作戦準備完了
一旦、全員ヒルフォーマー商会の執務室に戻って今後の方針を相談した、
「あいつらを放っておくのは納得いかないわ、とっちめてやらないと」とアイーダが息巻く、
「今回は、奴隷ではなく、他国の一般人を拉致監禁したという裏が取れましたから、港の警備隊が動く予定です、ただ、相手はかなり大きな組織ですので、インターキのギルドにも応援を要請しているところです、アイーダ嬢、必ず一網打尽にしますからご安心ください」
とグランがアイーダに説明する。
グランにしてみれば、相手がスパンク王国ではなく、ライバルであるガスティー商会となれば遠慮どころか、渡りに船とばかりに潰しにかかる絶好のチャンスだ、手加減するはずが無かった。
「問題はさらわれた人達をどうやって救い出すかだ、それと教会が絡んでる、これが教会全部の組織的仕業なのか、一部の不埒者の仕業なのか、そこも問題だなあ」とユーゴが何か考えながら言う。
「スパンク王国の特殊部隊が動くって船長が言ってたけど、多分、ガナディ大佐というのは私を助けてくれた人だわ、当時は少佐だったけど、もしそうなら信頼できる人よ」とアイーダが言う。
「ふむ、彼らに連絡を取るのは最後の手段だな、下手すると国際問題になりかねない、船で七日の行程だ、出来れば西の国に着く前に救い出したい」
とユーゴが言うと、
「しかしどうやって、もう、何隻かに別れて出航してしまっているのですよ」みそのが悔しそうに言う、
「龍なら追いつけるな、今日あたりユイナ嬢がインターキに着いてるはずだ」そう言ったのはバースだ。
「そう言えば、ユーゴはバンナを使役獣にしてたじゃない」先日助けた龍の事を思いだしてアイーダがそう言う、
「龍で乗り込むのは目立ち過ぎだ、俺に考えがある、みゆきちゃんとみそのさんには、危険かもしれない大変な役目を頼みたい」ユーゴはそう言って、さっきからみゆきが抱いてる奇妙な生き物になっているB3を半目で見ていた。
ユーゴは魔法陣を使って一旦くれない屋に戻った、遅れて来ているはずのユイナを迎えに来たのだ、
くれない屋の食堂に行くと、そこにはもうユイナが待っていた、
「皆さんこちらに戻って無いと聞きました、いったい何があったのですか」ユイナは何かあったと察していた、
だが、ユーゴは何も答えられずユイナをジッと見つめたまま、
「ど、どうしたんです、その髪」と言った後、絶句していた。
ユイナは、長かった髪の毛をバッサリ切っていたのだ、
「ああ、これは・・、この髪が元に戻るまで谷に帰らないという決意の為です」とキッとした顔でユイナが言う。
ええ~、そんな決意いらないのに、魔法陣でさっと帰れるんだから、もっと気軽に行こうよ、ユーゴはそう思ったが、
「ユーゴ殿、どうかよろしくお願いします」と深々と頭を下げられ、
「あ、ああ、こちらこそ」とユイナの決意が重くのしかかってくるのを感じていた。
いったいサラヴィは、この子に何と言ったのやら、やだこの重圧、とうんざりした気持ちを、薄ら笑いでごまかしていた。
ユイナに事情を説明しながら、ユーゴは飛行艇の前まで来ていた、
「メルマ、本当に大丈夫なんだろうな」とユーゴが言うと、スッと現れたメルマが
(マスターの結界魔法で飛行艇を囲み、噴射口だけ外に出せば可能です、重力魔石が海中でどう作用するかは試さないとわかりませんが、おそらく浮力も抑えると予想します)そう答えた。
「いったい何が大丈夫なんですか?」とユイナが不思議そうに聞いてくる、
すると、ユーゴはニヤッと笑って「これで海に潜る」と答えた。
改めて、ユイナも含めて、今回の作戦に参加する8名とヒルフォーマー商会のグランとスクルトが執務室に揃っていた、そして人間だけではなく8匹のリスに大きい耳が付いたような珍妙な生き物がそれぞれの人間に寄り添っていた。
メルマが中央で皆に説明する。
(女性陣もこの姿なら蝙蝠達を帯同できる事が分かりました、蝙蝠の思念と私は繋がっています、皆さんが蝙蝠に話すと私を通して全員に伝達できます)
「つまり、遠くにいても意思のやり取りができるという事だ、これを通信と呼ぶ、尚、作戦中は氏名ではなく、蝙蝠名でお互いを呼ぶようにしよう、相手にどんな魔法の使い手がいるか判らないからな、用心するに越したことは無い。何か質問はあるか」ユーゴが補足する。
蝙蝠達は、似たような姿に化けているが、微妙に個性があった、男性陣に着いている蝙蝠は形は変わっても羽を生やしたまま飛んでいる、
女性陣についてる蝙蝠はよりモフモフ感を意識してるのか毛が長めだ。
みそのに付いてるB4は、猫が怖いのか他の個体より顔が猫っぽい、腰のきんちゃく袋に入って顔だけ出して緊張した顔でおとなしくしていた。
組み合わせは、B1がユイナ、B2がアイーダ、B3は一番懐いてるみゆき、B4がみその、B5がバース、B6がコイル、B7がハンス、ユーゴに付いてるB8だけがお気軽そうにユーゴの頭の上でくつろいでいた。
「じゃ、後は打合せ通り、救出対象は大型船の船長の情報だと12名だ、全員救い出すぞ」とユーゴが気合を入れる、
だが「おー」っと掛け声で答えたのはみゆきだけだった。
みゆきは顔を真っ赤にしていたが、他の者も気合は入っていた。




