大魔王の正体
ユーゴは、一旦非難した亜空間から、魔石の暴発のあった場所に戻って来ていた、
見渡す限り、何も無くなってしまったその場所に、判りやすく、不自然に暴発前のまま残っている一角があった。
どれ、大魔王様とやらにご対面といこうか、
ユーゴは、その扉の前に移動して、大きな扉を開いて行く、
部屋の中は、外から見た建物の大きさより広くなっていた。
立派な作りの部屋の奥に、巨大な椅子があり、そこに立派な角を生やした巨人が座っていた。
恐ろしい顔のその巨人、大魔王は困ったような顔をして、
「ねえ、ちょっとやりすぎじゃないかなあ」と言って来た。
ユーゴは頭を掻きながら、
「いや、俺もあそこまで凄い威力だとは思ってなかった」と答えた。
ユーゴは、大魔王の正体が、おおよそわかっていた、
自分では手を下さないやり方を見れば、過去に同じような連中と会っていたからである、
案の定、聞いた事がある声がした、
「やあ、ユーゴさん、ご苦労様です、でも今回は私もちょっと引きましたよ、危うくこの場所まで吹っ飛ぶところでした」
そう言って来たのは神ゲブスだった、
「でもなあ、元々といえば、そっちの眷属がやりだしたことで、あの魔石だってベゴールが作ったんだ、こっちはその対抗策をとっただけさ、あいつを止めなかった方にも責任はある」
ユーゴがそう言うと、
「それを言われると、返す言葉もないんだけどね」そう大魔王は言う、
そして、ポンと銀髪の少年に姿を変えた。
「えっ、おまえは、あの時の少年じゃないか」
ユーゴは大魔王の正体は、白竜と同じ類だとは思っていたが、それが飛行艇に乗りたがっていた少年だとは思っていなかった。
すると、椅子の陰からもう一人現れ、
「この度は、弟が迷惑をかけてしまった、すまない」と言って来た、
少年より頭一つ高い身長の少女、それは白竜サラヴィだった。
「え~~、お、弟?、あんた達、姉弟なの?」
ユーゴは、サラヴィの言葉を聞いて、今度こそ心底驚いていた、
「姉弟と言っても、人間のそれとはちょっと違うんです」と説明してきたのはゲブスだった、
「我々は、自分の中に葛藤が生まれると、二つに別れちゃう時があるんですよ、この二人は以前は一つの体だったんですが、5000年ほど前に二つに別れちゃいましてね、姉弟と言うより分身と行った方がいいですかね、まあ、考え方は正反対なんですがね」
ゲブスもどう説明したもんかと、言葉を選びながら言って来た。
別れる? アメーバのようにか、ユーゴはそう思った、
「あ、今、アメーバとか思いましたか? それはちょっと違うと思うんですよ、神ですから」と不満そうな顔をするゲブス、
「我々神は、元々一つの意識だけの存在だったのです、その役割が増えるのに合わせて分裂していったのです、ほら、あなたの元の世界にも神様が自分の体の一部から他の神様を生んだという話が残っているでしょう、あれは生んだのではなく、一部が分裂したんですよ」
神様が分裂? ああ、イザナギが目を洗ったり鼻を洗ったりして他の神様が生まれたとかいう話の事か、
ユーゴは、うっすらと憶えている日本の神話を思い出していた。
「よく、神様に似せて人間を作ったという話もありますが、それは逆です、私達は元々意識だけの存在で人間に似せて体を作ったのです、ですから、精神が別れれば体も別れてしまうのですよ」
ゲブスは子供を諭すように、一生懸命説明した。
だがユーゴは、今一要領を得ない顔をする、
「まあ、その辺はどうでもいいや」とゲブスに向かって言う、
「え、どうでもいいの? ユーゴさんここはもっと突っ込むところじゃ・・」
ちょっとがっかりしているゲブスを横目に、
「で、大魔王さんは、魔界でなにをするつもりだったの」と銀髪の少年に聞いた、
「僕の名前はマタン、僕はねえ、何も変化をしない子供達を視てるのに飽きちゃったんだよ」といたずらをした子供がいい訳でもするように言って来た、
「魔力を手にした子供達は、穏やかに暮らし始めた、でもね、そこには進化がなかったんだ、僕はそんな子供達に変化をもたらしたかったんだよ、それには、子供達に脅威を与えるのが一番だと思ってね、僕自身が子供達の共通の敵になろうと決めたんだ」とマタンが言う。
随分と短絡的な奴だな、人間が穏やかに平和に暮らしてるだけじゃ物足りないのかよ、だったら人間は永遠に苦しみを伴わなけりゃ駄目という事じゃ無いか、
科学が進み過ぎても自滅、穏やかに暮らしてるだけでも駄目、神様が望む人間の姿ってのはなんなんだよ、
ユーゴは、勝手な言い分に憤慨していた。
「僕たち神はね、自力で進化できないんだよ、なにせ万能だからね、進化する必要もないんだ、だから子供達の進化を見てその可能性を探っているのさ、もちろん子供達の幸せを願っているよ、でもそれは進化を伴う幸せの事だよ」とマタンが言い終わると、
「ゴホン、あ、ああ、それはマタンの意見でしてね、天界の大半は神が子供達に脅威を与えるべきじゃ無いという意見が主流になっています、まあ、以前子供達が自滅した後遺症といいましょうか、進化自体を歓迎しない神たちもいましてね、魔力推進派ですね、サラヴィもどちらかと言えばそちらに属しますかね」
とゲブスが説明してきた。
「私だって、進化が良くないなんて思って無いわ、子供達が穏やかに暮らしてくれるのが一番だと思ってるだけよ」とサラヴィが言う。
「いやいや、機械文明で子供達が子孫を減らした時だって、なんらかの脅威を与えていればああはならなかったはずさ、子供達の進化の為には脅威は必要なんだ、僕のような存在がね」
と、今度はマタンが自分の正当性を主張する。
「何言ってんのよ、あんたはやりすぎて天界によって500年も眠りに就かされたんでしょ、少しは反省しなさい」
とサラヴィが呆れたように言う、
「いや、あれは、本当は子供達で防げる程度の軍勢だったんだよ、それを子供達は危機になっても仲間割ればかりして、その間に魔族達が蹂躙しちゃったんだ」
とマタンが不本意だったと主張する。
「馬鹿言ってんじゃ無いわよ、あなたに言われれば魔族だって必死になるわよ、いくら復活できるようにしたからって、無茶をさせるんじゃないわよ、昔懲らしめたから懲りたかと思えば、今回だってそうよ、あんたが本気で止めればこんな事にはならなかったわ、まったく目覚めたと思ったらすぐこれなんだから」
サラヴィは本気で怒っていた。
「ああ、うん、魔族なら、多少の無茶は大丈夫のはずだったんだけど、今回は流石に復活に時間がかかりそうだね」とちょっと反省した様子のマタン、
「ちょっとまて、魔族は人間に進化を促す脅威を与える為に作られたという事なのか?」
ユーゴは怒りを込めてマタンを見つめる、
「うう、この辺りにいた魔獣を眷族にしたら知恵を付けたもんだから、人間へのプレッシャーになってもらったんだ、人間も魔族の脅威に対抗して進化するんじゃないかと思ったのさ、・・ベゴールは過去の科学文明の事を知ると、興味津々でね、その力を見てみたいと前から言っていたんだ、そしたらユーゴ君が現れて、その、上手く利用するとか言い出して・・・、僕も見てみたかったんだよ、科学と魔法の融合をさ・・」
ユーゴの怒りの表情に委縮しながら、そう言ってマタンは上目づかいでユーゴを見た。
「もう一回、今度は一万年ぐらい寝てた方がいいんじゃないのか」と言いながらユーゴはマタンを睨みつけた、
「ごめんなさい、復活しても、もうしないように言い聞かせます」とマタンはシュンとして答えた。
「いいか、まず、さらわれていた探索者とカイの体を元に戻せ、お前になら出来るんだろう?」とユーゴがそう言うと、
「もちろんです、もう、元に戻ってるはずです」とマタンが敬語で答える、
「それと、飛行艇に乗せる話な、あれは無しだ」とユーゴが言う、
「ええ~、そんなあ、乗せてくれるって言ったじゃないですかあ、楽しみにしてたんですよおお」
と子供がバツを与えられたように訴える、
「駄目だ、そんなに乗りたかったらこんな真似させずに、俺の所に遊びに来ればよかったんだ」
「う~、そうしたかったですけど、それだとベゴール達に示しがつかなかったんですよ、お願いですよ、乗せて下さいよお」
まだ、諦めきれずに喚くマタン、
そんなマタンの襟首をつかんで、神ゲブスが言う、
「この子の処分はこっちで考えますんで、この辺で勘弁してください」
そして、膝まづいて上を向き、ユーゴにさらに言った、
「上位神様が、お呼びのようです、ユーゴさん心して行って来てください」
神ゲブスだけではなく、白竜サラヴィも、さっきまで騒いでいた大麻王マタンも膝まづいている、
ユーゴの周りに、純白の光が降りて来る、この世界に飛ばされた時と同じ光だった。
次回が最終話となります、
よろしければ、感想をお聞かせください。