バーバラとメビーラ
バーバラは、自分の周りに半円の結界を張り、襲って来る魔物を弾き飛ばしながら悠々と歩いていた。
皆が戦っている魔王城の門から、かなり離れた場所まで来ると、
「この辺迄くればいいでしょう、さっさと出て来なさいな牛女」と叫んだ。
「フフフ、安穏と隠居生活を送っているようだから、出てこないかと思ってたわ」
そう声がしたかと思うと、スッとメビーラが姿を現した。
「フン、陰険なあんたが人間界まで出向いてきたから、何事かと様子を見ていれば、まさかユーゴを呼び出すとはね、いい機会だから懲らしめに来てやったわ」バーバラは不敵に笑ってそう言った。
「私はあの男には興味は無いわよ、まあ、魔力が強いそうだから後で頂いてもいいけど、・・私の目的ははなっからあんたよバーバラ、わかっているでしょう」こちらも妖艶な笑みをたたえてそう言った。
しばし睨みあう二人、
両者の魔力が上がり始め、周りに妖気が立ち込める、周りにいた魔物達はザザッとたじろぎ退いた。
同時に魔法が繰り出された、魔法が両者の真ん中で拮抗する。
その時、二つの影が、メビーラに向かって走った、
メビーラは慌てて飛びのき、その攻撃を避ける、バーバラの魔法がつっかえ棒失くしたように伸び、その延長線上にいた魔物達が吹き飛んだ。
「こざかしい、おまえの眷属などに私が倒せるはずがあるまい」メビーラは忌々しそうにバーバラに言った。
「ほう、それはどうかしら、試してみるか」
二つの影が、再びメビーラを襲う、メビーラは剣を抜いて応戦した。
「ふん、角も無い出来損ないのやる事はせこいな、人間の血が半分入っているのだ仕方がないか」
メビーラがバーバラを馬鹿にするように言う、
「フフフ、お前は、昔からハーフの私がお前より魔力が強いことが気に入らなかったのだろう、そして人を陥れる事ばかり考えていた、あまりのうっとおしさに魔界を出てやったというのに、よりによって父上まで陥れ、その地位を奪うとは」バーバラの目が鋭くなる。
「ふん、人間の女にうつつを抜かすような輩に、魔族の重役を任せられる訳があるまい、当然の報いよ」
メビーラは憎々し気に言う、その顔はその美貌からは想像できないほど激しい物だった。
「フフ、父上は、重責をはずされ喜んでいたがな、だが、それと、お前のやった事とは別、いつか報いを与えてやろと思っていたのよ」そうバーバラが言うのと同時に雷がメビーラを襲う、
メビーラは結界魔法張ってそれに耐える、そこに二つの影がまた襲い掛かった、
「フフ、眷族をそんな風に使ってよいのか」そう言ってメビーラが剣を振るう、二つの陰の胴体を薙ぎ払った。
だが、剣にまったく手ごたえが無かった、二つの影はフッと姿を消していた、
「クッ、幻術か」メビーラが悔しそうに言う。
「フフフ、そう怒るな、あまり怒ると、本当の姿に戻ってしまうぞ、醜い牛の姿にな、お前は、ただ人間の女に嫉妬してるだけの哀れな奴よ」そう、バーバラが見下すようにメビーラに向かって言った。
メビーラは、ハッとして自分の手を見る、何も変わっていない自分の手を見て青ざめるメビーラ、
「馬鹿な、そんな簡単に元に戻る訳がない」そう言って自分の体を確認している、
この時、バーバラの幻夢魔法によってメビーラは自分の体が、本来の自分の姿に戻っているように見えていた。
「おのれ~~」頭に血の登ったメビーラはものすごい勢いでバーバラに切り掛かる、
バーバラの姿がスッと消え、メビーラの一撃は空振りに終わる。
「フフフ」バーバラの笑い声があちらこちらから聞こえてくる。
いくつも姿を現すバーバラ、その見下すような目つきにさらに怒りを増したメビーラは、今度は本当に本来の姿、牛の姿に変わっていた。
メビーラは、フンとばかりに息張ると、全方位に魔力をぶつけた。
円形に広がる魔力に、いくつもあったバーバラの姿が消えていく、一つだけ結界を張って残ったバーバラの姿があった。
「そこかぁー」メビーラはバーバラめがけて突進する、
そこに、またも二つの影が襲い掛かった、
「その手に乗るか」そう言ってメビーラは二つの影を無視して突進を続けた、
だが、今度の影は本物だった、カキン、という音と共にメビーラの頭にあった二つの角を切り取る、
「なにい」メビーラは突進するのをやめ、両手で自分の頭の角を確かめる。
だが、そこにあった二つの角は無くなっていた、みるみるメビーラの魔力が弱まって行く。
「フフフ、この角は私のお店のインテリアにでもするわ」バーバラは角を両手に持って笑っている、
その左右に、猫耳の獣人の娘と、人間の娘が短刀を構えて立っていた。
「夢幻魔法はね、頭に血が上ってる相手程簡単に掛かるのよ、力比べではかなわないけれど、あんたほど簡単な相手もそうはいないわ、しばらく大人しく寝てるがいい」
そう言って、バーバラは頭を抱えて立ちすくむメビーラに向かって氷結魔法を放った、
メビーラは瞬く間に凍り付き、そして砕けた。
「馬鹿な女、魔族と人間に子供なんて簡単にできないのよ、私は母の連れ子、父上は魔獣の犠牲になった哀れな人間の母子を保護しただけよ、私の魔力が強いのは、ここで育ち、魔法で遊ぶのが好きだったからというだけの事よ」
バーバラは少し悲し気な顔でそう呟くと、
「さて、あっちはどうなっているかしら」と大魔王城の門の方を見た。




