三つの選択肢 (最終話)
光に包まれたユーゴの体は、スーッと消えていった。
「さて、戻ってきますかねえ」そう言ったのは神ゲブスだった、
「戻って来るわよ、この世界には彼の仲間が沢山いるんだもの、黒龍と赤龍なんか、何百年ぶりにウキウキしてるのよ、帰って来てもらわないと困るわ」とサラヴィが言う、
「帰って来てもらわないと困るー、まだ、飛行艇に乗せてもらってなあい」これはマタンだった。
魔界の山脈の上空で、飛行艇はユーゴからの連絡を待っていた、
「何も言ってこないなんて、何してるのかしら」アイーダが不満げに言う、
「メルマから報告、ユーゴさんは異空間に移動中、との事です」とオレンジが報告した、
「異空間? 何があったのでしょう」とみゆきが心配そうに言う、
「信じて待ちましょう」そう言ったのはみそのだった、
「あそこに白竜様を感じます、きっと大丈夫」胸に手を合わせてユイナは祈るようにそう言った。
バーバラは無言で大魔王城のあった方向を見据えていた。
そこにカイが現れて、
「私の体が元に戻った、探索者達もだ、ユーゴ殿が何かしてくれたのやもしれぬ」と自分の手を見ながら、皆に嬉しそう言う。
「お兄様、それは良かった、・・ですが、そのユーゴ殿が異空間に行ったとかで連絡がまだ無いのです」そうユイナが兄に報告する。
「なんと、異空間とな、それはもしや天界か?」とカイは呟いた。
カイの体が元に戻ったという、本当なら喜ぶべき事態なのだが、一行はただならぬ雰囲気を感じながらユーゴからの報告を待っていた。
ユーゴは、真っ白な空間にいた、
上も下もよく判らない、見渡す限り、ただただ白い空間だった。
確かに重力を感じ、その場に立っているのだが、その立ってる地面を感じない不思議な感触だった。
ユーゴは訳がわからず、周りを見回す、どこを向いても真っ白な世界を。
「やあ、ユーゴ君、ご苦労様でしたね」
そう声が掛かった、声のする方を見ると、そこに立っていたのは、あの虫のような目をした男だった、
異世界の神を相手に、ため口を訊いてきたユーゴだったが、その男から感じるプレッシャーで声を上げる事も出来ない、
「これは失礼、これでどうかな」そう男が言うと、それまで押しつぶされるかと思うくらい感じていたプレッシャーが弱くなっていく、これが神の位というものかとユーゴは恐れ入っていた。
「君が聞きたい事はいろいろあるだろう、ざっと私の方から説明しよう、まあ、掛けてくれたまえ」
男がそう言うと、今まで何もなかった場所に、椅子と小さなテーブルが現れていた、
ユーゴは黙って座った。
「君のおかげで、方向を見失っていたあの世界の神たちも、魔力と科学の融合を見定めようという意見にまとまりそうです、助かりました」
そう言ってる顔は、全く無表情なのだが、笑っているように見えた。
「あのー、なぜ私を選んだんでしょうか?」ユーゴはようやく口を開いた、
「ああ、それはですね、言いにくいんですが、君は元の世界にあのままいても、子孫も残さず後の世界に影響を与えそうになかったのでね、自由に移動させやすかったのです、それに君の柔軟な思想は役に立つと思いました。・・いや、すまないと思っているのですよ、本当に、ですから、今回は君のこれからについて相談しようと思いましてね、こうしてここに来てもらった訳なのです」
そう、柔和な表情に見える顔で上位神は言った。
「これから、ですか」と突然の事に戸惑うユーゴ、
「そう、これからの事です」上位神はもう一度確かめるように言った、
「君に、三つの選択肢を用意しました、選ぶのは君です、よく考えて選んでください」
そう上位神は続ける、
ユーゴは、ゴクッと唾を飲んで、神ゲブスとは違う、有無をも言わせぬ雰囲気に飲まれまいと必死になっていた。
「白竜様より、お告げがあった、ユーゴ殿は上位の神様に呼ばれて行ったそうだよ、しばらくかかるだろうから先に帰るように、との事だ」黒龍が飛行艇の中で待機してた皆に思念でそう伝えてきた。
「上位の神様? あれ、ここにユーゴを呼んだ神様の事じゃないのか」バースがそう言う、
「そうじゃったの、確かそのような事を言っておったわい」ドイルもバースの言葉を肯定した。
「それって、また何処かに飛ばされちゃうって事なの」アイーダが不安そうに言う。
「そ、そんな事ありませんよ、私達を置いてどっかに行ってしまう訳がありません」とみゆきが首を振って言った。
「ユーゴさん・・」ユイナは手を合わせ祈っている、
「信じて待つしか無さそうですね」みそのは皆を諭すようにそう言った。
「ふー、・・一旦帰るわよ」バーバラのその声で、飛行艇は向きを変えインターキに向かって動き出した。
「一つ目の選択肢は、元の世界の元の時間に戻る、というもの、ここでの記憶は無くしても残してもどちらでもいいでしょう、君の希望に合わせますよ」
上位神は、あっさりと言う、元の世界へ戻せると、
ユーゴは、そう言えば、自分は元の世界にあまり執着が無かったことに気が付いた、俺はあの世界に戻りたいと思った事がほとんど無かったな、と改めて自覚していた。
「二つ目の選択肢は、このまま、この世界で今までと同じように暮らす、というもの、まあ、あまり無茶をされても困るのだけれど、君なら大丈夫でしょう」
そうだ、これが一番望ましい、今までと同じようにあの仲間達と暮らせるなら、今の俺にはそれが一番だ、ユーゴは、この時はそう確信していた。
「そして、最後、三つ目の選択肢なのだけれど」
上位神はそう言うと、こちらを見てくれと右手を上げる、
上位神の右隣に、大きなモニターが表れた、
モニターと言ってもそこに移されてる画像は二次元ではなく、実物のような三次元の世界だ、
「こ、これは」
ユーゴはその突拍子もない世界に度肝を抜かれていた、
そのモニターに移っていたのは、広大な宇宙に二手に別れた無数の宇宙戦艦の艦隊だった。
「な、なんですか、これは?・・・」
ユーゴは呆気に取られ、そのモニターを凝視していた。
「いやあ、実は、上手く進化していった世界が二つあったので、くっつけてみたのですけれど」
と無表情のはずの上位神の顔がバツの悪そうな顔に見えた、
「そうしたら、戦争を始めちゃいましてね、困っているのですよ」と言う。
ちょうど、モニターに写ってる宇宙戦艦が戦闘に入った所だった、まさにSF映画で見た世界そのものだった。
その迫力に圧倒されながらも、ユーゴは拳を握りしめ見入っている。
ユーゴの目は、新しいゲームでも見つけた中学生のように輝いていた。
そのユーゴの様子を満足そうに見ながら、上位神はこう言ったのだった。
「どうです、この世界に行ってみませんか? それが三つ目の選択肢です」
END
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
いかがだったでしょうか、感想、評価を心待ちにしております。
誤字報告、ありがとうございます。
次回作は、ちょっと趣向が変わって、
現代のコンビニに、戦国時代の侍と忍者がタイムトラベルしてくる、という内容にしようと思っています、
何もわからない戦国時代の人間に、現代コンビニはどう見えるのか、
コンビニの問題点を織り込ながら、笑いを交えて書いてみたいと思っています。




