妨害工作
ユーゴがダンジョン探索に出発した頃、ダンジョンウォールのギルド長室で、フランクとグランがお茶を飲みながら談笑していた。
「まさか魔族の方から交易の申し込みがあるとは思いませんでしたね」とフランクが言う
「ええ、しかもかなりの好条件、願っても無い話ですよ、これでイスタンの交易量は飛躍的に伸びるでしょう」グランが微笑みながら答える。
「しかし、あの魔族の代表は美人でしたね、魔族のイメージが変わってしまいましたよ」フランクがにやけ顔で言う、
「まあ、それも狙っての人選でしょうからね」グランも口元が緩みっぱなしだ、
「あのバーバラさんと従兄弟という話は本当ですかね、本当ならバーバラさんは魔族の血を引いてる事になりますが」
「いや、あり得る話でしょう、バーバラさんは初めて会った時から見た目が全く変わりませんからね」
二人が話しているのは、先日行われたイスタン、インターキ都市国家評議会での出来事の事だった、
ユーゴの強大な魔力が公になった事に対しての方針を決めるべく、評議委員が集まっていた。
その中にはフランクもグランもいた、そしてあのバーバラも出席していた。
そこに突然、何の前触れもなく魔族が現れたのだった、
成熟しきった女性の美しさを絵に描いたような女性が、気品と色気を漂わせていつの間にか会議場に現れていた。
バーバラは魔族の顔を見ると、急に不機嫌になり、さっさと帰ってしまった。
そして、バーバラが帰った後、好条件で交易を申し込んできたのだ。
ただし、一つだけ条件を出して。
「ユーゴ君にダンジョンの最深部の探索をさせるのが条件って、どういう事なのですかね」とフランクが不思議そうに言う、
「さあ、判りません、彼らがユーゴ君にかなり興味を持ってるのは確かでしょうがね」とグランも見当がつかないと肩をすくめる。
「近いうちに、ダンジョンから連れ去った冒険者も返すという事でしたから、こちらにとっては悪い話じゃないんですがね、ユーゴ君には済まないことをしちゃったかもしれません」
「ユーゴ君は、あれで結構へそ曲がりですからね、魔族の依頼と聞いたら言う事聞いてくれるかどうか、仕方ないでしょう。私は、ユーゴ君の魔力を直に見ましたが、あれなら何があっても大丈夫ですよ、魔族も危険は無いと言ってましたしね」
二人は、ユーゴにその事を内緒で探索に向かわせたことに、多少後ろめたさはあったものの、安否の心配はまったくしていなかった。
ただ、この事はバーバラにも内緒にしていた、内緒というよりバーバラの態度を見て、話す勇気が無かったと言った方が正しいかもしれない。
ユーゴを乗せたM1号は、各階層の構造をメルマの探知機能を使って調べながら、海水が入り込んでる水面まで降りてきていた。
各階層は、ほぼ同じ構造していた、放射状に延びた通路に、何かを格納していたとみられる部屋が並んでいるだけの単純な作り、だが、それゆえ人工的な構造物という事は、確かなものとなった。
「いよいよ、水中だな」ユーゴがそう言うと
(前回潜った時には、六カ所の通路と思われる横穴を確認しています)とメルマが答える、
ユーゴが「ライト」と唱えると、M1号の前面に付いてる二つの反射板に光がともった、それとは別にメルマも目玉部分から光を出す。
風魔法から水魔法に切り替え、静かに水中の潜っていく。
水中にも魔物がいたが、結界魔法に包まれたM1号を襲って来る気配は無かった。
六カ所か、一つずつ調べるしかないな、と気になっていた海の方向に向かっている横穴に入ってみた、
だが、数百メートル入った所で、落盤で先に勧めない状態になっている、
「メルマ、この落盤の先はどうなってる?」とユーゴが聞くと、
(落盤はかなり先まで続いています、丁寧に取り除かないとさらなる落石を誘発する恐れがあります)と答えてきた、
仕方なく引き返し、他の横穴を調べてみたが、全て同じように通れない状態だった、
ただ一カ所、他の横穴より広い横穴があり、その穴だけ落石の間に隙間が見える。
「どうだ、通れそうか?」とユーゴがメルマに聞く、
(この横穴は比較的落盤の被害は軽微、二カ所の岩を移動させれば通る事が可能です)と言って来た。
ユーゴは精神を集中させ、水魔法を操り岩をどかす、濁ってしまった水を押し流すと、M1号が通れる隙間が出来ていた。
慎重に先に進む、落盤地帯を抜けると驚くほど奇麗な通路が続いていた。
「凄いなこれは、どの位続いているか解るか」ユーゴが聞く、
(30キロ以上続いています、それ以上は計測不可能)とメルマが答える。
行ってみるしか無いな、と覚悟を決め、ユーゴはM1号のスピードを上げた。
「この通路は、地上のどのあたりに向かってるんだ」ユーゴは方向が判らなくなりメルマに確かめた、
(もうすぐ、東の森と呼ばれる地帯の地下に入ります、その先も東に向かって続いている模様)と答えが返って来た。
東の森かあ、ちょっとやな感じだな、ユーゴはそう思いながらもM1号を進めた。
何処まで行っても変わり映えのしない通路を進んでいくと、(水面にでます)とメルマが言って来る、深度が浅くなったのか水中からでる、風魔法に切り替えさらに進んでいった。
それから数時間、ただただ続く通路に、ユーゴがいい加減飽きて来たなと思った頃、突然M1号が振動しだした、
なんだ、おかしいな、魔法の制御に問題はないはずだがと思いながら、スピードを緩める。
すると、通路の前方が急に落盤した。
ゴゴゴゴゴという音と共に、天井が崩れ土埃がたつ、
ひえー、危なかった、どうしたってんだ急に、とユーゴが肝を冷やしていると、
(本物の落盤ではありません)とメルマが言って来る、
「なんだって、幻夢魔法の類か?・・俺には効かないはずなんだが」とユーゴがビックリしていると、
(魔法ではありません、これは立体映像と振動波によるものです)とメルマが言う、
どういう事だ?とユーゴがよく判らないで呆然と落盤で通れなくなってる前方を見る。
メルマが緑がかった光を落盤に当てた、すると、光の当たってる部分は、土砂で埋まった通路が全く元のままだった。
(何者かによる妨害工作と思われます、高度な科学技術が用いられています)とメルマが言う。
・・・・・つまり、この奥に何者かがいる、という事だな。
ユーゴは、魔族ベゴールが東の森を調べろ、と言っていたのを思い出していた。




