最下層へ
次の日、ユーゴは亜空間の魔法訓練所でダンジョン最深部探索の準備をしていた。
「ねえ、ほんとに一人で行くの?私達だってなんかの役にたつわよ」そうアイーダがむくれ顔で言って来る、
「まあ、ユーゴさんから見れば足でまといなんでしょうけど、せめて亜空間の入り口は豆に作って下さい、いつでも駆けつけますから」
とみゆきも若干不満そうだ。
「わたしは、白竜様より、ユーゴ殿のお伴をせよと仰せつかっております、ユーゴ殿を一人で行かせるのはこの言い付けに背くこと、なにとぞお供させて下さい」
ユイナに至っては、自分も行く気満々で準備万端整えていた。
「今回は、この一人乗り用の飛行艇で行く、判るな、一人乗りだ、連れて行けないの」
ユーゴは、自分だけ出掛ける父親にでもなった気分で女性陣に言っていた、
「それにな、今回は水中なんで、おまえ達担当の蝙蝠達も置いて行く、連絡はいつでも取れるし、魔法陣も亜空間もある、毎日帰ってくるんだ、そんな大騒ぎするほどの事じゃないよ」
そう言って説得するが、まだ三人のふくれっ面はなおらない。
「それより」とユーゴは続ける、
「それより、何よ?」とアイーダは頬を膨らませたまま器用に話す、
「みそのさんの方の手助けをしてやってくれ」ユーゴがそう言うと、
「みそのさん、なんかやってっるんですか、聞いてないですよ」とみゆきが不本意そうに言う。
「ああ、西側の教会の動きを探ってもらっている、どうも例の一件以来態度を硬化させてるらしくてな、奴隷の取引も闇でおこなってる所もあるらしい」とユーゴが困った顔で言うと、
「なんですって、そんな事になっていたんですか」とみゆきが食いついてきた、他の二人も真剣な顔つきになっていた、
「俺は今、表立って動けないんだ、なのでみそのさんに様子を探ってもらっている、亜空間の出入り口も西側に数カ所作っておいた、そっちを頼むよ」ユーゴがそう言うと、三人はそっちのが面白そうと言う顔つきになり、目をキラキラさせている。
「いいか、探るだけだ、余計な事は絶対するなよ」とユーゴはみゆきに顔を近づけて真剣な顔で言う、
「なんで、私だけに言うんですか」とみゆきが言う
「いや、なんとなく」とユーゴは答えていた。
心の中で、みそのさんこいつらの面倒もお願いします、とちょっと罪悪感を感じながら、
「じゃ、俺は行って来るから」と言って、亜空間に並んでいる扉の一つを開けて出て行った。
ダンジョンの三十階層に、スッとユーゴの姿が現れた、
そーっと吹き抜けになってる穴をのぞき込む、かなりの高さだ。
「やっぱり、ここを生身で降りるのは度胸がいるよな、小型飛行艇を作って正解だったな」そう言うと
(水中での探索はより効率的です)と姿を現したメルマが答えた。
ユーゴは召喚の魔法陣を床に書く、事前に実験したが、召喚魔法で小型飛行艇も呼び出すことが出来た。
魔法陣が光ると、緑色した小型飛行艇が現れる。
ユーゴはなかなかカッコイイじゃないかと、満足顔で眺めた。
「そうだ、これにも名前つけないとな」と顎をさすりながら考える、
疾風、隼、・・烈風、紫電・・なぜ戦闘機の名前しか浮かばない・・、
じゃ、フィアット、ロータス、スーパーセブン・・セリカ・・いかん、今度はクラシックカーだ、
変な名前付けるとアイーダが煩いしな。
小型飛行艇の車で言うボンネットの部分に、渋い銀色でコイルが考えたマークが入っていた、
二重丸に蝙蝠の羽が生えているマークだ、メルマを模したものだった。二重丸じゃなかったら元の世界のバットマンのマークと同じになっていたところだ。
それを見て、「よし、仮に(M1号)と呼ぶことにしよう、正式名称は後で考えればいいや」と言うと、メルマは円を描いて飛び、何となく嬉しそうにしてるように見えた。
(Mの意味はなですか)とメルマが聞いてくる、「みどり色だからな」とユーゴが言うと、
(マスターが素直じゃ無いのは把握しています)と返して来た。
「おまえ、最近、機械じゃないみたいな事いうようになったな」とユーゴが訝しげに言うと、
(私はマスターと思考を共にするもの、マスターの影響はあらがえません)といつもの機械口調で言ってきた。
「ふん、だったら初めから聞くなよ」と不機嫌に言いながら、ユーゴは心の中で笑っていた。
仮名M1号は、戦闘機の様に、乗り込む時座席上部のガラスを持ちあげるようになっていた、座席に座りその上部のガラスを降ろす、
ガラス前方にメルマが収まるくぼみが付いていて、メルマもそこにスタンバイした。
ほとんどユーゴの魔法で操作するのだが、一応操縦桿が付いている、小さい垂直尾翼も付いているが、この辺りはユーゴの趣味なだけだ。
もっとも、この機体を真似て魔石を利用した量産機を作るなら、重要な役割を果たすだろうが、ユーゴにはあまり関係ない、左右の推進用噴射口の風の量の調整で方向転換出来てしまうからだ。
ユーゴの風魔法で機体の底から風が流れる、ホバークラフトの様に浮いたM1号は前方にある大きな穴の中央まで進むと、徐々に高度を下げて行った。