ。

 全て俺が悪いんだ、とか? いや俺悪くねぇし。この結果を招いたのは俺でも、いつかはこうなってたんだ。そしてなんの説明にもなっていない。


 わからないととぼけるか? いくらなんでも無理がある。がっつり退治するところを見られてたし。


 じゃあ、


 今もパニックになっている彼女の為に、俺は足を止めた。


「君は、幽霊が見えるようになったんだ」


「……え? 幽霊、ですか?」


 厳密には違うけどな。


「そう。さっきの奴も、成仏出来ずに苛立ってたんだろうさ」


「鳥みたいな顔をしてたんですけど……」


「あれはな、時間が経つにつれてああなるんだよ。ほら、魂っていうの? 肉体を持たないと存在があやふやになって、周りから影響されやすいんだ」


 間違いではない。稀だが、実際寿命を待たずに死んだ人はそのままの姿でハードとなっているのを見た事がある。

 ただし、そこに意思は確認されていない。思念はどこまで行っても思念でしかなく、本人ではないのだから。


 あと、口調が素に戻っちゃってるけど、それは彼女も一緒っぽいし大丈夫だろ。


「そう、なんですね」

 

 ところで、と前置きして、俺は彼女の足を指差す。


「普通に歩いているようだけど、もう大丈夫なのかな?」


「あっ」


 よし。


「じゃ、問題なさそうだし、俺はもう帰るわ」


「ま、待ってください!」


 まだ六月とはいえ、それなりに暑い季節。自分のせいではあるが日差しが強い中、ハードが鬱陶しかったり子供を泣かせてしまったり、写真で撮られそうになったり。

 追い討ちにもう一人の俺が愛した女性と出会ってしまったりと、散々な一日だ。


 自分のせいだけど!


 だとしても、流石にこうも不幸が続くと嫌になってくる。


「私はこれから、どうすれば……」


 周りのハードも見えるんだろう。不安そうにしている。


 けど、どうすればって言われても、俺もどうすればいいかわからないし、あれ?


 ふと思う。


 もしかしたら、俺と会ったせいで彼女は見えるようになったのかもしれない。或いは俺が飛ばした物が原因か。

 そうだとしたら本当に申し訳ない事をした。つーか、関係がいつの間にかどんどん深まってる気がする。共通点も出来てるし。


 しょうがない、こうなってしまったからにはとことん付き合ってやろうじゃないか。


「取り敢えず連絡先を交換して、何かあれば読んでくれ」


「れ、連絡先を!?」


 急に俺を見る目が怯えたようになる。考えてみれば、そりゃこんないかにもか弱いです。って感じの地味目な巨乳の娘が、助けたとはいえ知らない男に自分の個人情報を渡すのは怖いか。


 さっきも絡まれてたしね。ハードだけど。


「嫌なら別に交換しなくても良いんだよ?」


「う、うぅ」


 おっふ。なんか興奮してきちゃったぜぇ。両手を前で組み、モジモジと身体を揺すっているとある部分がより強調されて……眼福です。


 側からは俺、鼻の下伸ばしてるんだろうな。


「わかり、ました」


 ゲヘヘヘ、大人しくそうすれば良かったんだよぉ。


 それからお互いの連絡先を交換して、結局俺が段々宮さんの家の近くへと荷車と旗を運んでその日は解散となった。


 眼福料というやつだ。







◆○◆







「君はクビだ」


 彼女、段々宮だんだんぐう 雪華せつかの連絡先を交換して数日後、上司のキモデブハゲが突然豚語で話しかけてきた。

 なんだブヒ。今カップ麺の三分間を待つのに忙しいから後にし……え?


「はい?」


「聞こえなかったのかね。君はクビだと言ったんだ」


「え、いや、それは聞こえていましたけど、何故クビなんですか?」


 全く身に覚えが無いんだが。

 こいつの楽しみにしていた高級お菓子を全部うまうま棒に入れ替えたからか、念力で物の角に小指を何回もぶつけるよう仕組んだからか。


 身に覚えがなさ過ぎる。


「少し前に、君は同僚の飲み物を買いに行ったね? その時、サッカーボールで遊んでいた少年がいた筈だ。この意味、わかるか?」


 ドッと冷や汗が流れる。

 まさか、見られていた?


「少年の親はうちの会社のお得意様でね、なんでも君に意地悪されたと聞いたようだ。心当たりは?」


 有りまくりんぐ。

 しかし、何故俺だとバレた。見られてはいたが、こんな早く特定できるわけが……


「公共のカメラでバッチリ映っていたよ、君。あんな周囲に奇行を晒して、更にはお得意様の子供まで虐めて、君は我が社の恥だ。本来なら裁判沙汰でも良いが、お得意様に目立つ行為は避けろと言われている。我が社もその意向に賛成している。よかったな」


 血管がはち切れそう。

 ニヤニヤと笑いながら丁寧に話すこの上司に、拳をプレゼントしたい。


 心底人の不幸が嬉しいんだろう。見下したような目で笑いを堪えている。

 そうか、そうか。


「わかりました。短い間でしたが、お世話になりました」


 予め書いておいた辞表を渡し、荷物をまとめて会社を出る用意をする。


「残念だねぇ。まあ、わかるよ。前から君は物覚えも悪いし作業が遅いしで、ストレスが溜まっていたんだろう。私もストレスが溜まるとついこう、カッとね、誰かに当てようとした事もある。それを我慢して我慢して、耐え抜いた先に道があるんだけど、君には少し酷だったか」


「そうですね」


「しかし幸運な事に君はまだ若い。やり直せるチャンスはいくらでもある。なんなら私が、仕事を紹介してあげても構わんよ。風俗店の清掃員はどうだろう。私も若い頃に少しだけ働いた事がある。その伝手で、働いて、ふ、ふふ、ふふふははははは! おっと失礼。少々はしたなかったね。許してくれ」


「はい」


「頑張りたまえよ若人。このご時世就職するのは大変だろうが、きっとーー」


「すいませんが」


 長話に付き合うつもりは無いんで。


 口からゴミを吐き出す上司だった奴に、俺はそれだけ言って会社を出て行った。





 ………………


 …………


 ……





 かに思わせて、オフィスの開いている窓へと念力を走らせる。突風が巻き起こる中、横ぎる寸前にあのクソ野朗を捕まえて、五十階のビルの外へと放り出した。


「ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 美味しい! 凄く甘くて美味しいよ!


 人の不幸は蜜の味って本当だったんだ!


 上下左右に激しく揺らし、時にはどの建造物よりも高く、時には低空飛行で皆んなにこの豚の魅力を見せつける。

 あまりの嬉しさに黄色い液体も漏れていた。これが俗に言う嬉しい小便、ウレションというやつか。

 

 それはなにより。

 行動に移した甲斐があったというもの。


 空を縦横無尽に飛ぶ姿はまるで妖精のようで、俺はこの光景を一生忘れないと心に決めた。


 後日、空飛ぶおじさんが話題となり、オカルトブームの勢いは更に増した。空飛ぶおじさんグッズやゲームが発売され、空飛ぶおじさんのハードが現れた時は笑い転げて呼吸困難になった。あれは反則である。






◆○◆






 しっかし、どうしたもんかなぁ。


 家に帰って来て早々、俺は頭を悩ませていた。


 仕事が無ければお金が貰えない。お金が貰えないと食っていけない。常識だ。


 じゃあ俺に何が出来る? 貯金にはアルブ・ギギさんに渡された百万円があるし、なにか自分で起業してみるか?


 つーか世界を救って百万円って、安すぎやしないだろうか。もっと高い値段を言えばよかった。一千万円とか。あーでも駄目だ、そしたらこんな金どこで手に入れたのかと不自然になってしまう。

 俺二十歳だぞ、働いて地道に稼ぎましたは通らないだろ。


 ならどうする。


 できればこの超能力を生かせる仕事がいいな。人から尊敬されて、お金ガッポガッポ稼げる仕事。ってそんな都合の良いのあるわけ……あ。

 

 そうだ、祓魔師ふつましになろう。

 エクソシストとも言うな。


 俺にピッタリの職じゃあないか。

 オカルトブームも来てるし、それが無くてもハードは増え続けていずれは明るみに出る。そうなれば需要も高くなるだろう。

 その分段々宮のような子も増えて、近いうちにはハードを退治する人も現れるだろうけど、バランスは大事だ。


 俺一人が強くても意味はない。

 最初はちやほやされても、俺だけしか対応出来なければ人類が終わる。

 ハードは増えて、合体して、強くなっていく。放置していたらそれこそオビゲウス並みの個体が誕生する可能性もある。それ以上もーー


 いや、よそう。


 それよりどこに店を置くかだな。待て、祓魔師らしい道具もある程度揃えとかないと胡散臭さがより際立ってしまいそうだし、うーん、考える事が多い。


 けど、なんだか楽しくなってきたな。


 俺の明るい未来のために、頑張ろう。

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