二人の主張
「ユーゴ、こんな女と知り合いなの」
「ユーゴ殿、このような者と知り合いなのですか」
二人同時にユーゴに言って来る。
まあまあと二人の前に両手を出して、「みゆきちゃん、お茶三つちょーだい」とユーゴが言うのと同時に、お茶を四つお盆に乗せてみゆきがテーブルまで来た。
それぞれにお茶をくばると、最後の一つをユーゴの向かいの席に置き、そこにみゆきが座った。
ユイナとみゆきは親しく話したわけでは無いが、お互い見知っていた、みゆきはユイナのその華麗な姿と高貴な仕草に憧れていたし、ユイナの方もみゆきが侍の血を引く女性と思い、実際はともあれ奥ゆかしい仕草に好感を持っていた。
「ユイナさん、この子はアイーダと言って魔道具を作るのを得意としているスパンク王国出身の子で、変な悪だくみをするような子じゃありませんよ。アイーダ、こちらは龍の山脈に住む龍人のユイナさん、高潔な人だ」
とそれぞれ紹介する。
「ユーゴ殿、あなたは騙されているのです、この娘が持っている魔石銃とやらは、世の中の秩序を乱す悪魔の魔道具、今、龍の山脈ではこの銃のせいで大変な事が起っているのです」と興奮冷めやらぬ様子でユイナが言う、
「な、何を言っているの、この魔力馬鹿の女は、龍の山脈で何があったか知らないけど、私は関係ないじゃないの」とアイーダはむくれ顔で言う。
うーん、この二人が会ったとして、この逆ならあり得ると思っていたが、ユイナさんがここまで拒否反応を示すとは思っていなかったな、いったい龍の山脈でなにがあったというのか、そうユーゴが思っていると、
「ユイナさん、アイーダちゃんの事は一旦脇に置いといて、龍の山脈で何が起こってるのか聞かせて下さい、それにその事でユーゴさんに会いに来たのでしょう?」とみゆきが落ち着いた口調でユイナに言った。
みゆきのその声に、ユイナは、ハッと我に戻ったように姿勢を正し、龍の山脈での出来事を語り始めた。
この世界の龍は、知能が高く長寿で、人間よりはるかに思慮深かった。
龍は古来から人間からの挑戦を受け入れてきた。龍がその人間の力を認めれば龍の力の一部をその人間に授け、もし龍が敗れるような事があれば、その力のすべてを授けた。
過去には数人、龍に勝ったとされる英雄の記録が残っている。
それは、一対一の果し合いの形式で行われ、人間も己の力のすべてを出し切って挑戦する神聖な戦いだった。
そんな龍の鱗や牙は、人間たちにとって、とても貴重で憧れの的でもあった。
だが最近、そんな神聖な戦い方を無視し、数十人規模で龍を狩ろうとする一団が表れた。
普通ならそんな輩が数十人、何百人集まろうと、龍を討ち果たす事など出来ないはずだったのだが、
その集団は、多数の魔石砲や魔石銃を備え、銛や鎖を放ち、龍の自由を奪って距離を取って攻撃するという、今までにない方法を取ったのだ。
ユイナにしてみれば、魔石砲や魔石銃が無ければ、そんな馬鹿な事を考える人間もいなかったはずだ、と思っている。
アイーダに対する態度も、そんな思いから来た事だった。
「すでに三体の若い龍が奴らに殺されてしまいました、いきり立った龍の中には人間を滅ぼすべきだとおっしゃる者もいるとか」
ユーナは深刻な顔でユーゴを見る、
「もしそんな事になれば、大変な事になります、人間は古龍の力をよく判っていない、あの方達は神にも並ぶ力をお持ちなのです」
そう言って、今度はアイーダの顔を見やった。
「そんな事に魔石砲を使うなんて、そんな事の為にこれを考えたんじゃない」アイーダがそう呟く、
「なんですって、貴方がこれを考えたですって」ユイナは驚いた顔ををした後、眉を顰め、
「なんて愚かな、こんな物を作れば不埒者が利用するのは目に見えてたでしょうに」と吐き捨てた。
「何を言ってるの、魔力の少ない者にとって、身を守るためには必要な物よ、あなたような魔力馬鹿には判らないでしょうけどね」
今度はアイーダが反論する、続けて
「だいたい、魔石銃より恐ろしい魔法を使う奴は一杯いるわ、そんな奴らにどう対抗すればいいのよ」とユイナを睨み返すアイーダ。
「いいこと、魔法を身につけるには、大変な修行と知識が必要なのよ、何の努力も志もなく力を身に着けられる悪魔の魔道具と一緒にしないでちょうだい」と語気を荒げるユイナ。
それを聞いたアイーダは立ち上がり、
「その修行と知識とやらで身に着けた魔法の持ち主に、私の両親は殺されたのよ」と目を真っ赤にしてユイナを睨みつけた。
流石にこれには言葉を詰まらせるユイナ、少し落ち着いた口調で、
「ごめんなさい、知らなかったわ、そんなひどい目に合っていたなんて、でも判って欲しい、魔石銃はあまりにも簡単に力を手に入れられすぎる、悪い事に使う気になれば、それこそ誰でもできてしまうわ」それでも自分の意志は変えずにそう言った。
しばし沈黙が続く、
なんの修行もせずに、ドイルの元で逆に魔力を抑える練習をしたユーゴにとって、ちょっと耳の痛い二人の応酬だった。
どちらにも一理あるが、確かに魔石銃のような危険な武器になんの規制も付けないのは問題かな、そう思っていると、
「話は聞かせてもらいました、いいですか、確かに魔石銃や魔石砲が野放しなのは問題でしょう、でも現状で一番の問題は、その魔石砲を悪用し知性のある龍さん達を襲っている人間たちです、そいつらをとっちめてやる事が今の一番の優先順位ですよ」
そう言って目をランランとさせ立ち上がったのはみゆきだった。
「そうですよね、ユーゴさん」とユーゴを見た後、
「その為にユーゴさんに会いに来たのでしょ、ユイナさん」とユイナに確かめる。
あう、こうなった時のみゆきちゃんは厄介なんだよなあ、ユーゴは視点の定まらない顔でお茶を飲んでいた。




