深読みのくノ一
飛行艇でこのままイスタンに行こうと主張するアイーダに、飛行艇は目立ちすぎる、なるべく目立たないように動いた方がいい、とユーゴは説得し、ヒルフォーマー商会の敷地に内緒で張っておいた魔法陣を利用して移動する事にした。
スクルトも一緒に行く事になって、ユーゴは自分の秘密がなし崩し的にバレていくのが少し気になったが、この際仕方が無いと飛行艇のメンバーとスクルトと共にヒルフォーマー商会の裏庭に書いておいた魔法陣に移動した。
「このような魔法、いや驚きました」とスクルトが魔法陣の移動で感激してる様子を見て、
「内密に願いますよ」とユーゴが半分無駄と思いつつ言うと、
「心得ました、このような貴重な体験をさせて頂いたのです、他言はいたしません」と案外真剣に答えてくれた。
その時、シュッ、シュッ、と何かがユーゴ達に向かって飛んで来た、
カキン、と金属音を立ててハンスとコイルがみゆきとアイーダを庇うようにそれを打ち落とす、地面には手裏剣が数枚落ちていた。
「何者だ」ハンスが鋭い声で言う、するとスクルトが手でハンスを制して、
「私です、スクルトです、みその殿、皆を紹介しますので出てきてください」と言った。
すると、スッと女忍者が姿を現した、スクルトとハンス、それにユーゴ以外の者はビックリした表情で女忍者を見た。
実は、手裏剣が飛んで来たとき、ユーゴを狙う手裏剣も飛んできていた、
ハンスとコイルは、自分と女性陣を守るのが精一杯だったのか、ユーゴは大丈夫と判断したのかは判らないが、その手裏剣は打ち漏らしていた。
元は普通のサラリーマンで、身体能力向上魔法も、動体視力魔法も掛けていなかったユーゴは、全く反応できていなかった。
その手裏剣を打ち落としたのはメルマだった、メルマがいなければユーゴは今頃、死んでいるかかなりの深手を負っていたことになる。
ユーゴは内心、滅茶苦茶肝を冷やしていた、死ぬほどビックリしていたのだ、だが、それを必死に悟られないようにしていた。
女忍者が表れた後も、表情を動かさないように必死だった。
ちなみにバースは、自分の手甲でほとんど動かず打ち払っていた。
みそのは、商会が用意した自室にいる時に、突然裏庭で複数の人の気配を感じた、
数日前から、大型船に探りを入れていたみそのは、それに感づいた敵の襲撃かもしれないと隠密の術(魔法)を掛けると裏庭に急いだ、
そこには、戦闘服を身にまとった男女が数人立っていた。
忍びであるみそのは、この人数がここに至るまで気が付かなかった事に驚くとともに、相手は相当の手練れと警戒した、
人数的に後手を取れば殺られる、今なら油断している、そう判断したみそのは迷うことなく手裏剣を放った。
だが、それはことごとく打ち払われた、やはり手練れの集団のようだ。
中でも、一切動きもせず魔法を使った痕跡も無く、みそのの目にもどうやって手裏剣を打ち払ったのか判らない男がいた、
その男は無表情な顔で立っている。
みそのはその底知れなさに驚愕していた。
そこに、スクルトの声がした、そしてグランが言っていた男の事を思い出していた。
「みその殿、貴方に知らせずにここに突然戻ったのは私のミス、申し訳ない、ですが警戒は無用です」スクルトが少し緊張気味に言っている、まだ、本当の信頼関係は築いていないようだった。
「いや、わたしこそ、スクルト殿が同伴している事に気が付かず、軽はずみな事をしてしまった」とみそのは表面上謝った。
だが、みそのはスクルトが敵の患者である可能性も想定していた、スクルトが同伴していた事は判っていた。
スクルトがユーゴ達を紹介する、みそのは緊張を解かずに聞いていた、
「こちらはみその殿、はるか東の国ヤマタラから派遣された忍びの方です、この事件の前からここにいらしたのですが、仕事の性質上、先日はご紹介いたしませんでした、その辺りはご容赦いただきたいと存じます」と今度はユーゴ達にみそのを紹介する、
手裏剣でいきなり襲われた面々は、やはり緊張したままだ。
そんな中、ユーゴは、まだ手裏剣のショックを押し隠すのに必死のままだった、無表情でみそのを見る。
みそのはゾクっと寒気を感じた、ユーゴが何を考えているのか全く読めなかったからだ。
全員で応接室に移動する、知らせを聞いてグランもすぐにやって来ていた。
グランとユーゴ、それにみゆきとアイーダがテーブルに着き、残りは壁際で立ったままグランの話を聞いた。
「奴隷を連れてるだけでは罪に問えないというのはどういう事、そんな奴らは見つけ次第消し炭にすればいいんだわ」
とアイーダは、相変わらず冷静さとは程遠い状態で喚いている。
「アイーダちゃん、船に居るのはきっと下っ端だけよ、黒幕を突き止めなくっちゃ」と静かに闘志を燃やしてるのはみゆきだった。
グランはそんな二人をなだめるように、
「今回は、囚われている東の国の人達の救出を最優先にお願いします」と言う、二人は少し不満げな顔をしたが救出優先に関しては異論は無かった。
「みその殿、船の様子はどうかね、何か分かったかな」とグランはみそのに聞く、
「船は沖合にありますゆえ、わたしの使役獣ではなかなか探れず、まだ、さらわれた者たちの船の中の居場所はわかっておりませぬ」と口惜しそうに答えた。
「やはりユーゴ殿に頼るしかありませんな、どうですかな」とグランがユーゴに話を振った。
全員が注目する中、ユーゴは口元を右手でさすりながら、
「はい、そうですね」と上の空で返事をしていた。
この時ユーゴは、魔法陣で移動するときは、あらかじめ身体能力向上と、動体視力向上の魔法は掛けるのを忘れないようにしないとまずいな、少しこっちの世界に慣れてきて、全く油断していた、反省しないとと、
まったく関係ない事を真面目に考えていた。
「ユーーゴ!」アイーダの怒りのこもった呼びかけに、やっと我に戻ったユーゴは、
「大丈夫、大丈夫、明日までに探っておくから」と笑ってごまかしながら答えた。
その様子を見て、みそのは、やはりこの男ただ者では無い、この余裕、そして話を聞いてる間のあの態度、恐らく先の先まで考えていたのだろう、そう思っていた。




