尋問の魔法
宣教師は、物置部屋の前まで来ると、
奴隷の刻印を押すまでは優しく接しないとな、優しかったワシが急変して驚く顔を見るのが楽しみじゃて、そう思いながらドアをノックする。
「お嬢さんたち、船が小さくなって船酔いなどしておらんかな、私の治癒魔法なら楽にしてやれるぞ」そう言って返事を待つが何も帰ってこない、
「どうしたかな、どれ、ちょっと様子を見てやろう」そう言うと、ドアに掛かってる鍵を魔法で開け、そっとドアを開いて中をのぞいた、
中には綺麗な黒髪をした女性が二人、向こう向きでうずくまっている、その綺麗な背中はほとんど露出していた。
ニヤニヤしながら宣教師が中に入る。
そして一歩踏み出した時、体に電気が走り、痺れたように体が動かなくなった。
みそのが床に仕込んだ、金縛りの魔法陣だった。
「駄目、この顔を見ただけで虫唾が走るわ」無限ポシェットから取り出した上着を着ながらみゆきが言った。
「まったく見下げ果てた奴だ、間にあってよかった」とみそのはすでに忍び服に着替え終わっている。
「幻夢魔法掛けるのも汚らわしいわ、こういう時の魔法もバーバラさんに教わっているわ」
そう言うとみゆきは、宣教師の額に何やら文字を書き、最後に指で額を押した、すると文字が光り額にしみこむ様に入って行く。
すると、宣教師の瞳は輝きが無くなりくすんだ色になった。
みそのが金縛りを解く、しかし宣教師はその場にボーっと立ったままだった。
「あなたの所属している教会は、みんな奴隷の売買なんてしてるの?」とみそのが宣教師に聞く、
「我々教会は、奴隷売買を公認する事で、奴隷商人から多額の寄付をもらっています、宣教師はどういった民なら奴隷にしてよい、と許可を出すだけで大金が入ってきます、今はそういった宣教師が主流になりつつあります」
「なによそれ、呆れるわね、奴隷にしていい民と駄目な民の境界線はなんなの」
「もともと奴隷は、戦の戦利品として金品の代わりに敗戦国から連れて来たのが始まりです、その後罪びとも奴隷として扱うようになりました、ですが、今は戦も減り奴隷が不足気味なので、我が宗教を否定するものは奴隷にしてよいという事になっています」
それを聞いたみそのが、
「我が国は、よその宗教を否定したりせぬぞ、現にわが国では様々な神が祀ってある」という、
「そもそも、他の神を崇めることが我が宗教を否定する事なのです、神は唯一なのですから」宣教師は無表情のままそう言った。
「ああ、それ、何処かで聞いた事あるわ、教科書で読んだのかしら」とみゆきは元の世界にもあったなと思っていた。
「自分たちの論理で、他者のあつかいを決めるという事だな、ではこちらもそうするとしよう」みそのの目が鋭く光った。
「あ、今は駄目よ、なるべく多くこいつらの仲間をひっ捕らえるんだから」とみゆきが慌ててみそのに言う、
「わかっている、心配ない」とみそのは高ぶる気持ちを抑えるように、低く平坦な声で答えた。
「それで、あなたに今回の事で命令した人とかいるの?」とみゆきが再び尋問する、
「あの方の前では、誰もがひれ伏す事になります、あの方は特別な存在」そう言うと宣教師は無表情のまま震えだした。
あら、とんでもない黒幕がいそうね、ユーゴさんに知らせないとまずいわね。
「あなたは、今から部屋に帰り、目的地につくまでずっと寝ていなさい」と宣教師にみゆきがそう言うと、
「はい、わかりました」そう答えて宣教師は物置部屋から出て行った。
メルマを通じてみゆきからの報告を受けたユーゴは、特別な存在という黒幕について考えていた、
とんでもない魔力の持ち主か、あるいは教会内で特別な位置に付いてるという事なのか、いずれにしても用心しないとまずいな、
ユーゴは、バース達にも黒幕の存在を知らせ、用心するように伝えた。
バースが乗った運搬船が、運河の最奥ファントラス王国の港に着いた、
バースは、船に乗り込んでくる男たちを片っ端からふんじばった、それをユーゴが魔法陣でイスタンの警備隊に送る。
コイル、ハンスの船も同様に片っ端から捕まえては、イスタンに送る。
だが、ブランの話ではガスティー商会との繋がりの証拠は見つからなかった、捉えた男たちはすべてガスティー商会の所属では無かったのだ。
「後は宣教師が乗ってる船だけだな、あれはガスティー商会の船籍だから言い訳は効くまい」そうユーゴが言うと
「そう願いたいものだ」とブランは難しい顔で答えていた。
ガスティー商会の船、
「さて、いよいよ港に着く、いいか俺達は教会の宣教師様に頼まれて女二人と共に親切で乗せただけだ、奴隷商人とは一切関りが無い、いいな、もしもの事があってもそれで通せ」
船長と思われる男が、他の船員に強い調子で言って聞かせていた。
「肝心の宣教師が部屋から全く出てこないんですが、大丈夫ですかね」船員の一人が言う、
「ふん、船酔いでもして寝てるんだろう、そろそろ起こして置け」船長はそう言って、見えてきた様子がさわがしい港の方を向いた。
船の物置小屋のドアのわずかな隙間から、器用に小柄な黒猫が入ってくる、
「いよいよ港に着くようよ、あの船員たちは捕まってもしらを切るつもりらしいわ」とみそのが言う、
「ユーゴさんから作戦変更の連絡があったわ、少しお芝居しててくれって、このままさらわれた女性の振りをすればいいみたい」
とみゆきが言う、
「また、これを着るのか」
「そうね、これを着るしか無さそうね」二人はうんざりした顔で、面積の少ない服を見た。




