サラヴィの申し出
「・・・という訳で、イアンさんが目覚めたら、イアンさんの教えはとんでもない物に改変されてたという訳だ、今回はこれを是正する」
ユーゴは、「蝙蝠の羽」と先日結成したばかりの「未来の花」に召集をかけ、作戦会議を開いていた。
それに先立って、超古代の科学文明と、アンドロイドのブルーとオレンジを蝙蝠の羽の三人に説明し、紹介したのだが、三人は全く理解できなかった。
ブルーとオレンジを随分と綺麗なゴーレムだな、と言いながらしげしげと見ている始末だ。
面倒くさくなったユーゴは、それをほっといて話を進めたのだった。
「今回は報酬無しだ、参加は自由とする」とユーゴは男三人に向かって言ったが、三人供やる気満々だった、
特に、メンバーの中で唯一の獣人であるコイルは燃えていた。
「これは、俺達獣人にとって聖戦だ、なんでも言ってくれ、なんなら知ってる限りの獣人に協力させるぞ」と言って来た、
ユーゴは、その言葉に危うさを感じた、前の世界で聖戦という言葉を何度か聞いていたからだ、
「コイル、気持ちは有難いが、今回も俺のやり方で行く、血生臭いのは無しだ」とユーゴが言うと、
コイルはニヤッと笑って、「判ってるよ、俺はお前を信頼している」と言った。
いつも冗談ばかり言い合ってる相手に、面と向かって言われた言葉に、ユーゴはちょっと照れていた。
まず、ユーゴはグランとフランクに連絡を取り、西側諸国に、奴隷制度に変わる労働契約制度を提案させた、なぜか二人共やけに聞きわけが良かった。
奴隷の中には普通に給金をもらって働いてる者もいた、そういった奴隷をいきなり制限させると混乱すると思ったからだ。
次に、イアンが大切に持っていた本来の経典を、ブルーとオレンジに頼んで大量に複製させた、この世界は印刷物は高価だった、とにかく庶民に本来の経典を広めたかった。
助けた奴隷を収容する施設も用意した、西側の教会とは別に、インターキにもイスタンにも宗教施設はあった、そこに獣人の女性に待機してもらえるようコイルを通じて頼んでもらった。
女性陣は、監視ロボットを駆使して、奴隷が囚われている場所の特定をしていた、
「今回のターゲットは、変態の性癖の為に囚われている女性奴隷だ、奴隷は需要があるから供給側が成り立つ、今回はその需要側を叩く」とのユーゴの指示に4人供異様に燃えていた。
そして、イアンには演説の練習をさせた、だが、これが一番難儀だった。
イアンは重度のあがり症だった、
「以前は説教して回ったのでしょう?」とユーゴが聞くと、
「いや、私は立ってるだけで、説教は他の者が・・」と答えて来る、
ユーゴは大先輩に強くも言えず、頭を掻いていた。
誰もいない場所で、何度も何度も練習させて、ようやくOKを出した、
「こんな事で本番に上手く出来るでしょうか」とイアンがユーゴに聞く、
するとユーゴは、
「いや、本番は女性陣と移動魔法陣を駆使してもらって、奴隷の救出に回ってもらいます」と言った。
「やっぱり、私の演説ではダメなんでしょうか」とイアンは情けない顔をしてユーゴに聞いてくる、
「いや、そうじゃない、まあ、任せて下さい」とユーゴは勿体ぶって笑って見せた。
数日後、複製した経典は、学校や、城の中の施設、街の診療所、それに地方の教会など、人目に付く所にそっと配っていた、『聖者イアンの復活は近い』というメモ書きを挟んでである。
西側諸国の庶民の間では、聖者復活はかなりの噂になっていた。
教会側は、その経典の回収に躍起になっていた、それは聖者復活などあり得ないと声高に叫びながらだった。
そして、作戦結構の前日になっていた、明日は、西側では聖者イアンがお隠れになった日とされ、大切な祈りの儀式が行われる日だった。
「随分楽しそうね」ユーゴが明日の計画のチェックをしていると、そう突然声を掛けてきたのは、なんと白竜サラヴィの少女姿だった、
な、何処から現れたんだ、とユーゴがビックリしていると、
「あら、私は元神よ、亜空間なら何処でも移動できるわ」と言って来た。
「え、そうなんですか」とユーゴが目を丸くして言うと、
「あら、ゲブスだってあなたが亜空間を作ってからはこっちにしか来ないでしょ、そもそも天界だって似たような物なんだから」とサラヴィが言う、
「そう言われれば、以前に亜空間のが来やすいとかなんとか言ってましたね」とユーゴが答える。
「それでね、うちの黒龍と赤龍が、ぜひ明日参加したいって言うの、この間の件で味を絞めちゃったらしくて、今回のあなたの動きを教えたら、ウズウズしちゃってるのよ」と突然本題に入って来た、
「え、今頃そう言われても」ユーゴは思わぬ申し出に困惑した、
「そう言わずに、何処かに押し込んでよ、そもそも、ちっとも遊びに来ないあなたが悪いんだから」
「えー、俺のせいですか?」
「そうよ、機械達を見つけたら遊びに来ると思ってたのに、ぜんぜん来ないのだもの、黒龍と赤龍も待ってたのよ」
「はあ、色々忙しくて」とユーゴは鼻の頭を掻いた。
「ねえ、随分早く、機械さんたちを見つけたわね、でも、それって偶然じゃ無いのよ」
「え、どう言う事ですか?」
「ふふん、それはね、魔族が絡んでいるのよ、詳しくはあなたにあそこを調べるように言った人に聞いてみるといいわ」そう言って含み笑いをするサラヴィ、
依頼した人?ギルド長フランクの事か?そう言えば、まだ調査の報告してなかったな、
「ここまで教えたのよ、あの子達を使ってやってよ」
「はあ、でも今回は聖人イアンが主役ですよ、その下に付くという事になりますけど」
「いいんじゃない、要は私を邪神扱いした教会にうっ憤を晴らしたいだけなのよ、あの子たちは」
「ああ、そう言う事ですか、じゃあ、今回は人間の姿でそれらしい格好でお願いします」
「ウフフ、それらしい格好ね、わかったわ、ありがとう、じゃ明日二人をよこすからよろしくね」
そう言ってサラヴィはスッと消えた。
やれやれ、まあこれで完璧かな、ユーゴはそう呟いた。




