威厳
ユーゴは、あのダンジョン最深部でみた、人工物と思える構造物がずっと気になっていた。
あの構造物が、今のこの世界と何の関係もないとは思えなかったからだ。
「あ、ああ、あれですか、あれはちょっと・・・・」と口を濁す神ゲブス。
「ふーん、隠さなくちゃいけない事なんだ」とユーゴは神ゲブスを半目でみる、
「いやあ、私達も必ずしも意見がすべて一致してるわけではなくてですね、独断で話せる事ではないんですよ、わかって下さい」
そう言えば、さっきサラヴィも、昔天界で意見が別れたみたいな事をいっていたな、その辺が要因なのかな、とユーゴは思った。
「神様と言ってもいろんな考えの神がいる、という事か、益々イメージとかけ離れていくな」と嫌味たっぷりにユーゴが言う、
「まあ、そのうちユーゴさんなら、その秘密も暴いちゃうでしょうけど、今はまだ何も言えないんですよ」と困った顔をするゲブス。
「その代わり、情報を一つお教えしますよ、実は西の諸国に統一神を広めた聖者と呼ばれてた人物なんですが、最近永い眠りから覚めて一人で活動してるみたいですよ」と言って来た、
「ん?それが俺と何の関係があるんだ?」とユーゴは興味なさげに返す。
「え、いや、ユーゴさん、宗教観の違いについて考えてた事があったじゃないですか、それに今回の龍を襲ってる子供達もそっちの子供達ですしね、いずれお役に立つ情報だとおもいますよ」
そう言うゲイルに、胡乱な目を向けて
「ねえ、神様の一柱であられるゲイル様、まさか、宗教問題まで私に何かやらせるつもりじゃありませんよね」と言うと、
「やだなユーゴさん、やらせるなんて人聞きが悪い、ただ単にお役に立ちそうな情報を教えてるだけじゃありませんか」といつものにやけ顔に戻って言った。
そんなユーゴとゲブスのやり取りに不安を持ったのか、サラヴィが、まあ待って、と手を差し出して、
「今回の件は、私からのお願いよ、なんとかお願いするわ、西の子供が何を信仰しようと構わないけれど、できればこちらにちょっかい出さないようにしてくれると助かるわ。そうね、報酬は何がいいかしら、あなたの役に立ちそうなものは生憎もっていないのだけれど」
そう言って、ちょっと考えて
「このネックレスをあなたの仲間の、あの魔力の弱い子にあげるといいわ、これを付けてれば魔力の量が上がるわよ、あの子も自分に魔力が付けば、物騒な道具を考えなくなるかもしれないわ」
それはどうかなあ、とユーゴは思いながらそのネックレスを受け取る、カークにも欲しいのでもう一個おねだりすると、
「あら、案外図々しいのね」と言いながらももう一つ同じ効果のある指輪をくれた。
「それと、もう一つ」とユーゴが付け加える、
「あら、まだあるの?」とサラヴィは興味深げにユーゴを見る、
「この世界はこれから大きな変化をする兆しがあリます、この谷の人達に積極的に外の様子を見るように言ってくれませんか」とユーゴが言うと、
サラヴィは少し考えて
「それは、あの巫女をお供に付けたいという事かしら」といたずらっぽい表情でユーゴに言った。
「な、そうじゃないそうじゃない、俺は、ただここに閉じこもってるだけだと取り残されてしまうと思って」と慌てて反論した、
「冗談よ、フフ、そうね、そういう時期に来てしまったのかも知れないわね、わかったわ」
サラヴィはそう言って、少し寂しそうな顔をした。
「では、話は決まりましたね、よろしくお願いします、ユーゴさん」と神ゲブスが閉めようとすると、
「お待ちください、そこ成るユーゴ殿はいかように決着なさるつもりなのか、ぜひお聞かせいただきたい」
そう言って来たのは奥に控えていた黒龍だった。
うわあ、この龍たち怖いなあ、どう答えれば納得するだろう、とユーゴは考えて、
「一緒に来ます?」と答えていた。
結局、彼女たちが納得するような答えは持っていなかったからだ、なんとか彼女たちが留飲を下げる場面を作らないと、とユーゴは思案していた。
ユーゴが黒龍と赤龍を伴って滝の洞窟から出た、後ろの二人が気になって顔は緊張して強張っていた、
そんなユーゴを見て、外で控えていた龍人達は、思わず、男は片膝をつき頭を下げ、女は両ひざをついて手を胸の前で組んでいた。
ユーゴは後ろの龍達のせいだろうと思い、尚更固い表情で、
「作戦会議を開きたい、場所を用意して頂けないでしょうか」と頭を下げてる龍人達に言った。
すると、先ほどの長老が、頭を下げたまま
「かしこまってございます、ユーゴ様こちらへどうぞ」とやけにうやうやしく言って来た。
この時、サラヴィから預かったネックレスと指輪がユーゴの魔力と呼応して、もの凄いオーラを出していた。
ユイナは、ユーゴの姿を見て、やはりこの方は神の使いに違いないと以前感じていた緊張を思い出していた。
会議には、先ほど長老たちと謁見した部屋が当てられた、席に着く前に小声で
「ユーゴさん、魔力を抑えた方がいいですよ、もの凄いことになってます」とみゆきが言って来る。
えっ?と不思議に思ったユーゴは、これのせいかとネックレスと指輪を無限ポシェットにしまい、ようやくユーゴを包んでいたオーラが収まった。
それと同時に周りの緊張が解けたのを感じる、なるほど、威厳か、とユーゴはさっきのサラヴィの話を思い出していた。
全員が揃った所で、ユーゴが自分の考えを伝えた。
目立った反論も無く、二人の龍も承諾した、強いて言えばバース達蝙蝠の羽の三人が自分たちの役割の地味さに不満げではあったが、ユーゴが、今回は龍が主役だから、と宥めて納得したようだ。
「では、決行は明日」とユーゴの声で会議は終わった。




