超深層
五階層で、昼食の為の休憩を取った、寝床の場所も確保しておいた、
この先、行けるところまで行って、魔法陣を使ってここまで戻って就寝する予定だ。
今回は三十階層より下、まだその正体もよく判っていない魔物の探索である、ある程度の長丁場も覚悟している、
魔法陣の出し惜しみをしてる余裕は無かった。
行きの行程で魔法陣を使わなかったのは、アイーダとみゆきにダンジョンをよく理解してもらう為と、戦闘訓練もかねての事だった。
ところが、魔法銃の思わぬ威力に、こちらが魔法銃との連携方法を考えねばならない事態となった。
みゆきが準備している昼食が出来るまでの間、それまで誰もあまり興味を示さなかった魔法銃の話題で持ちきりとなった、
氷結魔法の他にどんな種類の弾薬があるのか、銃の種類、射程距離、興味は尽きない、
特にハンスはぶっきらぼうな口調で、アイーダに熱心に質問していた、アイーダも悪い気がしないらしく丁寧に答えている。
射程距離の長いライフル型の銃を貸してもらって、自分で構えてみたりしている。
ハンスの戦い方は超接近型だ、なにか思う所があるのかも知れない。
とりあえず今回は、アイーダはみゆきが魔法で作る防御壁の中から、前線で戦う男たちの援護射撃に徹するように決めた。
間違っても前に飛び出してこないように、とユーゴは念を押しておいた、アイーダは案外素直に「わかったわ」と答えた。
みゆきが作った昼食は、簡単なピラフだったが、スープも付いてダンジョンの中の食事とは思えない程美味だった。
いつもは、乾燥肉と固いパンで済ましてる男連中は、スープの鍋をあっという間に空にしてしまった。
「いやあ、噂には聴いていたが本当にみゆき嬢の作る飯は上手いな、こりゃ夕飯も楽しみだ」とバースとコイルはすでに次の食事の話をしている。
ユーゴは思いの外早く、みゆきとアイーダが親父たちとなじんでいる事に驚いていた、
メルマまで、みゆきとアイーダの質問攻めに答えてる姿が楽しそうに見える。
まあ、いい事なんだろうと思いながら、メルマに、この先のマッピングの状況の確認をした。
(二十階層までマッピングは済んでいます、その先は最短通路を優先して調査する予定です)とメルマが答える、
じゃ出発するかと立ち上がった。
その日は十二階層まで進んで、五階層に戻ってキャンプとなった。
それまで順調に来ていた一行は、暗く虫型の魔物の多い階層に入ると進行速度が急激に鈍った、
「なんなのあの魔物は、ムカデよムカデ、信じられないわ」とみゆきが青い顔してるかと思うと、その脇で
「塩を撒けるバズーカ開発しなきゃ、ナメクジなんて耐えられない」とアイーダが死んだ目でブツブツ言っていた。
そんな様子の二人に、
「ガハハハ、二十階層超えると、又、様相が変わってくる、明日はなるべく早く虫の領域を越えよう」そう言ってバースが慰めていた。
そのバースの言葉を聞いて、ユーゴが、
「バースは何階層迄行った事があるんだ?」と聞いた。
するとバースが
「随分前だが、ギルド総がかりで超深層の調査をしたことがある、その時、三十階層の吹き抜けまで行ったのが一番の記録だ」と答えた。
「吹き抜け?なんだそれは」と初めて聞くダンジョンの言葉にユーゴが驚いていると、
「三十階層の真ん中に、でかい縦穴が空いているんだ、何階層ぶち抜いているのかは判らないが、かなり深くまで空いている、その縦穴の上に、大きな光る水晶のような物があってな、二十階層を過ぎると今までとは逆に段々明るくなっていく」とバースは説明した。
「フーン、なんか俺達凄い所を目指してるんだな」と他人事のようにユーゴが言うと、
「そうよ、見た事もねえ魔獣がうようよ、それもその縦穴付近を縦横無尽に飛び回ってるって話だ、おまえの移動魔法陣が無けりゃ、俺達だってこの人数で行こうなんて思わねえよ」と脇からコイルが言って来た。
メルマ、何処まで把握してる?、とユーゴが聞くと、
(ギルドの図書室にあった文献に、縦穴と光る水晶の事を書いた物がありましたが、大雑把すぎてデータとして役に立ちません)
と言って来た。
バースもその縦穴が何処まで深いか判らない、と言ってるしなあ、蝙蝠達に二匹ずつ交代で先行して探るように頼んでくれ、少なくとも目的の、浮いてる様に見えるタコ、が、どの辺に居るのか知りたい。
まあ、まだそこにたどり着くには時間がかかりそうだ、慎重に探るように言ってくれ。
(了承)メルマがそう答えるとユーゴは一旦最深部の魔法陣まで移動して、二匹の蝙蝠を見送って、また戻って来た。
次の日、虫たちにいくらか免疫が出来たのか、女性陣二人も、幾分やけ気味に魔獣と戦い、無事二十階層にたどり着いた、
アイーダの体力を心配していたが、みゆきの回復魔法のおかげで何の問題も無かった。
バースが言った通り、二十階層は今までの階層より、少し明るくなったように感じる。
出てくる魔獣も、虫類に混じり、爬虫類が増えてきた、形は地上と全く違うが哺乳類っぽい物も混じるようになった。
二十一階層、二十二階層、と進むうち、ユーゴは違和感を感じるようになった、
上層の階層より、より人工物のような作りになってるように思えたからだ。
そして、その次の日、一行はついに三十階層にたどり着いた。
そこで見たものは、ユーゴの違和感を確信に変える物だった、
「これは、人工物だ」ユーゴはそう呟いて、周りを見る。
朽ち果てて、元の材質や正確な形は判らない、でも、確かに何者かによって意図的に作られた空間だというのは判った。




