赤龍のうっ憤
アイーダが、魔石銃で下級魔族を蹴散らしながら二階に上がっていく、それに付かず離れずB2とB4も奮闘していた、この元蝙蝠達も、もはや下級魔族に引けを取らない攻撃力を発揮していた。
アイーダは一気に三階の階段前まで掛け進んだ、だが、そこに大男が立ちふさがっていた。
男は二つの太い尻尾を躍らせながら、
「それが魔石銃とやらですか、やれやれ、機械の力とか申すからどれ程の物かと思いきや、ただのおもちゃではないですか、調子に乗っているようですが、それもここまでです」
そう言うと、目を赤く光らせ不気味に笑って見せる。
続けて、
「我が名は、ハーモング、上級魔族にしてこの大魔王城の・・・」
と名乗りを上げている途中で、ボンと言う音と共に煙が上がった、みそのの煙幕弾だった。
「じゃ、失礼」とアイーダはハーモングの体をすり抜けると先へと進んで行く、
「うっとうしい」とみそのは今度は目つぶしをハーモングに投げつけ、やはり先に進んで行った、
「あ、おまえら、何を無視して」とハーモングが目を抑えながら慌てた声を上げる、
振り返り、アイーダとみそのを追い掛けようとするハーモングの腕に、ワイヤーが巻き付いた。
「お前の相手は俺達がしてやるよ」そう言ってワイヤーを引っ張るのは獣人コイルだった。
「すまんな、あんたはここで俺達と遊んでもらう」コイルの後ろから大剣を肩に担いだバースがニヤッと笑いながら言った。
ハンスは黙って立っていた。
「なにを生意気な」怒りの表情でバース達を睨みつけるハーモング、
その脇をもの凄いスピードでユイナが駆け抜ける、あっ、とそちらを見るハーモング、
その反対側を、体を丸め、片手を体の前で拝む様にして、すいません通ります、とみゆきが通り抜けていく。
「くそ、舐めおって」とハーモングは全身に力を籠める、体が一回り大きくなったかと思うと、腕に巻き付いていたワイヤーが引き千切れた。
そのハーモングの頭上を体に似合わぬ跳躍力でカイが飛び越えていく、
「すまん、先に行かさせてもらう」そう言ってカイも先に進んで行く。
ハーモングの怒りは頂点に達していた、さらに体が大きくなったかと思うと、
「貴様ら人間ごときが、身の程を思い知らせくれる」そう言って、人間の顔だったハーモングはまるで角の生えた恐竜のような顔になった、体は人間、二本の尻尾と顔は恐竜というおぞましい姿だった。
「お前らごとき力で、わしを倒せるとでも思っているのか」と体から炎をたぎらせ、火炎のブレスを吐く、
バース達がいた石でできた床が溶けている。
「おっと、まあ、こっちとしては倒さなくても、時間が稼げればいいだけだからな」とブレスを飛びのいて避けたバースが言う。
すると、バース達の後方から、
「そう言わず、ぶちのめしてやればいい」と言う声がした、
バース達の前まで歩いてきたのは、人間の姿をした赤龍だった。
「こっちもいささか欲求不満でね、丁度いい相手だよ」そう言って槍を回転させてから構える。
「赤龍、なぜここにお前が、バラムカは何をしている」ハーモングは意外そうな声を出す、
「ふん、今頃黒龍と遊んでいるだろうよ、まさか、あいつ一人で我ら二人を抑えるつもりだったのか、つまらぬ冗談はやめておくれ」赤龍は心底つまらなさそうに言う、そしてギラッと赤い目を輝かせた。
「おい、こりゃ、下手に近づくとやばそうだぞ」そう言ったのはハンスだった、
「ああ、予定変更だ、少し引いた所から様子を見よう」バースも二人の熱気に押されていた。
ハンスは黙って立っていた。
炎を纏っているハーモング、対する赤龍も炎の龍の異名を持っていた、二人が相対しているだけで、周りが溶けてしまいそうな熱を帯びる、いくら魔法で身を守ってるとはいえ、生身の人間であるバース達には辛い物があった。
「ちっ、こんなに冷却魔石弾用意したのに、無駄になりそうだぜ」バースがそうこぼしながら二体から距離をとる、
「どの道、あの熱量じゃ効かなかったろうよ」そう言ったのはコイルだ。
「おい、熱で目がやられないよう気を付けろ、滅多に見られない対決だ、じっくり見物させてもらおう」と意外に楽しそうにハンスが言った。
「おまえの性格は、時々判らない時がある」とコイルはあきれ顔でそういった。
赤龍の体がハーモングと同じぐらい巨大化すると、背中から翼が生えて来る、
ハーモングが炎の剣を抜き赤龍に切り掛かろうとする、赤龍はそれより早く槍を付いた、
ハーモングは、後ろに飛びのいてそのまま壁を突き破り外に出て間合いを取った、赤龍もその後を追って外に飛び出していった。
バース達は、崩れた壁まで駆け寄り、事の成り行きを見守っていた。
ユーゴは、M1号改に乗って大魔王城の屋上にいた、ベゴールがここにいると思っていたからだ、だが、ベゴールの姿は屋上には無かった。
急に城の中から飛び出した、ハーモングと赤龍を見て、あれ、予定外の対決だなと思ったが、まあ、時間が稼げればいいんだから問題はないだろうと、ベゴールを目指し、城の中に降りて行った。
アイーダは、4階の大きな扉の前で、未来の花団とカイが揃うのを待つと、皆に目配せして扉を蹴破った、
中には、魔獣の体に人間の上半身を持った元ダンジョン探索者が六体、額に魔石を光らせ無表情で立っていた。
その奥に、ベゴールが立っている。
「おやおや、流石ですねえ、思ったより早くここまでこれたのですね、では、お約束どおり探索者達をお返ししましょう、フフフ、連れて帰れればの話ですがね」
そう言うと、ベゴールはその理知的な顔を歪め笑っていた。
そんなベゴールの肩に小石が飛んでくる、ベゴールは小石が投げられた方を見ると、
大きな窓枠に立つユーゴの姿があった。
「おい、そんな講釈はいいから、さっさと片を付けよう、屋上に来い」ユーゴはしらけた顔でそう言うと、フッと姿を消した。
「舐めたまねを、後悔させてくれる」ベゴールはそう言うと、持っていた杖を振る、
すると、半獣半人になった元探索者達の瞳が光る、それぞれ無表情のまま武器を構えた。
「さて、検討を祈りますよ、私はあなたがたのリーダーのお相手してきますので」と言ってスッと姿を消した。




