アイーダの依頼
「突然、何を言い出すんだ、ダンジョンがどんな場所か判ってるのか?」
くれない屋のテーブルに座らせ、一応話を聞こうとユーゴはそう聞いた。
「判っているから、いやいやあんたに頼んでるんでしょう、ほんとなら私だけで行きたかったのよ」
相変わらずの可愛げのないアイーダの物言いに、ため息をついてから、
「どうして、突然ダンジョンに行きたがるんだ、魔石なら俺たちだけで捕って来てやる」そう言うと、
「飛行船の模型のテストに使う風の魔石が欲しいのよ、直接この手で確かめて持ってきたいわ、それに」
そこまで言って、腰に手をやり、
「この銃の新しい弾丸の威力もテストしたいのよ」とドヤ顔で腰の魔法銃を見せる。
ユーゴは、どうしたもんかと頭を掻きながら、一番の懸念を口にした、
「おまえ、俺たちのメンバーの面子しっているのか?、みんなおっさんで、お前の大嫌いな魔力の強い連中だぞ」
アイーダは、うっ、と一瞬たじろいでから、
「わ、判っているわよ、だから、助っ人を頼んだわ」と言う、
「助っ人?」助っ人が俺達なんじゃないのか?とユーゴが訳がわからないでいると、
「ジャジャーン、助っ人参上」と上機嫌で出てきたのは、
スパッツの上から昔テレビで見た探検隊のような服を着て、腰に剣をぶら下げ、手に魔法ステッキを持ったみゆきだった。
「・・・・・み、みゆきちゃん・・」
何をやってるんだ、とあきれ顔のユーゴに、ちょっと羞恥心を思い出したみゆきは、少し顔を赤らめて、
「わたし、もう、回復魔法と治癒魔法は誰にも負けませんよ、それに防御魔法もドイルさんから合格頂いてますから」
と一生懸命アピールしてくる。
ユーゴは、そんな事より、その格好でいつから何処に隠れていたの、と心の中で突っ込んでいた。
「まあ、一応他のメンバーにも聞いてやるよ、・・でもなあ」と、まだ渋るユーゴを見て、
「大丈夫よ、他のメンバーは魔力が強いと言っても、人をカエルに出来るのはあんただけなんでしょ」とアイーダが言って来る。
「いや、だから、むやみやたらに人をカエルにする奴なんか滅多にいないよ」とユーゴはうんざりした顔で答えた。
その夜、ユーゴは蝙蝠達を使って連絡を取り、チーム蝙蝠の羽のメンバーに夢魔法の館へ集まってもらった。
四人でテーブル席に座り、ユーゴが事情をメンバーに話すと、意外と前向きな意見が多かった。
「まあ、報酬がもらえれば俺は別に構わないぜ」とコイルが言うと、
「ゲストをダンジョンに入れるのは手続きが面倒だ、みゆき嬢とその娘をギルドに登録させる事だな、その方が早い」
とバースが言う、どうやら、仕事を受ける前提のようだ。
「それより、その飛行船と言う奴だが、本当に空を飛べるのか?」ともっぱら興味は飛行船の方に向いた、
「まあ、まだ模型の実験段階だが、いずれ飛べる物が出来るだろう、時間がどれ位掛かるかは判らないが」とユーゴが言うと、
「そうかそれは凄いな、東の森も越えられるかもしれんな」と話が盛り上がった。
「飛竜に出くわしたらどうする、間違って奴らの縄張りに入ったら逃げようがないぞ」
「それもそうだが、その前に、熱の浮力と風魔石でそんな上手くいくのか」
「あのでかい龍が飛んでるんだ、出来ない事はないだろう」
と話が進むうち、
「そう言えば」とバースが何か思い出したように話し始めた、
「ダンジョンの超深層に、通称、浮きタコ、と呼ばれるタコのような魔物がいるそうだ、そいつの魔石は浮きはしないが、物の重さをほとんど無くす力があって、ほんの少し地面に足を付けるだけでそのタコの魔物は浮いてるように見えるらしい」
ふーん、そんな魔獣が居るのかとユーゴが感心してると、無口のハンスが、
「重力魔法、以前、その魔法と風魔法を操って、ムササビの様に飛び回る忍びの里の者に会ったことがある」と言う。
ほほー、と他のメンバーが感心している時、ユーゴはゾクと悪寒が走った。
「その話、依頼人のアイーダという娘には絶対内緒にしてくれ、嫌な予感がする」と口止めした。
その時、カウンターに居るバーバラの脇で、太めの糸に縛られ、ぶら下げられてバタバタ動いている物が目についた、
よく見ると、それは愛嬌のある顔したカエルだった。
「ど、どうしたんです、そのカエル」とユーゴがまさかと思いながら恐る恐るバーバラに聞くと、
「あんた達が来る前に、赤毛の娘が来てね、汚らわしいとかなんとかギャーギャーうるさいから、カエルにして黙らせておいたのよ」
と平然と言う。
「あ、赤毛の娘・・・」それって、ユーゴがカエルの方を見ると、カエルがさらにジタバタ暴れはじめる。
「そろそろ、元の姿に戻るわ、ユーゴちゃん、面倒見てよね」とバーバラが面倒くさそうに言う、
すると、ポンと変な音と共に、カウンターの上に、四つん這いになってカエルの格好をしたアイーダが表れた・・・・。
アイーダは、直接他のメンバーに頼み込むつもりで、ここに来たらしい。
「この、大ウソつき、カエルにする奴なんて滅多にいないって言ったじゃない」ユーゴ達のテーブル席で、アイーダは涙目でユーゴに訴える。
「だから、絶対いないとは言っていない、・・まあ落ち着け、元に戻れたんだ、これ以上騒ぐな」
ユーゴがそう言うと、流石に懲りたのかシュンとなるアイーダ、三人の親父は笑いをこらえている。
そんな親父たちに向かってアイーダは言った、
「聞いたわよ、重力魔法の魔石の話、私の依頼はその魔石を取りに行く事に変更よ」
三人の親父は、どうすんのこれ、という顔でユーゴを見る、
ユーゴは額を抑えて、うな垂れていた。