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神託の転移者  作者: 百矢 一彦
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もう一人の転移者


 「そろそろ、転移者と合わせて欲しいんだが」とユーゴはしびれを切らして言った、

するとアイーダは、「まあいいわ、ユーゴが私達のシャワーを覗いていなかった事も判ったし」と言う、

「な、お前はそんな事を疑っていたのか、メルマが重要度順にモニターに写すんだ、そんなもん見れるわけないだろう」とユーゴは表面上憤慨した、

だが、心の中で、そういう使い方も出来るのか、と密かに考えていた、

(お望みとあらば)とメルマがユーゴにだけに言って来る、

お、おまえ、何言ってるんだよ、とユーゴが頭の中でメルマに返すと、

(当機は、マスターと思考を共にするもの)と答えてきた、

思わず、ブッっと飲んでいたお茶を吹き出すユーゴ、周りの目がやけに冷たく感じた。



ようやくユーゴは、ヒルフォーマー商会の応接室で、四百年前に転移してきたという神父の格好をしたイアンと会う事が出来た。

「お噂はかねがね伺っています、会うのは二度目ですね、イアンです、よろしくお願いします」そう挨拶してきた、

「ユーゴです、こちらこそ、転移者の大先輩に会えて、嬉しいですよ」とユーゴも挨拶を返した。


気の弱そうなイアンは、元はスコットランドの農夫だったそうで、今だに魔法を使うのが怖いと話していた、

ユーゴもドイルに魔法の使い方を習わなければ、同じように思ってたかもしれないと考えたが、イアンの場合は人一倍臆病なのも原因らしかった。


四百年前と言うと、日本は徳川幕府が出来たばかりの頃か、ヨーロッパはどうだったかな、魔女狩りとかは終わった頃か、スコットランドもまだ独立してたはずだな、かなり厳しい環境だったのは間違いないだろう、とユーゴは、あまり得意では無かった歴史の知識を思い出していた。


ユーゴは、一番気になっていた事を聞いた、この人物が神ゲブスが言っていた人物なのかどうか、

「イアンさん、あなたが今の西側の宗教の元を作ったのですか?」

するとイアンは困ったような顔をして、

「ええ、確かに今の一神教は私達が起こした考えが元になっているようです、でも、全然違うんですよ私達が説いて回った内容と」と言う。

イアンは転移してきた頃の事を静かに話し始めた。


・・・・・・・・・・・・


その頃、この世界の西側の地域は、小さな国がそれぞれ地域ごとに様々な神様を信仰し、混乱の中にあった、水争いや、領地争いで小さな戦が絶えなかった。

そんな状況を憂いていた一人の魔導士が、神様のお告げを聞いた、

それは、異世界から救世主を転移させる方法だった。


魔導士は仲間と共に、救世主召喚の儀式を行った、しかし仲間の中に他国のスパイが入り込んでいた、

儀式途中で妨害が入り、完璧に遂行する事ができなかった、そんな不完全な召喚儀式で呼ばれたのがイアンだった。


イアンは、魔導士が望んだような、大いなる力で人々を説き伏せるような人物では無かった、

ただただ平穏な日々を望む農民で、その魔力の力の意味さえ判っていなかった、判らないどころか魔法は汚らわしい物と思い込んでいたのだ。

毎日欠かさず祈りを捧げるイアンに、魔導士は言った、

「あなたの信じる神の教えを、この世界に広めてみてはどうか」と、


元の世界の信仰をそのままこの世界に当てはめるのには無理があったので、二人はお互いの神話や経典を教えあい、この世界の争いが減る方法を考えた。

そして、魔導士の上位神の話を元に、人類共通の神を作る事を思いついた、今信仰している神々はその上位神の弟子たちで仲間同士だとすればいいと、経典はイアンの知ってる教えを元に作られた。


そして、この教えを広げるべく、仲間たちと各地を回り教えを説いて回った、

説教の時は、イアンがその魔力で覚えた強力な結界を集会所に張り、外部からの妨害を一切排除した、

説教が終わった後は、魔法陣を使って消えるようにその場を去った。

イアンの持つ、魔力のオーラは庶民の絶大な畏敬を呼んだ。


この説教の奇跡の噂は、瞬く間に西側全土に広がった、信者は増え、いつしかイアンは聖者と呼ばれるようになり、新に立ち上げた教会の力は国境を越えて広がった。

やがて戦の数も減り、小さかった国家は平和的に合併するようになっていったのだった。


平和な時代を築いたイアンは、その後教会の本部で平穏に暮らしていた、だが、時と共に一緒に説教して回った仲間は皆年老いて死んでいく、イアンは百歳を超えても、まだ五十代の見た目だった、

そしてついに、イアンを召喚した魔導士もこの世を去ってしまった。

イアンは、気の許せる相手が一人もいなくなってしまった、イアンを慕う若い世代はイアンを大切にしたが、イアンの存在があまりに偉大になってしまったため、それは人と人の交流とは言い難かった。


役目が終えたと悟ったイアンは、自ら命を絶つ事を禁じている自分の教えに従って、死ぬのではなく自らの魔法で長い眠りに付く事を決断する。

そして、一人教会を抜け出し、人里離れた森の奥の洞窟で、自らに魔法を掛け、三百年の眠りについた。



そして、数カ月前、イアンは目覚めた。

街に出てみると、争いも無く、平穏そうに見える街並みにホッとしていたが、

ある日、鎖に繋がれた獣人を見る、

イアンが以前いた頃は、西側にほとんど獣人はいなかった、どうしたことかと調べてみると、

イアンが書いた経典は、大幅に変更されていたのだ。


教会はその威厳を集中させる為、イアンが唯一神の弟子とした元々の神々は邪神とされていた、

しかも、邪心を信じる者は、人にあらず、奴隷として扱ってもよいとされていたのだ、


イアンは、地方の教会に行き、真実を訴えた、

だが、以前は畏敬を持って見られていたその魔力は、邪心の使い、悪魔の証拠とののしられたのだった、

教会に所属する、魔導士に攻撃を受ける始末だった。


そして判った事は、奴隷制度が教会の資金源になっている事だった、

教会は、奴隷にしていいかどうかの判断を一手に握り、その許可を与える事で奴隷商から莫大な資金を得ていた。

奴隷を積極的に推奨し獣人の地域まで手を伸ばさせたのは、ほかならぬ教会自信だったのだ。


初めは教会の一部だった奴隷推奨派は、その資金を後ろ盾に勢力を強め、今や教会の中枢を握っていた、

ユーゴの出現で、奴隷制度に慎重になっている国家に対しても、圧力を強めている状況だった。


イアンは、元来臆病な性格を奮い立たせ、一人、奴隷を少しでも開放すべく活動していた、

そして、みゆき達と奴隷の監禁されている教会の前で出会ったという事だった。


・・・・・・・・・


「ふん、自分の都合の良いように経典を書き換える、か、ありそうな話だ」と話を聞いたユーゴはうんざりした顔をした。


そして、

「そういう事なら、ちょっと大掛かりにやっちゃいましょう」と言って立ち上がった。





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