出発
さらに数日後、魔界進行の準備は着々と進んでいた、
スパンク王国の特殊部隊は、隊長のガナディ大佐を含め十二名だった、スパンク王国きっての精鋭の集まりで、身体能力の高さを誇り、魔力もそこそこ持ち合わせていた。
アイーダ、ジェラールの伝手を頼りに、ユーゴ達と友好関係築きたいスパンク王国は先日の大型船による奴隷事件の名誉挽回のチャンスととらえているようだった。
「流石に、日ごろから訓練されてる部隊は違いますね」その訓練風景を見てユーゴが言う、
「我らは、特別な魔力はありませんからな、鍛錬を怠る訳には行きません」と隊長のガナディ大佐が答える。
「今回は地味な役回りで申し訳ありませんが、よろしくお願いします」
「いや、ユーゴ殿の配慮、よく判っているつもりです、それに、あの魔道具や武器、我らの想像をはるかに超える物、お役目必ずはたして見せましょう」
ユーゴは、この舞台に光学迷彩の戦闘服と、小型の自動小銃、各種の手投げ弾を配給していた、
目的は、敵のかく乱と、負傷者の救護、ドイルに付いてもらって、危なくなったギルドの小隊の援護を頼んでいた、他国の部隊なので、比較的安全に動いてもらうつもりでいた。
「それにしても、アイーダ嬢の変貌ぶりには驚きました、数年前はカワイイお嬢さんだったんですがね」
ガナディ大佐は、アイーダの訓練を初めて見たときは驚愕していた、あんな事件が無ければ、普通の農家の娘に育っていたはずだ、それが常人を逸脱した訓練をしている、複雑な思いで見ていた。
「前のような悲壮感はありませんよ、案外楽しんでやってますから安心してください」ユーゴがそう言うと、
「ええ、それはお仲間との様子を見てわかりました、私は、あの子が小さなクロスボーを持って、親の仇の前で佇んでいる姿を見てますゆえ、感慨深いのです、魔力をあれほど憎んでいたあの子が、ああして魔力を使いこなしている、それも魔石銃と組み合わせて」そう言ってガナディ大佐はアイーダを目を細めて見ていた。
その視線に気が付いたのか、アイーダがてくてくと近寄ってくる、
「大佐、この自動小銃凄いよ、これがあれば魔獣なんていくらいても平気よ、思いっきり暴れてきてね」
そう無邪気に笑って言って来る、
「ああ、アイーダ嬢に負けないようにせねばな」ガナディ大佐がそう返すと
「へへん、それは無理ね、私強くなったのよ、もう、守られる側じゃなく守る側なんだから」
アイーダは、得意の腰に手を当てるポーズでそう言った。
「ああ、そうだね、もしもの時は頼むよ」ガナディ大佐は笑いながらそう言う、
「まかせといて」とアイーダはニカッと笑って言った。
パチン、 ユーゴがアイーダの頭を軽く叩いた、
「調子に乗るな」と言うと、アイーダは舌を出して逃げて行った。
「まあ、悲壮感が無さ過ぎて、困る時もありますが」とユーゴが言うと、
「そのようですな」とガナディ大佐は、安心した顔つきで笑って言った。
ユーゴは、自動小銃の他にも様々銃器を、武具製造班に作ってもらっていた、
武器製造班とは、カーク、ジャスティス、ジェラールにブルーを加えた三人と一機の事だ。
ロケットランチャーを見たバースがやけに気に入り、魔石銃の銃弾の詰め込みを気にしていたくせに、これは俺が持つと言って魔法訓練所で試し打ちをして騒いでいる。
コイルは、ワイヤーの付いてる銛を打ち込む小銃を開発してもらい大喜びしていた、
その他にショットガン二丁を無限ポシェットに入れた、
ハンスは、ライフルと銃口が長めの小銃を二丁を選んだ、小銃を腰に付ける姿がやけに様になっている、
今、そのカッコウに負けないように、訓練中だ。
ギルドの小隊、女性陣も、自分の好きな銃器を一丁は持つようにしたが、最後の奥の手として使う者が多かった。
無線通話機も作った、これも魔道具という事にしてあるが、実際は電波を使った普通の無線通話機だった。
それらのデータも含めた、バーチャル世界での戦闘訓練も繰り返し行われた。
探索者救出班には、未来の花団の四人と、ユイナの兄、カイが当たることになった。
この班の成功が、今回の魔界遠征の最低条件となる、
ただ、探索者達がどのような状況にいるかも判らないし、額に埋め込まれた魔石によって探索者自身の抵抗に会う事も予想された、その場合、攻撃魔法は効かないとう前提付きだ。
臨機応変な判断と、個々の実力も必要な重要な役目だ。
念入りに打合せがされ、ユーゴもある提案をしていた。
「それで上手くいくの?」アイーダの不安気な質問に、
「大丈夫だ、これで上手くいくはずだ」とユーゴは自信たっぷりに言った。
そして、魔界からの返事の催促が来たと連絡があった、
ユーゴは一週間後に行く、と返事をさせた。
その後一週間、たっぷりと訓練したユーゴ軍団のメンバー達は、自信に満ち溢れた顔で、改良を加えられた飛行艇の前に整列していた。
上空には、黒龍、赤龍が龍の姿で舞い、その周りには白竜の谷の竜騎士達が飛んでいる、
ユーゴの召喚獣バンナの姿もあった、なんとアダンテまでいた。
「おいおい、アダンテ大丈夫か、あんなに憶病だったのに」とユーゴがユイナに聞く、
「それが、初めて喋った人語が、ぼくもいく、だったそうで、置いて来れなかったらしいのです、後方で飛行艇の警護に当たらせますから」と苦笑いをしながら答えた。
「よし、それでは出発する、必ず同胞を取り返し、魔族の鼻っ柱をへし折ってやろう」
ユーゴの号令に、全員が、「オー」 と答え、飛行艇に乗り込んでいく。
ユーゴ自身は、飛行艇の上部に取り付けた、M1号改に乗り込んだ、
飛行艇の操縦は、カークとオレンジが担当していた、カークの指輪が光り、飛行艇が静かに浮き始める、
カークの後ろで、バーバラが立ったまま前を見据えている。
黒龍と赤龍を先頭に、海の上を魔界目指してユーゴ軍団は進んで行った。




