研究所
インターキに戻った翌日、ユーゴは、ギルド長に大型船についての報告に来ていた。
「仕事が早くて驚いたと、ヒルフォーマー商会のグランさんから連絡があったよ」とギルド長フランクが言う、
いや、こっちはあんたらの連絡網が早くてビックリだよ、とユーゴはため息をついてフランクを見る。
「まあ、そんな目をするな、我々は小さな都市国家の集まりだ、こう言う事は連絡を密にしないとな」と笑っている。
それで、と即されてユーゴは一通りの報告をした。
フランクは、ふーん、と唸った後、
「西の国の一部に馬鹿な事を考えてる国があるというのは、おそらくバルデン王国だろうな、山脈を越えたすぐ西の国だ、過去にも山脈を越えて進行してきた事がある、注意しておこう。あの国は西側の中でも宗教色が強いからな、我々を目の敵にしている」
フランクは、やれやれ、といった顔で頭を振る。
「それで君の目から見て、魔道砲とやらの威力はどんなものかね?」とフランクがユーゴの認識を聞いてくる、
「うーん、魔道砲一門で、上級魔導士一人と同等という所ですかね、まあ、機動性は無さそうでしたが」と答える。
「ほう、それは数を揃えられると辛いかもしれんな、君なら何門くらい相手に出来るかね?」とフランクがさらっと聞いてくる。
「俺なら、魔道砲を使われる前に、相手の指揮官をどうにかしちゃいますけどね」とユーゴが答えた。
そう答えた後、ユーゴは、あ、余計な事言っちゃったなと思った。
フランクはニヤッと笑うと、
「そうか、ではもしもの時は、君を真っ先に呼ぶとしよう」そう言って愉快そうにユーゴを見やった。
失敗した、とユーゴは顔をしかめて頭を掻いていた。
フランクの話だと、最西端に位置するスパンク王国は、インターキ、イスタンの都市国家連合と友好関係を築き、西の国々を東側からけん制してほしいようだ、という事だった。
その為のあの二人か、とユーゴは思った。
それから数日後、あの二人の様子を聞こうとジャステス武器屋に寄ってみると、店番をしていたのはカークだった、
「よう、どうした親父さんは留守か?」そうユーゴが聞くと、
「ジェラールさんの所ですよ、もう、暇さえあればジェラールさんの研究所に行ってるんだから、僕もあそこで試したい事があるのに」
と不満顔で言って来る、
「そうか、もう、そんなに親しくしてるのか」想定内とユーゴは思いながらも、気になるのでジェラールの研究所とやらに行ってみる事にした。
結構な広さの研究所は、色んな機材でうめつくされていた、入り口から「こんにちはー」と声を掛けるも、人の声はすれど返事が返ってこない。
「はいりますよー」と声を掛けつつ中に入っていくと、何やら設計図を囲んでジャステスとジェラール、アイーダも加わって議論の最中だった。
ようやくユーゴに気付いたジャステスが、
「おお、ユーゴ、いい所に来た、お前の意見も聞かせてくれ」と言って来る、となりで胡乱な目でユーゴを見ているアイーダに向かって、
「これでも、こいつは中々のアイデアマンなんだぞ、それに魔力の使い方は俺たちよりずっと詳しい」と言い聞かせている。
「強力な風の魔石を使った時の強度がわからないんです、なにかいい方法はないもんですかね」とジェラールも挨拶を吹っ飛ばして聞いてきた。
そこにあった設計図は、なんと羽の生えた飛行船だった。
火の魔石で熱を起こし浮力を作り、風の魔石で推進力を得るようになっている。
ユーゴが呆気に取られていると、
「前から考えていたんですがね、ヒルフォーマー商会のドランさんがここに来る前に、突然、空から見たい所があるのでいい方法は無いか、と言われましてね、以前書いた設計図を引っ張り出したんですよ、ドランさんが後ろ盾になってくれるなら資金面の心配はないですからね」とジェラールが言って来ると、
「俺は、この設計図を見た時、ときめいたね、空だぜ空、男のロマンだ、ぜひ協力させてくれと頼んだのさ」興奮気味にジャステスが続けた。
「その人は、飛竜に乗れるって聞いたわ、飛行船なんかに興味ないわよ」とアイーダは相変わらず警戒心むき出しだった。
ああ、これは俺がドランに余計な事言っちゃったからなのか?
ちょっとだけ責任感じちゃうな。そう思いながら、ユーゴは眉を寄せて三人を見た。
どうかね、と設計図を見せられても、ユーゴには知識もなく、答えようが無かったのだが、アイーダの目つきが癪に障ったので
「こういう物は、地道にデータを取るしかないでしょう、まず模型を作って実験してみてわ」ともっともらしい事を口にした。
「それもそうだな、よし、そういうのは俺に任せてくれ、カークにも手伝わせよう、人出が足りないなら近所の職人たちのにも声を掛けるか」ジャステスはやる気満々で言った。
(この設計図の翼部分は明らかに強度不足、風の魔石の位置もバランスが取れてません)と頭の中でメルマがユーゴに言って来たが、
自分たちで試すのが一番だろうとユーゴはその事は黙っていた。
そんな事があって、十日ほどたった頃、突然アイーダがユーゴの所に来て、鼻の孔を膨らませてこう言った。
「あんたのチームに依頼があるわ、私をダンジョンに連れて行きなさい」
なんなの、いきなり、ユーゴは怪訝な顔でアイーダを見た。




