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神託の転移者  作者: 百矢 一彦
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鬼の仮面


 ユーゴは、血走った眼をしたアイーダを見て、これはまずい、この子を落ち着かせる為にも、まずは情報を得ないと、

そう思い、トイレだと言って一人席を外すと、メルマに命じて蝙蝠達を放った。

とにかくさらわれた人達の船の中の位置さえわかればなんとかなる、そう思っていた。


「明日、情報を得てからまた話し合おう」そう言ってその日は一旦解散した。


だが、その夜、蝙蝠達の報告を聞いてユーゴはかなり焦っていた。

船員たちの話では、すでに二日前の深夜、さらわれた人達は他の小型の船に移され何処かに移動した後だったのだ、


スパンク王国の大型船は、魔界の半島を大回りして帰国する予定だ、しかもスパンク王国は奴隷や人身売買を禁止している。

その前にここで奴隷を別の船に移し、大型船より早く着ける運河を利用して西側に送るつもりらしかった。

そしてその船には、教会の宣教師も同行するという。

どうやら、宣教師と奴隷商人はグルだった様子だ。

大型船の船長も、ごり押しする商人や宣教師を抑えられず、ここで降ろす事を条件にいやいや奴隷を運ぶ事を承諾したらしいのだ。


「あの連中が下船してくれて、すっきりしたな、これで帰りは気疲れせずに済む」

「しかし、商人どもの勢力が強く、やむを得ずとはいえ、奴隷を連れてきてしまって大丈夫でしょうか、もうかの国との交渉は無理かと思いますが」

「どの道、教会の財力を頼っているうちはどうにもならんさ、これで我が国も協会と縁を切る決心がつくといいがな、東の国と交易を望むなら、西側でもっと力を付けねばな、奴隷制度を辞めさせるにも、今はそちらの方が大切という事だろう」

「あの子たちには気の毒な事をしました、せめて乱暴な扱いを受けて無ければいいのですが」

「本国には、鳥を使って密書を送っておいた、陸軍の特殊部隊がどうにかしてくれるだろう」


船長と副船長のそんなやり取りを、ネズミに化けたユーゴの蝙蝠が聞いていた。

ふん、何を他人事の様に、この船長、結局は人任せじゃないか、ユーゴはこの船長にも責任を負わさなければと憤慨していた。

さて、これをどういう風にアイーダに伝えようか、ユーゴは気が重かった。


次の日の朝、全員に集まってもらってユーゴは状況を説明した。

心配したアイーダは、目を沸々とさせ、必死に怒りを抑えていた、まだ、大きな声でが喚いてた方が増しに見える。

「という事で、俺はこれから、船長と副船長を連行してくる、直接聞いた方が早いからな」とユーゴが言うと、

「私も行きます」とみそのが言い、「私も行くわよ」とアイーダも続いた。

「いや、それは俺一人で大丈夫だ、それより女性陣にはやってもらいたい事がある」と宥めるようにユーゴは言った。



 大型船の船長室で副船長と歓談していた船長は、自分の視界が急に低くなった事に驚いた、目の前に一匹のカエルがいる、

自分の手を見ると、自分もカエルの手になっていた、

いったいどうなっているんだ、と叫んだつもりだったが、「グア、グア」とカエルの声しか出せない。

さらに、大きな蝙蝠が自分を襲って来る、逃げる間もなく、蝙蝠に背中を掴まれ宙に浮いているのが判った。

何が起こっているのか理解も出来ないままいると、やがて周りが光で包まれる、そこで一旦記憶が途絶えた。


 鼻を突く強烈な匂いで船長は目が覚めた、暗く広い部屋に椅子に縛られ座らされている、

ポッ、と青白いかがり火が付いた、隣には同じように椅子に縛られた副船長がいた。

「ここは何処だ、誰かいるのか」船長は冷や汗を掻きながら怒鳴る、すると人影が三つ現れた。

魔族?、いや魔族では無さそうだが、鬼のような恐ろしい仮面を被った、全員黒髪の女達だった、服装は東の国に行った時に見た服に似ている。

なんと、東の国の追手が来たというのか?あんな離れた所からどうやって?

船長は恐怖で声も出なかった、となりの副船長も同様に震え、歯を鳴らしている。


「よくも、わが同胞を拉致してくれたな、こうなった以上覚悟は出来ていような」地の底から聞こえるような声だった、

「ま、待ってくれ、私達は止めたんだ、だが奴らは武器と権力をかさに言う事を聞いてくれなかった」と震えながら言った、

「止めようとした?、本気で止めようとしたなら、無傷でいられるはずがなかろう、世迷言を言うな」

「わ、悪かった、だが奴らは武器も魔力も我々より上、止められなかったんだ、本当だ許してくれ」必死に言い訳をする。

「ふん、奴らとはいったい誰の事だ、そいつらは今どこにいる」

「ガスティー商会だ、あいつらは教会の依頼で邪教の人達から奴隷を連れてくることを請け負っていた、私達は知らなかったんだ」

「知らなかった?自分たちの船に乗せて置いて、知らなかったで通るとでも思っているのか」

「悪かった、教会が良からぬ事を企んでいるのは知っていた、だが、無理やり奴隷を拉致するとは本当に思っていなかったんだ」

「都合のいい事を、教会の援助で船を出し、東の国の民を奴隷として拉致した事に加担しておいて、その言い草はあきれ果てる、奴らは今どこにいる」

「そ、それは判らない、小舟で一旦陸に移動した後、運河用の運搬船でファントラス王国に向かうと聞いている」

「ガスティー商会の本拠地は何処だ?」

「ガスティー商会は西の国のそれぞれに支部を持っている、本拠地はバルデン王国だと聞いている」

船長は、自分でも不思議なくらい知っている事をすべて話していた。


「本国に彼女達の救出要請は出している、公に動けない時の秘密部隊だ、隊長の名はガナディ大佐、本当だ、彼らなら何とかしてくれるはずだ」

聞かれもしない事まで喋っていた、これは国家機密の情報だった。

船長はこの後、意識が朦朧とする中、角の生えた魔物に追い掛けられる夢を見た、

「二度とこんな事はしない、あいつらとは二度と協力しない、助けてくれええ」と叫んだ所で目が覚めた。

そこは、元居た船長室だった、同じように副船長も頭を振りながら目を覚ます。

悪い夢でも見ていたのだろうか、と自分の手を見ると、手首にしっかりと縛られた跡があった。



「みゆきちゃん、見事な幻夢魔法だったな」とバースがみゆきを褒める、

「バーバラさん直伝ですから」とみゆきが得意げに答えていた。

アイーダとみそのも、面をとりながら笑っていた、アイーダの手には黒髪のウイッグが握られていた。



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