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神託の転移者  作者: 百矢 一彦
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白龍の谷


 「この村は、ずっとずっと昔から、白竜様のいらっしゃる谷のおかげで成り立っておりますじゃ、谷の竜人様達にかわってここの村の者が必要な物を買い付け、谷の鉱物や竜人様達が作った武具や装飾品を売る、そうやって暮らしてきたのですじゃ」

そうキンア老人がユーゴに説明する。

 もちろんこの村でも、作物も作るし狩りもする、だが山間部のこの土地ではそれだけでは立ち行かない、谷の龍人と他の人々との仲介人のような事をして、生計を保っているという事らしい。

そのおかげで、龍人たちは谷の特殊性と威厳を保てる、もう、どの位前からそうして来たか判らないくらい昔からそうやって暮らしてきたのだという。


 ユーゴは、自分の常識では計り知れないこの世界の一旦を感じた、そして、明日向かう白竜の谷と言う場所が、この世界でいかに尊とまれて来たのか、肌身に感じていた。



 翌日、村の住人達に見送られながら、ユーゴ達は白竜の谷に向かって出発した。

ここからは、細い山道が続き徒歩でしか入れない、ユイナを先頭に一列になって進んだ。

澄んだ空気が薄くなっていくのを感じながら、もくもくと進む、時折立ち止まってみる景色は、まるで墨絵の世界に入り込んだようだった。

静寂の中、天空に龍の飛ぶ姿が見える、どうやらアダンテが様子を見に来たらしい。

ユイナはアダンテに手を振ると、

「龍に乗れば簡単に谷まで行けるのですが、来訪者の方にはここを徒歩で登って頂くのが決まりでして、もう少しですから頑張って下さい」と皆に向かって言った。

「なに、この程度、大丈夫ですよ」と答えたユーゴは、最初から体力強化魔法を使っていた、

「魔法で体力高めておいて、言うセリフじゃ無いわね」とアイーダが憎まれ口をたたくが、こちらもみゆきの回復魔法の世話になっている。

二人が言い争いをしながら歩いていると、尾根のカーブを曲がった所で大きな門が見えてきた、幅はともかく高さが尋常では無かった。

近づくにしたがい、その大きさが増して行く、どうやってこんな所にこんな門を作ったのだろう、魔法を使ったとしてもどんな風に作ったのか判らない程の大きな門だった。、木造だが、この辺りは標高が高くこんな大木は無い、どこからか運んだのだろうが、その運び方も謎だ。


 門の前に二人の男が立っている。ユイナが近づいて何か一言二言話をすると、男たちはこちらを見て会釈をし、

「開門」と大きな声で言う。

すると、大きな門がゆっくりと開いて行った。


門を通って見えてきた景色は、信じられない程雄大な物だった。

尾根沿いにいくつもの道があり、斜面に穴を掘り、その前に屋根付きの家をくっつけたような建物がいくつも並んでいる。

谷の下の方に川が流れていて、その先、最上流には落差がどれほどあるのか、見た事も無い大きな滝があった。

空には何匹かの龍が飛び交い、その中の一匹がこちらに近づいて、クォーっと鳴く、アダンテだ。

一行はあまりの雄大な景色に声も上げずに、ただただ見入っていた。


「父が出迎えに出ているはずです、さあ参りましょう」とのユイナの声に、我を取り戻し歩きはじめる。

しばらく行くと、数人の男女が立っていた。

ユーゴには皆同じような顔に見え、歳も若く見えた。


「ユイナがお世話になりました、父親のシン・ラ・カンドです」と手を差し伸べて来る男はどう見ても30前後にしか見えない、

「え?、お父さん?、・・あ、ユーゴです、どうも」慌てて挨拶するユーゴ、

そんなユーゴを見て、笑いながら龍人は長寿で常人の倍近く生きるため、30前後で一時老化が止まったように見えると説明してくれた、実際の歳は48歳とも教えてくれた。

母親は、どう見てもお姉さんにしか見えない、しかもユイナとそっくりだった。

「ユイナの母、サリナです。よくお越しくださいました」と挨拶されたときは、ユーゴは少年の様に緊張していた。


まあ、考えてみれば、ユーゴ本人も実際は38歳だが、見た目は24歳ぐらいだ、やはり魔力の関係かなと考えていた。

アイーダは一人、そんな会話をジト目で見ていた。

ああ、こいつは魔力少ないから普通に歳とるのか、そのうち見た目はユイナを追い越す訳だな、とユーゴはちょっと気の毒だなと思いながらも、笑いを必死でこらえていた。


「急かせるようで申し訳ないが、早速長老がたに会っていただきたい、案内します」と言われ後をついて行く。

最奥の大きな滝の100メートル程手前に、他の建物より立派な入り口の建物がった、重々しい扉を開けて中に入る、木造で建てられてる部分はそれほどの大きさではないが、その奥に岩を掘って作られたと思われるスペースがあり、かなりの広さだ。

「お供の方はここでお待ちを」と言われ、ユーゴだけが奥の部屋に通された。


奥の部屋に入ると、円卓に5人の老人が座っていた、長老と呼ばれるその人達は、普通に老人の顔をしている。という事は長寿の種族という事を考えれば、皆100歳は優に超えた年齢なのだろう、それぞれ威厳のある顔をしていた。

「よくぞいらした、白竜の谷を代表して礼を言います」そう言ってきたのは豊かなひげを蓄えた、中でも一番年嵩に見える老人だ。

「どうもユーゴと申します、白竜様のご使命と聞き、はせ参じました」とこんな感じでいいのかな、とユーゴは時代劇風に挨拶した。

「ユーゴ殿、わしも長い事白竜様に仕えて参ったが、白竜様が個人の名をお告げなさったのはこれが初めてでしてな、我らも驚き戸惑っているというのが逸わざる所なのです」と髭をなでながら言って来る。

「私も、なぜ白竜様がわざわざ名指しでお呼びなのか、見当がつきません、お役に立てればいいのですが」と保険の意味も込めてユーゴが謙虚に返事をする。

「いやいや、直接ユーゴ殿を見て、合点が行きました、あなたの魔力の色は他の者とは違っております、無属性、全ての属性の魔法を使えるという稀有なお方とお見受けする。どうか龍の為、龍人の為、そのお力をお貸し願いたい」と頭を下げてくる、同時にそこにいる老人たち全員が頭を下げた。

「ユーゴ殿、直接白竜様がお声を掛けるとおおせです、これも異例な事、白竜の間まで案内させますゆえ、白竜様に直接お会いくださいませ」


長老の言葉に、ユーゴは今更ながら、もの凄いプレッシャーを感じていた、自分はとんでもない事を引き受けてしまったのかも知れない、そう思っていた。



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