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神託の転移者  作者: 百矢 一彦
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とんぼ返り


ユーゴは、黒龍、赤龍と共に、白竜サラヴィに報告に来ていた、

「守備は?」とサラヴィが聞くと、

「はい、こちらの思惑通り事が運びました、しばらくは大丈夫かと思われます」と黒龍が報告する。

「それは上々、ご苦労さました、ユーゴ殿にも改めて礼を申し上げます」とユーゴの方にサラヴィが顔を向けた、

「はい、なんとかなりました、それでは私はこれで失礼します」とユーゴが言うと、

「ここに、移動用の魔法陣を描いて行きなさい、時々お茶を飲みに来てくれると嬉しいわ」とサラヴィが微笑みながら言う、

「え、ここにですか?」とユーゴが意外そうに言うと、

「ゲブスとも話したのだけれど、そろそろ外の世界にも注意を払わないといけない時期に来ているようだわ、とりあえずあなたの動向は抑えておきたいのです、時々お話しに来てくださいな」と笑っている。

ユーゴは、その可愛いらしい笑顔の意味を計りかねていたが、両隣に立つ黒龍と赤龍を見て、親しくして損は無いか、てえか断るの怖い、と思い、

「わかりました、ではあの辺りに」と言って端の方に魔法陣を描いた。


「それと、あの巫女はあなたに預けます、よろしく面倒を見てやって頂戴」とサラヴィが付け加える、

「預ける?」どういう意味なのかユーゴがよく判らないでいると

「外の世界を見せろ、と言ったのはあなたでしょ、実力は巫女の中でも随一だけれど、責任を持って守って下さい」と言ったあと、

「そうそう、ゲブスの伝言で、港で少し騒ぎがあったようです、急ぎ帰った方がいい、との事でしたよ」と白竜が思い出したように言う、

ユーゴはユイナについて突っ込みたかったが、急ぎと聞いて諦めた。

「港で?何があったのだろう、分かりました、急いで帰るとします」と言ってユーゴは頭を下げ部屋を出た。



イスタンの港には、東に向かったスパンク王国の巨大船が、予定よりかなり早く舞い戻っていた。

ヒルフォーマー商会の会頭室でグランは一通の手紙を読み終えて

「早く帰ってくるのは想定していたが、こんな厄介ごとを持ち帰って来るとは、困ったもんだ」と呟いた。

グランの机の向こうに、黒い全身タイツに忍び装束を着た女が立っていた、背中には普通の刀より短い忍者刀を差している。

黒髪を後ろに束ね、女性の割に太い眉がその精悍さを際立たせていた。

「グラン様、親方様は何と言って来たのですか?」とその女が聞く、


スパンク王国の巨大船は、無事、東のヤマタラという国にたどり着いたが、その国には侍の血を引く魔力の高い者が多く、魔石銃にさほど興味もしめさず、独自の宗教も強固で、宣教師の横暴な態度により、けんもほろろに追い返された。

その帰りに、小さな貧しい島に寄り、憂さ晴らしのようにそこの住民を奴隷として連れ帰ったというのだ。

忍びの里のミミズクが運んできた手紙は、その住民達の救出の要請だった。


そして、忍び装束の女は、グランの元に派遣された、ヤマタラの国にある、忍びの里のくノ一だった。

グランから手紙を渡され、直接自分の目で読むと、

「魔力の弱い民が住む離島を狙うとは、不埒な奴らめ」と眉間に皺を寄せ、悔しそうに呟いた。

その様子を見たグランは、諫めるように

「この港で人身の売買は禁止ししている、だが奴隷を連れているというだけでは罪にはならない、みその殿、行動は慎重にせねばなりません」と言った。

「では、どのように囚われた者達を救われるおつもりか」と、みそのと呼ばれた女は、冷静な口調の中にも苛立ちを隠せない調子で聞く、

「船は私が足止めしましょう、ある人物を待っていただきたい」とグランが言う、

「ある人物?」怪訝な顔でみそのはグランを見る。

「そう、あなたと同じ、黒い髪に黒い瞳の男です、知恵も魔法も一流の男ですよ」とグランは自信ありげにみそのに笑いかけた。



「ヘックション」帰路の飛行艇の中、ユーゴが盛大なくしゃみをする、ユイナは後から来ることになっているので乗っていない。

「ユーゴさん大丈夫ですか、治癒魔法かけときますか」とみゆきが心配そうに声を掛けてきた、

「大丈夫、誰かが噂でもしてるんだろう」ユーゴがそう答えると、

(マスターの身体に状態異常は確認できません)とメルマが報告してきた。

ユーゴは、体の方は大丈夫さけど、嫌な感じがするなあ、と帰路を急いだ。


飛行艇は静かにジェラール研究室の中庭に着陸する。

すでにヒルフォーマー商会のスクルトが待ちかまえていた、飛行艇が見えた時点で駆けつけてきたらしい、

会頭グランが火急の御用があるそうです、お帰りになったばかりで恐れ入りますが、急ぎイスタンまでお越しくださいませんか」と、いつも冷静な口調のスクルトの割には慌てた様子で言って来る。

「なにがあったんです?」とユーゴが聞くと、

「スパンク王国の大型船が、東の国から無断で住民を奴隷として連れて来たらしいのです、会頭の所に救助に依頼がきてまして、積み荷を遅らせ足止めはしてるのですが、なるべく早く救出したいのです」と事の次第を説明する。

すると、ユーゴの後ろから、

「奴隷ですって」とアイーダがもの凄い形相でこちらを見ていた、みゆきも興奮気味にこちらを見ている。


ユーゴは、しまった、この二人の前で聞くべきじゃ無かった、と額に手をあてたものの、もう遅かった、

「奴隷商人なんて根絶やしにしてやるわ、あいつら絶対許さない。今すぐこの飛行艇であの船にのりこみましょう」

一緒の船に乗っていた商人が奴隷商人だったと判ってアイーダは怒り心頭の様子だ、無理もない彼女の両親は奴隷商人達に殺されたのだ。

だが、だからこそユーゴは危うさを感じていた、ここは一度頭を冷やす時間が欲しい。


「まずは、グランさんの所に行って、情報収集だ、救い出す方法はそれから考える、いいなアイーダ」

ユーゴがそう言うと、アイーダはしぶしぶ頷いた。





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